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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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39 好奇心

 補給処「蜂の巣箱」

 第91歩兵師団司令部軍属 ヴィクゼル・タトゥトラ・サレーラ


 ふたりで事務室へ行き、話し合った結果をブリンクマン中佐殿に報告した。

「そうですか、それは朗報です。午後から列車の位置に魔石を設置する予定なのです。これで貴重な資材を保護できます」

 とのことだったので、お願いして作業に同行させて貰うことにした。

 私が実際に現場を見ておきたい、と言ったら二つ返事だった。

 早めに昼食を済ませて事務所前に行くと、離れた所に羽を広げた鳥と言えなくもない形をした物が置かれているのに気が付いた。

 その周りをヴィークマン中尉達が回って点検しているようだった。

(あれが ひこうき かしら・・)

 少しワクワクしながら見ていると

「お姉様、あれは航空機ですわ」

「こうくうき?」

「ええ、ブリンクマン中佐殿はそのように仰っていました。空を飛ぶ乗り物だそうです」

「そうなの、ヴィークマン中尉殿は ひこうき と仰っていたわ。あれが空を飛ぶ乗り物なのね・・・」

「航空機ももう少し詳しく聞けたら一覧に加えておきますわ」

「そうね。それにして情報が多すぎるわね。私としては心躍る毎日が続いているからいいのだけど」

「お姉様・・・自重をお忘れなく」

「忘れてはいないわよ」

「・・・・」

 私の答えを聞いてフィーラは疑いの眼差しのまま口を閉じた。

 すると、補給処の奥から大きなうなり声のような音とともに大きくて角張った車両が走ってきた。

「あれはなに?」

 新しい知見を得られるうれしさを隠しきれない私の声に、フィーラが顔をしかめて答える。

「・・装甲指揮車という車両です。鉄の板で覆われていて、中で作戦会議ができるようになっています。戦場の近くで将軍が指揮を執るための車両だそうです」

「だからあんなに大きいのね。これ全部鉄でできているのなら凄く重いはずでしょうに、どうやって動いているのかしら」

「エンジンという機械であの車輪を回して走るのです。エンジン1台で馬何百頭ぶんの力を出せるとか」

「馬何百頭・・・。凄い、そんな力がある機械を持っている、いえ、作ることができると言うことよね」

「はい、この世界には無い、遙かに進んだ技術です」

「・・・この力をどのように使うのかしら・・・」

 私がそう呟いた時、事務所のドアが開いてブリンクマン中佐殿ともうひとりの士官が姿を現した。

「お二人ともお早いですね」

 笑顔でそう言うブリンクマン中佐殿にあわてて答える。

「は、はい、待ちきれなくて。それにあちらも見てみたかったので」

 私はそう言いながら並んでいる航空機を見やった。

「ああ、なるほど。サレーラさんは初めてでしたね。後で見ていただいて結構ですよ。ヴァイスベルク中尉に言っておきましょうか」

 ブリンクマン中佐殿の言葉に食いついてしまう。

「ぜひ! ぜひともお願い致します」

「了解しました」

 ブリンクマン中佐殿は笑いながら答え、フィーラは軽く眉を寄せていた。


 事務所前で装甲指揮車が止まると、その他の車両が集まってきて2列縦隊をつくった。

「あれは装甲車です、上に載っているのは砲塔と言いまして一周回すことができます。突き出ている筒は機関砲、大きな小銃のような武器です。あれはトラックです、荷馬車のような使い方をする車両です」

 フィーラに集まった車両を教えて貰いながら、興奮がとまらない。

「あの きかんほう は小銃と同じ原理なの? あんな太い筒から弾が出ると言うことは、弾も大きいからそれだけ威力も大きいということね。砲塔が回るのなら、どの方向にも きかんほう を向けられると言う事よね。鉄の板で守られて、どの方向にも攻撃できるなんて動く砦みたい。トラックは荷台が広くてエンジンで動くのだから、荷馬車よりも多くの荷物を運べる・・何台分運べるのかしら?」

「お姉様、そろそろ・・・」

 フィーラに教えて貰った内容を反芻して取り込んでいく。

 詳しい仕組みは分からないが、それぞれの特性を理解しておけば今後役に立つに違いない。

「サレーラさん、そろそろ出発しましょうか」

 ブリンクマン中佐殿が笑顔のまま声を掛けてきた。

「はい! 失礼しました中佐殿」

「こちらはテッタウ少佐、今回の作業の指揮官です」

「初めましてサレーラ軍属殿、テッタウ少佐です」カツン!

