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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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45/83

45 奴隷市場

ルアブロン市街地

潜入班「狐」 フィルカザーム大尉


 港に接岸している帆船から、荷下ろしが行われていた。

 汚れた身なりの荷夫達が樽や木箱、麻袋を肩に担いだり転がしたりして船から下ろし、待機している荷車に積み替えたり、立ち並ぶ建物の方へと運んでいた。

「賑わっているな」

「はい、ルアブロンは王国有数の貿易都市ですので」

 今日は俺とペッター、アッペルの三人で港に来ていた。留守番はモールハウプトだ。

 サリエは昨日訪れた魔法具の職人に会いに行くと言って出て行った。


 昨日、宿に戻ってきたサリエが持ち帰ったのは、金貨30枚と指輪型の言語の魔法具2個だった。

 日が暮れて全員が俺の部屋に集まったとき、サリエがテーブルの上に出した革の巾着を開けると、金貨がこぼれ出てきたのだ。

 さすがに息をのんだ俺達4人を前に、少し自慢げな顔をしたサリエが説明した。

「白魔石1個に金貨20枚の値をつけたので、3個を金貨60枚で買い取って貰うことにしました。この30枚は手付金で、残りの金貨30枚で店にあった言語の魔法具を2個買って、3個を追加で注文してきました」

 スラスラと話すサリエの話を聞きながら、金貨を手に取ってみた。

「魔法具1個が金貨6枚か、それは相場なのか?」

「いえ、少し割高にしておきました。その代わりに辺境伯家の事で知っている事を教えてもらうことにしました」

 その魔法具職人は辺境伯家から魔法具の作製依頼を受けたことがあり、繋がりがあるらしい。

「他の職人とも繋がりがあるので、入ってきた色々な噂話も教えてくれるそうです」

「何か条件は言ってこなかったのか?」

「まだ白魔石があるなら流して欲しいと言う事と、面倒ごとに巻き込まないこと、でした」

「よし、それならいいだろう。情報の精度にもよるが、いい話が聞けたら白魔石を少し安く売ってやることにしよう」

「分りました、ゾラードさん」

「それにしても、あの石1個で金貨20枚か。どうだアベル、高いのか安いのか、おい、アベル?」

 俺が横にいたアッペルに話しかけると、硬直したように反応がなかった。

「は、はい!すいません、驚いてしまって・・」

 少し間を開けてアッペルが反応したが、その目は金貨に釘付けになっていた。

「まぁ、大金ということは俺達でも分るが、金貨1枚でどのくらい価値があるんだ?」

「そうですね、だいたい大人1人が一ヶ月食べるのに最低で400ノアル、銀貨4枚必要と言われています。金貨1枚は5,000ノアルですので、およそ1年は生きていける計算になります」

(ここも1年は12ヶ月だから、1年で4,800ノエルか)

「じゃ、大金だな」

「はい、でも例え話みたいなものなので、正確な金額ではありません。住んでいる場所や仕事によっても変わりますので。どちらにせよ、私のような市民が金貨を持つことはめったにありません。持っているが見つかったら盗んだ物だと疑われて、その場で引っ立てられます」

「分った、くれぐれも他の者に知られないようにな。これは無線のトランクに隠しておくことにする」

「少し細かくしておきたいですね。このままじゃ使いづらいでしょう」

 モールハウプトの意見に確かにそうだと頷く。

「そうだな、じゃあ、明日買い物をしてみよう」


 そして今日、金貨5枚を懐に入れて出てきたわけだ。

 まずは有数の貿易都市と言う前評判を確かめに来たのだが、確かに盛んに行われていた。

「貿易をやってるのは分ったが、相手はどこなんだ?」

「南大陸にある都市国家とか、西方にある国々とやってると聞いていますが詳しくは分りません」

「商品はどんな物だ?」

「南大陸の鉱石や香辛料、西方の穀物や織物、あとは奴隷ですね」

「奴隷か」

 居るのは分ってはいたが、些か抵抗がある単語が出てきた。

「奴隷は借金を返せなくて落ちる借金奴隷と、罪を犯して刑罰として落とされる犯罪奴隷、あとは戦争で捕虜になって落ちる戦争奴隷がいます。借金奴隷と戦争奴隷は、負っている借金や身代金が返済できれば解放されることになっていますが、大体は金額が大きいので解放されることは希です」

