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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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70 盗賊

ルアブロンの北東にある林

前線指揮所(秘匿名称“雷神”)

第91歩兵師団長代理 ブリンクマン大佐


『こちら雷神、オットー。受信了解』

 無線機に向かって座っている通信手の後ろで、待っていた無線報告を受信したことを知った。その合図に無線手の肩を軽く叩くと

「ムカデ宛、ハインリヒを発令だ」

 短く伝えると、通信手は頷いて無線機に手を伸ばした。

『ムカデ、ムカデ、こちら雷神。ハインリヒ。繰り返す、ハインリヒ、繰り返す、ハインリヒ。どうぞ』

『こちらムカデ、ハインリヒ。受信了解』

 通信手から離れ、装甲指揮車の中へ戻った。

「師団長閣下、第2段階を開始します」

「順調だな、大佐」

 師団長閣下は満足そうに微笑みながら答えた。

「グスタフはいつ発動するのかね?」

「勢力黒色がルアブロンから充分離れたころ、後30分後を考えております」

 私の答えに師団長閣下は頷いた。

「ルアブロンを掌握するに1時間は欲しいところだな」

「はい、閣下。グスタフの主導はシュラーガー中佐です、私は成功を信じています」

 師団長閣下は再び頷いた。

「吉報を待とう」



 辺境伯爵家直轄都市 サランタン北門

 衛士隊長 フェルドア・ザゲラー


 サランタン城壁の北門、城壁の上から望むと、北方のカアン方面へ続く街道を封鎖している“盗賊達”が見え、その向こうには商隊の荷馬車や旅人達が集まっているのも見えた。

(いきなり現れて襲うわけでもなく、通せんぼしているだけだから戸惑っているだろうな。それにしてもあの芋虫みたいなヤツと、荷馬車みたいなヤツはなんだ? まるで街道上に怪物がいるみたいじゃないか。あんなのを入れても大丈夫なのか?)

 生まれて初めて見る集団に不安を覚えるが、アンゲリアス団長からの命令には逆らえない。と、その時“盗賊達”の中から白色と黄色の煙が真っ直ぐ上に上がるのが見えた。

(あれが狼煙か・・。命令にあるとおりの色だから、あれが合図で間違いないだろう・・)

 一抹の不安は残るが躊躇う時ではない。

「よし、門を開けるぞ。フロストに伝令を出す、西門を開けるように伝えろ」

 控えていた騎士に伝令を命じると、城壁から下る階段を駆け下りて門へ向かい、門扉を開くよう命じた。衛兵達が閂を外して門を開けると、散らばっていた“盗賊達”が荷馬車みたいなやつに乗り込み、芋虫と一緒に列を成して走り始めた。

「なんだあれは!?」

「動いた、こっちに来るぞ!」

「隊長、門を閉めましょう!」

 衛兵達が動揺してざわつき始めた。

「落ち着け、魔物だったらとっくに隊商を襲っているだろうが! 俺達はあいつらをここから入れて西門から出すんだ。命令だ、あいつらを中に入れろ!」

 俺が凄みを利かせてそう言うと、衛兵達は困惑の表情を残したまま黙り込んだ。

 盗賊達の一行は、地響きと今までに聞いたことがない、獣の咆吼のような音を響かせながらみるみる近づいてきた。奴らが近付くにつれて、門扉から離れようとする衛兵がいる。

「門をしっかり押えておけよ。心配ない、通り過ぎるだけだ!」

 デカい声で腰が引けている衛兵達を叱咤しながら俺も逃げ・・、いや距離を取りたかったが、辛うじて耐えた。やがて門に差し掛かった先頭の芋虫の頭から、源人の男が頭を出しているのが分かった。帽子のような物を被ったその男はこちらを見つけると、笑顔で手を振りながら通り過ぎていった。その次、車輪が4本付いている馬車のような乗り物に乗っていた男は、上半身を穴から乗り出していて、俺に向かって伸ばした右手を額に当てながら通り過ぎて行った。

