58 お宝
補給処「蜂の巣箱」
兵站本部 テッタウ少佐
ゼップ少尉が運転する小型兵員車に俺とシュラーガー中佐が乗り込んで、補給処の奥の方へと走っていた。
「私は何をすればいいのかね、テッタウ少佐?」
「使い物になるかどうか見てほしいんです、シュラーガー中佐殿」
「殿はやめてくれ、今までどおり楽にいこう」
「分かりました、シュラーガー中佐」
俺はシュラーガー中佐と笑顔で視線を交わしたが
(今までどおりでも、緊張している時間の方が多いんだけどな)
と声には出さずに呟いた。
「しかし、なぜ今になって見つかったのかね?」
「将軍の丘からこちらに移駐してくる部隊のために寝床を準備しているのですが、バラックを建てるのに時間がかかるので倉庫を片付けてベッドを入れておりまして、その時に発見しました」
ハンドルを握りながらゼップ少尉が答えた。
「開けたことが無い倉庫の中に戦車が入っているとはね。まるでここは迷宮だな、お宝が人知れず眠っていると言う訳だ」
シュラーガー中佐が珍しく嬉しそうな口調で話している。
「お宝かどうかを見極めて欲しいんですよ」
俺はそう言いながらファイルを取り出してシュラーガー中佐に渡した。
「倉庫で発見した後に事務室を探したら出てきた書類です。タリアニア公国が共和国に装甲車両を売り込んでいたようです」
ファイルを受け取ったシュラーガー中佐が、俺の言葉を聞いたとたんにつまらなそうな顔になった。
「タリアニアか・・・。お宝ではないことは間違いないな」
「分かるんですか」
「各国の開発技術には常に関心を持っていた。タリアニア公国軍は機械化が遅れていて、成功したと言える装甲車両は豆戦車だけだ。低予算で数が揃えられるから一時期各国で流行ったが、今では新規で買ったり作ったりしている国は無いはずだよ」
「そうなんですか。たしかタリアニアはスポーツカーで有名な企業がいくつかありましたよね? それなりに技術力はありそうですが」
俺がシュラーガー中佐に尋ねると、中佐はそうだとばかりに頷いた。
「君の言うとおりだよ、テッタウ少佐。しかし、あの国で優秀とされているのはスポーツカーやモーターボートの話だ。タリアニアの国土は半分以上が丘陵か山岳地帯で、谷の数だけ橋があると言われている。だから車両の開発には厳しい重量制限が付いて回る。軍上層部が小さい戦闘車両を求めたのは理解できるのだが、結局のところ豆戦車が廃れたのは小さすぎて汎用性が低いからだ。おまけにタリアニアの豆戦車は、いや豆戦車に限らないが、キャタピラが外れやすいという欠点がある。道路の上しか走れないと言われるような装軌式車両に、いったい何の意味があるのか全く理解できん。同じようなタイプの車両でも、グレーブリン王国軍のガーデンキャリアーのような車両であったら、軍の機械化に寄与したかもしれないが・・・」
冷めた表情でぶつぶつとタリアニア軍をこき下ろしながらファイルをめくっていた中佐がふと手を止めた。
「テッタウ少佐、倉庫に入っているのは最新型の中戦車らしい」
「これが最新型ですか・・?」
「ああ、この書類によると、ここに運び込まれたのが2年前の話だな。タリアニア陸軍が誇るM35/D型中戦車だそうだ」
俺達が目的地である第37号倉庫に到着して中に入ってみると、装甲板をリベット止めされた、いささか古めかしいスタイルの戦車が鎮座していた。
「武装は32口径47ミリ砲1門と8ミリ機関銃2丁、前面装甲は35ミリ、145馬力ディーゼルエンジン搭載で最高速度は35キロ、乗員4名」
「ディーゼルですか・・」
我が軍の車両は一部を除いてガソリンエンジンで統一されていて、ディーゼルエンジンを載せた車両は主に民間用だった。
今ここで使用している共和国軍の戦車や車両も殆どがガソリンエンジン車だったが、一部のトラックはディーゼルエンジン車だったので、それらは予備として保管している。
(ガソリンも軽油も当分心配ないが、せっかくガソリンエンジンに統一して少しでも整備性と稼働率の向上を目指しているんだ、これを動かして整備工場を混乱させたくはないな・・)
「テッタウ少佐、全部で12輛あるが運用するかね?」
「せっかくの最新型ですが、現在戦車は余っている状態です。予備部品も無さそうですので、予備車両と言う事で別の場所で保管しておきますよ」
「それが賢明だな。前の型のエンジンを変えただけで、特に優秀という訳でもないからな。他に自走砲があることになっているが、あれか?」
ファイルを片手にしたシュラーガー中佐が、最新型戦車の後ろで上部に防水シートが被せられた装軌式車両に近づいて行った。並んでいる車両はどれも車高が低く、我が軍のⅢ型突撃砲を連想させた。
「これは突撃砲のようだな」
突撃砲とは我が軍が開発採用した装甲化戦闘自走砲で、戦車の車体に搭載砲を備える砲塔を載せるのではなく、車体に固定する方式で搭載した火砲により歩兵支援任務と主眼とした。トーチカ等を備える防御陣地を突破する為に開発され、砲塔を省いたぶんの重量を搭載砲の大型化と前面装甲の強化に振り分けることが出来た。
