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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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40/83

40 戦利品

補給処から北方の森の中

第91歩兵師団司令部軍属 ヴィクゼル・タトゥトラ・サレーラ


 テッタウ少佐殿の言葉で輝いている私を見て、フィーラの顔が曇るのを余所に線路を越えて歩いていくと、もう1本の線路の上にオークが1匹倒れていた。

 線路をよく見ると下に敷かれている木の板で2本が固定されて1組になっているのが分かった。

(なるほどね、 線路の意味が分かるわ)

 線路からオークの死骸に目を転じると、肉は腐り始めていて毛皮も使えそうにないのが分かった。胸に穴が開いていて、頭蓋骨が割れていた。

(胸を撃ち抜かれたとはいえ、あの小銃だけでこのオークをねぇ・・)

 傍に落ちている剣が目についたので拾い上げると、鋼で作られていて柄には凝った意匠が施されていた。

「これってこのオークが?」

 フィーラに問いかけると

「はい」

 と短い答えが返ってきた。

「かなりの業物だと思うわ。きっと高く売れるわよ」

 いつもの癖がでてしまった。

「お姉様・・・」

 フィーラが困ったような顔になると我に返って

「そうだったわ、もう商人じゃなかったわね」

 照れ隠しに苦笑いしながら剣を手にしたままテッタウ少佐殿の方を見ると

「持って帰りましょう、使える物は回収して帰ります。それは珍しい剣なのですか?」

 そう言いながらテッタウ少佐殿が近付いてきた。

「はい、これは腕の良い鍛冶師が鉄を鍛えて作った鋼でできた剣です。手入れがされていないので状態は良くありませんが、研ぎ直せば問題ないでしょう。鋼の剣はなかなか手に入らないので、最低でも金貨5枚位で売れると思います」

 私が説明すると、テッタウ少佐殿は少し驚いた表情をして鋼の剣を見ていた。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、我が軍の兵士達にも剣を持たせようかと思っていましてね」

 テッタウ少佐殿が少し声を落として答えた。

「小銃だけでは接近戦で不利になるのではないかと思いまして」

 ああ、そうかもしれない。と思っていると兵士が剣を2本と棍棒1本、それに革製の巾着と革製のベルトに付いたポーチを持ってきた。

「あっちの死体が持ってたやつですダ」

「おう、そこに置いてくれ」

「はい、少佐殿」

 兵士は剣と棍棒、巾着とポーチを綺麗に並べると踵を打ち合わせて戻っていった。

「この剣はどうです?」

 テッタウ少佐殿が置かれた剣を見ながら聞いてきた。

「こちらの剣はありふれた鉄の剣です。手入れがされていないので研ぎ直しが必要ですが、充分使えます」

「そうですか、この棍棒はオークが作ったのですか?」

「おそらく。オークはいくらか知能がありますので、簡単な道具なら作れると聞いています」

「ふむ、それなら一応全部回収しておきましょう」

「それとオークに限らずですが、森の中に死骸を焼かずに放置しておくと、アンデッドになってしまいます」

「アンデッド・・・。えーと、動く死体でしたか。つまり魔物になってしまうという事ですか」

「そのとおりです。よろしければ私が魔法で焼きます」

「・・お願いします」

「分かりました。では、皆さん離れてください」

「お姉様、ちょっとよろしいですか」

 フィーラが死骸に近付いて、下から何かを引っ張り出した。

「なにかあった?」

「ええ、腰に撒いた紐のベルトに巾着を下げていました」

「あとで中を見てみましょう。では下がってください」

 テッタウ少佐殿とフィーラ、それに近くにいた兵士が少佐殿に促されて少し離れた。

 私はオークの死骸に向かって右手をかざすと、魔法を発動させた。

「・・・【業火】」

 火属性魔法のひとつである【業火】は、物体の内側から発火するのと、火力が強い魔法なので、一気に灰になるまで焼き尽くす。燃えるのが早いので肉が焼ける臭いが少なく、魔物と戦った後始末によく使っていた。

