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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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71 義務

ルアブロン 東街区 東門付近

行動班「子狐」 ペッター上級軍曹


 俺とフィーラ軍属、第2便で来た3名は、東門の少し手前で街路の端に寄せて駐めた荷馬車で待機していた。


『暗号“獲物は上玉”で行動開始。門扉黄色(東門)を確保してイモリと合流、誘導員は各班を誘導せよ。イモリ黄色班が配置についたら、配置を引き継いで門扉紫色(辺境伯家城館)に移動、狐と合流せよ』


 フィルカザーム大尉から受けた命令は以上だった。

(東門にいる兵で黄色と緑色は友軍、青色と赤色は敵。犠牲は最小限に留める努力をするように言われているが、相手次第だな)

 予想したとおり、先程東門に増援が到着して警備が強化されていた。

 増援は全員が、青色と赤色で左右に染められた丈長の羽織のような服を甲冑の上から身に付けていた。この服はリブリーと呼ばれるもので形や色の配分、家紋の縫い付け位置が統一されていて、制服の役割を果たしていた。防御力は一切無いが、揃いの装備は部隊の士気を高める効果があり、同時に敵味方の識別を容易にしていた。

(アレのおかげで一目瞭然で助かるな。奴らはアレの下に着けている防具も武器もバラバラだから傭兵で間違いない。城壁の上には弓矢持ちか、要注意だな)

 俺は御者台に座って配置に付く傭兵達を眺めていたが、後ろの連中も幌の隙間から傭兵達の装備と配置を確認していた。

 増援の傭兵達は、辺境伯家の衛士達を隅に追いやってから東門を閉めた。たちまち門の周辺は市街へ出ようとしていた人や馬車が滞留することになった。

「なんだよ、なんで閉めるんだ!」

「こっちは商売があるんだぞ、開けてくれ!」

 浴びせられる罵声に傭兵が怒鳴り散らす。

「やかましい! 子爵様の命令だぞ、黙って待っていろ、嫌なら帰れ!!」

 その言葉に領民達は腹を立てたようだった。

「なにお、ここは辺境伯様の領都だぞ! なんでお前らの飼い主が好き勝手できるんだ!」

「いつからザロモン子爵がここの主になったんだよ!」

「いい気になりやがって、消え失せろ!」

 領民達の野次に傭兵の1人が逆上して柄に手を掛けながら怒鳴り散らす。

「なんだとてめえら、もういっぺんいってみろ!」

 傭兵と領民のいざこざが熱を帯びてきたころ、荷台からフィーラ軍属が顔を出した。

「ペッターさん、大尉殿からです。獲物は上玉」

 その言葉に頷くと、足元に置いておいた麻生袋を手に御者台から降りると、

 後ろの荷台からも3名が降りてきた。

 フィーラ軍属は荷馬車に留守番で、東門の確保が成功か失敗かを、北の塔にいるサリエに報告する事になっていた。

 俺達は2名ずつ少し離れて門に近付きながら、麻袋の中に右手を入れて準備をした。

 門から少し離れた所で傭兵達が阻止線を張って領民達を止めていた。

 その手前の人混みの中で、麻袋からストーテンMkⅢ短機関銃を取り出し、弾倉を装填してコッキングハンドルを引いた。そして人混みをかき分けて進んで行くと、領民と怒鳴り合っている傭兵の前に立った。

「門を開けて欲しいんだがね」

「なんだと? 俺の話を聞いてなかったのか? 言う事きかなきゃ切り捨てて良いといわれてるんだぞ、それでもまだ言うか?」

 傭兵は汚れた歯をむき出しにして言うと、腰に吊っていた長剣を抜いた。

 俺は近くに居た領民達が慌てて下がるのを確認してから銃口を向けた。

「なんだそりゃ?」

 傭兵は珍妙な顔をして動きを止めたが、それが最後の一言になった。

 俺は傭兵の腹に向かって短く引き金を引いた。


 プシュシュシュ。  カカカン。 「ウッ」 ガシャン。


 空気が抜けるような音と金属がぶつかるような音がすると、俺の目の前にいた傭兵はうめき声と同時にリブリーから糸くずが舞った後、よろめくようにうつ伏せに倒れた。甲冑が石畳にぶつかる音の後に、身体の下から赤黒い液体が石畳の溝に沿って広がっていった。

