表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/85

68 作戦名「雷」

ルアブロンの北東にある林

前線指揮所(秘匿名称“雷神”)

第91歩兵師団長代理 ブリンクマン大佐


 私の腕時計が午前4時57分を指した。前線指揮所に据え置かれている大型無線機の上に置かれた置き時計も同じだ。

「師団長閣下、開始3分前です」

「時間通りに始め給え」

「了解致しました」

 秒針が刻々と進み、午前5時ちょうどを指した。

『雷神から各局、雷神から各局、雷雲。繰り返す、雷雲。繰り返す、雷雲。以上』

 無線手が作戦開始を告げる暗号指令を送信した。



サランタン北東の原野

戦闘団A(秘匿名称“ムカデ”)指揮官 アイクマイアー少佐


 昨日の日没前に現在地点に到着し、原野の真ん中で待機したまま一夜を過ごした。食事は携帯糧食で済ませ、装甲車両の乗員達は、車体の下に掘った穴の中で毛布にくるまって眠った。トラックに乗車していた歩兵達は、トラックの荷台で寝て交代で歩哨に立った。古兵達はぐっすりと眠り、新兵達は眠った気になれなかったろう。

 やがて、朝靄とともに東の空が薄らと明るくなってきた午前3時50分に起床、午前4時10分までに朝食を終えるように命じた。

 部隊が朝食を終え、装備を整えると部隊は前進を開始、出撃予定地点に到着した。それから待機に入って20分後

「少佐殿来ました、“雷雲”です」

 無線手が興奮を抑えているのがよく分かる。

「よしっ、出撃だ」

 俺は車載無線を送信に切り替えた。

『ムカデ全車、ムカデ全車、こちらムカデ01。出撃する。エンジン始動、準備が完了したら報告しろ、以上』

 すると、車体を草で偽装して待機していた車両縦隊が一斉にエンジンを始動させ始めた。

『ムカデ01、ムカデ01、こちらムカデ11。準備完了異常なし、どうぞ』

『ムカデ01了解』

『ムカデ11以上』

 次々と報告があがってきて、戦車4輛、装甲車2輛、装甲無線車1輛、トラック3台、履帯式牽引車2輛から成る戦闘団Aは、3分ほどで出撃準備を完了した。

『ムカデ全車、ムカデ全車、こちらムカデ01。前進開始。ムカデ11から順次前進、車間距離30、前進路から外れないように注意しろ、以上』

 装甲無線車のハッチから前後を見渡しながら命令すると、一番先頭の戦車がゆっくりと動き出した。それに続いて戦車が3輛と装甲車1台が、ゆっくりと動き出し、装甲車に続いて俺が乗車している装甲無線車も動き始めた。

『雷神、雷神、こちらムカデ。0505前進を開始せり』


 昨日、出撃予定地点に到着してすぐに進路偵察を実施した結果、周囲は小さな林と大小様々な起伏や藪が点在する草原だった。そしてそれ以外にも伸びた草に隠れた窪みや溝、小川があった。

(報告書のとおりだな、軽い馬車か戦車なら問題ないが、装甲車とトラックが通るのは難しい)

 そこで、戦車で予定の進路を踏み固めて、その轍を装甲車と自動車化歩兵小隊のトラックが辿るように決めた。進路偵察で判明した、どうしても迂回できない溝と小川には、持参した材木を渡しただけの簡易な橋を仮設しておいた。

(あの2カ所さえ越えてしまえば、装甲車もトラックも4輪駆動だからスタックすることは無さそうだ。念の為に共和国製の牽引車も連れてきているし、予定時間には“地点白色”に到着できそうだな・・)

 俺は偽装を付けたまま進んでいる車列を見渡しながら、久しぶりの実戦に心を躍らせていた。



 前線指揮所(秘匿名称“雷神”)

 第91歩兵師団長代理 ブリンクマン大佐


 私は作戦開始の無線を聞きながら地図を睨んだ。

(まず、アイクマイアー少佐の戦闘団A、秘匿名称“ムカデ”が約40分後にサランタンの北側に到着して交通を遮断する) 

