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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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38 白魔石

 第91歩兵師団司令部

 師団司令部軍属 ヴィクゼル・タトゥトラ・サレーラ


 パーティリーダーのフィルカザーム大尉殿と共にホーフェンベルグ伯爵閣下に呼び出されたので出頭すると、パーティから外れてフィーラと合流するように命じられた。

 フィルカザーム大尉殿の仕事ぶりは興味深いところがあり、学ぶ事が多かったので出発までご一緒したかったのだがやむを得ない。

 大尉殿は自分のパーティが違和感なくこの世界に溶け込めるかを求めていて、私やサリエの助言を良く聞いてくださった。

 大尉殿の部下のシュティーラウ少尉、モールハウプト曹長、ペッター上級軍曹の3人も忌憚のない意見を交わしていて、4人の信頼関係が強固なものであることが良く伝わってきた。

 私がパーティの一員としてルアブロンに入るのは危険過ぎる。あの奴隷商人が今も探しているかも知れないからだ。だから始めからパーティの装備等に関する助言と、ルアブロンにいる知古の魔道具職人と繋ぎをつける手紙を書くのが役割だった。

(とても面白そう・・、いえ興味深いクエストなのだけど・・)

 パーティの目的は、オーレンベアク辺境伯爵家の領地が伯爵閣下の軍に対する兵糧などの補給に応えられるかどうかという調査と、辺境伯爵家の現状を探り出す事。

(つまり間諜ということ。フィルカザーム大尉殿が他の士官達と雰囲気が違う理由、大尉殿のパーティが士官と下士官だけで構成されている理由は、大尉殿と3人の部下達はその道の専門家だから・・)

 そんな任務を負ったパーティにルアブロンで追われている私が入るわけにはいかなかった。

 確かに今のルアブロンはどこかおかしい。

 オーレンベアク辺境伯爵家と家臣であるザロモン子爵家の爵旗が並んで掲揚さていた事と、急に大きな顔をするようになった奴隷商人。

 些細な事かも知れない。特に奴隷商人は商売が上手くいっていい気になっているだけかも知れない。しかし、ギルドまでも無視するかのように振る舞うだろうか・・・。

 さらに辺境伯家とその家臣である子爵家の爵旗が並んでいると言うことは、どうにも違和感を拭いきれない。子爵家の領内ならまだしも、辺境伯家の領都、その中心である城館の前で、というのは家臣として到底許されるものではないはずだ。だが、それが日常であるかようにザロモン子爵の爵旗はひるがえっている。

「辺境伯爵家に異変が生じているということかも知れません」

 私がルアブロンで感じたことをフィルカザーム大尉殿にお話すると、ありがとう、と一言だけ返されてそれからは何かを思案されているようだった。

(ここしばらくの間、雲を掴むような話を追いかけていたけれど、探していた三つの守護器のうち2個を見つけて、残りの一つ1個も目星がついて安心したせいか、刺激を求める癖が強くなっている気がするわ。ここに来てから異世界の文明や考え方に触れているせいもあるとは思うけど、少し自重しないと駄目ね・・)

 好奇心が強いという自覚はあるのだが、暴走しがちになってしまうのは気をつけないといけない。でも、今の環境は私には刺激が強すぎるのだ。


 出発は翌日の朝だったので、その日は自室に戻り簡単に荷物をまとめて準備を整えた。

 翌日の朝、サリエと朝食を済ませると別れを告げて、指定された師団司令部前へ向かった。そこには最初に乗せられたのと同じ車両が1台待っていた。運転する兵士に荷物を積んで貰い、車の横で一緒に行くことになっている士官を待っていると、くすんだ青色の制服に翼を広げて飛んでいる鳥の記章を着けた士官が2人やって来た。

(確かシュラーガー少佐殿と一緒にいた方達ね)

 伯爵閣下に対して不遜な態度を取った士官を拘束した時に同席していた2人だと思い出した。

「サレーラ軍属殿ですか? 私は帝国空軍のヴィークマン中尉です。こちらは同じくラープ少尉。補給処までご一緒することになりました、どうぞよろしく」カツン!