 そして、12台の芋虫や馬車が通り過ぎた後、呆然としている衛兵達を急かして門を閉めさせ、外にいる隊商や領民にもうしばらく門を閉じておく旨を説明させる伝令を出した。

 ひととおり手はずを終えると、西門を担当させた副隊長のフロストの様子を見に行くために詰め所の厩に足を向けたところで騎馬伝令がやって来た。

「ザゲラー隊長殿、フロスト副隊長からの伝令であります!」

 伝令が手綱引いて馬を止めると、馬上から申告した。

「おうっ! そのままで良いぞ、受け取る!」

 俺が返答すると

「はっ、“ムカデは全て通り過ぎた。西門は閉鎖”以上であります!」

「確かに受け取ったぞ、ご苦労だった、戻ってよし!」

「それでは、これにて!」

 伝令は馬主を巡らすと、西門に向かって駈け戻っていった。

「これで俺達の仕事は一段落だ。あとは指示待ちだな」

 近くに居た衛兵に向かってそう言うと、そいつを含めた何人かがその場にへたり込んでしまった。

 その様を見ても叱る気持ちにはなれない。俺が立っているのは立場上、ただそれだけだった。

(あんなモノがこっちに迫ってくるのを見て平気でいられるかってんだよ、馬が付いていないのに車輪が回って走っているんだぞ、魔法か? 俺が大嫌いな魔法か? クソったれのロクデナシが! )

 心の中でひとしきり毒を吐くと、いくぶん落ち着いてきた。

(・・・これで何もかも上手くいくといいがな、辺境伯代行様と団長、リートホルド様、あとはあの連中を信じるしかない、あれなら・・)

 もしもの時に備えて、騎士10騎と衛兵20名をいつでも出られるように指示してあるが、それが必要になるとは思えなかった。



 デイルト川 西側

 戦闘団A(秘匿名称“ムカデ”)指揮官 アイクマイアー少佐


 部隊は無事にサランタン市街を西に抜け、デイルト川の西側に出た。そこで左に曲がってデイルト川の西側に沿って南下を開始する。

「目指すはルアブロンだ、ゆっくり行くぞ」

 東側の街道ほどではないが、整備された道をゆっくりと前進する。東側の街道を北上してくるザロモン子爵軍、秘匿名称“勢力黒色”と川を挟んですれ違うのだ。もちろん、お互いの存在は見える。

(俺達が“盗賊”だと分かれば、奴らはルアブロンに引き返す)

 そうならなかった場合に備えて、装甲車1台を途中で隠蔽させて残置、動向を監視させることになっていた。すれ違う時にこっちを認識してくれれば話は済む。もし、そうならなかったらサランタンから伝令が出て、ルアブロンに誘導することになっていた。

(今の情勢なら、ルアブロンを放置したままにはしないはずだが、万が一本拠地であるカアンに戻ってしまったら非常に面倒な事になる。

(・・・・すれ違うときに、ひとつ小細工をしてみるか)

 俺は少しだけ迷ってから、思い付いた小細工をやってみる決心をした。



 ルアブロン 北東方近郊の森の中

 戦闘団B(秘匿名称“イモリ”)指揮官 シュラーガー中佐


 装甲無線車の砲塔ハッチに腰掛けて、静かにその時を待っていると

「中佐殿、雷神からグスタフを受信しました」

 足元にいる無線手が目を輝かせて報告してきた。

 待機地点に到着した後は待機が長くなるのが分かっていたので、部隊には交代で車外での待機を許可していた。その間に各車輌と指揮下に入った自動車化歩兵部隊を見て回ったが、全隊士気旺盛で申し分なかった。

 そして30分程前に、前哨が街道を北上していく騎兵の一団を発見報告してきたので乗車待機を命じ、今や遅しと待っていたのだ。

「分かった」

 私はそれだけ言うと、車載無線を送信に切り替えた。

『イモリ全車、イモリ全車、こちらイモリ01。出撃する。エンジン始動、準備完了後報告せよ、以上』

 それから4分後、私が乗車する装甲無線車以下、戦車11輛、装甲車8輛、自動車化歩兵4個小隊が分乗したトラック12台は準備を完了した。

『よろしい、それではイモリ10から前進せよ』

 4個班に編制されている部隊が動き出した、目指すはルアブロン東門。

「雷神と狐に報告しろ」

「了解」

『雷神、雷神、こちらイモリ。1010前進を開始せり。どうぞ』

『こちら雷神、受信了解』

『狐、狐、こちらイモリ。1030、門扉黄色到着予定。どうぞ』

『こちら狐、受信了解』

 現在地に到着してから密かに探りを入れて選定しておいた進路に沿って、車両縦列は進んで行く。やがて、森を抜けるとルアブロンの城壁が見えてきた。街道に乗ってしまえば、東門までそれほどかからない。

