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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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61/83

61 誠実であれ。

ルアブロン市街地 中央街区 「海竜亭」

潜入班「狐」 フィルカザーム大尉


 俺は努めて穏やかに話を切り出した。

「今回は手短に用件のみをお伝えしようと思います。貴方、いや辺境伯家が妹婿であるザロモン子爵を排除したいとお考えでししたら、我々は力を貸すことができます」

 俺がそう言うと、メーティスは冷め切った目つきで

「どうやってです?」

「相応の兵をもって」

 俺はメーティスの視線に余裕の笑みで答えた。

「その見返りは?」

「現在我々は根無し草でして、とりあえず駐屯する土地と食料その他の必要物資、と言う事になりますが、私には交渉権すらありません。後ほど双方から然るべき立場の方が話し合って決めて頂くことになろうかと思います」

 メーティスは黙ったまま頷いた。

「なるほど。それで、どちらの国から来られたのですか?」

「それが、説明しずらいのですが・・・」

 俺が口ごもる様子を見て、メーティスは顔をしかめて黙っていた。

「・・・・・我々は、異邦人なのです・・」

「いほうじん・・・?」

 俺の答えに、メーティスが繰り返して呟き、ギルは眉間に眉を寄せていた。

(やっぱり知らないか・・。この質問に対する答えとしてハイン大尉から授かってきた言葉だが、ダメっぽいな。この世界の住人ではない、と言うのを説明するしかないが、当の本人がなんでここに居るのか分からないのに説明なんてなぁ・・)

 俺は黙り込んだメーティスとギルを見て、次の言葉を考えていたが、メーティスの反応はギルとは少し違っていた。

「いほうじん・・・。いほうじん・・・。その言葉は・・・」

 メーティスは、この言葉を聞いたことがあるようだった。

「異邦人という言葉をご存じですか?」

 俺が尋ねると、メーティスは表情を改めた。

「ええ、まぁ・・。それはさておき、そちらが求めているモノは分かりましたが、それでは、貴方がたが当家に味方する理由はなんでしょうか。当家がおかれている状況はご存じのようですし、旗色が悪い方に加勢して恩を売るのが目的ですか?」

「ええ、そうです」

 俺は、はっきりと答えてやった。

「それともうひとつ、正当性の問題です。主家の乗っ取りに加担するのは正義と秩序に反します。我々の将軍のモットーは“誠意には誠意をもって答える”ですので、」

 俺は一旦言葉を切った。

「私が今ここではっきりとお伝えできる事は、我々は辺境伯家の家臣となる事はないと言う事と、辺境伯家に取って代わりこの地を支配しようという考えもないと言う事です。これは我々の神に誓ってお約束します、この事は必ずお伝えように我々の将軍から命じられております」

 俺は声のトーンを落としてメーティスに伝えた。

「・・・・将軍ですか。先程、相応の兵をもって、と仰いましたがどれほどの兵力をお持ちなのですか?」

「・・約8,000です」

 俺はためらう素振りを見せつつ答え、メーティスとギルが驚くのを見守った。

(純粋な戦闘部隊はもっと少ないが、全員兵士だから嘘ではない)

「それだけの兵力なら、貴男方だけでこの街を攻撃して陥落させることも可能なのでは?」

 メーティスが不思議そうな顔をして言った。

「そのとおりです、我々は独力でこの街を占領する事ができます。しかし、我々の将軍はそれを望んでおりません。これは我々の価値観に依るところが大なのです。我々は無用な流血を望みません」

 メーティスは俺の返答を聞いて何も言わなかった。

「ただし、将軍が決断し、命令が下った時は実行します。我々はその為の訓練を受けており、今なお維持しておりますので」

 俺がそう言うと、メーティスは黙ったまま頷いた後に

「分かりました。しかるべきお方に今回のお話をお伝えします。近いうちにまたお会いすることになろうかと思いますが」

「こちらも、準備しておきましょう」

「分かりました、では今夜はこれで」

 メーティスが立ち去ろうとしたので、俺は声を掛けた。

「ああ、メーティスさん」

 振り向いたメーティスに

「秘密は守られているのでしょうか、しかるべきお方も含めて?」

 俺の言葉に顔が一部が反応したが、メーティスは冷静に返してきた。

「もちろん大丈夫です、ご心配なく」

 俺がその答えに頷くと、メーティスも頷いて部屋から出て行った。


 その後は、ギルとセルディカに取った部屋で一泊するよう命じると、俺とアッペルは宿に戻り、俺の部屋に全員を集めた。

「さっき、ギルが繋ぎをつけてきた辺境伯家の武官と会って話をしてきた。あちらも意思決定を出来る立場ではないから、結論は先だが手応えはあった。返答次第ではさらに忙しくなる、ここでヘマをやらかすと致命傷になる、皆頼んだぞ」

