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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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65 身辺警護

 ルアブロン市街地 「白鈴亭」

 師団長代理兼全権特使 ブリンクマン大佐


 潜入班第2便と共にルアブロンに入り、フィルカザーム大尉のチーム合流した次の日、私はフィルカザーム大尉とルアブロン市内を視察して回った。

「あれが辺境伯と一族が居住している城館です」

 少し離れた所からフィルカザーム大尉が言葉でだけで指し示したのは、3階建ての館と北と西に塔が建てられている城館だった。

「思っていたよりはこぢんまりとしていますね」

「辺境伯は贅沢を好まないそうです」

 なるほど、と思いながらチラチラと様子を窺っていると、黄色と緑色の羽織を身に付けた兵士が立哨している横を、青色と赤色の羽織を身に付けた兵士が出入りしていた。

「黄と緑が辺境伯家、赤と青がザロモン子爵家です」

「中にいる兵力は?」

「辺境伯と一族の身辺警護に当たる親衛隊が30人ほどと聞いていますが、実数は不明です。子爵家の兵力も不明です」

「協力者からは?」

「まだ、ありません」

「回答待ちですね」

「ええ、おそらく今日中に知らせがくると思いますが、待つしかありません」

「その知らせは例のギルと言う工作員が?」

「ええ、優秀な連絡員ですよ。きっちり仕事をこなしてくれています」

「その、信用できるのですか?」

 私は控えめに尋ねた。潜入班が仕事を始めてから、まだそれほど時間は経っていない。

「裏切る可能性はゼロではありませんが、担保を押えてありますので」

 私がフィルカザーム大尉の和やかな答えの意味を掴みかねていると

「病身の妻と4歳の娘がいるのです」

 その言葉の意味を理解して、言葉が出なかった。

「医療補助者の資格を持っているペッター上級軍曹に、妻の病状を診察させまして、投薬と治療に良い環境を与えてやったのです」

 続く説明に少し安堵して、多めに息を吐いた。

「非常に感謝していましたし、我々が家族と接触した理由も理解しているでしょう。それを踏まえて信頼に足ると判断しました、もしもの時は担保を回収するしかありませんが」

 あまり気が進まない、そんな感情を含んでいるように聞こえる一言を聞いて、フィルカザーム大尉の顔をのぞき込んだ。

「作戦が成功した暁には、アッペルとギルのその後を保証してやらなくてはいけません」

 大尉が言葉と共に視線を返してきた。

「分かりました、その件については私が責任を持ちます」

「ありがとうございます、大佐殿」

 区切りが付いたところで、話題と場所を変えることにした。

「ゾラードさん、奴隷市場を一度見ておきたいのですが」

「分かりました、ご案内しましょう」

 私と大尉は肩を並べて城館から離れていった。


 城館から市街を抜けて奴隷市場、港を見てから宿に戻るとギルが待っていた。

「はじめまして、ハルムヤンツと申します」

 私はギルに向かって挨拶した。ギルは驚いていたが、フィルカザーム大尉が私の後ろに立っているの見て察したようだった。

「こちらこそ、ハルムヤンツさん。私はギルと申します、ゾラードさんに雇っていただいております」

 ギルは直立不動を執って挨拶を返してきた。

「貴方の仕事ぶりはゾラードさんから聞いています。事が成った暁には必ず報いたいと思っていますので」

「は、ありがとうございます」

 ギルはなんと答えて良いのか分からない様子だった。

「ギル、この方は私の上官で、辺境伯家との交渉に当たる特使を務める為にここに来ていただいた。ハルムヤンツさんが居る間は護衛対象に含まれる、いいな?」

「分かりました」

「その分は割り増しで払う」

「わ、分かりました」

 フィルカザーム大尉の指示にギルは戸惑いながら答えた。

「何か承服できない理由でも?」

 私が尋ねると

「いえ、とんでもない。ただ、割り増しと聞いて驚いただけです。妻と娘の面倒も見て貰っているので、そこまでしていただかなくても・・・」

「良い仕事には相応に払うのは当たり前だろ。お前はすでに良い仕事をしているんだからな、これからも頼むぞ」

「分かりました、ゾラードさん」

 ギルは少し嬉しそうに浅く一礼した。


「で、明日の日の入り2刻に海竜亭で、部屋はこちらで用意する、だな?」

「はい、辺境伯家からは3名。決定権を持つ者を寄越すそうです」

 ギルの返答を聞いて、フィルカザーム大尉は満足げに頷いた。

 今回、我が軍から全権特使が来ることを辺境伯家に伝え、同じく決定権を持つ者を出すように依頼はしておいたのだが、辺境伯家が応えたということは本気で考えていると考えて良さそうだった。

