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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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77/83

77 成果

ルアブロン 中央街区

キルケス商会 商会長室

戦闘団B 指揮官 シュラーガー中佐


 大きな銃声に続いて轟音と共に埃が舞い上がり、同時に商会長室の中に木片が飛び散った。

「・・中佐殿、開きました。下に降りる階段があります」

 扉のほぼ中央、鍵穴の部分だけが消し飛んで、半開きになってゆらゆらと揺れている金庫室のドアを確認した憲兵が報告してきた。

「よろしい。誰かメーティス殿を呼んできてくれ」

「はっ」

 レッシュ憲兵上級曹長が反応して合図すると憲兵が、金庫室の扉と同様になっている商会長室のドアを開けて出て行った。そのドアの側には、驚いた表情のまま固まっているマーデンクロットが立ち尽くしていた。

「マーデンクロット君、無事に扉は開いた。被害も小さくてなによりだ」

 私がそう言うと、マーデンクロットは口元を微かに上げることで答えた。

 商会長室の中は、石造りの外壁の中に床、壁、天井までチニーク材を使った内装が施されていて、木目調の落ち着いた雰囲気になっていた。

(これならこの商館が崩れても、この部屋だけ残りそうだな)

 太い柱と梁を見ると、防災と盗難防止を兼ねている内装なのが分かった。そのおかげで商会長室のドアを貫通した14.5ミリの徹甲弾は、ちょうど反対側にあった柱に突き刺さっていた。

(これほど硬い木材なら、補助装甲として使えるかもしれないな)

 柱に三分の一ほどめり込んで、オブジェと化した徹甲弾を見ながらそんなことを考えていると、穴が開いたドアと散らかった室内を見渡しながらメーティス殿が入ってきた。

「メーティス殿、こちらです」

 私が声を掛けると、メーティス殿は少しぎこちない足取りでやってきた。

「シュラーガー殿、先程の大きな音はこれでしたか・・・」

「ドアを開ける鍵がありませんでしたので、若干荒技を使いました」

「若干ですか・・」

 メーティス殿は苦笑いで答えた。

「マーデンクロット君、案内を頼む」

「畏まりました」

 マーデンクロットは冷静さを取り戻したようで、先程と同じく静かに答えると、金庫室へ通じる階段を下り始めた。


「足元にお気を付けください」

 チニーク材で内装された階段を下っていく途中、マーデンクロットは壁に備え付けてあるランプの様な物に手をかざして、点灯させながら下って行った。

(魔法か、便利なものだ)

 青白い炎で階段を照らすランプを見ながら、マーデンクロットに続いて下って行くと、天井や壁が所々破損していて、ドアを貫通した徹甲弾が跳弾したのが分かった。

(やはり、補助装甲に使えそうだ。テッタウ少佐に知らせておこう)

 徹甲弾が擦った跡を確認しながら下っていくと、やがて階段が終わった。

「少々お待ちください、今灯りをつけますので」

 マーデンクロットが壁に備え付けてある突起物に手をかざして少しすると、壁に備え付けてあるランプが手前から順に点灯して室内を照らした。

 そこは幅が10メートル、奥行きが20メートルほどの部屋で、内装は商会長室からここまでと同じくチニーク材で囲まれていた。部屋の中には、奥に向かって左右両側と中央に天井までの棚が並んでいる。

「ここが金庫室になります」

 マーデンクロットがそう言いながら、部屋の奥を指し示した。3列の棚には大小の木箱などが並んで置かれていた。

「中身は銀、金、白金の貨幣と延べ棒が入っています。通常の貨幣と大型貨幣、延べ棒が箱に入っていて、その他に金銀白金で作られた装飾品や魔法具などが入っている箱もあるはずです」

 マーデンクロットは室内を見渡しながら説明した。

「品目と総数は?」

「申し訳ございません、帳簿を見ませんとなんとも・・」

 大きめの木箱は下の段に重ねて置かれていて、小さな木箱はその上の段に置かれていた。金庫室全体の箱の数だけでも200以上はあると思われた。

「・・・・これは数えるだけでも手間ですね・・・」

 メーティス殿が呟くように言った。

 私は手前の棚に歩み寄り、上の段に置かれている小さな箱に手を掛けてみたが、蓋は釘止めされていて開かなかった。その次に、下の段に置かれた木箱の蓋に手を掛けてみると、簡単に開いたので中を覗いて見た。中には積み上げられた金貨が綺麗に並んでいた。

(高さが・・・20枚、それが縦5列と横8列で、1箱800枚か・・・)

 視線をずらすと同じ箱が二段重ねで、棚にずらりと並んでいた。脇から除いていたレッシュ憲兵上級曹長と目が合ったが、お互い言葉が出てこなかった。視線をマーデンクロットに戻して

「マーデンクロット君、他にこのような保管場所はあるのかね?」

「私が知っているのはここだけです。商会長室のどこかに宝石があるはずですが、旦那様が逃げたときに持ち出したのではないかと思われます」

 急いで逃げ出したために、ここにある財貨を持って行くことを諦め、その代わりに持ち運びが便利で、高値で売却できる宝石を持って行ったのだろう。普段から準備していたのかもしれない。

(逃走経路も準備してあったのだろうな、覚悟と備えなしで危ない橋は渡らないか)