 “兵力約120名の正体不明の集団によって、サランタンから北への連絡が遮断される”

 この異常事態に、サランタンの代官は辺境伯家に報告と指示を仰ぐ為に伝令を出す。もし、代官が躊躇うようなら衛士隊のザゲラー隊長が説得し、場合によっては独断で伝令を出すように、辺境伯家からザゲラー隊長に下命されていることになっている。

(伝令がルアブロンに到着すれば、当然ザロモン子爵の耳にも入るだろう。自分の本拠地との連絡線が遮断されたと知れば、子爵は自ら騎士団を率いてサランタンに向かうはずだ・・)

 ここで問題になるのは、どの程度の兵力を連れて行くか、と言う事だ。我々としては全員連れて行って欲しいのだが、ザロモン子爵にしてみれば、せっかく確保した領都を空にする気にもならないだろう。

 そこで、ザゲラー隊長が発した伝文に入れた“兵力約120名”という一文が意味を持つ。

(ザロモン子爵の武勇はいまひとつ、という話だからな。数の優位で当たろうとするに違いない)

 元々西門に30名、城館に10名を配置しているのであるから、非常事態の対応としては残りの北門と東門に30名ずつ配置するとして、100名を残置し、残りの200名、最低でも150名は連れて行くと予想していた。

(正体不明の集団に対して城門を守る事に関しては辺境伯家も味方だから、併せればルアブロンの守備には充分、と言う訳だ)

 などと考えながら、“ムカデ”の配置完了の無線を待った。そして35分後

「大佐殿、“ムカデ”からです、0540地点白色に到着、状況灰色」

「よし」

 アイクマイアー少佐の部隊がサランタン北側の街道の封鎖を開始した暗号が入電した。そしてそれから30分ほどして、今度は“ヘルマン”が入電した。

(思ったよりも早かったが、予定通り伝令が出た。ルアブロンまで馬を飛ばして概ね2時間。騎士団の出発まで1時間か2時間か・・、そしてルアブロンからサランタンまで2時間、全部で5,6時間か・・。まずは“オットー”を待つとしよう)

 右手を顎に当てて、地図を睨む。

(“狐”からの“オットー”で“グスタフ”を発動・・・)

 色々な言葉、情景、思考が頭の中を駆け巡る。

 私は作戦参謀として計画を練り、部隊指揮官と調整して準備を整えた。そして準備が終わった段階で、師団長閣下から作戦指揮官に任命された。師団長閣下は私に経験を積ませようと考えたらしい。実際にルアブロンに入って辺境伯家と交渉にも当たった、街中も視察して雰囲気は掴んでいる。前線指揮官たるシュラーガー中佐やアイクマイアー少佐とも関係を築いてきた。

(この作戦の指揮官として適任なのは自分でも分かる。しかし、ここは未知の国、いや何が起こるか分からない異世界なのだ。ただでさえ実戦に齟齬は付きものなのに、こんなところで戦死者を出したら・・・)

 そう思うと、腹部に痛みを感じるような感覚を覚えた。

(今までに関わった作戦に比べればかなり小規模な作戦だが、ここで兵を死なせたくないという気持ちが強いせいか、いつもより緊張してしまう・・・・)

 ふと、視線を感じてそちらを見ると師団長閣下が私を見ていた。視線が合うと、微かに笑みを浮かべた。

「心配かね、大佐」

「はい師団長閣下、準備期間が短かったものですから」

「そうだな、だが作戦は単純だ。時期を失するよりはいいだろう」

「はい、その通りであります」

「オットーが発動するまでは敵の動きに合わせるしか無い。だが、そこからは我々が全てを決定する」

 そう言った師団長閣下の眼は、気力が漲る、と言うには足りない何かが放たれているように感じた。

「はい、師団長閣下」

 私はその何かに気圧されて、そう答えるのが精一杯だった。


 ルアブロン 中央街区

 辺境伯爵家城館 ルアブロン城

 辺境伯爵家当主代行 エカテリーニ・ゴド・ルアグロス


「お嬢様、サランタンから火急の伝令が参っております」

 ノックに応えると、執務室に入ってきたリートホルドが告げた。

「そう、いまはどこに?」

「謁見の間で待たせています。ザロモン子爵家の当直も一緒に待っています」

「分かったわ、すぐ行きます」

(当家を下にみるのも当たり前になってきわね)

