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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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76/83

76 突入

 ルアブロン 中央街区

 キルケス商会前

 戦闘団B 指揮官 シュラーガー中佐


 翌早朝、私は中央街区の南側、港からほど近い一角に建つ建物の前にいた。

「中佐殿、付近の街路封鎖及び目標の包囲は完了しました」カツン!

「よろしい、別命あるまで待機しろ」

 報告に来た中尉が立ち去ると、石造りの3階建ての建物を見上げた。広い間口の中央にある出入り口は、分厚い板材でできた扉によって閉ざされていて、中はひっそりとして人気が無いように窺えた。正面出入り口の直ぐ上、庇に下がっている看板には“キルケス商会”と彫り込まれた文字が黒で色づけされていた。

 建物が面している通りは両方向が装甲車で封鎖され、建物は着剣した小銃を構えた歩兵によって全周包囲されていた。歩兵達の後ろには、相手が反撃してきた場合と、扉を開けない場合に備えて軽機関銃班と対戦車ライフル班が待機している。

 ここだけでなく、港にある商会の倉庫にも同じく部隊が派遣されていた。


 昨日、辺境伯家城館の地下でレーケというザロモン子爵家の文官を尋問した時、フィルカザーム大尉から意見具申があった。内容はレーケの口から出たキルケスという商人についてだった。


「キルケスは奴隷商人ですが、後ろ盾になっている貴族の威を借りて無理な取引を強制したり、応じなければ脅迫や詐欺に等しい行為を行って陥れたりと悪評甚だしい人物として把握しています。今のレーケの証言からキルケスがザロモン子爵と繋がっていたのは明白ですから、内乱幇助の容疑で身柄を拘束して取り調べる必要があると考えます」


 フィルカザーム大尉の進言にブリンクマン大佐とエカテリーナ殿が同意したので、急遽“特別捜査班”が編成されてキルケスに対する強制捜査が実施される運びとなったのだった。

「シュラーガー殿、いかがしますか?」

 この強制捜査が我が軍と辺境伯家の合同捜査である明かしとして、辺境伯家の武官であるメーティス殿が同行していた。後ろには騎士が2人控えている。

「中に誰か居れば、店が囲まれているのは分かっているでしょう。もう少し待って反応が無ければ正面扉を破壊して突入します」

 封鎖部隊とは別に師団司令部から呼び寄せられた野戦憲兵12名が突入部隊として待機していた。屋内では小銃が不利なため、拳銃を支給されていて扱いに慣れているという事と、屋内捜索の経験があるからだった。

(名目は捜査だからな。重要な証人は、極力生きたまま確保する努力をしなければならん)

 ブリンクマン大佐は、あくまで正当な手続きで事を進めようとしていた。例え面倒であっても、できる事はやっておく。そんな自分達の考え方が、この世界にも必要か、または通用するのか疑問はある。

(確かに慎重にやっておいた方が無難ではある・・・)

 だが、フィルカザーム大尉の意見具申はもう一つ、私だけに対するものもあった。


 フィルカザーム大尉から個別に言われたのは、キルケスを内乱幇助で処刑し、その財産を差し押さえて我が軍の活動予算として用いるべき、というものだった。

「ザロモン子爵と繋がっていたのは、キルケスだけではありません。しかしキルケスが特にあくどい事をやっていて、死者が出ているのは確認が取れています。見せしめに奴を潰すことで他の連中を大人しくさせて、同時に我が軍の予算を得る、悪い話ではないと思います。それに奴は相当貯め込んでいるようですので、あぶく銭にしてもちょっとしたものになりそうです」

「ふむ、何故それを私に言うのだ。ブリンクマン大佐殿に直接具申すればよいではないか」

「ザロモン子爵を息子ごと処理した、中佐殿でなければできないからです。実を言うと、今回の件で弱みを握って我々の要員として使うつもりでいたのですが、部下の報告から信用するに値せず、生かしておくと後々厄介なことになる人物だと判断しました。キルケスには内乱幇助の罪で死んで貰うほかありません」

 私はジロリとフィルカザーム大尉を見た。

 大尉の言うとおり、あの親子が突然悔い改めて大人しく投降したとしたら、辺境伯家は不発弾を抱え込むことになる。それを避けるために、私は断固たる意志をもってあの親子を射殺したのだ。辺境伯家を安定させるには、それしかなかった。そして、フィルカザーム大尉がその事に気が付いていた事は、流石だ、としか言えない。

