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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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35/83

35 義勇少尉

 補給処「蜂の巣箱」

 補給処長 テッタウ少佐


 休憩、とは言いながらコーヒーカップを片手に話は続き、燃料集積場の話になった。

 ここで俺は白い魔石を生み出した“力”と白い魔石についての考察を話した。

「なるほど、あの白い鉱石には魔物を寄せ付けない効果があると、いうことだな」

「はい。可能性がある、という程度ですがやってみる価値はあると考えております」

「是非やってみてくれ、燃料集積場の安全確保は急務だ。現れる度に白兵戦をやる訳にもいかないからな」

 師団長閣下がそう言うと、一同が力なく笑った。

(東方義勇兵を基準にされたらたまらんな)

 目の当たりにした俺からすれば寒気すら覚える。

「承知しました閣下。実施部隊を編成して、回収と設置を行います」

「うむ・・・・・そうだな」

「は、何か?」

 師団長閣下は少し考えた後、ブリンクマン中佐を呼んだ。

「ブリンクマン中佐、しばらくの間この補給処と駐留部隊の指揮を執ってくれ給え。私の判断が必要かどうかは君に一任する。どうにも拠点が離れているうえに、双方の状況が違い過ぎて効率が良くないと思うが、どうだね?」

「は、それは仰るとおりでありますが」

「司令部の防衛体制は、ラスナー中尉の工兵中隊と各大隊からの人員を使って陣地構築と障害物の設置が順調に進んでいるので問題はない。現在進行中の特別行動は専門家に任せるしかない、我々は門外漢だよ」

 ブリンクマン中佐は頷いた。

「それに比べてこちらはやることがあり過ぎるだろう?」

 師団長閣下は的確に把握されているようだ。

(南方義勇兵と東方義勇兵の訓練と武装化、砲兵大隊の再装備と再編成、それに海軍もだ。専門分野の人員は担当部署に振り分けて、残った将兵は地上部隊として再編成と再訓練が必要だろう。それにここが中世と同じ世界なら、なにより砲兵を強化する必要があるはずだ。ツァイル少佐の砲兵大隊は共和国軍の105ミリ榴弾砲を装備して再訓練を始めたが、4門ずつで2個中隊を編成するのがやっとだった。これでは火力が全く足りないことになる、最低でも1個中隊6門で5個中隊はあった方が良さそうだ。迫撃砲もあるし、人員をやりくりして運用できるようにしたい・・。海軍なら砲の扱いは慣れているかもしれないな、あの准尉に訊いてみるか・・)

 俺は腕組みをして考え込んでしまう。

(それと、いっそのこと装備を75ミリ野砲で統一すれば1門あたりの運用人数を減らせるから門数を増やせるな。威力は落ちるが、数で補うほうが良いかもしれない。あとでツァイル少佐と相談してみよう)

「テッタウ少佐、考え事かね?」

 師団長閣下の声で気が付くと、全員が俺を見て笑っていた。

「失礼しました閣下、砲兵の再編成について考えておりました」

 気をつけの姿勢に戻ってそう言うと、師団長閣下は笑いながら頷いた。

「この世界では、砲兵の火力が戦局を左右する大きな要因になることは間違いない。最大限の効果が得られるようにツァイル少佐ともよく相談してやってくれ給え」

「はっ、師団長閣下」カツン!

 俺が返事をすると、ツァイル少佐も合わせて直立不動を執った。

「ではブリンクマン中佐、そのように頼む」

「承知致しました、師団長閣下」カツン!

 ブリンクマン中佐の返事を聞いた師団長閣下は満足げに頷くと、全員を見渡しながら師団司令部から南方にある現地の勢力について話し始めた。

 我々と接触して軍属となった現地住民であるダークエルフのフィーラ達から得られた情報により、ここがノルダート大陸という大陸の中央部に位置するクーアルド王国という国の南東部地方で、この地方を領有しているのがオーレンベアク辺境伯爵という貴族であるということが分かっており、現在情報収集のため辺境伯爵の領内に潜入工作を進めているとの話だった。

「どういった形で現地勢力と接触するかは、入手した情報を分析してからになるが、糧食を始めとした物資の安定した供給を確保するのが目的だ」

 師団長閣下は座っている将校達を見回しながら話す。

「我々はこの辺境伯領の北にいることになる訳だが、東は魔物が支配する領域で我々のような人間は、極少数が通商や資源獲得のために入るだけの未開の土地だと言う事と、北はこの大森林を挟んで同じ王国の貴族領と接し、西も同じ王国の貴族領と接していると言う事だ。従って我々は、場合によっては魔物と人間両方と戦う事を想定しておかねばならないと言うことだ。しっかり部隊を掌握して備えて貰いたい」

 師団長がそう言うと、全ての将校が背筋を伸ばして注目することで応えた。

 それを確認した師団長閣下は頷くと、コーヒーカップに残った最後の一口をゆっくりと飲み干した。

「そう言えば、クルーク少佐」

 コーヒーカップを机上に置いた師団長閣下が呼んだ。

「はっ、師団長閣下」カツン!