 俺がそう言いながら見渡すと皆が頷いた。

「ペッターとアッペルは予定通りだな」

「はい。明日の朝、“借家1”にある荷物を積んで東門から丘を目指します」

 “借家1”とは現在ギル一家が住んでいる民家のことだ。

「よし、武装を忘れるなよ。それと、司令部宛の報告がある、後で伝えるから記憶して口頭で報告してくれ」

「はい」

 俺がペッターに向かって言うと、ペッターは短く答えた。

「サリエはレスティと接触して、辺境伯家と市内の動きに変化がないか聞き耳を立てておいてくれ」

「承知いたしました」

 俺はサリエの返答を聞くと、息をひとつ吐いて表情を緩めた。

「成功したら、俺の奢りで一杯やろう」

 皆の表情に笑みが浮かぶのを確認すると、解散させた。


 翌朝、ペッターとアッペルが出て行き、続いてサリエも出て行った。その後少ししてギルとセルディカが戻ってきた。

「ギル、良くやってくれた」

 俺は向かい合わせに座ったギルにそう言って金貨1枚をテーブルの上に差し出した。

「えっ、こんな・・」

「まだ終わっていないから、引き続き繋ぎを頼む。ただし、くれぐれも何処かに漏れないようにな」

 俺は若干凄みを利かせてギルに念押しした。

「分かってますよ。メーティスもその辺は大丈夫です、辺境伯殿の耳目を自称していますから」

「そうなのか?」

「ええ、詳しい事は言いませんが、輜重部門の責任者として領内の収穫高とか徴税の情報も集めているそうなので、辺境伯領内の事は自分が一番詳しいと言っていました。当然、無闇に話せる内容ではありませんから、秘密事の扱いは心得ていますよ」

「なるほどな、そう言う事なら信用しても良さそうだな」

「あの、本当に辺境伯家を蔑ろにしないで頂けるんですか?」

「嘘は言わないよ、昨日あそこで話したとおりだ。誠実であれ、これが命令だからな。これからが正念場になるからしっかり繋ぎを頼む、それも込みの報酬だ、受け取ってくれ」

 俺が指先で金貨をギルに向かって進めると

「分かりました。私も誠実に努めます」

 俺がそう言うと、ギルは頷いて金貨を財布に収めた。

 昨夜自宅に戻れなかったギルを帰すと、次はセルディカを呼んで座らせた。

「セルディカ、俺はとある軍に所属している密偵だ。命令を受けてこの街で活動している。目的はオーレンベアク辺境伯爵と対等の同盟を結び、我が軍の地盤を確保すること。その為に、辺境伯家の乗っ取りを企んでいる妹婿のザロモン子爵とその騎士団を排除して、この町を掌握する」

 俺が言葉を切ると、セルディカは黙ったまま頷いた。

「お前にも手伝って貰う、いいな」

「承知いたしました、旦那様」

 セルディカの答えに満足して頷くと

「旦那様、ひとつお願いがございます」

「なんだ?」

「先日お預かりした金銭の余りをまだお返ししておらず、私めが持っております。このお金で身支度を調えたいのですが、よろしいでしょうか」

「お前の道具を買ったときの余りか、それは構わないが何をするんだ?」

 最初に衣類を与えてから、何も言わなかったのにと思いつつ聞いてみると

「私が奴隷落ちした際に巷の噂になりました。私を買い取ってくださったガイファート様は、私が好奇の目に晒されるのを好まず、しばらく私を外に出しませんでした。私からお願いして少し前から外に出していただきましたが、もしやすると私を覚えている者がまだいるかもしれません。その事で旦那様の軍務の妨げにならぬよう、髭と髪を整え着替えなども少し準備しておきたいと思います、お許し頂けましょうか」

 抑揚のない声で淡々と話す内容に反対する理由はなかった。

「分かった、お前が良いと思うようにやれ」

「ありがとうございます、旦那様。何なりと御命じください」

 俺は、恭しく頭を下げるセルディカに向かって期待を込めた。

「ああ、働いて貰う」


メーティスの役職ですが、辺境伯家側からは「輜重」、帝国軍側からは「兵站」とする表現にしました。


設定⑥

 小火器も概ね 帝国→ドイツ、共和国→フランス、をイメージしていますが、実在しない物もあります。細かくなるので詳しい説明は省きます。

 帝国軍の小銃はKar98をイメージしていますが、名称だけKar(騎兵銃)ではなくGew(小銃)で表しています。


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