34 憂慮
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補給処「蜂の巣箱」
補給処長 テッタウ少佐
事務所の前に最右翼に位置する俺を基準として、現在補給処に駐留している部隊の将校達が整列していた。
中型兵員車が補給処に入ってくると、俺が号令を掛けた。
「気をつけぇ! かしらぁっ、右っ!」
中型兵員車が停車すると、待機していたブリンクマン中佐が小走りで駆け寄って後部のドアを開けた。後席に乗っていた、第91歩兵師団長カール・オストフューア・フォン・ホーフェンベルグ中将閣下は降車すると、二言三言ブリンクマン中佐と言葉を交わすとゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
俺は、少し離れた所で立ち止まった師団長閣下に向かって、列から一歩踏み出して相対すると敬礼して申告した。
「第84軍団司令部参謀兼当補給処長のヨハン・テッタウ陸軍少佐であります。小官指揮下部隊及び駐留部隊の各級指揮官、整列いたしました」
「ご苦労、テッタウ少佐」
師団長閣下は答礼しながら短く答えると、ゆっくりと将校達の列の前を歩き始めた。
俺は師団長閣下の後ろをブリンクマン中佐とともに歩きながら、師団長閣下が各指揮官の前で立ち止まる度に指揮部隊名と階級、氏名を紹介していく。
俺の隣から
第33砲兵連隊第2大隊長 オットー・ツァイル少佐
第7軍司令部直轄第100装甲大隊長 バルトレン・シュラーガー少佐
海軍臨時編成集団長 ギュンター・クルーク少佐
空軍第77高射砲連隊第2大隊長代理 オットー・エルフェルト空軍大尉
第709野戦警察中隊長 マルテル・コールローザ警察大尉
独立第243工兵連隊第6中隊長 パウル・ラスナー中尉
独立第716重工兵連隊重機材分遣隊長 フランツ・マールマン中尉
空軍第6降下猟兵連隊第7中隊第3小隊長 リュディガー・ゼーレン少尉
第84軍団補給処「蜂の巣箱」管理本部 ヘルムート・ゼップ少尉
第7軍司令部直轄第1056建設中隊長 ニェキ・ツドラレク義勇少尉
が並び、その隣にそれぞれの部隊の将校が3名ずつ1列ないし2列で整列していた。
このほかに高射砲大隊長のハインリヒ・フレンツェル少佐と海軍航空技術廠のアルフレート・ベッカー中尉が野戦病院で療養中、海軍部隊は所属がバラバラなので便宜上ひとまとめにして海軍臨時編成集団という部隊単位にした。
(師団長閣下に聞かれたら答えられなきゃマズいと思って、昨夜一晩で覚えたんだぞ)
俺は師団長閣下について歩きながら、昨夜の努力を思い出していた。
ゼップ少尉がニヤニヤしながら見ていたので、少佐の権力を行使して序列に入れてやったのだが、今も意味ありげな視線を送ってきていた。
昨日、燃料集積場から戻った後の会議で、俺とブリンクマン中佐、フィーラ軍属が師団司令部に報告に向かう事が決まった。
ブリンクマン中佐が師団司令部にその旨を連絡したのだが、返答は
「師団長が補給処に赴く」
だった。
中佐が言うには師団長閣下はこちらに来たい理由があるらしい。
「なんです、その理由って?」
俺がブリンクマン中佐に尋ねると
「実は、建設中隊の義勇兵達と会いたいと仰っていまして・・・」
師団長閣下と東方義勇兵達の関係を教えてくれた。
「なるほど、それは無理もないですなぁ」
俺がそう言って見回すと皆が頷いた。
その直後から各指揮官達が慌ただしくと動き出した。
シュラーガー少佐は、将校に制服と軍靴の手入れを命じるために直ちに大隊に戻っていった。
俺もゼップ少尉に言われて、補給処の部隊と駐留している部隊の指揮官に伝令を飛ばし、かつ補給処勤務の将校達に身なりを整える命令を発した。
それから程なくして、師団司令部に行ったままだった海軍将校達が戻ってきて、同じ事を命じていた。
(気持ちは分かるが、偉い人が動くってことがどういうことなのか、分かってもらいたいねぇ)
俺は手持ちの靴墨とブラシを貸し出せるように準備しているゼップ少尉を見ながら、久しぶりに軍靴を磨いていた。
ブリンクマン中佐からは、建設中隊だけは全員を整列させておくようにと言われていた。