「身分というよりは社会制度の一部なのか」

「定められた理由により所有物になる、ということですので」

「ここのやり方に従うしかないな」

「奴隷市場も見てみますか」

 アッペルが控えめに尋ねてきた。

「・・そうだな、勉強しておくか」

 俺はペッターを促して、アッペルに続いて歩き出した。


 奴隷市場は港からそれほど離れていなかった。二階建ての小さな窓が並んでいる建物に囲まれた広場のようなところに、動物を輸送するときに使うような四角い檻が何列かに並んで置かれていて、その中に商品である奴隷達が入れられていた。

 買い手は列の間を歩きながら品定めをして、興味があれば傍で待機している奴隷商人に商品について質問できるようになっていた。

 檻の中には文字通り老若男女が入れられていて、それぞれの身なりも体格も様々だった。少し離れたところから見ていたが、色々と思うところはあった。

「そろそろ離れますか?」

 黙り込んでいる俺を見て察したのか、アッペルが声を掛けてきた。

「いや、行ってみよう。買わないと何か言われるのか?」

「あからさまな冷やかしで無ければ、大丈夫だと思いますが、いいのですか?」

「ああ、ここの流儀には従うさ。ちょっと確認しておきたいこともあるしな」

 俺がそう言うとアッペルとペッターは顔を見合わせたが、アッペルが先頭に立って奴隷市場に入っていった。

 とりあえず、一番端の列から始めたが、直ぐ近くまで来ると臭いが酷かった。

 港に近いのは潮風で市場全体の臭いを誤魔化す意味もあるらしい。

 俺に向かって愛想笑いを浮かべている奴隷商人に、こちらからも愛想笑いを送ってやって、ゆっくりと檻の間を進んで行く。

 鍛えられた体格の男。アッペル曰くどこかの騎士だったのではないか。

 美しいが沈んだ表情で座り込んでいる若い女。曰く貴族家か商家の令嬢だったのではないか。

 まだ若い男女と小さな子供の親子。曰く年貢が払えなくて領主に売られたどこかの領民ではないか。

 目つきが悪く、こちらを探るような視線を遠慮無く向けてくる男。曰く間違いなく犯罪奴隷だろう。

 体格や身なりもそうだが、まだ瞳に希望の光を宿している者もいれば、すでに光が消えて死んだ魚のような目をした者もいた。

 ある程度見たところで立ち止まって考えていると、怒声が聞こえてきた。

 そちらを見ると隣の列で、奴隷商人と覚しき男が奴隷らしい男に鞭を振るっていた。傍には客と思われる男がいたが、奴隷商人の激高ぶりに嫌気がさしたのか何も言わずに立ち去った。

 気が済んで鞭を振るう手を止めたが、客がいなくなっているのに気が付くと、鞭で打たれて倒れ込んでいる奴隷に足蹴りを入れて、苛立ちを隠そうともせずに何処かへ行ってしまった。

「酷いな」

 俺がぽつりと呟くと、近くの檻にいた奴隷の老爺がつぶやいた。

「あいつはあれが普通ですよ」

 顔を向けずに独り言のように言うのは、勝手に会話を交わすのを禁じられているのだろう。

「奴隷が買われなくても構わないのかな」

「最近羽振りを利かせていますから、キルケスと言えば有名です」

 その名前には聞き覚えがあった。

 その時、筋骨隆々で棍棒を手にした見るからに用心棒といった風情の男がこちらを見ていることに気が付いた。

「ありがとう」

 小声で礼を言うと、その檻から離れて反対側の列に移り、若い女が入っている檻の前で品定めしているフリを始めた。

 よく見ると若い女の膝の上に小さな子供が座っていたのだが、背中を向けて座っていたその子供がピクリと反応したかのようにこちらを振り向いた。

(ん?)