「厄介なこと、とは?」

「この街の犯罪組織と繋がりがある、と言うより組織を動かしているようです」

(犯罪組織の首領・・。そんな者を配下にするなどと、あの師団長閣下が許すはずは無い。統制下に置けなければ軍政に支障が生じるのは明らかだ・・・。)

「・・・君の意見に同意する」

「ありがとうございます、中佐殿。私がご一緒できれば、独りでやれたのですが」

「いや、君はこれからも働いて貰わんといかんが、顔が知られたら任務に支障があるだろう。この件は私がやっておく」

「後で何かお届けします」

 私はフィルカザーム大尉と静かに笑みを交わして別れたのだった。


「そろそろ始めるか」

 私が突入部隊に向かってそういうと、短機関銃と拳銃で武装した12名の野戦憲兵達が反応した。

「準備は完了しております、中佐殿」カツン!

 突入部隊長を務めるレッシュ憲兵上級曹長が答えた。

「手順は先程のままでいいな?」

「はい。扉が開かなかった場合は、我々が合図をしたら対戦車ライフルで鍵の部分を破壊してください」

「わかった。では、5分後に開始だ」

「了解しました中佐殿、配置に就きます」カツン!

 レッシュ憲兵上級曹長以下突入部隊は静かに移動を開始した。歩兵小隊長の中尉にも開始時間を伝え、無線で別働隊に連絡するように下命した。

 周囲では歩兵達が小銃を構え直し、軽機関銃班と対戦車ライフル班が配置に就いた。

 5分後。6名ずつに別れた突入班が、隣接する左右の建物に沿って商館に接近し、正面扉の左右に張り付いた。左側の先頭にいる憲兵が拳で手荒くノックした、が中からの反応は無い。しばらく間を空けてもう一度、やはり反応は無い。

 しばらく待って最後のノック、すると微かなきしみと共に片方の扉が開き、細身で長身の男が出てきた。ノックしていた憲兵が男に拳銃を突き付け、手荒く引きずり出すと同時に右側の6名が拳銃を構えたまま中へ吸い込まれるように入っていった。男を拘束している3名を残して、左側の3名も中へと入っていった。

 少しして、両手を頭の上に乗せた男女15名ばかりが扉からばらばらと出てきた。最初に出てきた男を拘束した3名の憲兵達は、跪かせた男の横に出てきた者達を一列に並べていく。男達は不安げな顔しつつ冷静を保っていたが、5名いる女達はほぼ半泣きか声を殺して泣いている状態であった。

 私が建物を見上げると、窓から突入した野戦憲兵達の姿がちらほらと見え隠れしていて、残って隠れている者を探しているのが分かった。

 私が最初に出てきた男に近付くと、男は両手を頭の上に載せたまま不自由そうに顔を上げた。

「ここにいるのはこれで全員か?」

「・・はい、そうです」

「お前がキルケスか?」

「いえ、旦那様は昨夜のうちに何処かに逃げてしまわれました」

「逃げた?」

 私が顔をしかめて尋ねると、男は諦めたような表情になった。

「昨日の日暮れごろに、どこからか来た使いが持ってきた手紙を読んだ後、急に荷物をまとめはじめて、側に置いている者達と共に出て行きました。何処に行ったのかは分かりません」

「お前は何者なのだ?」

「私はキルケス様の家令と、商会の上役頭も兼ねて務めております」

「上役頭、商会の役員か」

「そのようなものかと」

 男は落ち着いていて、冷静に返答した。

「この者達は商会の従業員か?」

「私と一緒に残ってくれた商会員達です」

「他にもいるのか?」

「はい、全部で36人いましたが、昨夜の旦那様の様子を見て21人が逃げて行きました」

「なぜ残った?」

「旦那様に暇をやるから好きにしろと言われましたが、残った商品の整理や商会員達の退職金の支払い、奴隷達の世話をしてやらないといけませんので」

 横に並んでいる従業員達が半泣きでその男に注目していた。

「マーデンクロットさんは何も悪いことはしていません!」

「どうか、命だけは助けてください!」

 横に並んでいる男達が、絞り出すかのような声で訴えてきた。この男は従業員達から信頼されているらしい。それにしても・・

(マーデンクロットさんは、か。この商会が何をしていたのか、認識はあるのだな)