(自分の所に呼びつけないのがなんともアレだよな)
俺は感心しつつツドラレク義勇少尉を呼び出すと、用件を伝えた。
「本当ですか?」
「ああ、師団長ホーフェンベルグ中将閣下は君達に会いたいそうだ」
少尉は驚愕と言っていい表情になって聞き返してきたので、俺がブリンクマン中佐に言われたことをもう一度伝えると、凄い勢いで踵を打ち合わせると全速力で兵舎として使っているバラックに戻っていった。
そのしばらく後にバラックの方から大勢の雄叫びが聞こえてきた。
そして今日、ピカピカになった将校達と三列横隊でそびえ立つ建設中隊の東方義勇兵達が出迎えた訳である。
師団長閣下はひとりひとりの前で立ち止まり、二言三言声を掛けて握手を交わして進んで行く。
そして予想したとおり、建設中隊の前に差し掛かるとクライマックスになった。
俺がツドラレク義勇少尉を紹介して、師団長閣下と少尉が敬礼と答礼を交わした後、師団長閣下は整列した中隊の中央付近まで行くと彼等に向き直って口を開いた。
「諸君、諸君らとこの地で再び会えたことは私にとって望外の喜びである。私と同じく忠誠と血を、帝国と皇帝陛下に捧げた東方の子らよ、どことも知れぬこの異国の地で、我らが故国に帰るその日まで、我が剣、我が盾となるべく私に仕えて貰いたい。我が願いを聞き届けてくれようか」
「若様・・・」
「殿様・・・」
絞り出すような声が中隊の中から聞こえた後、ツドラレク義勇少尉が右手で略帽を取り、右膝を着いて握りしめた略帽を胸に当てると、中隊全員が倣って片膝を着いて頭を垂れた。
ツドラレク義勇少尉が頭を垂れたまま、よく通る声で誓いの言葉らしき文言を発した。
「我らは将軍ホーフェンベルグに忠誠と血を捧げんことをここに誓い、我らに導きを与え給うことを欲す!」
「我が念いは汝らの為に、我が志をもって汝らを導かん」
「我ら僕として導きに従いて、共に光明へと進まん!」
ツドラレク義勇少尉が言い終えると、義勇兵達は一斉に立ち上がった。
「「「星! 我らが星! 輝く東方の星よ! 御身の光によりて我ら進む道を照らし給え!」」」
俺とブリンクマン中佐は、義勇兵達から師団長閣下に向かって放たれた唱和の勢威に圧倒されてしまったが、師団長閣下は微動だにすることなく右手で制帽を取ると、胸に当てて頭を垂れた。
「「「フラァー!!! フラァー!!! フラァァァー !!!」」」
同時に義勇兵達は略帽を握りしめたままの腕を一斉に振り上げて歓呼の声をあげた。中には略帽を顔に押し当てて感涙を拭う者もいた。
整列している将校達と遠巻きに見ていた下士官兵達は、辺りに響き渡る彼等の歓呼に圧倒されながら唖然としていた。
(いやぁ、すげえや。これじゃ皇帝陛下と近衛兵みたいなもんだな。いや、それ以上だ、これが人徳ってやつなんだなぁ)
全員が列を乱して師団長閣下を取り囲んでいるのを見ながら、俺も感動に似た感情を覚えていた。
義勇兵達の熱狂が収った後、昨日のデルトレィ義勇兵の戦功に対して師団長閣下から“取って置きの1瓶”が授与された。
その後は師団長閣下の希望で、補給処内を簡単に案内した。
倉庫群、燃料庫、弾薬庫、整備工場、車両集積場、兵舎を案内しながら先日の襲撃の現場も案内した。
中型兵員車にブリンクマン中佐と俺が同乗して見て回り、師団長閣下は俺の説明に頷きながら整備兵や作業隊の南方義勇兵にも声を掛けていた。
なかでも第100装甲大隊には感銘を受けたようで、整然と駐車されている戦車と各種車両、キビキビと動き師団長閣下を見つけるや直立不動を執る戦車兵達を見て
「見ているだけで精強であることが分かる部隊は久しぶりだな。残余部隊を再編成して、ここまで仕上げるとは流石だな」
と呟いていた。
案内が終わると、事務所で休憩の時間となった。
俺の席に師団長閣下が座り、机を半円に囲む形で各指揮官達が腰掛けた。コーヒーが配られ、まずは一服つけるとブリンクマン中佐が作戦に参加していなかった指揮官達の為に、襲撃から今までの状況を簡単に説明した。
それが終わると昨日の捜索についての説明へと続いた。