 細身の士官が私に向かって敬礼しながら挨拶してきた。

 整った顔立ちに爽やかな物腰は軽薄とも取れそうだが、少し離れた所で立ち止まって挨拶をしてきたところを見ると、そのような人物ではないようだ。

「伯爵閣下から司令部付き軍属を拝命致しましたヴィクゼル・タトゥトラ・サレーラと申します、どうぞお見知りおきください」

「こちらこそ。では出発しますか」

 ヴィークマン中尉とラープ少尉は自分で荷物を積むと、少尉が運転席の隣に乗り、その後ろの席に中尉が乗った。私が運転席の後ろの席に乗り込むと、兵士が、出発します、と声をかけて車を発進させた。

 目的地まで大した時間は掛からなかったが、お二人とのお話で、ひこうき という乗り物で空を飛び、空で戦う、のだと聞いた。

(ダメだわ、好奇心が止まらない・・。なんとか乗せていただけるようにしないと・・)

 私はお二人が ひこうき に乗る時に、近くに居られるように祈った。


 目的地である補給処に着くと、揃ってブリンクマン中佐の元へ出頭した。

「ようこそ、皆さん。サレーラ軍属はフィーラ軍属と合流してください、部屋まで案内させます。ヴィークマン中尉とラープ少尉、そちらにいるのが海軍航空隊のヴァイスベルク中尉です。お二人とヴァイスベルク中尉以下の海軍航空隊で混成航空隊として運用します。指揮官はヴァイスベルク中尉にお願いしたいのですが」

 ブリンクマン中佐がヴィークマン中尉の表情を覗いながら言うと、ヴィークマン中尉がすかさず答えた。

「承知いたしました。以後よろしくお願い致します」カツン!

「よろしいのですか?」

 ブリンクマン中佐が確認を取ると、ヴィークマン中尉は笑いながら答えた。

「もちろんです、私は書類仕事が苦手ですので」

 それを聞いたヴァイスベルク中尉はにこやかな笑顔を返しながら

「そういうことでしたら、お引き受けします」カツン!

 そう言って後ろにいる人たち、ヴィークマン中尉とは違う紺色の制服を着た人たちと笑っていた。

 話のやり取りから制服の色は違うが、ヴァイスベルク中尉も ひこうき に乗る職種なのは分かった。

 ヴァイスベルク中尉はヴィークマン中尉よりも年上に見えるので隊長の地位を譲ったのだろう。もしかしたら、今言ったとおり苦手な仕事だからなのかも知れない。

(なにかこう、こちらの貴族達とは違うわ。胸を突き付け合って相手の上位に立とうとする、あのバカバカしいやり取りがないわ。階級で上下関係がはっきりしているのと、その階級を能力で与えられる制度のせいかしら? 貴族にありがちな、自分の方が優れている、というような感覚が無いと言うか、薄いと言うか、どちらにせよ好感がもてる人達なのよね)

 私は2人と6人が歩み寄ってそれぞれ握手を交わしている様子を見ながらそんな事を考えていた。

 8人が打ち解けた様子を見たブリンクマン中佐が書類を手に声をあげた。

「早速ですが、師団長閣下から航空機による周辺の偵察を実施するよう命令を受けています。鹵獲した機体がありますので、整備班と調整のうえで実施して頂きたいのです」

「もちろん了解です、中佐殿」

 なぜかヴィークマン中尉が元気よく応えると、他の皆が笑っていた。

 ヴァイスベルク中尉が書類を受け取って内容を確認すると、ヴィークマン中尉が皆を促して部屋から出て行った。

(すごく嬉しそうな顔をなさって。空を飛ぶのがお好きなのね)

 後ろ姿を見送っていると、傍に兵士がひとり立っていた。

「サレーラ軍属殿、フィーラ軍属殿がお待ちです」カツン!

「失礼しました、すぐに参ります」

 待たせているのを気が付かなかったことに恐縮しつつ、私の荷物を持って歩き始めた兵士の後に続いて事務室を出た。


 案内された部屋に入ると、フィーラが待っていた。

 部屋の中には引き出しがついた机がひとつ、椅子がふたつ、あとはドアと窓がひとつずつ。

 机の上には箱に入った紙と 鉛筆 という筆記具、それに布に包まれた何かが置かれていた。

「落ち着いた部屋ね」

 私がそう言うと、フィーラが立ち上がって答えた。

「私の部屋ではありません。お姉様と仕事をするときに使って良いと宛がわれただけです」

 案内してくれた兵士は荷物を置いて戻っていった。

「それで私を呼んだ理由はなに?」

「見ていただきたい物があるのと、私達が見聞きした事柄を整理した方がいいのではないかと思いまして」

 フィーラはそう言いながら、紙を差し出した。ここに来て初めて見た時は、その薄さと白さに驚いたがいまでは慣れたものだ。

 紙にはフィーラが得た知見の一覧が書かれていた。

「なるほど。そうね【共有】があるとはいえ、整理しておいた方がいいかもしれないわね」

「はい。先日、兵士が持っている 小銃 を使うところを見ました」

「あの 弾 という礫を飛ばすやつね。どうだった?」

「離れた所から弾を放って、わずかな時間でオーク3匹を倒しました」

「え? 本当に?」

「はい。およそ1キメルをオークが走ってくる間に、何人かで放っていたので何発使ったのかは分かりませんが、私達の所にたどり着く前に3匹とも倒しました。当たり所によっては1発でも倒せるようです。弓矢とは飛んでいく速さが違いますので、体の奥深くまで届くからだと思います」