 俺がその反応を見ていると、一緒にいる若い女も驚いていた。子供は女の膝の上から立ち上がり俺に近づいて来ると、鉄格子の間から手を伸ばして俺のポケットに触れようとした。

 俺が一歩後退ると、若い女が慌ててやってきて子供を引き離そうとしたが子供は片手で鉄格子を掴んで離れなかった。

 少しして、俺の隣に身なりの良い男が近付いて来た。

「お客様、当商会の奴隷が何か失礼なことを」

「ああ、いや子供が近付いてきただけなんだ、なんともない」

 俺が少し取り繕うように言うと、檻の中で子供を引き剥がして抱きしめている女が頭を下げた。

「申し訳ありません旦那様、この子が急に近付いてしまって止めるのが遅れてしまいました」

「大丈夫、大丈夫だから、この二人に罰を与えたりしないでくれ」

 俺がそう言うと、身なりの良い男は安心したように

「分りました、当商会は無闇に鞭打ちを与えたりはしませんので、ご安心ください」

 そう言いながら浅く頭を下げた。

「それならいいんだ」

 俺は心底安心して答えた。

「それにしても、この子がお客様に反応したのは初めてです。そうだな、ウルスラ?」

「はい、旦那様。そのお客様が近付いただけで急に振り返ったと思ったら、立ち上がって行ってしまいました」

「何故だろう、特になにもないが」

 男と女の話を聞いて思い当たる理由もなく、そう言えばポケットに手を伸ばしていたなとポケットに手を入れると、昨日サリエが購入してきた指輪型の魔法具が入っていた。それを取り出すと、子供が再び反応してこちらに来ようとしていた。

「お客様、それは」

 男が驚いた様子で聞いてきたので

「ああ、魔法具職人から買ったものだ」

「そうでしたか、もしやその職人はホワイトエルフでは・・」

「ああ、確かそう言っていたな」

 俺の答えを聞いて男はさらに驚いていたし、檻の中の女も驚いていた。

 男は襟をただすと、俺の耳元に顔を寄せてきた。

「お客様、大変恐縮ですが、当商会までお越し頂けませんでしょうか。是非ともお話したい事がございます」

 そう言いながら頭を下げる男の態度に驚きながら用心棒の方を見ると、少し離れたところで姿勢を正して立っており、棍棒を持った右手は身体の後ろに回していた。

(強制するつもりはないらしいな)

 檻の中を見ると、近付こうとする子供を押えながら女もすがるような目で俺を見ていた。

(これは訳ありか、マズいことになりそうだな)

 そう思いながらペッターをアッペルの方を見ると、ペッターは唇を水平にして表情を消していて、アッペルは何故か女と同じ目をして俺を見ていた。

 もう仕方ない。

「分りました、お話を伺いましょう」

 俺の言葉を聞いた男はさらに一礼すると、先に立って俺達を案内して市場から離れていった。


 俺達は案内されるままに付いて行き、奴隷市場から少し離れた建物に入った。

 念の為に、入る前にペッターと目配せを交わして、左腰に挟んでいる拳銃を確認し、アッペルにも合図を送った。

 アッペルには護身用に短刀を持たせていた。

 俺達は応接室と思われる部屋に案内された。かなり上等な造りの椅子と丸テーブルが置かれていて、腰掛けた椅子は詰め物がしっかりしていて極上の座り心地だった。俺が座った椅子の後ろにペッターとアッペルが立った。

 若いメイドが白い陶器のカップにお茶を淹れて持ってきた。

 メイドが下がるのと入れ替わりに男が入ってきた。男は一礼してから俺の反対側に置かれた椅子に腰掛けると口を開いた。

「申し遅れました、わたくし当ガイファート商会の商会長を勤めております、ロベルト・ガイファートと申します」

「私はリヒャルト・ゾラード、ノルヴァイク帝国から来ました。とある商会に籍を置いていましたが、今は独り身で商売の準備をしております」

 俺の自己紹介を聞いたガイファートは黙ったまま頷いた。

「事情はそれぞれあるものですので、詮索はいたしません。早速ですが先程の奴隷についてお話させていただきたい」

 俺の自己紹介は信じて貰えなかったようだ。

(人間を扱っているからかな。俺が商人じゃないと見抜いたか)

