48 ホワイトエルフ
ルアブロン市街地
潜入班「狐」 フィルカザーム大尉
俺達6人は、ガイファートと商会員達に見送られて店を出た。
宿を目指して歩き始めて少しすると、子供がウルスラにしがみついた。
「あの、ご主人様、この子がお腹を空かせているようなのですが、いかが致しましょう」
膝を折って子供と視線を合わせた後、呟くような会話を交わしたウルスラが俺を見上げて告げた。
ガイファートの菓子を食べたせいでさほど腹は空いていなかったが、ウルスラたち3人は食べていないことを思い出した。
「そうか、昼は過ぎたか」
「はい、先程湯浴みをしているときに昼の鐘が聞こえました」
ウルスラが子供を抱き上げながら答えた。
「セルディカ、この街は詳しいか?」
「はい、前にお仕えしていたご主人様の使いでよく来ていましたので。食事が出来る店ならこの近くにもあります」
「では、そこで昼食にしよう」
「はい、ご主人様。こちらです」
セルディカの後に続いて移動しつつ
(やはり使えそうだな)
自分の買い物に満足していた。
昼食を済ませた後、宿に戻るとウルスラと子供はサリエの部屋に、セルディカはペッターとアッペルの部屋に入れて休ませ、サリエが戻るのを待った。
「サリエが戻ったら、エルフに話を持っていく算段をつける」
「ホワイトエルフが引き取らなかった場合はどうされるおつもりですか」
「とりあえず、もう一部屋借りてそこに入れておこう」
俺がそうなった場合のことは考えていないことを理解したペッターが黙って頷いた。
「あの爺さんはどうするんです?」
俺達と一緒に部屋に入ってきたセルディカを胡散臭そうな目で見ていたモールハウプトが聞いてきた。
「ウルスラと子供の面倒を見させるつもりだったんだが、この街に詳しいと言っているし、他にも役に立ちそうだからここで使おうと思っている。」
俺がモールハウプトに向かって答えると、納得顔で頷いた。
アッペルがルアブロンに出入りしていたのは、商売の仕入れのためだったので、市場や問屋、商会がある地区には明るいがそこ以外はいまひとつ自信が無さそうだった。
(主人の使いで来ていたと言うなら、辺境伯とか在地領主の館に出入りしていただろうから、大いに役に立つだろう)
俺は自分の目利きの確かさに自信を持っていた。
やがて、サリエが戻ってくるとウルスラ達を含めた全員を俺の部屋に集め、まずはサリエに事の次第を説明した。
「・・・と言う訳なんだがどう思う。ホワイトエルフは受け入れると思うか?」
「それなら間違いなく同族として受け入れるでしょう。彼女達は保護者たる者がいない、同族の血が通う者を見捨てるような真似は絶対にしません」
サリエの答えを聞いてまずは一安心だった。続いてウルスラの役割について説明すると
「それは大変感謝されるでしょう。ただ、その子供が同族に心を開いたときは、必要とされなくなると思います」
「それは問題ない、こちらに戻ってもらうだけだ。他にもやってもらう事がある」
そう言いながらウルスラに視線を向けると心得顔で頷いた。
「では、大丈夫ですね。明日、話をしますか?」
「頼む」
「明日も工房で仕事をすると言っていましたから、会うことはできるはずです」
「用件は俺から伝えるから、相談したいことができた、そんな感じで頼む」
「分りました、た・・。ゾラードさん」
口を滑らせかけたサリエをセルディカの目が捉えているのを見逃さなかった。
(ますます気に入った。是非とも使えるようにしたい)
視界の隅でセルディカの動きを追いながら、与える役目について考えていた。
その夜は、サリエの部屋にウルスラと子供、俺の部屋にセルディカが加わって寝た。セルディカは床に毛布があれば充分だと言っていたが、モールハウプトに頼んで宿の主人に綺麗な藁束を分けて貰い、それを床に敷いてセルディカの寝床にした。
警戒していたモールハウプトも、自分より年上のセルディカを床に寝かせることに違和感を覚えたようだが、はっきりと断ったセルディカの態度を見て受け入れていた。
そして翌朝、朝食を済ませると俺とサリエ、モールハウプト、セルディカ、ウルスラと子供の6人は連れだって宿を出た。
ペッターとアッペルには交代でのんびりするように言っておいた。むろん小遣いも渡してある。
宿を出るとサリエの案内で目的地であるホワイトエルフの店を目指した。