 ブリンクマン中佐殿より背が低く、どことなくずる賢そうな印象の士官が挨拶してきた。

「お初にお目にかかります、テッタウ少佐殿。伯爵閣下から司令部付き軍属を拝命致しましたヴィクゼル・タトゥトラ・サレーラと申します、どうぞお見知りおきください」

 私も挨拶を返すと

「こちらこそ。ところで、あの白い魔石に魔物を寄せ付けない効果があるとのことで、専門家のご意見を頂けて心強いかぎりです」

 テッタウ少佐殿は破顔一笑、嬉しそうに話しかけてきた。

「いえ、専門家というほどではありません。合理的に考えた結果を申し上げただけですので」

「大いに結構。合理的、それが重要です。では、出発しましょうか」

 テッタウ少佐殿はそう言うと、ブリンクマン中佐殿と敬礼を交わして装甲指揮車に向かって歩き出した。

 私がブリンクマン中佐殿を見やると

「私は他の仕事がありますので残ります。シュラーガー少佐も部隊でやることがあるとのことで、今回はテッタウ少佐が指揮を執ります」

「承知いたしました!」

 フィーラが元気よく答えてテッタウ少佐殿を追って歩き出したので、私もブリンクマン中佐殿に一礼してフィーラを追いかけた。


 私達が乗り込むと、テッタウ少佐殿が乗っていた兵士に何事かを命じ、それから車両達が順に動き出した。

 先頭は装甲車、次に荷台に大柄な兵士達が乗ったトラック、私が乗った装甲指揮車、兵士達が乗ったトラック、装甲車。魔物が現れた時に備えているそうだ。

 装甲指揮車は馬車よりも速く走っていたが、中はエンジンの騒音が大きく、車体もかなり揺れていたので手近な手すりにつかまりながら、フィーラから前回の時の状況を聞き出していた。

「オークは全部で6匹いたと 言うことね」

「はい、3匹 と1匹と2匹でした」

 装甲指揮車が跳ねるたびに言葉が途切れる。

「3匹を倒した 後に 1匹が飛び 出てきた のね?」

「え ええそう です」

「あんまり喋ってると舌を噛みますよ!」

 私達の様子を見て、向かい側に座っていたテッタウ少佐殿が口に手を当てて教えてくれた。フィーラと顔を見合わせた後、テッタウ少佐殿に笑顔で頷いて謝意を伝えた。

【お姉様、念話でお話しますか】

【そうね、でもこれだけ近いと気付かれそうだわ】

【では、着いてからにしましょう、この早さならそれほど時間は掛からないと思いますので】

【分かったわ】

 フィーラとの会話を終わりにして、私は改めて装甲指揮車の車内を見回した。ゴツゴツしてまったく飾り気のない内装で、車内は緑がかった白色で塗装されている。後方には床に固定された長机があり、その両側には箱形の長椅子が置かれている。他には壁に固定されて折り畳めるようになっている小さい机と、小さな区切りの中に固定された無線機と無線を操作する兵士が座る場所がある。前寄りの屋根には扉が備えられていて、長椅子を兼ねた階段を使って上から周囲を見渡せるようになっているらしい。

(ふーん、機能最優先ね。戦うための車両だから当然なのだけど、よく考えられているわ。この鉄板なら弓矢では問題にならないでしょうし、距離によってはバリスタでも抜けそうにないわね)

 私が色々考えていると、向かいに座っているテッタウ少佐殿がニヤニヤしながらこちらを見ていた。少し恥ずかしくなって視線を逸らすと、少佐殿は前屈みになって体を近づけると

