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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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37 狐たち

「将軍の丘」

 師団司令部第三参謀 フィルカザーム大尉


 師団長に報告してからきっかり2日後の早朝、俺達5人は荷馬車に乗って師団司令部を出発した。

 乗っているのはサリエ達が使っていた荷馬車で、師団司令部が譲り受けた後に色々と改造されていて、二重底になった荷台と御者台にはストーテンMkⅢ短機関銃と弾薬が隠されていた。

 売り物として持ち込む魔物の骨を入れた木箱の底には無線機、剣や戦斧などの武器を入れた箱には手榴弾、他にも細々した物があちこちに隠されていた。

 通常の装備以外に俺とモールハウプトとペッターには魔法具なる物が支給されていた。

 少し大きめの赤や緑色の石がはめ込まれたペンダントと指輪で、これを着けると現地人の言語が理解でき、かつ話すことができた。


(魔法か・・。これが調達できたから師団長は作戦開始を決心したんだな)


 アッペルを教育するときに1個支給されて主にモールハウプトが使っていたのだが、作戦開始前日に追加で2個支給されたので俺とペッターも着けることになった。

 サリエからこの魔法具がサレーラの所有物で、師団が借用した物だと聞いた。

「サレーラお姉様は魔力が強いせいもあって、昔から魔法や魔物への探究心が強い方でして、そちらの造詣が深いのです。ですので魔法具だけでなく魔法や魔物に関する物を色々とお持ちなのです」

 ひとつは収蔵品として持っていた物で、もうひとつはサレーラが身に付けていた物らしい。サレーラも持っていた方が何かと便利だが、今回の作戦を聞いて差し出してくれたそうだ。

「サレーラが困るんじゃないのか?」

「お姉様は皆さんの言葉をほぼ使いこなせるようになっていますので」

 サリエはさらっと答えたので聞いてみると、言語の魔法を使って我々の帝国語を殆どマスターしているとのことだった。

「魔法だけではなく、一生懸命勉強なさっていましたから」

「君は?」

 人ごとのように微笑みながら答えるサリエに問いかけると

「私達は魔法で知識を共有することができるので、勉強するのはひとりでいいのです」

 サリエはどことなく堅い微笑みをつくって答えた。


 司令部がある丘から森の切れ目に沿って西へ進むと、辺境伯領を南北にはしる街道に出る。そこで南に進路を変えてルアブロンを目指す計画になっていた。

 サリエはこの世界の住人ではあるが辺境伯領の住民ではないし、住民であるアッペルはサランタンとルアブロンの間なら詳しいが、森に近付いた事がないのでおおよその位置関係しか分からず、西に進めば街道に出られるという程度だった。

 師団司令部から地図を渡されていたが、精度など問題外だったので街道に出るまでは出たとこ勝負だった。

(作戦中止の判断は俺に一任されているしな、気負わず行けば良いさ。距離にしては時間がかかるだろうが、なんとかなるだろう)

 そう考えながら御者台で手綱を取るアッペルの横で揺られていた。



 周囲の様子を窺いながらゆっくりと馬車を走らせ、森の中で昼食を摂った後、さらに進んで森を抜けた。

 森の先は所々にかろうじて丘と呼べるような起伏と、小さな林が点在する一面の草原だった。

 その中でも一番高く見えた丘の影に荷馬車を止めると、アッペルを連れて丘の上に登ってみた。

 草むらから頭だけを出して目指す西の方角を双眼鏡で見渡してみると、北西から南に向かって流れる川が見え、街道はその川に沿っているらしく行き来する荷馬車や人影が小さく見えた。

「川が見える」

「それはデイルト川です、街道は川沿いを通っています。右に行けばカアン、左に行けばサランタン、その先がルアブロンです」

 隣に並んで双眼鏡に釘付けになっているアッペルの答えを聞いて、双眼鏡を南へ巡らすと、確かに街らしき影が見えた。

 アッペルの肩を軽く叩いて荷馬車へ戻ると

「このまま進めば街道に出られるが、人通りがあるうちは目立つので夜になったら街道に出る。日没までここで待機、その間に街道までの道筋を偵察しておこう。モールハウプト、アッペルを連れて行ってきてくれ」

「了解」

「俺は丘の上で見張りをやる、サリエとペッターは飯の支度だ。暗くなる前に食事を済ませる、火を使うなら煙に注意しろよ」

「了解」

 モールハウプトは短機関銃と弾倉を取り出して身に付けると、アッペルを連れて離れていった。

 ペッターは荷馬車を牽いていた馬を荷馬車から離して繋ぐと、水と秣を与えて休ませてやった。それが終わると荷台から網を取り出して、荷馬車の幌に被せて簡単に偽装を施してから竈を作り始め、その間にサリエが糧食を取り出して調理の準備を始める。