歩兵と共に前進し、直接照準で目標を射撃、破壊する。固定目標が主なので照準は車体の向きを変えることで用は足り、車高が低く抑えられるので、被弾面積も少なく、目立たずに接近して射撃することができた。
一緒に付いて来た作業隊の兵士に言いつけて防水シートを剥がさせると、未完成に見えるなんとも奇妙な車体が現れた。足周りはM35/D型と同じようだが、前面装甲のやや左寄りには搭載砲のマウント部が備えられていて、造りは明らかに突撃砲だった。
だが、この車体には天蓋装甲と搭載砲がなかった。
シュラーガー中佐がファイルをめくっていたが、とあるページで手が止まり、眉間に皺を寄せて目だけを動かし始めた。そして、なにやら頷いたかと思うと
「テッタウ少佐、この車体は共和国軍の75ミリ榴弾砲を載せることができるらしい」
と言いながらまんざらでもない顔になっていた。
シュラーガー中佐によると、タリアニア陸軍は我が軍の突撃砲の存在を知るや、同様の装甲戦闘車両を開発したらしい。我が軍の突撃砲と同じく、75ミリ砲を搭載出来ることが気に入ったタリアニア陸軍上層部は、第一段として開発採用したS36/A型に続いて、さらなる強化型の開発を国内の軍需企業に対して命じ、これに応えた企業から提出された幾つかの仕様計画案の中から、フィオットア社が提案した計画案がS36/B型として採用された。
タリアニア公国での装甲戦闘車両の開発は、フィオットア鉄鋼製作所とオルンサルド自動車会社が代表格なのだが、フィオットア社はオルンサルド社に比べて政府との繋がりが太いことで有名らしい。
「この車体は、強化型として採用されなかったオルンサルド社製の車体を流用して共和国軍向けに製造したものらしいが、共和国軍も採用しなかったようだな。有力な戦闘車両だと思うのだが、理解できん」
シュラーガー中佐は頭を小さく左右に振りながら落胆しているように見えたが、表情からご機嫌なのは明らかだった。
「足周りが同じなのは、おそらく軍が発注したときの仕様だと思われるので仕方ないが、私としては開発技術においてフィオットア社よりもオルンサルド社の方が優れていると思っている。フィオットア社は政府の燃料事情を重視して燃費が良いディーゼルエンジンを多用するが、オルンサルド社は車両の性能を重視してガソリンエンジンを用いる」
「ということは」
「これはガソリンエンジンだよ、152馬力で最高速度は38キロ、前面装甲は50ミリ。使えそうだがどうする?」
シュラーガー中佐がご機嫌なのは、使える戦闘車両を手に入れることができたからだった。
「つまりここで砲を搭載するということですか」
「そういうことだ。どこかに天蓋装甲があるはずだ、砲を搭載して天蓋をボルト止めするだけらしいから、ここの整備工場なら可能だと思うがどうかね。キャタピラの脱落防止には私に考えがある、極めて簡単な措置だから大丈夫だ」
この突撃砲を戦力化するのは決定事項になっていた。
「分かりました、やりましょう。しかし、エンジンを含めた整備にどのくらい手間が掛かるかも考慮します」
「全部で突撃砲が12輛、指揮観測車が2輛ある、榴弾砲を載せるなら1個装甲砲兵中隊だぞ、素晴らしいお宝じゃないか」
シュラーガー中佐の眼は輝いていて、その耳に俺の言葉は届いていないようだった。
「中佐、予備部品の事もありますから検討して決定しますよ。それからツァイル少佐とも要相談です」
俺がシュラーガー中佐の輝きに水を差したが大した効果は得られなかった。
「予備部品ならエンジン以外はそっちの最新型から取れば良いさ。ツァイル少佐との調整については了解した」
若干トーンダウンしたものの、中佐の士気は高いままだった。
「完全な密閉型の戦闘室を持つ突撃砲なら前線任務に最適だ。指揮観測車1輛と突撃砲4輛で1個小隊を2個、予備と訓練用に4輛、これなら人員のやりくりも負担は少ないだろう」
シュラーガー中佐は静かに並んでいる突撃砲を見渡しながら、小さめの声で編成を完結させていた。
実に楽しそうなシュラーガー中佐を見た後でゼップ少尉を振り返ると、これまた楽しそうな顔をしながら肩をすくめて見せた。
設定④
実は少しだけ考えてあったので出してみました。
タリアニア公国のモデルはイタリア
後はチェコスロバキア、オランダ、ベルギーを出してみたいと思っていますが、実在したそれぞれの車両を帝国製、共和国製などすでに登場した国の製品として出そうかなと考えています。
あと、今話で登場した車両は以下のようなイメージです。
帝国軍のⅢ型突撃砲は ドイツのⅢ号突撃砲B型
タリアニア公国軍のM35/D型中戦車は イタリアのM13/41
タリアニア公国軍のS36/A型突撃砲は イタリアのM40 75/18