 俺も顔色を変えずにガイファートに頷いて、話を進めるよう促した。

「実は、あの奴隷を買い取っていただけないかと言う商談をさせていただきたく、ご足労を願った次第なのです」

「あの子供をですか、いったい何故私に?」

 思わず強い口調になってしまったが、ガイファートは特に反応すること無く子供について話し出した。

「あの子供はハーフエルフなのです・・」

 西方から来た奴隷商人が連れてきた奴隷の一人で、両親と離ればなれになった借金奴隷だと思っていたのだが、名前も生い立ちも一切喋らずどうしたものかと思案しているうちに、エルフではないかと疑い始めたらしい。

「あの子は一言も喋らないし、エルフの一番の外見的特徴である耳が、我々源人族と殆ど同じなので分らなかったのですが、食べたり飲んだりするのに、下を一切しないのです。これはエルフしかあり得ません」

 ガイファートはそこで頭を抱えてしまったが、確かにあの子を見ただけでエルフだと分る奴はいないだろう。

「肌の色からしてホワイトエルフのハーフではないかと思っていましたが、確証はありませんでした。ですが、先程ザラード様がお持ちであった、ホワイトエルフが作った魔法具に反応したことを加味すると、ホワイトエルフと源人族との間に生まれた子供であるのは間違いないと思われます。ご存じかと思いますが、ホワイトエルフを奴隷として扱うことは大協定により禁じられています」

 大協定とやらは知らなかったが、難しい顔を作って頷いておいた。後でアッペルかサリエに教えて貰おう。 

「しかし、ハーフについては大協定には書かれていませんので、明確な大協定違反ではないのですが、この事がホワイトエルフの知るところとなれば、私の商会が睨まれて悪評を立てられるのは間違いありません」

「しかし、ガイファートさんはエルフであることを知らずに買ったのですよね、それなら非難されることはないのではありませんか」

 話の筋から言えばそうなるはずだが

「私はこのルアブロンで四代続く奴隷商人です。その私がハーフエルフだと気が付かなかったのかと言われると、それが仇になって信じて貰えないかも知れません。ホワイトエルフは、こと同族の事に関しては感情的、激情と言っていいほどになりがちだと聞いています」

「・・・それは知りませんでした・・」

 これは言っても差し支えなさそうだった。

「私としてはあの子で儲けようとは思っていません、慈悲深い主人となっていただける方に買い取って貰えればそれいいと思っています。このままでは、当商会の存続も危うくなりかねません・・」

 ガイファートは自らの苦境を惜しみなく俺に向かってアピールしてきた。

 奴隷商人は、商品として扱う奴隷に対して責任を負わなくてはいけないのだそうだ。程度の問題はあるが食事や衛生的な環境を整えたり、病気になったからといってその辺に放逐したりするとギルドの規定違反となり、罰金や場合によっては商人株を剥奪されてしまうこともあると言う。

(つまり面倒だからと言って、身元引受人も無いのに奴隷契約を解除して放り出すのもダメ、と言う訳だ。社会制度として立派に機能してやがる)

 色々と聞かされているうちに俺はガイファートの目論見に気が付いた。

(遠くの異国から来た商人を名乗る俺に買い取って貰えれば、後腐れ無く厄介払いできると考えたな。しかも商人じゃないことを分っているから、俺にギルドの縛りもない事も込みって事か。クソッ、まんまとやられたな。この世界の仕組み知らない時点で分が悪いのは仕方が無いが・・)

 苦々しい感情を覚えながらも、一旦あの奴隷の事を遠ざけて冷静に考えてみることにした。

(この奴隷商人に恩を売っておくのは悪いことじゃなさそうだ。あの用心棒の動き、あんな末端にまで教育を施しているということは、やり手だが不誠実ではないと判断していいだろう)

  初対面でこうも好印象なのが引っかかる、と言う考えは拭いきれないが、この件については自分の直感を信じることにした。

(それと、ホワイトエルフがあの子を保護対象と認識したら、俺はあの子を救い出したということにできる。ホワイトエルフが大協定とやらで奴隷身分から保護されていると言うことは、この世界で特別扱いされている種族と言うことだから、恩を売れるのはデカい)

 面倒でも悪い話でもない、一つの罠で二羽の兎、とはこの事だ。

(後は値段だな。さて、どうしたものかな・・)

 俺は椅子の背もたれに背中を預けて、両腕を肘掛けに置いた。


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