 万事滞りなく作業が進んでいく様子を見て俺は大変満足した。


 日没前にモールハウプトとアッペルが戻ってきた。

 モールハウプトの報告によると、このまま2時間ほど進めば問題なく街道に出られるとのことだった。

「あとはタイミングだな。どうだアッペル」

「はい、日の出前に出発して街道に出てしまえば大丈夫だと思います。街道脇で野宿する隊商もいますので、怪しまれることはありません」

「よし、それでいくか」

 ライ麦で焼いた軍用パンを軽く炙って温かくしてからラードを塗ったのと、茹でたソーセージとキャベツの酢漬け、コーヒーが夕食のメニューだった。

 今日までの間に食事に出された物ばかりだが、サリエもアッペルもソーセージは気に入っていたが、キャベツの酢漬けは今ひとつの味だそうだ。

 木の皿に盛られた食事を黙々と食べ、コーヒーの時間になった時だった。

「大尉殿、お話が」

「俺はゾラードだぞ、モールス」

 俺に話しかけてきたモールハウプトにそう返すとニヤリと笑って言い直した。

「失礼しましたゾラードさん。実はアベルから話があるそうで」

 ゾラードもモールスもアベルも作戦中に使う偽名だった。

「話ってなんだ、アベル?」

 俺がアッペルに話を振ると、少し躊躇する素振りを見せた後にアッペルは話し始めた。

「実は、ここから南に行ったところに私が住んでいた村がありまして、私が住んでいた家もあるはずなのですが・・」

「そうなのか、何か忘れ物でもしたのか?」

 俺が冗談を混ぜて言うと、アッペルは至極真面目な顔をして頷いた。

「家の中に商売で稼いだ金を隠してあるんです」

「・・・・なるほど」

 答えた俺だけでなく、全員が手を止めてアッペルに注目した。

「じゃあ、寄り道していくか」

「ただ、もしかすると私を嵌めた奴が居座っているかもしれません」

「なら、そいつに挨拶していこうじゃないか」

 俺がそう言うと、アッペルは不思議そうな顔をしていたが、モールハウプトとペッターはニヤリと声を出さずに笑っていた。


 次の日の日没前、俺達は目的地であるルアブロンに入った。

 まずは宿を決めると、次は腹ごしらえと言う事で、アッペルの案内で食堂に入った。

 アッペルが商売で出入りしていた街なので顔見知りは居るはずだが、髪を切り、髭を剃り、以前よりも上等な服を着ている今のアッペルに気が付く者はいないだろう。それでも一応、アッペルが今までに入った事が無い、少しお高い店を選んで入った。


 支払いの心配が無いではなかったが、昨夜の寄り道で所持金の心細さは幾分解消されていた。

 昨日の夕食の後に寄り道をすると決めた後、交代で仮眠を取り、日の出前に準備を整えて宿泊地を出発した。

 無事に街道に出た後、月明かりを頼りにルアブロン目指して街道を進み、アッペルの案内で住んでいたという村の近くまで来ると、街道を逸れて草むらの中に荷馬車を隠した。そこで俺とモールハウプト、アッペルの3人が用意してあった黒色のツナギに着替えてアッペルの家を目指した。

 家の周囲を確認すると、敷地に荷馬車が2台駐めてあり、1台はアッペルが使っていたもので、もう1台は行商仲間のものであることが分かった。

 その行商仲間こそ、アッペルが自分を陥れた張本人と予想していた男だった。

 アッペルを先頭に裏口の閂を外して忍び込むと、俺とモールハウプトが竈から持ってきた薪で男を滅多打ちにして動けないようにして、その間にアッペルには隠し場所から金を回収させた。

