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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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41/83

41 参謀

 補給処から北方の森の中

 補給処長 テッタウ少佐


 列車付近の作業が終わり、車両で出ていた作業班が戻ってくると俺は撤収を命じた。

 一応警戒はしているが周辺に気配はなく、前回よりはいくらか緊張感は薄らいでいた。

 作業班が戻るまでの間に魔力についてサレーラから色々と教えて貰っていた。

(要は魔力がある、すなわち魔法が使える。ではない、ということだな)

 魔力があると言われて束の間喜んだが、魔法を発現させるのに魔力は必要だが、その発現には訓練が必要なのだそうだ。

(ま、そうだよな。そんなに簡単なら世の中魔法使いだらけだ)

 魔力だ魔法だと言っても魔法使いの数は俺が思っていたよりは少なくて、いても初級の魔法しか使えない魔法使いが多いらしい。

 子供の頃に読んだ絵本や小説に出てきた、火の玉を飛ばして魔物をやっつける、なんてのを想像していたがそんな現実を聞かされて拍子抜けしてしまった。

 さらに聞いてみると、昔はそういう強い魔法使いがそれなりに居たが、疫病や飢饉、戦争など環境の影響によって数が減ってしまったそうだ。そこへ追い打ちを掛けたのが150年ほど前に発生した大飢饉で、民衆と共に多くの魔法使いが死に、また魔法を研究していたその道では高名な貴族家が一族滅亡して、収集されていた魔法について書かれた書物や魔法具が散逸してしまい、この世界における魔法と魔法使いの影響力は大きく失墜してしまった。

 それでも飢饉が終わり、食料の供給が回復して長い時間をかけて徐々に魔法使いの数が増えているのだが、今度は貴族達による魔法使いの囲い込みが始まった。魔法使いが激減したことの反動らしいのだが、家臣に魔法使いがいれば内政軍事など色々と使い処はあるのは間違いなく、加えて貴族としての見栄を張るという意味合いも含んでいるのだろう。

 魔法使いとしても貴族家の家臣になれば生活は保障されるので、進んで仕官する者もいる反面、家臣となって色々と制限されたり珍獣のように扱われるのを嫌う魔法使いは冒険者になったり、人目を避けて森の奥地で生活している者もいるらしい。

「本来は魔法ギルドが介入するべきなのですが、すっかり権威が落ちてしまっていて、今では王室の研究機関のような扱いになっています。王国内の都市には魔法ギルドの窓口がありますが、王都の魔法ギルドで必要な素材を集めたり、在野で埋もれている優秀な魔法使いや素質がある者を見出して、王都に送り込んだりするのが主な業務になっています。なので魔法使いとしての高みを目指す者は、冒険者ギルドに冒険者として登録することでギルドの保護を受けて、貴族の囲い込みから逃れているのです。しかし冒険者になると定期的にギルドの依頼を受けて成功さないといけませんし、依頼によっては命がけになる事もありますので、冒険者として依頼をこなしながら腕を磨く者よりも、家臣になって生活を安定させる方を選ぶ者が多いと聞いています」

「その、魔法ギルドに登録すれば保護が受けられるのではないのですか?」

 冒険者ギルドが保護してくれるなら魔法ギルドも、と思ったが

「それが、魔法の研究が主体となってしまったので、上級魔法が使えるか、よほど優秀でないと登録できなくなってしまったのです。」

「ああ、なるほど。では、貴族の囲い込み、仕官の誘いを断ることは出来ないのですか?」

「その土地を治める権力者の誘い、言い換えれば要求を断ると言うことは、その土地には居られなくなるという事なので、なかなか難しいようです」

 俺が口をつぐんで頷くとフィーラが後を続けた。

「それに、魔法が使えないのに魔法使いを名乗って金銭を騙し取ったり、でっちあげた魔導書を売りさばいたりする詐欺師まがいの者達がいるので、魔法使いを嫌っている人も少なからずいますわ。詐欺師が作った魔導書を信じて魔法を発現させようとしたら、魔法が暴走して街が半壊した、なんて話もまことしやかに聞こえてきますし」

「ああ、そうね。実際にそんなことはないと思うけど、無いとは言い切れないから手に負えないのよね」

「ですわよねぇ。信じている人もいるでしょうね」

 サレーラとフィーラが顔を見合わせていた。

(思っていたより魔法使いって肩身が狭いんだな)