「決定権を持つ代表って誰が来るか分かるか?」

 フィルカザーム大尉がギルに尋ねると

「メーティスの口ぶりだと、辺境伯爵家令嬢のエカテリーニ様ではないかと思います。噂ではなかなかの男勝りだと聞いていますし、嫡男はまだ幼い子供で、奥方は表に出てきたことはありません」

「令嬢か、歳はいくつだ?」

「確か、16か・・17だと・・・」

 ギルが首を傾げながら絞り出した答えにフィルカザーム大尉と顔を見合わせた。

「違う意味で手強いかもしれませんなぁ・・・」

「まったく・・・。後の2人はメーティスと、誰だ?」

「護衛を一人付けると言っていました、おそらく親衛隊の隊長ではないかと思います」

「身辺警護部隊の隊長か、信用できて剣の腕もさぞかし強いんだろうな」

「メーティスと言う家臣は補給担当の武官でしたね。文官無しで交渉と言う事ですか」

 私の疑問にフィルカザーム大尉が答えた。

「彼は領内の経済関係を把握しているとそうですから、へたな事務屋の役人よりはうってつけでしょう」

「なるほど。外交と徴税か内政担当の文官が付いて来ると思っていましたが、そちらは優先順位が低いようですね」

「仰るとおりです、ハルムヤンツさん」

 フィルカザーム大尉が鋭い目つきで薄笑いを浮かべながら答えた。


 次の日、我々は打ち合わせを済ませると早々に白鈴亭を出た。単独か二人組で、遠回りをして尾行の有無を確認してから間隔を空けて海竜亭へ入り、3階の角部屋とその隣、そして2階の角部屋を押えた。

 モールハウプトとセルディカがさりげなく海竜亭の内外を点検し、異常が無いことを確認すると、後は約束の時間まで待ちとなった。


「私はお相手方に敵意があるかどうかの確認だけでよろしいのですね?」

 一緒に部屋にいたフィーラ軍属がここに来てから初めて言葉を発した。

「ええ、それをお願いします。後は敵対行動を起こしたときの対応を」

「承知致しました、大佐殿」

「魔力は大丈夫ですか?」

「はい、大人しくしていましたので」

 フィーラ軍属が使える魔法「心眼」は、相手が敵意を持っているかどうかが分かる、そうだ。友好は青、中立は白、敵意は赤で、その度合いによって色の濃さも変化する、らしい。さらに

「感情によって色合いも変化するのです。特に敵意は悲しみや恨み、妬みによるものだと、色の変化が分かりやすいのです」

 とフィーラ軍属は言っていた。

(相槌を打つことしかできなかったが、辺境伯側の心情が分かるなら非常にやりやすくなる、師団長閣下がフィーラ軍属を推した理由はこれか)

 第4小隊を差し置いて彼女を選んだ理由が分からず戸惑ったが、交渉の事を考えればこれ以上の人選はない。

(魔力の量が多くないと言っていたが、攻撃する魔法も使えるから護衛兼通訳と考えれば非の打ち所がない)

 私は今回の交渉が上手くいく確信を得た。


 そして約束の時間が近づいてきた時、

「大佐殿、サリエ姉様からです。騎士風の男が3人、入ってきたそうです、服装は冒険者のようですが、それぞれ違うテーブルに座ったそうです。セルディカさんの見立てでは辺境伯家の手の者だろうと」

 サリエとセルディカとペッターは、向かいの酒場から海竜亭に出入りする者を見張らせていた。

「おそらく護衛でしょう、そのまま動静監視に留めておけばいいと思います」

 ピクリ、と反応したギルに合図を送りながらフィルカザーム大尉がこちらを見たので頷き返した。

「そのように伝えてください」

 私が部屋の隅に置かれた椅子に腰掛けているフィーラ軍属に指示を出すとフィーラ軍属は頷いて俯き加減になり黙り込んだ。「念話」で相手を絞り込んで送話するときは、集中力が必要になると言う事だった。

「想定の範囲内だよ、ギル。唯一家中を纏められる令嬢を、二人付けただけ屋敷の外に出すはずがない。親衛隊長が独断で配置したんだろう」

 フィルカザーム大尉の言葉を聞いてギルも納得したようだった。


 そして約束の時間まであとわずかに迫った時、

「大佐殿、サリエ姉様からです、それらしい3人組が近付いてくるそうです」

 フィーラ軍属がやや疲れ気味の顔を向けて告げた。

「了解、ご苦労でした。相手が入ったら予定通りに行動するように伝えてください」

 フィーラ軍属は頷くと、静かに息をひとつ吐いてから送話を始めた。やはり気を張った状態が続いて疲れているらしい。

「ギル、迎えを頼む」

 フィルカザーム大尉がギルに声を掛けると、素早く立ち上がった。

「分かりました」

 短い返事を残してギルは部屋から出て行った。

「さて、始まりますね」

 私が呟くと、フィルカザーム大尉とフィーラ軍属が黙ったまま頷いた。


辺境伯家令嬢の名前が違っていましたので訂正しました。

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