「おい、どうした!」

「てめえ! 何をした!」

 離れた所にいた傭兵達が異変に気が付き、叫びながら駈け寄ろうしたが、俺の右隣からも同じ音がして傭兵2人が短い悲鳴と共に倒れ、俺ももう1人を倒した。

「なんだ、魔法か!?」

「くそっ!」

 次々に倒れた仲間を見て、残りの傭兵達は動きを止めた。

「動くな。動くと死ぬぞ」

 俺が警告を発している間、俺と組んだもう1人は後ろを警戒している。もっとも俺達のやり取りを見ていた領民達は、2人目の傭兵が倒れた時点でどこかに逃げ散っていた。

「いいか、動くと死ぬぞ」


 プシュシュ、プシュシュ、プシュシュ。 「グアッ」    ドシャッ。


 隣の組が上に向かって発砲すると、城壁の上から弓を手にした傭兵が1人落ちてきて、動きを止めた傭兵達の目の前の石畳に叩き付けられた。

「武器を捨てて、門を開けろ」

 門扉の側に居た傭兵に命じるたが、ためらう素振りを見せて動かなかった。


 プシュシュシュ。  ガガガン。


 銃口を門扉に向けて引き金を引くと、分厚い材木で作られている門扉に着弾して木くずが飛び散り、傭兵達は咄嗟にしゃがんで木片を避けていた。

「武器を捨てて、門を開けろ」

 俺がもう一度言うと傭兵2人がゆっくりと立ち上がって、剣を吊っているベルト外した後に、門の閂を外して門扉を開けた。

 その外、30メートル向こうには戦車を先頭にしたイモリが待っていた。



ルアブロン 中央街区

辺境伯爵家城館 ルアブロン城北の塔

潜入班「狐」 フェルカザーム大尉


「大尉殿、フィーラからです、獲物は我が手に」

 いつも冷静なサリエが少し興奮気味に報告してきた。

「よし、いくぞ」

 報告を待っていた俺達は、無線機を背負ったモールハウプトを最後尾に塔を降りて城館の本館へと向かった。

 本館の正面玄関には、甲冑を纏った完全武装の親衛隊員が配置されていた。

「ゾラード殿、東門の首尾はいかがであった?」

 扉の前にいた親衛隊長のリートホルド殿が近付いて来た。

「成功です、我が軍の部隊が市内に入って来ます。もうすぐここにも来ます」

「それはよかった」

 リートホルド殿は安堵した表情を見せた。

「連絡係はどうですか?」

「こちらも上首尾よ、万事上手くいった」

 リートホルド殿が、ニカッと笑顔で答えた。

(辺境伯家の近衛隊長なのに、この親方みたいな人柄はある意味凄いな)

 と思いつつ

「後から来る部隊は敷地の中に入りますが、城館の周囲を警戒します。・・衛士隊長殿はどちらに?」

 俺は未だに会っていない衛士隊長を探した。

 本来、親衛隊は辺境伯自身の直属で衛士隊より立場は上だが、実際のところリートホルド殿はアンゲリアス隊長のかつての部下であり、頭が上がらない存在であるらしい。つまり現在の辺境伯家における軍司令官は、アンゲリアス衛士隊長であるということだった。

「東門に行かれた。衛兵達に事態を説明して、そちらに協力するように命令を下しにな。その後は北門から西門へ行くと言っておられた」

「ご自身が行かれたのですか?」

「うむ、あのお方はそういう方なのだ。今回の事も責任を感じておられる」

 リートホルド殿の表情が険しくなった。

(辺境伯家家臣としての義務、か)