 オークの死骸は全身が激しい炎に包まれ、みるみる崩れていった。

 周りに居た全員が驚愕の表情で見ていたが、私はそこを離れて残りの死骸まで移動すると同じように焼き尽くして灰にした。

「・・・凄い・・・、本当に魔法だ・・・」

 テッタウ少佐殿が呆然した表情のまま呟くように言い、他の兵士達も立ったまま唖然としていた。

「私は火属性の魔法を使いますのでこれくらいなら」

「お姉様、魔法の種類ではなくて、魔法そのものに驚かれているのですよ」

「分かってるけど、他に説明しようがないから・・」

 フィーラの言うことは分かるが、私もなんと説明したらいいのか分からなかった。

「いや、失礼。なにぶんにも初めてなものですから、やはり実際に見てみないと信じられないというか、実感できませんな」

 目を見開き、強ばった表情で話すテッタウ少佐殿に私は微笑みで返した。

「皆さんがいた世界は魔法がないのでしたね。その代わりに優れた科学や技術がありますが」

「ええ、そうなんですが、機械や道具が力を作り出すのではなく、人の身体から力が発せられるというのは、なんとも言えない恐ろしさのようなものを感じます」

 私を見つめながら話すテッタウ少佐殿に対して私も少佐殿の目を捉えながら答えた。

「皆さんの機械や武器を見た私達も同じ気持ちです、少佐殿」

「・・・・ああ、そうでしたね・・」

 少佐殿はぎこちない笑顔で私の言葉に応えた後、灰と言うよりも粉になったオークの死骸に視線を落とした。


 その後、気を取り直すように大きく一息つくと、一緒に来た部隊の指揮官を呼んで何事か指図し始めた。命令を受けた指揮官は踵を打ち合わせると、部隊を集めて短い指示を与え、それに従って部隊が動き始めた。

 部隊は二手に別れると、森の中に1メルほど入ったところで線路に沿って白魔石を置く作業を始めた。

 一カ所に3個ずつ、3メルほどの間隔で置いていく作業を二人が行い、その間ほかの兵士達は周囲を警戒する。

「今回持ってきた分を置いたら、順次線路に沿って伸ばしていく予定です」

 作業を見守っていたテッタウ少佐殿が私達を振り返って言った。

「魔物はこの列車や燃料に対して何かするでしょうか? 例えば壊したり、飲んだりとか・・」

 私に向かって少佐殿が尋ねてきたが、はっきりとは答えられなかった。

「気まぐれに壊すことはあるかもしれませんが、食物やその臭いがなければ触らないと思います。燃料は・・。あ、そうだ」

 飲むかと聞かれて思い出した。

「少佐殿、いまここに漂っているこの臭いは、その燃料の臭いなのでしょうか?」

「え? ええそうです、ガソリンの臭いですね。あとエンジンオイルなんかも混じっていると思いますが・・」

「そうでしたか。この臭いはドラヴという木の実の臭いと同じ臭いなのです。魔物はドラヴの臭いを嫌うので、好んで近寄ってくることはあまりないと思います」

「ガソリンの臭いを嫌う・・。では、先程焼却したあのオーク達はなぜここまで来たのでしょう?」

「何か強く興味を引くもの、例えば逃げた獲物を追いかけていたとか、探していたなどの理由があれば別です。臭いを嫌っているだけで害を受けるわけではありませんので」

「なるほど・・・。あ、レジスタンスを探していたと言う事か・・・な?」

 テッタウ少佐殿は心当たりがあるらしく、右手を顎に当てて考え込んでいた。

「オークは食欲、性欲、殺戮欲の塊です。逃げた獲物がいたのなら探していたのかも知れません。今この辺りは獲物が非常に少なくなっているでしょうし」

 私がそう言うと、少佐殿は腕を組んで繰り返し頷いた。

「なるほどなるほど、それなら合点がいきますね。それならこの線路から北側に入り込まなければ魔物と接触する確率はかなり低くなると言う訳ですな」「はい、ここは森の奥地なので風の影響も受けにくいと思いますので、この臭いが漂っている限り、魔物が好んで近寄ってくることはないでしょう」

「では、ここに白魔石を設置すれば魔物対策は万全と言えそうですな」

「そう・・ですね、万全と言えるかどうかは分かりませんが、効果は高いと思います」

「それで充分です、最優先で作業を進めます。この列車と積み荷、それと燃料は重要な軍需物資ですから」

 テッタウ少佐殿は満足げに頷きながら話し始めた。少佐殿の説明によると、トラックや装甲車は燃料、ガソリンと呼ばれる液体を消費して動くのだという。そこで私はひとつ思い出した事を少佐殿に伝えた。

「少佐殿、ドラヴの実は中に透明な果汁を蓄えていますが、もしや・・・」

 テッタウ少佐殿の顔色が変わり、私を真っ直ぐ見つめてきた。

「その、果汁は可燃性、いや燃えやすいと言うことはありませんか・・?」

「いえ、燃えるとは聞いたことがありません。そもそもドラヴの木は生えている場所が限られていまして、たまに魔物除けとして使われていますが、やはり臭いが酷いのでどうしても必要になった者が採ってくるだけです」