サリエによると、店の主であるホワイトエルフはレスティと言う名で、魔法具職人としての腕は良いが、売る相手を厳しく選ぶのと、気が向いた時にしか作らない、怒らせるとやっかい、と言う事で店はさほど流行っていないとの事だった。サレーラとは昔からの知り合いで、サリエ達がルアブロンを訪れたのも捜し物の情報をレスティから得るためでもあったそうだ。
「元々、ホワイトエルフは気位が高いことで知られています。私達ダークエルフに対してあからさまに見下すような態度を取る者も多くいますが、レスティさんは違います、そんな素振りをみせたこともありません。色々と言われることもありますが、私達は彼女を大切な友人だと思っています」
サリエがいつになく力強く話しているのを少し意外に思いながら
「それなら話しやすくていいな。他にも何か聞き出せると良いが」
と尋ねてみると、
「とは言うものの、特に好意を持たれているわけでも無いようなので、今の間隔を守るようにとサレーラ姉様から言われています」
サリエは眉毛を少し下げてそう答えた。
「・・・分った、今回はこの子の事が話せればいい。その友人との繋がりは君に任せるよ」
俺は明らかに手強そうな相手に早々に撤退することを決めた。
サリエの後について市街地を歩き、ほどなくレスティの魔法具店に着いた。
(なんとも殺風景な店だな)
一見して店舗と住宅を兼ねている造りだが、扱う商品を表す看板も店先に並ぶ見本もない。ぱっと見は何の店なのかは分からない。
店の前は路地で人通りはなく、同じような建物が並んでいるのでひっそりとした雰囲気には溶け込んでいた。
(変わり者らしいから、こんなものか)
サリエがドアを開けると、ドアの内側に取り付けてあるベルが鳴って来客を告げたが、店内から反応はなかった。
「こんにちは、レスティさん、サリエです」
サリエが奥に向かって声を掛けたが返事は無い。サリエに続いて店内に入ったが、6人が入るといっぱいになった。
奥にカウンターがあり、両側の壁には作り付けの棚があるが空っぽだ。
するとカウンターの奥に下がっていたカーテンが揺れて、背が高くて細身でかなり色白に見える女性が現れた。
(なるほど、白いな)
初めて見るホワイトエルフの感想はじつに率直なものだった。
「あら、今日は大勢できたのね」
わざと驚いているような、それか迷惑そうな顔をしてレスティが言った。
「ちょっと相談したいことがありまして」
「もしかして注文の変更? もうすぐ出来上がるところまできいてるから、模様を加えることぐらいしかできないわよ」
若干、眉を寄せて話すレスティにサリエが首を横にふった。
「いえ、そちらは注文したとおりで変わりありません。相談というのは今の私の雇い主からなのです」
サリエはそう言って俺に視線を移した。
「ああ、ナルヴィク帝国から来た商人ね。貴方が?」
サリエの視線に促されたレスティが俺に向いたので丁寧に一礼した。
「ゾラードと申します。突然ご自宅にうかがった無礼をお許しください」
「ああ、一応商売しているし、ここは店だから別に良いわよ。でもよく分らない顔ぶれできたのね・・・。あら、そのお子さんは・・」
「はい、この子供のことでご相談させていただきたくお邪魔したのです」
訝しむ顔つきになったレスティが静かに聞いていた。
「エルフ、かしら? でも少し違うような・・」
「この子はホワイトエルフと源人族のハーフだと聞いています」
「なるほど、それで私の所に連れてきたのね。分ったわ、話を聞きましょう。狭いけど中へどうぞ」
レスティはそう言うと、カウンターの下に備え付けになっている扉を開けて俺達を招き入れてくれた。
レスティの店の2階、キッチンと食堂と居間を兼ねた部屋で、俺とサリエ、レスティと子供を膝に抱いたウルスラがテーブルを挟んで座っていた。
モールハウプトとセルディカは出入り口近くの壁際に立っている。
「なるほどねぇ、それでガイファートのところから貴方が救い出してくれたという訳ね」
俺がこの子を引き取ることになった経緯を話すと、レスティは子供に視線を向けながら言った。
「ええ、ガイファートさんもこの子を同族にお返ししようと苦心していました。私は代金を支払いましたが、ガイファートさんは利益を得ておりません」
レスティの言葉にガイファートへの棘を感じたのでフォローを入れておいた。
「代々奴隷商をやっている商人がエルフを見ても分らないとは思えないけど、この子の容姿じゃ無理もないかしら・・・」