 俺はこの世界における魔法使いの立場に裏切られた思いだった。

「なるほど、そういう連中を取り締まったりはしないのですか?」

 俺が尋ねるとフィーラが肩をすくめて答えた。

「もちろんその事実が露見すればまず領主が、高度な魔法が絡むと魔法ギルドも動くと思いますが、実際のところは動いた時にはすでに逃げているでしょうし、特に魔導書に関しては初級の魔法使いでは偽物かどうか見抜けないので、捕まえるのは難しいと思いますわ」

「さもありなん、ですな。お二人なら偽物かどうかは分かるんですか?」

「偽物の出来の善し悪しにもよりますが、私達は・・中級の魔法を使いますのでほぼ見抜けると思います」

 サレーラが少し照れたように言う。

「中級ですか。それならどこかの貴族から仕官の誘いが来るんじゃないですか?」

「私達は、まずダークエルフの掟に縛られていますので、主従関係を結ぶのは自ら望んだときだけです」

「ダークエルフの掟、ですか」

「はい、種族ごとに掟があります。もし私がダークエルフ族の掟を破れば追放されるか殺されます。他の種族が掟に背くことを強いれば、その種族に対して全てのダークエルフ族が敵になります」

「なるほど、それは大ごとですなぁ」

 種族の掟は厳しいらしいが、同じくらい守られているのなら道理というものだ。

「余程のことがなければ、臨時雇いとか依頼という形で軍事行動や内政に関わる程度です。期間も契約するときに定めて、更新するかしないかはダークエルフ本人が決めます」

「余程のこと、ですか。師団長閣下にはそれだけの価値がある訳ですな」

 俺がそう言うとサレーラは微笑みながら頷いて答えた。

「その通りです、少佐殿」


 車両で出ていた作業班が戻り、全隊が揃うと俺は撤収を命じた。

 補給所に戻る装甲指揮車の車内で、サレーラ達に車内の機能について教えてやった後、戦利品である火の魔法具はサレーラに、水の魔法具はフィーラに預けることにして、残りについては師団司令部で保管することにした。

 サレーラ達は驚いていたが

「師団司令部に提出したところで金庫に収められるだけです。使える者が持っていた方が何かと役に立つでしょう。後で変更になるかもしれませんが、その時はその時で」

 と言って許可した。

 サレーラ達は恐縮しつつ喜んでいたが、俺も思惑があっての事だった。

(彼女らの師団長閣下に向けられた忠誠は本物のようだ、ならばそれに見合った待遇を与えないとマズい。将校待遇の軍属、それはいいが早く実行しないとダメだ。まずは、制服か。軍属なら等級も決めて支給しないといけないが、手持ちは共和国軍の軍服しかない。それに女性用なんて無いだろうし・・。師団司令部の管理大隊に被服係がいるはずだから、頼んで仕立てて貰うしかないな。あとは等級章もだ。もっと師団の組織に組み込んで彼女達の知識を吸い上げて活用しなくては・・・)

 俺は師団司令部に上げる報告書をどういう形にするか頭をひねっていて、サレーラの視線に気が付かなかった。

(やっぱり何か企んでいるようにしか見えない・・)


 補給処に到着すると、後片付けを命じて部隊を解散させた。

 サレーラとフィーラにも自室で休憩するように言い渡して事務所へ戻り、ブリンクマン中佐のところへ出頭した。

 今までは俺が個人で使っていた事務室をブリンクマン中佐の事務室として差し出した部屋だ。従兵もひとり付けてある。

 おかえりなさい。と声を掛けてくるゼップ少尉達に片手を上げて返答しながら事務所の中を足早に移動して、ブリンクマン中佐の事務室まで来た。

 部屋のドア横に置かれた机に向かっていた従兵が素早く直立する。カツン!

「いるか?」

「はい、在室していらっしゃいます」

「コーヒーをふたつ頼む」

 そう言いながらドアをノックすると、

「どうぞ」

 ドアを開けて中に入ると、軍服の胸元をくつろげているブリンクマン中佐が座り直していた。

「お忙しいところ申し訳ありません中佐殿、只今戻りました」カツン!