 回収が済んだ後は室内を荒らして強盗目的に見えるように細工を施し、そして最後に

「てめぇばかりいい思いしやがって」

 と捨て台詞を残して外へ出た。

 敷地を出る前に駐めてある荷馬車を覗くと、仕入れた商品が積んだままになっていて、その中から毛皮と織物を頂いてペッター達が待つ荷馬車へと戻ったのだった。

 その後は素早く着替えてから荷馬車を街道に戻すと、サランタンの城門が開く時間に合わせて街道を進んで来たという訳だ。

 仮にも強盗を働いた後なのでサランタンの街に立ち寄ることはせずに通過し、急ぎすぎないようにルアブロンに向かって荷馬車を進めた。

 その馬車の中でアッペルから回収した金と毛皮と織物を差し出すと言ってきた。

 確かに軍資金は心許ない状態だったので申し出は有り難がったがさすがに気が引けたので、それをそのまま伝えると

「では、自分が自由の身になった時に返してください。その時までお貸しします」

 と言ってきたので、その話に乗らせて貰うことにした。

 毛皮と織物は自分達で使ってもいいし、換金もしやすいので持ってきたと言うことだったので、そちらも同じく借りておくことになった。

 アッペルが貯めていた金は銀貨68枚、なかなかの金額で大いに助かることになり、お高い店にも安心して入れたのだった。


 ひとつのテーブルに5人で座り、俺とモールハウプトとペッターで出されたメニュー表に載っている料理を、アッペルとサリエに聞きながらよく吟味した。

 アッペル達にはさして珍しくない食事だろうが、俺達には初めての異世界料理だ。

 もちろん味は気になるが、ただ食べるだけではなく、調達できる食料を知る最初の機会なので、飲み物とともに肉、魚、野菜を使った料理をまんべんなく注文した。

 注文を取りに来た女給は俺達を物珍しそうに見ていたが、俺達の注文を聞いて納得した顔をして厨房に戻っていった。

「何か聞かれると思ったんだが」

 俺がアッペルに言うと

「ここは異国の旅人や商人が多く出入りしますので、見慣れない人がいてもさほど珍しくありません。ここの食事を一通り食べてみたいというのが通じたのでしょう」

「怪しまれたわけではないのか。お前が言っていたとおりだな」

「はい、ここはいつも人が溢れていますから。衛兵の対応も通常どおりで、怪しんでいる様子はありませんでした」

「ふ、あれが通常か」

「はい。衛兵にも悪い奴はいます」

 このルアブロンは城壁に囲まれていて、街に入る時は門をくぐらなくてはいけないのだが、その門を通過する時に警備に当たる衛兵に呼び止められて通行料を要求されていた。

 ルアブロンはオーレンベアク辺境伯の領都で、辺境伯が直接統治している街だ。辺境伯の方針としては、危険な人物と見做されなければ街への出入りは自由、と定めているそうなのだが、危険だと見做すかどうかは門を守る衛兵の判断に任せているそうだ。となれば衛兵としては、何の咎め無く通りたければ手数料を払えという事になるのは当然だろう。

(つまり賄賂という事なのだが、大金とも言えない金を払えないような奴は街に入れない方がいいし、辺境伯としては衛兵の給料を低く抑えていても自分達で不足を補うわけだから、上手くできている)

 荷馬車と積み荷を細かく調べられても困るので、俺は言うなりに渡しておいた。

 アッペル曰く、頻繁に出入りする商人相手にやり過ぎると、執政官や辺境伯本人に知られる所となり、自分が処罰される事に成りかねないので、遠方から来た旅人や隊商は狙われやすいらしい。

 俺達一行の通行料は銀貨1枚だった。

「少し高いですが、私達が整った身なりをしていたからでしょう。高過ぎなかったのは、ふっかけ過ぎてどこかに訴えられることを怖れたのだと思います」

 アッペルの言葉に頷きながら、俺達が想定通りの一行に捉えられていることに満足した。

「そこそこの身分であると思った訳だな」

「はい」

「まずは成功だ。目立たず侮られず、だ」

 色々と助言を貰ったサリエに視線を送ると、満足げに微笑みながら頷いた

「それにしても、まるで中世の世界ですね」

 ペッターが声を落として言う。

「ああ、全くその通りだ。物質的だけじゃなく精神的にも別物だと考えるべきだな。思考の違いは厄介だ、言動には充分注意しないと耳目を引き寄せることになる」

「はいゾラードさん、気をつけます」

 その後、俺達は運ばれてきたエールで満たされたジョッキを静かに突き合せた後、テーブルの上に並べられた料理を堪能したのだった。



「将軍の丘」第91歩兵師団司令部

 師団司令部情報参謀 ハイン大尉


 夕食後、師団長閣下から与えられた個室で捕虜の尋問結果をまとめたファイルを眺めていた。

(南方人の反応は悪くない、一部の共和国人も。残りの一部は最悪だが、放置しても問題にはならない。あとはレジスタンスか・・)

 捕虜の南方人から志願する者を我が軍の南方義勇兵に編入するのは問題ないように思われた。

(ロートン少尉には協力して欲しいんだがなぁ。彼はなかなか得がたい人材なんだが・・)

 その時、ドアがノックされたので応えると、シュティーラウ少尉が入ってきた。

「大尉殿」カツン!

 シュティーラウ少尉が短く呼びかけてきた。

「上手くいったか」

「はい、先程連絡が入りました。 “狐は巣穴に入った”」

「分かった、師団長閣下に報告してくる」

 私は自席を立つと、急ぎ師団司令部へと向かった。



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