「商会の役員なら、この建物の中と帳簿の事は分かるな?」

「はい、私が商館の中は全て管理していました」

「よし、着いてこい」

 私はマーデンクロットと呼ばれた男を立たせて、商館の中を案内させることにした。


 商館の中に入ると、突入部隊のレッシュ憲兵上級曹長がやって来て報告した。

「中佐殿、屋内の捜索は終了しました。全ての部屋を確認しましたが、誰も居ませんでした。ですが隠し部屋のようなものがある可能性は高いと思われます。各階に1個班を置いて見張らせています」カツン!

「分かった、一緒に来てくれ。彼はこの商会の役員だそうだ」

 私がーデンクロットを顎で示すと、レッシュ憲兵上級曹長は了解して2名の憲兵と共に後を着いてきた。

 マーデンクロットは2階に上がると、事務室と分かる部屋へ我々を案内した。

「私が使っていた机です。一番新しい帳簿は右側の一番下の引き出しに入っています」

 見事な彫刻が施された大型の机の前に立ち、マーデンクロットはそう言った。後ろには天井まである本棚が壁一面に並び、棚には帳簿類がびっしりと並んでいた。

「手を降ろしていい。帳簿を見せてくれ」

 私がそう言うと、マーデンクロットはゆっくりと両手を降ろし、机の引き出しから簿冊を5冊取り出した。

「これが食品関係、これが鉱物、これが織物、これが雑貨その他、そして奴隷の一覧です」

 そう言いながら一冊ずつ並べていく。

 まずは食品の簿冊を手に取ってめくってみた。我々が使っている紙より若干厚めで薄茶色の紙に、在庫として保管されている食料品、穀物類や肉、果物などの品目と数量がずらりと書き込まれていた。品目では分からない物ばかりだが、まぁ種類に事欠かないのはよく分かった。次に奴隷の簿冊を開いて見ると、現在の在庫は84名となっていて、これも年齢、性別ごとに分けられ、健康状態や出自、元の職業、特技なども書き込まれていた。

「この帳簿に載っている商品はどこにある?」

「その他雑貨の一部を除いて、港近くに倉庫に保管されております」

「奴隷もか」

「はい、奴隷専用の収容区画がありまして、そちらに」

 フィルカザーム大尉が把握しているとおりだった。


「物資が貯蔵されている倉庫は4棟、それとは別に奴隷が入れられている宿舎のような建物が1棟あります」

「よく調べたものだな」

「部下が優秀ですので」

 フィルカザーム大尉のさりげない笑顔と共に答えたものだ。


 そちらには別の部隊が配置になっていて、今頃は同じように制圧しているだろう。

「あと金銭はどうなっているのだ? だいぶ貯め込んでいると聞いているが」

「貴金属と現金の出納管理は旦那様がやっておりまして、簿冊の場所は分かりません。金庫室も場所は分かりますが、開けることができません」

「では、場所だけでも見ておくとしよう、案内してもらおうか」

 マーデンクロットは頷くと、静かに歩き出した。


 1階に戻って奥へ進んでいくと、一際豪華な造りのドアの前まで案内した。

「ここが商会長室でして、金庫室はこの中にあります。ですが、扉の鍵を旦那様が持って行ってしまいましたので、開けることができません」

「なかなかの造りなっているな」

 私がドアに近寄って確かめると、かなり分厚い板材を使っているのが分かった。

「はい。この扉はチニーク材の一枚板でできています。鍵も特別に注文して作らせた物です。金庫室の扉も同じ造りになっていまして、魔法を使っても開けられないとか・・」

「鍵を開ける魔法があるのかね?」

「その様に聞いておりますが、使える魔法使いに会ったことはありません」

 微かな笑みを浮かべてマーデンクロットが答えた。

 チニークとは硬い木材のことらしいが、確かに厚みといい硬さといい、簡単には開きそうに無いのが見て取れた。

(爆薬では建物に被害がでそうだ・・・・)

 私はレッシュ憲兵上級曹長を振り返って下命した。

「対戦車ライフルを呼べ」


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