 俺は頷いて同意した。

「それでは、市内にいる子爵軍の兵への措置はどうなっているか分かりますか?」

「ああ、それぞれの街区に警ら隊を出して探させている、見つけたら武装解除して城館前の広場に集めるそうだ」

「分かりました。我が軍は主に城館の周囲を警戒して、中は最小限にしますのでよろしくお願いします」

「かたじけない、それでは上階へご案内致そう」

 俺は隊員の1人を誘導係として残すと、リートホルド殿に続いて城館の中に入っていった。

 正面玄関の扉を通ってすぐ大広間のような空間があり、その正面にある階段を昇ろうとした時、

「待てっ!」「止まれぇ!」

 と言う叫び声が聞こえたのでそちらを見ると、甲冑を着た男が1人左側の廊下を走ってくるのが見えた。右手には細身の剣を持っている。

「逃げられたのかっ」

 リートホルド殿が唸った。

「あれはザロモン子爵の連絡係ですか?」

「そうだ」

 リートホルド殿が剣を抜きながら答えた。

「リートホルド様! そやつは剣を持っております、お気を付けください!」

 後ろから追いかけている親衛隊の騎士達が警告を発する。

「分かった、儂に任せておけ!」

 リートホルド殿がそう言いながら前へ出る。俺はリートホルド殿の横に並ぶと、引き付けつつ慎重に狙いを定めて発砲した。


 プシュシュ。 カカン。 「あぐっ」 ドダンッ。


 男は胸を押えながら前のめりになって倒れた。

「なにっ、何をしたのだ?!」

 リートホルド殿は驚いていたが、俺は冷静に返した。

「分かりづらいかも知れませんが、これが我々の火力というものです」

「・・か、火力」

「詳しいことは後でお話しますが、絨毯を汚してしまい申し訳ありません」

 うつ伏せに倒れた身体の下からドス黒いシミが広がっていくのが見えた。

「ああ、それは構わんと思うが・・・」

「そうですか。それでは、案内をお願いします」

「わ、分かった。こちらへ」

 リートホルド殿は剣を収めると、追いついた騎士達に死体の後片付けを命じて階段を昇っていった。



 ルアブロン 東街区 東門

 戦闘団B(秘匿名称“イモリ”)指揮官 シュラーガー中佐


 ルアブロンへの街道を縦隊で駆け抜け、東門の前に到着した。城門の前には人と荷馬車が滞留していたが、我々に気が付くと慌てて逃げ散っていった。城壁の上にもちらほらと人影が見え、こちらに気が付いて指さしている。

 少し様子を見ていると、門扉がゆっくりと開いた。開いた門扉の正面で1人の男がこちらに向かって短機関銃を掲げていた。

『イモリ全車、イモリ全車、こちらイモリ01。これより市街に侵入する、各班は前進して目標地点を確保せよ。各班は目標地点を確保せよ。以上』

 車載無線で命令を下すと、先頭の戦車がエンジンをふかして前進を始め、それに続いて4個班に編成されている部隊が動き出した。

 各班は戦車3輛、装甲車2輛、トラック3台から成っており、第1班は東門、第2班は西門、第3班は北門、第4班は城館が目標に指定されていて、第2班以下は東門で誘導員を同乗させて前進し、それぞれ子爵軍の兵を武装解除して目標地点を確保することになっていた。


 私が乗車した装甲無線車が門をくぐると、黄色の布を巻き付けた左腕にストーテンMkⅢ短機関銃を持った男が敬礼で出迎えた。

「師団司令部第3参謀付、ペッター上級軍曹です」

「第100装甲大隊長のシュラーガー中佐だ、ご苦労だった」

 答礼しながら答えると、

「何とか上手くいきました、あとはそちらにお任せします。中佐殿はこの後どちらへ?」

「城館へ寄ってから西門に行く事になっている、乗っていくかね?」

「助かります。荷馬車で転進する予定だったんですが、少し疲れました」

「了解した、エンジンルームの上でよければ招待しよう」

 私がニヤリと笑うとペッター上級軍曹も笑顔で返答した。

「有り難くお受けします。同伴者がいるので呼んできます」

「同伴者?」

「フィーラ軍属です、荷馬車でお留守番しておりますので」

「彼女か。了解した、ここで待っている」

「すぐ連れてきます」

 そう言ってペッター上級軍曹は小走りで荷馬車に向かって行った。

(そう言えば見かけなかったな。念話とかいう技を使えると聞いたが、なるほど極秘任務にはもってこいの人材という訳だ)


 ペッター上級軍曹が連れてきたフィーラ軍属は装甲無線車の横に直立不動で立つと、車上の私を見上げて敬礼してきた。

(緊張して額に汗が浮かんでいるな、初めての潜入任務だから無理もない)

 そう思って微笑みながら答礼を返しておいた。

(まだ作戦は続行中だ、おしゃべりは終わった後ですればいい)

 フィーラ軍属を車内に入れてやりたかったが、この装甲無線車はP型装甲車を改造した車両で、25ミリ機関砲の代わりに8ミリ重機関銃を載せることで空間を確保し、そこに大型無線機を増設しているため通常型より車内が狭くなっていた。

(無線手を降ろすわけにはいかんからな、後部のエンジンルームの上で我慢して貰おう)

 フィーラ軍属とペッター上級軍曹がエンジンルームの上で掴まる所を確保すると、装甲無線車を発進させた。

 東門を担当する第1班以外には、ペッター上級軍曹の同僚が1名ずつ同乗して目的地までの誘導を行っていたので、トラブルの報告は無い。街角の要所には黄色の道標が描かれていたが、念には念をと言う訳だった。

 私の横で腰掛けているペッター上級軍曹の表情が気になったので声をかけてみると、

「久しぶりに人を撃ちました」

 ペッター上級軍曹は険しい表情でそう答えた。

 先程ペッター上級軍曹が言った「疲れました」という言葉に違和感を覚えたのだが、そう言う事なのだろう。彼は若くして軍務省情報部に勤務しているエリートなのだ、しかしそれでも疲れる時はある。

それが徴兵された兵士ならばどうなるだろうと考える。

(だが、今この時、我々は兵士だ。兵士が成すべき事を成さねばならない。今後の状況がどうなろうとも、私はそれを求め、また求められるのだ)

 私は先頭で兵士としての模範を示す、それが兵士として、将校として求められる義務であり、それを果たすと宣誓したのだ。


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