 そう思いながらペンを置き、謁見の間を目指して部屋を出た。

(もう少しで、思い知らせてやるわ)

 謁見の間に向かう間、ザロモン子爵家の騎士達に対する怒りを思い出していた。私が不満を抱いているのを知っていて、無礼な態度を取り続ける厚顔不遜の輩共。リートホルドとアンゲリアスから聞いたところによると、城館に詰めているのはザロモン子爵の取り巻き連中らしい。

(ゴマすり、おべっか、腰巾着・・・。叔父上はすっかり変わってしまわれた。昔は優しかった、叔母上と仲の良くいつも笑っておいでだったのに・・・なぜ・・)

 礼儀知らずの卑しい連中を送り込んできたのが叔父だと言う事を考えると、悲しい気持ちだけでなく、不可解を感じる。

 親衛隊が静かに開けた扉を通り、私は謁見の間へ入った。部屋の中央、当主か当主より上位の貴族が使う大椅子の前に甲冑を身に纏った騎士が1人控えていて、その真横に赤と青の羽織を着たザロモン子爵家の当直、つまり監視役の騎士が1人立っていた。

 入室した私に気が付いたサランタンの騎士が跪いた。

「そのままでよろしい、何が有ったのか報告しなさい」

 私が大椅子の横に立って騎士に声を掛けると、騎士は立ち上がって腰に下げていた革製の筒を外して差し出した。

「衛士隊長ザゲラー様からの伝書にございます。正体不明の者共がサランタン北側で街道を封鎖しております」

「なんだと、それはどう言う事だ!」

 ザロモン子爵家の騎士が大声でサランタンの騎士に問いかけ、同時に歩み寄って伝書筒を奪い取って中身を改めた。

 私は怒りが込み上げて騎士を睨み付け、リートホルドが「無礼な!」と叫んだが、件の騎士は気にする素振りも見せずにサランタンの騎士に問いかけた。

「120人の賊と書いてあるが、お前は見たのか?」

「いいえ、私は衛士隊長の命に従って、辺境伯爵家代行様宛に伝令として参っただけです」

 騎士は真っ直ぐに私を見ながら答えた。

「ふん、無礼者が。これは辺境伯爵家代行殿が措置を講じられるのですかな?」

 明らかに小馬鹿にしたような態度で私を見やるその男は、もはや騎士などではなくただの無頼者だった。

「それはザロモン子爵がやるべき事ではないのか? 当家だけではこの街を守れないと言って居座っているのは何の為なのだ、よもやそこに書かれた数字だけで恐れをなした訳ではあるまいな?」

 私がそう言うと、無頼者は顔を真っ赤にして伝書を投げ捨てると「子爵様に報告してくる」と言い捨てて謁見の間から出て行った。

 リートホルドが拾って私に差し出してきた伝書を受け取り、文面を確認するとサランタンの騎士へ

「ご苦労でした、代官のヒンツェはどうしていますか?」

「は、ザゲラー様と協力して門を閉じ、ご指示をお待ちになっていらっしゃいます」

 騎士の言い回しに口元が緩んでしまう。サランタンの代官であるヒンツェは、文官としてはそこそこだが日和見者として有名だった。ザロモン子爵がルアブロンに入ってからは、“良く言う事を聞いている”らしい。代官の肩書きを利用して私腹を肥やしているという噂もあり、私は信用していない。

「すぐに戻ってザゲラーに報告できますか?」

「ご命令とあらば直ちに。ただ換え馬をお願い致したく」

「分かりました、くれぐれも気をつけて行きなさい。リートホルド、この者に換えの馬を」

「はっ!」

 リートホルドと騎士は一礼して出て行った。私は控えていた従者を1人伴って執務室に戻った。

(奴らは気付いていない・・・。もう始まっているのに・・、そしてもうすぐ終わるわ・・)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