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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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53/83

53 野戦航空中隊

補給処「蜂の巣箱」

第914野戦航空中隊 ヴァイスベルク中尉


 師団長閣下から航空機による周辺の航空偵察実施の下命があったことで、我々が空を飛べる機会がやってくるのは俄然早まり、ついに明日と決まった。

 鹵獲した共和国軍機の点検は終わっていて、燃料は飛行場に移動してから給油する手はずになっていた。その飛行場も工兵部隊による整地作業が行われて、すでに終わっていた。

 補給処の一画に駐機している航空機たちを見ながら、今この時に至るまでに起った事を思い出していた。


 ヴァードーの海軍基地に戻る途中に鉄道が空襲により使えなくなり、さてどうするかと思案していたところに陸路でヴァードーへ行く海軍部隊がいる事を聞きつけて、相乗りさせて貰えることになって一息ついたのだった。

 我々ヴァードー海軍航空隊の7名と、同じく相乗りすることになった空軍の戦闘機乗り2人はそれになりに意気投合して楽しい陸の旅になると思っていた。

 ところがヴァードーへの道のりも半ばにして、突然巨大な光に包まれたと思ったら、道路が消えて前人未踏と言って良さそうな深い森の中にいた。同じく相乗りしていた海軍の法務大佐がわめき散らした結果、闇雲にしたために燃料切れで立ち往生してしまい、静かになった法務大佐をどうしてやろうか、いやそれよりもここから生きて出られるのかと思っていたら、上司でいたら苦労しそうな陸軍少佐がやって来て、急に元気になった法務大佐を黙らせてくれたうえに燃料を補給してくれて陸軍の施設まで誘導してくれた。

 これで助かった、ヴァードーにいる部隊に復帰できると思っていたら、ここは世界が違う、異なる世界、異世界だと聞かされた。

 それを理解して受け入れるのにかなりの努力を必要とするだろうと思っていたが、明らかに未知の生物の物だと分かる骨とかトラック何杯分もの剣や槍を見せられると、否定することを否定されてしまい、なんとなく受け入れることができた。

 それはそれで良しとして、これからここでどうやって生きてくんだと考えていると、あの頭がおかしいと思われた法務大佐が師団長に楯突こうとして逮捕されたと聞かされた。さらに、我々が寝泊まりしている補給処が共和国軍の襲撃を受けたり、陸軍の調査班がこの世界の生き物に襲われたりと、次から次へとトラブルがあった。

 だが、それらは全て陸軍と空軍の降下猟兵が対応して処理していて、我々海軍は何もできることがなかった。

 森の中で保護して貰った時に陸軍の指揮下に入るという話をしたが、それはすぐに原隊に復帰する事を前提にした一時的な措置だと、相乗りさせて貰った舟艇部隊の指揮官であるクルーク少佐を含めて他の海軍将校達と話し合って確認したことだったが、先行きが不透明どころか暗闇に近い事が分かってくると、このまま一時的である方が宜しくないのではないか、と思えてきた。

 クルーク少佐の舟艇部隊には師団司令部から命令が来て、持って歩いていた船を倉庫に収めて、乗組員だけで部隊を編成して補給処の警備に就くことになったが、我々にはそう言った話は回ってこなかった。

 私自身も中尉の階級ではあるが、海上哨戒機のパイロットとして軍務を重ねてきたので、目標物が無い海上での長距離計器飛行にはいささか自信はあるが、地上では全く役に立たず、空軍のパイロット2人とひとまとめにして運用する、と言われただけで、手持ち無沙汰を通り越して不安と苛立ちばかりが募っていた。

 だが、ようやく我々にも日が当たる時が来た。

 陸軍の調査隊が森の中でこの世界の生き物に襲われた時、共和国軍の野戦飛行場を発見して航空機を含む資機材を鹵獲したのと同時に、海軍の航空技術廠の一団を保護したと聞かされた。

 同じ海軍の将兵を救ってくれたこともそうだが、航空機という我々が生きる糧を与えてくれたことに感謝した。

「これで俺達にも出来る仕事がある!!」

 小躍りする、喜び勇んで、とはこの事だった。

 陸軍の工兵隊が回収してきた機体と資機材を確認して、飛行可能かどうか点検したが、なにぶんにも初めて見て触る機体だったので自信が持てなかったし、師団司令部からも“安全を最優先とせよ” との命令が来ていたので、空技廠の技術者に点検して貰ってから飛行することになった。