「なるほど・・・」

 私はフィーラが話した情景を思い浮かべてみた。

(確かに放った矢が矢羽まで入ればオークを倒せるかもしれないけど、そんな弓矢は私達エルフや源人族には引けないわ。しかもそれを連射できるってことだから・・。おまけに伯爵閣下の軍は殆どの兵士が 小銃 を持っている、ということは何倍もの軍勢と戦えると言うことよね・・)

 私は考えているうちに珍しいだけではなく、恐ろしいという感覚を覚えた。

(それを扱う兵士と、伯爵閣下をはじめとした指揮官達を見ていると、その力を使って残虐なことはしないと思うけど・・)

 今までに見てきた源人族同士の戦争を思い浮かべると、恐ろしいという感覚は消えなかった。

「ただ、当てられるかどうかは修練によるので、そこは弓矢と変わりないようです」

 フィーラの言葉で思考を止めた。

(伯爵閣下を信じましょう)

「分かったわ。ラウリの事もあるし、それぞれが得た知識をまとめて共有できるようにしましょう。ただ、私達が間諜と疑われてしまうかも知れないから、ブリンクマン中佐に許可を貰ってからにします」

「はい、お姉様。ではそのように致します」

「それで見てほしいというのは何かしら?」

「これです」

 フィーラが取り出したのは、布に包まれた白い魔石だった。

「これは前に見たわね」

「はい、でも私にはこれが何なのか判断できなくて・・」

 フィーラが申し訳なさそうに言う。

「その、聖なる光で浄化された魔石ではないかと思うのですが・・」

「そうね、私も初めて見る魔石だけど、そのとおりだと思うわ。白い魔石なんて他に説明できないし」

 そう言いながら白い魔石を手に取って見る。

「そうですか。では、これが浄化された魔石なら、魔物を近づけない力があると思ったのですが、いかがでしょうか?」

「それは私にも分からないけど、何かあるの?」

「実は・・」

 フィーラから今までに補給処で起った事と、それに関連してブリンクマン中佐やシュラーガー少佐が予想している事を聞いた。

「・・と言う訳で、その 燃料 というのは車両や装甲車を動かすのに必要な物なので、なんとしても手に入れたいそうなのです」

「なるほどねぇ、それで実験として魔石を集めて、その 燃料 の周りに置いてみようとしているのね」

「はい」

 フィーラとしては自分の仮説に自信がないらしい。

「おそらく効果はあると思うわ」

「本当ですか!」

 私の答えにフィーラが飛びついた。

「まってよ、私も初めて見る魔石だから予想よ? でも聖なる光で浄化されて、こうして魔石として残っているのだから、聖なる光の力が宿っていると考えるのが自然だし、それなら魔物達はこの魔石には近寄らないでしょうね」

「そうですか、それを聞いて安心しました」

「それとあなたが言った、占位行動が起っていない事の説明にもなるわね」

「ですわよね、そうですわよね。私の考えは間違っていませんわよね」

 フィーラが一生懸命自分に言い聞かせている様をみて不思議に思いつつ、ひとつお願いをしてみた。

「オークを倒したって話だったけど、見てみたいわね」

「それが魔石だけ回収して、あとはそのまま残して来てしまいました」

「あら、もったいない。素材を剥ぎ取らなかったのね」

「はい、テッタウ少佐殿がそのように命令されたので」

「それなら仕方ないわね。少佐殿にお話しして回収に行けないかしら」

「お願いしてみましょうか?」

「そうね、ふたりでお願いしてみましょう」

 私がそう言うと、フィーラの顔が少し変化した。

「私も行くのですか?」

「なぜ? いやなの?」

 フィーラは浮かない顔をしているが、一度行った所だし、それほど怖れることはないはずだが

「いえ、一緒に行く方がどなたになるか、気になって・・」

「なにかあったの?」

「いえ、大丈夫です。それではお願いに参りましょう」

 フィーラは何かを振り払うように表情を改めると、ドアに向かって歩き出した。


某軍属「お姉様がヘマをしてシュラーガー少佐殿に叱られたら、私の気持ちが分かるわよ、きっと。私は色々学んだからもう叱られないわ、そんなヘマはしないわ、たぶん・・・・」


1キメルは200メートルです。

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