ケルナー兵長がオークと接触した場面では、師団長閣下をはじめ指揮官達はコーヒーカップを膝の上に置いて笑っていたが、その後のオークとの戦闘状況になると、カップを持ち直すことを忘れて聞き入っていた。
特にオークが小銃の射撃を受けても突進してきたことについて衝撃を受けており、師団長閣下もコーヒーカップを持ったまま唇をきつく結んでいた。
「・・以上です」
ブリンクマン中佐が話を締めると師団長閣下が口を開いた。
「テッタウ少佐、そのオークという魔物には小銃で対抗するのは難しいのかね?」
「はい、肩や腹に2,3発当たっただけではほとんど効果がありません。関節を砕くような被弾であれば効果はあると思いますが。今回は頭部、おそらく眼球から入って頭部を打ち抜いた事と、胸部に集中して命中させた為に倒せたのだと思います」
俺が答えると皆黙り込んでしまった。
7.7ミリの小銃弾を3発被弾しても効果がない、と言うのは想定外も甚だしい。ならば、小銃より口径が大きい兵器を使えば良いというのは誰でも考える事だが、そこは運用と補給と費用対効果の問題がある。
帝国軍で7.7ミリのひとつ上の口径といえば13ミリ重機関銃だが、兵士が個人で運用できる大きさと重さではない。基本編成では機銃班長、射手、弾薬手2名の4名で運用する事になっている。
(運用はともかく、小刻みに撃てば悪いレートにはならないかもしれんがな・・・。口径が大きい小銃か・・・・。あ、そうだ)
「閣下、鹵獲品にFoa32という共和国軍の対戦車銃があります。口径は14.5ミリで単発式ですが、充分対抗できると思います。運用も2人で済みます」
「それは対抗できそうだが、数はあるのかね?」
「はい、閣下。充分な数があります、弾薬も」
「どのくらい配備できる?」
「ええと・・、約200丁はありますので、1個小隊に3丁として、大隊で27丁、予備を入れて30丁としても充分だと思われます。弾薬も当面は心配ありません」
俺がゼップ少尉の反応を確かめながら答えると、師団長閣下は笑いだした。
「鼻紙から戦車まで、だったかね。君の能力と、ここを君に任せたマルクス中将の慧眼には感心するばかりだ」
「恐縮です、師団長閣下」
俺が笑顔で答えると、師団長閣下は満足げに頷きながらブリンクマン中佐に視線を向けた。
「うむ。ブリンクマン中佐、仕事を増やして済まないが対戦車銃の運用について検討してくれ給え」
「承知しました、師団長閣下」カツン!
ブリンクマン中佐が即答した。
「東方義勇兵なら楽々と使いこなしそうです」
俺がそう言うと、師団長閣下は顔をしかめながら答えた。
「確かにそうなんだが、依怙贔屓をするつもりはないのだ」
「は。しかし体格的に通常2名のところを1名で運用できそうです」
俺がそう言うと、今度は笑って答えた。
「確かに、確かにそうだな少佐。未知の化け物、魔物を白兵戦で倒すほどだからな」
俺が頷いて同意すると、師団長は続けた。
「彼等は純粋なのだ、さっきのあれを見ただろう? 心酔していると言っていい、私が死ねと言えば喜んで死ぬだろう。私はそんなことをさせるつもりは無いのだが、もし彼等に最新の兵器を与えたら、彼等は己の役割を誤解して激戦地に飛び込んでいくだろう。私は、そうならないように細心の注意を払わなければならんのだ」
俺は師団長が使った“誤解”という言葉の意味を間違えなかった。
「では、取って置きの1本も」
それを踏まえて尋ねると
「そうだ、本来なら白兵戦闘章を授与するか、昇進させてもいいと思っている。しかしそれをやるとその後が大変なことになる。彼等は競って魔物に勝負を挑みかねん」
師団長閣下が憂慮するところに、この場にいた者全員が溜息を漏らした。
(人徳があるってのも大変だな。何事もほどほどにしておくのが一番だ。それにしても、部下のことをよく分かっていらっしゃるねぇ)
俺は、難しい顔のままコーヒーカップを口に付ける師団長閣下を見ながら、この師団長の指揮下であるならば、今現在俺達が置かれたこの状況を克服できると確信した。
前から書きたかった情景が書けて私は嬉しい。
この場面のために書いてるなぁー。プハァー!
続きに勤しんで参ります。