「今言った辺境伯爵の領都はルアブロンという港町で、この王国で屈指の貿易港だそうだ、ちゃんと海はあるらしい」

「それは良い知らせです、部下達も喜ぶでしょう」

 嬉しそうに答えるクルーク少佐を見て、師団長は立ち上がった。

「海に出られるまで陸上勤務になるが、よろしく頼む」

「はっ閣下!」カツン!

 元気よく応じるクルーク少佐を見ながら頷くと

「そう言えば、外にある飛行機は飛べるのかね?」

「はい、おそらく」

 俺が咄嗟に答えると

「できれば、空から地形地物と位置関係を確認して貰いたい。ブリンクマン中佐、無理はさせなくてよいのでやってみてくれ」

「承知致しました、師団長閣下」カツン!

「師団司令部にいる空軍のパイロット2人をここに戻そう。それからサレーラ君もこちらに来させたほうが良いのだね?」

 師団長閣下がフィーラ軍属に視線を向けながら言うと

「はい、伯爵様。あの白い魔石と森の中を見ていただきたいのです」

 それまで控えていたフィーラ軍属が答えた。

「分かった、手配しておこう」

 師団長閣下はフィーラ軍属に向かって約束すると、机上に置いた軍帽を手に取った。

「では諸君、私はこれで失礼することにしよう。ブリンクマン中佐の指揮下、最善を尽くして貰いたい」

 そう言って師団長閣下が軍帽を被った時

「師団長閣下、よろしいでしょうか」

 自信なさげな声で発言の許可を求めたのはマールマン中尉だった。

「なにかね中尉、軍機以外であれば答えるぞ」

 師団長閣下が冗談交じりに返したのだが

「あの、建設中隊のツドラレク義勇少尉は・・、その、性別はどちらなのか、教えていただければと思いまして・・・」

 マールマン中尉の発言と同時に師団長閣下以下全員が固まった。

 フィーラ軍属だけは“何を言っているの?”と言いたげな顔をしていた。

「ああ、うん、その事か。まぁ、その、なんというか・・」

 嘘のように歯切れの悪い言葉を連発する師団長閣下を見て、俺はマールマン中尉がやらかした事を知った。

 建設中隊は補給処管理本部の隷下にある部隊にすぎないが、特に指定された部隊として参加していただけなので、この場にツドラレク義勇少尉はいなかった。

(今ここに本人がいないとはいえ、後から知られたらどうするつもりなんだ?)

 ツドラレク義勇少尉は、身長は175センチほどで東方義勇兵達の中では少し低いぐらいだが、体格は痩せているというよりは細身である事と、顔立ちが非常に整っていて声が甲高い事が他の東方義勇兵達とは際だって違っていた。

(確かに俺も最初にツドラレク義勇少尉に会った時は、男のような女なのか、女のような男なのかと思ったが・・・)

 その質問をしようと

「君は・・」

 と言った時点で、ツドラレク義勇少尉の目つきが変わり、恐ろしいほどきつい目つきで睨んでくるのだ。

(あれはシュラーガー少佐といい勝負だ。眼力だけで虫ぐらいなら殺せるかもしれない。とても訊ける雰囲気じゃないのは分かるが、だからといって師団長閣下に訊くことじゃないだろう・・。たぶん、中隊の兵士達に乗せられたか、突っつかれて引っ込みがつかなくなったか、馬鹿な奴だ)

 すでにシュラーガー少佐はマールマン中尉に向かって鋭い視線を向けていた。

 自分の失態とシュラーガー少佐の眼光に気が付いて、額から汗を垂らしているマールマン中尉を哀れむ目つきで見ていると、師団長が低い声で話し始めた。

「・・あれは実家の領民である氏族長の跡取りなのだ。箔を付ける意味もあって志願したのだと思うが、私も驚いたよ。おそらく兄か叔父が上の方に手を回したのだろう。そもそも後方での建設作業が任務だから、本人がよければと、通ってしまったのかもしれない。もしかしたら、侍従武官だった叔父か、皇太子殿下の副官を勤めている従兄弟から出た話かもしれない。だとしたら軍務省も陸軍総司令部も何も言えなかったのではないかと思う」

 師団長閣下が若干遠くを見るような目をして話した。

(侍従武官と副官って、皇帝陛下と皇太子殿下の側近じゃないかっ。そんな所が絡んでいる話なんか好奇心で触るもんじゃないぞ。くそっ、軍司令部の奴ら俺の所に厄介払いしやがったな)