 しかし、空技廠の将兵は森の中で過ごした時間が長く、ほぼ全員が休養を必要としていたので、我々は彼等が回復するのを待つことになったのだが、指揮官であるベッカー中尉を見舞った時に聞かされた森の中の話は、我々の心の中に残っていた僅かな望みを完全に否定する内容だった。

(見たことも無い怪物に襲われた、と言って逃げ込んできたレジスタンス・・・)

 レジスタンスとは即ち地元民だ。その連中が見たこともない怪物に襲われたと言って、自国に攻め込んできた敵国の軍隊に助けを求めて来たのだ。

(もしかしたら、そんな事を考えていたが、やはりここは共和国じゃないと言う事か、ダメ押しだな)

 それは我々が受け入れた現実が絶対に変化しないという焼き印を押されたかのような事実だった。

 それ後は考えを改めて、我々はこの世界を積極的に知る必要があり、その為に航空機は非常に有効な手段であると言う結論に至った。

(我々にしかできない事がある)

 早めに回復して軍務に復帰した技術廠の整備員や技術者から、機体の基本的な性能や操縦特性を聞き、飛行するその日に備えた。


 その日々の最中に環境に変化が起った。師団司令部から、現在指揮下にある陸海空軍部隊を再編成して改めて指揮下に置く、という師団長発の通達が届いたのだ。これはつまり今までのように臨時ではなく、海空軍の部隊がその指揮権を陸軍第91歩兵師団長に委ねると言う意味の話だった。

 我々の認識では指揮権がどうのこうのなどと言っている場合ではないし、それ主張すると言うことは全て、生きていくこと全部を自分達で賄わなくてはいけないと言う事(通達にもそう書かれていた)になるのだから、選択肢は初めから決まっていた。

 あの法務大佐は逮捕されて軍法会議待ちだったので、編成外と言う事で気にする必要は無く、クルーク少佐をはじめとした将校達で協議した結果、師団長ホーフェンベルグ陸軍中将の指揮下に入ることに決定した。

 当然、空軍部隊も指揮下に入り、我々9名は第914野戦航空中隊として編成されると聞かされて、密かに安堵したのだった。

 中隊は師団司令部直轄となり、中隊長は私が命じられた。中隊本部については補給処本部の一室が宛がわれる他、空軍高射砲大隊の大隊本部から事務取扱が出来る下士官と兵が転属してくることになっていたが、師団全体の再編成が実施されるのに伴って補給処本部が兵站本部に改編されて、駐屯する部隊も入れ替わるため、しばらくは現状維持と言う事になった。

 この少し前から回復した空技廠の整備員によって機体の点検が行われ、機体に問題は無く安全に飛べることが確認されると、次に技術者から機体の操作方法や飛行特性の教示を受け、安全に飛べる自信が付きつつあるところまできていた。

 野戦飛行場で鹵獲された共和国軍の機体は7機。そのうちの4機はM51攻撃機で、3機はM76連絡機だった。


 M51攻撃機は単発復座、単葉低翼固定脚の地上攻撃機で、いささか古い機体ではあるがエンジンを含めた機体の整備性と、耐久性のある固定脚と短距離での離着陸な可能な機体であるため、戦場での簡単な整備と不整地で滑走路が短くても離着陸できる非常に使い易い機体だった。

 低空で地上施設や移動中の部隊を攻撃することを目的に開発されたため、機体下面と燃料タンクには防弾加工が施されていて、武装は13ミリ機銃3丁、搭載重量200キロが可能となっていた。戦闘機と比べると低速ではあるが爆装していなければ低空での運動性能も良く、長く第一線で使用され続けている機体だった。


 M76連絡機は配備が始まったばかりの機体で、特に短距離離着陸性能が優れていて、70メートル以内で離着陸ができた。他にも固定脚で不整地でも運用できること、低速ではあるが乗員4名若しくは貨物100キロを積載可能だったので、多少の輸送任務や胴体下に小型爆弾を装着して対地攻撃、対潜任務に使用することもできる前線向きの機体だった。


 我々が待ち望んでいるこの異世界での初飛行は、M76連絡機で行う予定でいた。

 M76を選んだ理由は、短距離で離着陸が可能であるということ、低速飛行が可能である、つまり失速しにくいと言う事だった。上空の酸素濃度も分からないし、もしかしたらドラゴンが飛んでいるかも分からないので、まずは元の世界との違いを把握する事を目的として、パイロットともう1人の2人で飛んで、様子見をすることにした。