「興味がおありでしたら、帰ってから全部お見せしますよ!」

 エンジン音に負けないように大声で言ってきたので

「是非お願いします!」

 と返すと、少佐殿は満足そうに頷いて姿勢を戻した。


 やがて装甲指揮車が止まった。

「少佐殿、着きました!」

 運転していた兵士が後ろに向かって叫んだ。

「エンジンを切れ、お前はここで待機しろ。いつでも走りだせるようにな」

「了解!」

 テッタウ少佐殿はそう言うと、運転している兵士が座っている座席の後ろに立てかけてあった短い銃を取りあげて

「行きましょう」

 そう言ってドアを開けて降りていった。

 少佐殿に続いて降りると、覚えがある匂いがした。

(あら、この臭いは・・)

 そう思った時、装甲指揮車の後ろから大柄な兵士達が麻袋を担いで足並みを揃えて歩いてきた。

 後ろを見ると、トラックの脇に10人ほどの兵士達が綺麗に整列し、指揮官の指示を受けていた。

「あれが選ばれし戦士達で構成されている部隊です。あの中のひとりが小銃だけでオークを倒しました」

「小銃で撃ったの?」

「撃ったのは1発だけで、小銃で格闘して殴り倒したと言うか・・とにかく倒しました」

「そんな、凄いというか信じられないけど・・」

「この目で見ましたので事実です」

「そう・・・・」

 歩いて行った一隊の方を見ると、彼等は森の方へと進んで行った。

 それに合わせるかのように先頭の装甲車とその後ろにいたトラックが出発すると、テッタウ少佐殿が戻ってきた。

「一隊はここで列車の周辺に白魔石を置いて、もう一隊が装甲車と共に進んで線路沿いに並べる手はずになっています」

 テッタウ少佐殿の説明を聞いて私が頷くと

「前回倒したオークの死骸がまだありますが、ご覧になりますか?」

「あ、はい。確認させてください」

 テッタウ少佐殿は頷くと親指で右手にある森の方を指して歩き出した。

 右に見える森に向かって歩き出すと、先程から見えていた車両の様な物を詳しく見ることができた。

 鉄で出来た棒が敷かれていて、その上に何台か連なって載っている。

「あれは列車という乗り物で、あの線路という棒の上を機関車という車両で荷物を積んだ車両を牽引して走るのだそうです」

 私の視線に気が付いたフィーラが教えてくれた。

「それでは線路の上しか走れないということ?」

「はい。しかし機関車は牽く力が強いので、トラックよりも沢山の荷物を一度に運べるのだそうです」

「ふ~~~ん。確かに きかんしゃ は大きいから力がありそうだけど、そのぶん色々と手間がかかりそうね」

 私が立ち止まって機関車を見上げると、テッタウ少佐殿が笑顔で振り返った。

「サレーラ軍属殿が仰るとおりです。列車輸送の方が効率はいいのですが、列車を運行するには色々な設備が必要ですし、それらを整備して維持するにもかなりの労力が必要です。ですので、安定した地域で線路などの設備を整えられるのであれば、列車の方が大量の物資を長距離輸送するのに適していますが、設備が整備できない地域、特に戦場ではトラックの方が重宝するのです」

 もちろん詳しいことは分からないが、テッタウ少佐殿が言っていることは理解できた。定まった進路しか走れない列車に比べて、地面が固ければどこでも走れるトラックの方が使い勝手はいいだろう。

 テッタウ少佐殿の話を聞きながら頷いていると、少佐殿がニヤリと笑って

「サレーラ軍属殿は色々な事に興味がおありのようですな」

「ええ、まぁ。珍しい物好きとでもいいましょうか・・」

 ぎこちない笑顔を浮かべて取り繕ってみた。

「ご希望でしたら専属の案内係をつけましょう。ブリンクマン中佐殿の許可は必要でしょうが、見せられない物はないと思います」

 私は、テッタウ少佐殿の言葉を聞いて自分を抑えられなかった。可愛い子犬のように尻尾を振っている自分の姿を容易く想像することができた。

 それを見て溜息をつくフィーラの姿も・・・。


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