 キルケスという商人は、ただの強欲な守銭奴ではなかったようだ。

「分かった。一旦地上に戻ろう」

 私がそう言うと、メーティス殿を先頭に皆が元来た階段を昇り始めた。


 商会長室まで戻ると、メーティス殿が室内に居る者達を見渡した。

「ここにいる皆さんは信用できますか?」

「ええ、問題ありません」

 私が答えると、マーデンクロットが口を開いた。

「私は席を外した方がよろしいかと思いますが」

「いや、君は構わない。君自身にも係わることだ。だが、口外はするな。シュラーガー殿、この商館と倉庫は閉鎖して見張りを置きます」

 私とマーデンクロットが同意して頷いた。

「そして、この後直ちにキルケスに対して、本人不在のまま辺境伯爵家に対する反乱助勢の罪で死刑を宣告します。しかし逃亡して所在不明ですので追捕手配のうえ財産は没収とし、それを踏まえた上で商人ギルドの審問会に諮ります。間違いなくキルケスの商人株の没収と、ギルド名簿からの抹消と言う事になるでしょう」

 それにも同意して頷いた。

「おそらくキルケスは金銭の出納帳を持ち出していると思われます。それがあれば記載されている金銭の権利を主張できるからです。しかし、当家と商人ギルドの処分で、キルケスは全財産に対する権利を失います。そしてその全財産は、反乱鎮圧の助勢に対する謝礼としてホーフェンベルグ将軍閣下にお渡しする、という流れになります」

「よろしいのですか、どこからか反発を招きませんか?」

 予期していなかった大盤振る舞いと、それに伴うトラブルを予想して尋ねてみると

「実際のところ、辺境伯爵家が差し押さえると商人ギルドを筆頭に、商人たちが黙っていないと思います。以前に損をさせられたとか貸しがあるとか言い出して、お零れに預かろうとする連中が必ず出てきます。ですから、これが面倒な事を避けられる最善の道なのです」

 メーティス殿はやけに爽やかな笑顔をみせた。

「それに、あの財貨を見る限りキルケスが脱税していたのは間違いありません。そうなると、商人ギルドにも監督不行き届きで連座の罪が及ぶ事になり、キルケスが納めなかった金額の5割を懲罰金として、当家に収めなくてはならないのです。ギルドがキルケスの財産処分に異議を唱えず、他の商人達を黙らせるのであれば、こちらも深く追求しない、と言う訳です」

「なるほど・・・」

 私が頷くと

「それから、おそらくキルケスからギルドの監査役に金が流れていたのでしょうが、帳簿がなければ証明することはできません。ですので、何か理由を作って穏便に監査役を入れ替えさせて、二度と役職には就けないか隠居させる。この二つが落としどころになろうかと考えています」

 私はメーティス殿の言葉に大きく頷いた。

「キルケス商会の処理については以上のとおりで、私が当主代行様に進言して裁可を得ております。商会の財産全てと商会員の処遇もホーフェンベルグ将軍閣下の物です」

「・・了解しました。この事は必ず将軍閣下にお伝えします」

「よろしくお願い致します」

 私達は満足できる合意に達し、握手を交わした。 

「キルケス以外にザロモン子爵と繋がっていた商人についての調査は実施しますか?」

「何人か把握していますが、通常の取引きだけのようです。どの程度かはっきり確認できれば然るべく処分しますが、当家としては配下貴族の掌握と、騎士団の立て直しが最優先事項ですので、積極的な捜査は行えないと思います・・」

「承知しました。では、その件については要請があった場合に協力します」

 私は答えながらフィルカザーム大尉のことを思い出していた。

(駒にしようとしたキルケスが使えなくなった訳だから、代わりの駒が必要かもしれん、この事は大尉に伝えておこう)

 メーティス殿との会話が途切れると、傍らに立っているマーデンクロットに視線を移した。

「聞いていたな? 君達の処遇は我々が決定する事となった」

「はい、畏まりました」

 マーデンクロットは丁寧に一礼をして答えた。

「商会を辞めたいと言っている者はいるのか?」

「いえ、皆行き先がない者ばかりです」

「職探しは難しいのか?」

「・・・その、残って居る商会員は私を除いて奴隷身分なのです。それと、商会長が反逆幇助で死刑判決を受けた商会の関係者を、雇おうとする者はいないと思われます。私を含め残った者達が、今後この街で職に就く事は不可能と言っても過言ではありません」

 マーデンクロットは落ち着いた、と言うよりは沈んだ声で答えた。

「なるほど、それもそうか。それは、我々が君と残った商会員を雇うこととする。見張り付きで、ここと倉庫の物品と奴隷の管理と雑用をやって貰う、給金は今までどおり。いいな?」

「畏まりました。皆、誠実で仕事はできる者達です、何なりとお言いつけください」

 マーデンクロットは言葉の中に安堵の色を滲ませながら一礼した。

(おそらく自分以外の商会員のことを案じていたのだろう)

 そう思いながら、私は彼に最初の仕事を与えることにした。

「大いに結構だ。キルケス商会は本日で廃業だが、君達には仕事があると言う訳だ。では、早速やって貰いたい事がある、ここと金庫室の扉を修理する事と部屋の掃除をしておいてくれ」

「畏まりました」

 一瞬の間も開けずに反応したマーデンクロットを見ながらふと考えた。

(今回の一件で多額の現金と大量の物資を手に入れた訳だが、管理は元商会員達が欠かせない。そして、このマーデンクロットが“仕事はできる”と言うことは、読み書きと計算ができる者たちであると言う事だろう。ここでの役割が終わった後の扱いについて、ブリンクマン大佐殿に相談してみるか)

 辺境伯爵家との協定については説明を受けている。今後の事を考えると、ここにいる16人は役に立つに違いない。

 私は今回得られた成果について非常に満足した。



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