 その栄えある初飛行のパイロットは空軍のヴィークマン中尉、同乗はうちのリーヴェル下級曹長に決まった。

 我が中隊は全員が飛行資格を持っているが、我々海軍航空隊の7名は四発エンジンの大型海上哨戒機の乗員なので、単発機の操縦はご無沙汰になっていた。

 対して空軍の2人は戦闘機パイロットなので単発機はお手の物だったので、師団司令部の“安全を最優先とせよ”と言う命令を考えれば譲るしかなかった。

「では、自分が操縦します。ですが、自分は航法に今ひとつ自信が無いので航法が得意な乗員に側乗していただけると助かります。それと試験飛行とは言え周辺の地形を可能な限り把握できればと思いますので、地形の見取りとスケッチもできる乗員がいればお願いしたいのです」

 ヴィークマン中尉の申し出を受けて、私はリーヴェル下級曹長に側乗を命じた。

 リーヴェル下級曹長は私と同じ機体の航法士として組んできた下士官で、その技量と人格は信頼に値する部下であったので、ヴィークマン中尉が我々海軍からも初飛行の乗員を出すという気遣いをしてくれた事に対する返礼として、中尉が求める技能を持ち、かつ私が最も信頼している乗員を送り出すことにした。


 私達パイロットと空技廠の整備班で話し合った結果、いつでも飛行可能な状態であることが確認できたので、私は補給処本部に出頭してその旨を報告した。

「お、ヴァイスベルク中尉、ついに準備が整ったという訳だな」

「はい、少佐殿。師団司令部の命令どおり、安全を最優先致しました。パイロット、機体共に万全です」

 補給処本部でテッタウ少佐に報告すると、満面の笑みで受け取ってくれた。

「大いに結構だ。航空機も君達も手持ちが少ないうえに換えが利かない、貴重な存在なんだから自覚してくれよ」

 冗談めいた口調で話しながらメモを書く少佐に微笑みを返した。

「すぐに師団司令部に報告する、少し待っていてくれ。楽にしてくれよ」

 従兵にメモを渡すと、側にあった椅子を勧められた。

「ゼップ、地図を頼む」

 テッタウ少佐が事務方に声を掛けると、少尉が歩み寄ってきて紙が挟んである図板を差し出された。

「中尉殿、師団司令部から回ってきたこの周辺の地図を複写したものです、お使いください」

 少尉から渡された図板を見ると、挟んである紙は甚だ簡単ではあるが確かに地図になっていた。

「現地人から入手した地図を書き写したんだ。言っておくが“海賊の宝の地図”と変わらないからな、距離や位置関係は参考程度だと思ってくれ。それでも無いよりはマシだからな、空から見えた情報を書き込むのに使ってくれ」

「承知致しました少佐殿。搭乗員に地形をスケッチさせようと思っておりましたので、こちらも使わせて頂きます。それで、スケッチに使う紙や鉛筆を分けて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「おお、すまん! 君の所は後回しになっていたな。ここも大幅に入れ替わるので手が回らないんだ。ゼップ、ヴァイスベルク中尉から必要な物を聞き出して今日中に届けてくれ」

 テッタウ少佐は先程の少尉に必要な物資の準備を命じてくれたが、入ってきた時から本部内は荷物を持った兵達が出入りしていたし、2階からは歩き回る軍靴の音や家具を動かしている様な音がひっきりなしに聞こえていたので申し訳ない気持ちが先立っていた。

「俺も補給処長を退任して、兵站本部管理部長さ。仕事は大して変わらんがな」

 テッタウ少佐は緩く顔をしかめながら話していたが、従兵がメモを持ってやってくると目を通してから顔をあげた。

「ヴァイスベルク中尉、初飛行は明日に決まった。午前10時に師団長代理のブリンクマン大佐がここに来るそうだ。今から準備して間に合うか?」

「あとは機体を飛行場に移動させるだけです」

「よろしい、今日中に飛ぶ以外の準備を終わらせてくれ。野戦航空中隊は明日9時50分、ここに集合だ」

「了解しました少佐殿!」カツン!

 私は立ち上がると、テッタウ少佐と敬礼を交わして本部を出た。

 その先には、我々の翼が並んで飛ぶときを待っていた。


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