 俺は表情を変えずに心の中で悪態をつきまくり、自然とマールマン中尉を睨んでしまう。

「マールマン中尉、答えになったかね?」

 師団長閣下がそう言うと、マールマン中尉は飛び上がるように反応した。

「了解致しました! 師団長閣下!」

 それを見た師団長閣下は、では諸君。そう言って補給処から立ち去った。

 師団長閣下が事務所を出た後もシュラーガー少佐の眼光は続いていて、マールマン中尉は動けないまま固まっていた。

(そう言えば、師団長閣下は性別を言わなかったな・・。あ、そうだ)

 俺は重大なことを思い出した。

「皆さん、先程のマールマン中尉の発言が、ツドラレク義勇少尉の耳に入らないようにご配慮をお願いしたい」

 俺がそう言うと、皆は黙って頷いたが、ツァイル少佐だけは穏やかに微笑みながらマールマン中尉の肩に手を置いて

「中尉、命は大切にしないといかんぞ」

「ハッ、ショウサドノ」

 絞り出すような声で答える中尉を見たシュラーガー少佐の眼光が和らいだのを見ると、俺も視線を元に戻したが、今度は自然とブリンクマン中佐に向かう。

(ここの総指揮官はブリンクマン中佐だ。ならば建設中隊の再編成は中佐に丸投げ、いや中佐がやるべきだな、これで決まりだ)

 俺は解決策を見出して満足した。


 その後、事務室に俺とブリンクマン中佐、シュラーガー少佐、ツァイル少佐、クルーク少佐が残り、砲兵大隊と海軍の再編成について話し合った。

 まずクルーク少佐以下の海軍臨時編成集団だが、主にシュラーガー少佐とクルーク少佐が話し合った結果、第63海上機動戦隊の機動艇乗組員で1個海軍地上中隊を編成し、整備班と海軍技術将校と技師達は補給処の整備工場へ、補給班は補給処本部の補給班へ組み入れられることになり、ベッカー中尉以下の航空技術廠の一行も整備工場へ組み入れられた。 

 そして海軍憲兵隊の12名は警備隊へ、根拠地隊司令部所属の経理、補給、通信の下士官兵は補給処本部に組み入れられ、航空隊の隊員は空軍と併せて混成航空隊としてまとめられることになった。

 残った根拠地隊海上防護隊の乗組員はツァイル少佐の砲兵大隊に組み入れられた。


 ツァイル少佐の砲兵大隊は俺と少佐が話し合った結果、105ミリ榴弾砲4門の第1中隊、75ミリ野砲3門の第2、第3中隊の10門3個中隊編成とする事になり、人員は海軍海上防護隊の乗組員と作業隊の南方義勇兵から志願者を募ることになった。また同時に作業隊の業務を補給班に引き継いでいくことも決められた。理由は南方義勇兵の方が兵士として優れているからだった。

 各砲に少しずつ新規の人員を振り分け、教育しながら規模を拡大させていく計画で決まった。

 なお、海軍将兵の転用は別途命令があるまでの臨時措置である、との一文が添えられて文書にされ、ブリンクマン中佐からクルーク少佐に手渡された。

 あ、あとガーゲルン法務大佐のせいで巻き込まれることになったサン・ヴィレット操車場の国営鉄道職員2名と、海軍の輸送列車を運転していた蒸気機関車の機関士2名と助手2名も整備工場へ組み入れられた。


 これにより整備工場は、ヴァインツ技術軍曹以下55名と国営鉄道職員6名の61名から成る車両整備隊、海軍工廠のフリードリヒ・ヘラガ技術大尉以下軍属2名、リュークセン造船会社の技師6名、海上機動戦隊整備兵19名の27名から成る船舶整備隊、アウグスト・ベッカー中尉以下の海軍航空技術廠検査試験部48名から成る航空整備隊、という構成になった。

(海軍の船舶整備隊はしばらく仕事が無いから車両整備の手伝いをやらせるとして、トラックと牽引車とトレーラーの整備を進めて輸送力を確保しておこう。燃料集積場のことを考えると、今のうちから整備しておいた方がよさそうだからな)

 即戦力とはいかないだろうが、まったくの素人にやらせるよりはいいだろう。これを機会に車両整備もこなせるようになってくれたら言うこと無しだ。

 この3個の整備隊は我々の強みであるのは間違いない。この世界で我々だけが持っている技術という力は、戦車や榴弾砲よりも遙かに強力で持続する力になるだろう。

(技術情報の保安と秘匿が重要になってくるな、海軍憲兵隊にやって貰うか。なんだか面倒くさい仕事が増えてくるような気がするが、俺は兵站部門専門でいけばいいんだ。それ以外はブリンクマン中佐にまるな・・、任せよう)

 将校たる者、自分の職務から逸脱してはならないのだ。



砲兵中隊の標準装備は榴弾砲4門ではなく6門に訂正します。


当初考えていたよりも長くなりそうなのと、次回から場面を切り替える予定なので章で分けた方がいいかなと思案中です。


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