「ガイファートさんも買い取ってしばらくしてから分った、と言っていました」
俺がそう言うと、レスティはしばし沈黙した後
「そうね、彼を信じましょう。売り飛ばさないで、ホワイトエルフに繋がりのある貴方に託した訳だし。誠実が売りの彼らしいと言えるわね」
「ガイファートさんとは初対面でしたが、彼がそのような人柄だと思ったのでこの話を引き受けたのです」
俺はガイファートの憂慮が的中していたことに驚きつつ、話を締めた。
「ゾラードさん、改めてお礼を言わせていただくわ。私達の同胞を救っていただいて感謝します」
「お役に立ててなによりです、レスティさん」
「言葉とは違う形でお礼したいのだけれど、何かお望みのものがあるかしら?」
「それでしたら、ガイファートさんにも一言いただければ幸いです」
「そうね、彼にもお礼を言わないといけないわね。分りました、近く彼の商会を訪ねてお礼を言っておきます」
「ありがとうございます」
俺が安堵の表情を浮かべると、レスティが微笑んだ。
「それにしても、不思議なご縁があるものね」
「同感です。初めて来た街で、こんな事が起きるなんて。ガイファートさんも同じ事を言っていました」
そこから、俺が持っていた魔法具にこの子が反応した事がきっかけになった話をすると、レスティはウルスラの膝の上からじっと自分を見ている子供を見ながら呟いた。
「そうだったの。やはり分るのね」
子供はレスティに興味を示しているが、ウルスラから離れようとはしなかった。
「引き取ると言っても、このままじゃどうしようもないわね。私は仕事もあるし・・」
「はい、そうではないかと思っていまして、もう一つお話があるのです」
俺が話を切り出すと、レスティも耳を傾けてくれた。
見ての通り子供はウルスラに懐いており、事実上面倒を見ることが出来るのはウルスラだけなので、しばらくウルスラを貸し出すこと。
ウルスラは子供の面倒を見る他にここでの家事全般を引き受けること。
力仕事とキルケスがウルスラを狙っている可能性があることを踏まえ、万が一の護衛にセルディカを付けること。
セルディカは住み込みでもいいし、通いでもいいこと。
2人とも俺の奴隷なので食事以外は必要ないこと。
「それは助かるわ。もう一つ部屋があるから、そこを使ってもらいましょう。男の人は通いでお願いするわ」
レスティは俺とウルスラを見て、嬉しそうに答えた。
「分りました。護衛につけるのは、あの男になります。お見知りおきください」
俺が壁際に立つセルディカを紹介すると、レスティは冷たい笑顔で応えた。
「あなた、あのセルディカなのね、見違えたわ」
「ご存じでしたか」
驚いた俺が聞くと
「勿論知っているわ。仕えていた当主の亡き後、不貞の妻とその情夫を殺して終生犯罪奴隷となった男ですからね。同情する人もいたし、忠義の鏡と言う人もいたけど、結局気味悪がって誰にも買われずにいたのよね」
レスティの言葉にセルディカは顔色一つ変えずに立っていた。
「いいわ、ガイファートからゾラードさんに渡ったのなら、貴方も信用して良いでしょう。護衛としては役に立ちそうだし。ゾラードさん、セルディカを通いでお願いするわ」
レスティがそう言うと、セルディカは黙ったまま頭を下げていた。
その後はいくつか細かいところを話合い、ウルスラと子供を残してレスティの店を後にした。
少し歩いてから、セルディカを近くに呼んだ。
「ご用でございますか、ご主人様」
「俺を呼ぶときは旦那様にしてくれ」
「承知致しました、旦那様」
「これからお前がやる仕事はわかったな?」
「はい、旦那様」
「その仕事で必要な道具はあるか?」
「・・・はい、できれば手に入れておきたい物はあります」
俺はセルディカに金貨1枚をそっと渡した。
「これで調達してこい。俺達は先に宿に戻っている」
「承知いたしました、旦那様」
セルディカはそう言うと静かに離れ、人混みの中に消えていった。
表現に悩んでちょっと手こずりました。思いつきで書いてるだけあって、意図せず話が膨らんでなかなか前に進めない感じがしますが、書きたいなと思ったことを書けているので良しとしています。
最近気が付いたのが、エピソードごとのPVを見た時に、1話から最新話までズラーッと棒グラフが並んでいるのを見ると、あ~読んでくれたんだぁ。面白かったってことかなぁ。って思えて嬉しい、という事です。マイペースですが頑張って書いていこうと思います。