 俺がニヤリとしながら申告すると、ブリンクマン中佐もいくぶんバツが悪そうな笑顔を浮かべた。

「おかえりなさい、少佐。異常なく終了しましたか」

「はい、今回は気配もありませんでした」

 ブリンクマン中佐が手振りで椅子を勧めてくれたので遠慮無く腰掛けた。

「ご報告しておきたいことがあります」

 俺が声を落として言うと、中佐も姿勢を改めて顔を寄せてきた。

「何かありましたか」

「実は・・・・」

 俺はサレーラから聞き出した諸々のことを話した。

「木の実からガソリン・・・・」

 ブリンクマン中佐は呆れたような顔をしながら背もたれに身体を預けた。

「まだはっきりしませんが、可能性としてあり得ると思います」

「まぁ、この世界ならば、ですね」

「はい。今のところ燃料の備蓄は充分ありますので急ぐ必要はありませんが、いずれ必要になるかもしれません。把握しておいたほうがいいかと思います」

「そうですね、資源に関する情報は重要ですから・・・。分かりやすいように類別表を作って情報収集しながら整理したほうが良さそうですね」

「ですな、ウチの事務方にやらせましょう」

「お願いします」

 ブリンクマン中佐が満足そうな笑顔を浮かべて頷いた。

「それと彼女達の待遇です」

「それは私から師団長閣下に意見具申しておきます」

「お願いします。早ければ早いほどいいでしょう」

「分かりました」

 ブリンクマン中佐の返事を聞いて俺も背もたれに背中を預けた。

「悪いことばかりではありませんな」

「ええ、まあ」

 そこへドアがノックされ、中佐が応えるとコーヒーが運ばれてきた。

 ブリンクマン中佐と机を挟んでコーヒーを口にする。

「あちらでは何か始めているんですか」

「ええ、あのフリーデンタールの隊員とダークエルフのサリエ軍属、現地雇用の協力者で編成したチームを現地勢力の首都に潜入させたそうです」

「そうでしたか、師団司令部が手を打ちましたか」

 俺は少しホッとした。

(ただ此処にいるだけじゃ、部隊の士気は下がる一方だし、糧食も減るばかり、立ち枯れるのは目に見えているからな)


 ふと、意識を違うところに飛ばしてみた。

 この状況を兵士達はどう思っているのだろう。

 祖国に残してきた家族のことを思わない日はないだろう。

 それでも今までは同じ大陸、地続きの場所に居たのだ。だが、今は違う。あまりにも離れすぎていて、戻る手段も分からない。

 不安を抱いていない者など1人もいないのは分かりきっている。

 だが、この体制を、この組織を維持していかなくてはならないのだ。

 この組織に属することで保護を受けなくては、俺達がこの世界で生きていくのはほぼ不可能だろう。およそ500年前の世界に放り出されて、うまくやっていく自信がある奴なんているわけがない。

(まぁ、東方と南方の義勇兵連中はやっていけるかもしれないが・・・)

 それでも今のところ上手くいっている。この先も上手くやっていく目処は立ちつつある。

(望んでいる訳じゃないが、長期的にここで自立していく体制を整える必要がある。その為には現地の勢力と接触する必要はあるだろう。ただ、もしかしたらその結果として戦闘が起る、いや戦争になるかもしれない。その時に今の体制で上手くいくのかと言えば、怪しいと言うか心許ない。寄せ集めの付け焼き刃もいいところだ。空軍に海軍、特殊部隊に技術部隊、いくらなんでもバラバラ過ぎるし、肝心の歩兵が殆どいないんだからな。それに指揮官だけが納得して指揮下に入っているだけじゃ、兵士達は上手く動かないかもしれない。もっと明確に分かりやすく示さないとダメなんじゃないか、と思うんだが)

 視線をブリンクマン中佐に移すと、コーヒーカップを持ったまま考え事をしているようだった。

 俺も視線を胸元に抱えたコーヒーカップへ落とす。

(白魔石の設置は途中だが、この周辺の脅威はかなり減っているだろう。この人に師団司令部に戻って貰って、しっかりと再編成をやって貰うしかないんだよな。名称も第91歩兵師団じゃなくて、ホーフェンベルグ支隊みたいなやつの方がいいかもしれないなぁ)

 そんな事を考えながらコーヒーを一口含むと、ゆっくりと喉へ流し込んだ。


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