(装甲部隊は市街戦には向かないが、今回は早さが勝負の拠点確保だ。駆け抜けて一気に片を付けてやる)

 突然森から現れた部隊に、街道を行き交う人馬が驚いて逃げ惑っていたが気にする事は無く、一気にルアブロンを目指して走り抜けて行った。




 デイルト川 東側 街道上

 辺境伯爵家配下貴族 エルヴィン・ゴド・ザロモン子爵


 サランタン目指してルアブロンから出て騎士団の先頭を進んでいると、前方を進んでいた警戒役の騎士3騎が馬を止めた。何事かと思いながら馬を止めると、3騎とも前方左、川の対岸を見つめているのでそちらに視線を移すと、砂埃が舞い上がっている。商隊の荷馬車が列をなして走っているのではと思っていると、何か違うことに気が付いた。

 馬のいななきの代わりにうなり声のような音が聞こえてきた。進む速度もかなり早い。

「あれは何だ」

 そう言って周りを見渡したが、皆川の対岸に釘付けになっていた。誰も一言も発することなく、対岸を進んでくる何か見ていると、その一団は我々と並んだところで速度を落とし、何事かを叫び始めた。遠くて良く聞こえなかったが、挨拶ではなく罵倒しているらしいことは感じられた。ほんの一時だったが、その一団は再び速度を増して南へ走り去っていった。

「今のはなんだ、なんと言っていたか聞こえたか?」

 儂が後ろにいた騎士団の副長に尋ねると

「それが・・、間抜け、とだけ聞こえました」

「なに?」

「私には、お先に、とだけ」

 もう1人の副長が答えた。

「どういうことだ、あれは・・・」

 訳が分からず戸惑い、意見を求めようとすると

「あれが盗賊なのでは?」

 同行していた文官のレーケが儂に向かって言った。

「お先に、は私にも聞こえました。そう言って走り去ったのはルアブロンの方角です。我々は誘い出されたのではありませんか?」

 レーケは知恵があり頭の回転が速いので、気に入って軍師として側に置いている文官だ。騎士団からは良く思われていないらしいが、それでもここで盗賊の意図を見抜いたのはレーケだ。

「レーケでかしたぞ、そなたの言うとおりじゃ。直ちに兵を返すぞ、ルアブロンに戻るのじゃ!」

 儂がそう命じると、騎士団副長が

「お待ちください閣下、あのような奇怪な盗賊など見たことがありません、サランタンへ伝令を出して確認すべきかと」

「子爵家当主の命令に逆らうのか?」

 抗弁する副長に嫡男のテオドールが馬を寄せた。

「逆らうなどとは、そのような考えはありません」

 体格が人一倍大きく剣の遣い手であるテオドールに言われて、副長の言葉は尻切れになって黙り込んだ。

「ならば黙って従え。父上、急ぎ戻りましょう」

 儂に向き直ったテオドールに促されて、儂は馬上で背を伸ばした。

「ルアブロンに引き返すぞ、盗賊共が先に着いても城門は開かぬ。挟み撃ちにすればよい、手柄を立てた者には褒美をはずむぞ!」

「皆の者聞いたか、盗賊の背中を切りつけるだけで金貨が手に入るぞ、早い者勝ちだ!」

 テオドールが後を継いで声を張り上げると、騎士達に笑顔と応じる声があがった。

「参るぞ!」

 儂が馬を返すと、先頭から順に馬主を巡らして我が騎士団は元来た道を引き返した。



『雷神、雷神、こちらムカデ23。勢力黒色は反転。繰り返す、勢力黒色は反転。繰り返す、勢力黒色は反転。どうぞ』

『こちら雷神、勢力黒色は反転、受信了解』

「距離が開いたら出発だ、追従して動向を監視する」


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