「そうですか・・・」

 テッタウ少佐殿はそう言うと黙り込んでしまった。だが、その顔は明らかに何かを企んでいる顔だった。

(話してみたら最初の印象とは違うのは分かったけど、考えているって言うよりは企んでいるって言った方がしっくりくのよねぇ)

 黙ったまま何事かについて考え込んでいる少佐殿を見ながらそっと印象を改めておいた。

 すると少佐殿がパッと顔を上げた。

「もし、そのドラヴの木について情報がありましたら逐次教えていただきたい」

「わ、分かりました少佐殿。ところで、オークの持ち物はいかがしますか?」

「そういえばそうでしたね。見てみましょうか」

 少し慌てる私に不思議そうな顔をする少佐殿に、話題を切り替えることで誤魔化すことに成功した。


 私とテッタウ少佐殿の会話を聞いていたフィーラが、最初に焼いたオークが持っていた布製の巾着を手に取った。

 膝をついた姿勢で巾着を開けて逆さにすると、金貨銀貨と装飾品のような物がフィーラの膝先に音を立てて落ちてきた。

 フィーラがそのうちのひとつ、赤い石がはめ込まれた指輪を拾い上げた。

「あら、魔法具じゃない」

 それは火属性の魔石がはめ込まれた魔法具だった。

「そうですわ、これはお姉様がお持ちになればいいですわね。あとは金貨と銀貨、紅宝石の指輪と金の腕輪がありますわ」

 私もフィーラと向かい合って膝をつくと小物入れを開けてみた。中には水属性の魔石がはめ込まれたペンダント型の魔法具と、金貨と銀貨。最後の少し大きめの巾着には銀貨と薬草の束、それに治癒魔法に関する魔導書が入っていた。

「オークにしてはなかなかの物持ちね」

「鋼の剣もそうですが、これはどこかで冒険者パーティが全滅したようですわね」

「そうね。これ全部を一度に手に入れたのだとしたら、そこそこの実力者が揃っていたみたいね。その水属性の魔法具はあなたが持って、この魔導書はラウリが持てば・・」

 そこまで言って我に返った。急いで起立しテッタウ少佐殿に向き直ると

「失礼致しました少佐殿! これらの品は全て師団長閣下に提出いたします!」

 私がそう言うとフィーラも慌てて立ち上がって少佐殿に向き直った。

 フィーラと二人でいつもどおりに始めてしまったが、現在私達は伯爵様の配下であり、オークを倒したのは私達ではなく伯爵様の兵士であった。

 突然の私達の動きにテッタウ少佐殿は驚いていたが、すぐに笑顔を見せた。

「まぁまぁ、こちらの習慣もあるでしょうから、戦利品については後ほど師団司令部と相談してみましょう。それで、その赤い石は火属性の魔石で、青いのは水属性の魔石なんですな」

「はい、私は火属性の魔法を得意として、フィーラは水属性の魔法を得意としています。魔石は自分が持っている魔力を補う働きをします。それぞれが習得している魔法と同じ属性の魔石を使えば、魔法を発現する際に効率よく魔力を消費することができるので、発現できる魔法の回数や威力を上げることが出来るのです」

「なるほど、魔力を蓄えておくことができる訳ですな」

 テッタウ少佐殿が顎に手を当てながら何回も頷いた。

「ええ、そうです。属性が違うと効率が悪くなってほとんど役に立ちません。あとは魔石に魔法を掛けておくと、その魔石を持っている者が一時的に魔法を使うことができます」

「例えば、我々とこちらの人たちが会話できるようになる、ですか」

「はい。魔法の種類が限定される事と持つ者が魔力を持っていないと使えませんが」

 私の言葉に少佐殿が眉を寄せた。

「我々には使えないということでしょうか?」

「それが、当初はその様に見受けられたのですが、最近は殆どの士官と下士官皆さんと兵士の一部の方々は魔力をお持ちになっています」

 少佐殿は驚いた様子で返してきた。

「本当ですか、我々に魔力があるんですか?」

「はい、弱いですが魔石の魔法を使うには充分です。魔法を発現させるにはまず精神力なのです、おそらく専門的な教育や訓練を受けたり、長い軍務に身を置いた方々は自然と精神も鍛えられているからではないかと思います。こちらの生活に慣れて迷いが消えたこともあるかと」

 フィルカザーム大尉を始めとするあの3人は、全員魔法具が使えたのだ。

(確証はないけど、それしか考えられないわ)

「では、私も?」

「はい、少佐殿」

 私の答えを聞いたテッタウ少佐殿は、驚きよりも歓喜と言うべき表情を浮かべていた。


間が開いてしまいましたが40話目です。

今日でこちらに書き始めてから1年となりました。これからもマイペースで書いていこうと思っていますので、よろしくお願いします。

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