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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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33 東方義勇兵

補給処から北方の森 燃料集積場

補給処長 テッタウ少佐


 オークがこちらに向かって歩き始めたのを見ていたが、俺の頭は正常に働かなかった。

「少佐殿、攻撃してください! オークは突進してきます!」

 フィーラ軍属の言葉に我に返ったその時、オーク達が短距離走の選手のように凄い勢いで走り始めた。

「撃て!」

 俺が咄嗟に叫ぶと、すでに小銃を構えていた義勇兵達は撃ち出した。

 図体のデカいオークが3匹並んでいるので、次々に命中して弾丸がオークの体にめり込む音が聞こえていたが、それでもオーク達の勢いは止まらなかった。

(バケモノだ)

 俺は被弾しながら突き進んで来るオーク達を見て、そう思うことしかできなかった。

 だが、義勇兵達も慌てること無く落ち着いて射撃を続け、顔面に被弾した1匹が最初に倒れた。

 続いて胸に立て続けに被弾していたもう1匹が倒れ、その後は集中射撃を受けることになった最後の1匹も倒れた。

(やった、倒した)

 俺は目の前で起った事がまだ受け入れ切れていなかったが、とりあえず危険が去ったことを理解することはできた。

 だが、

「正面に気をつけて!」

 フィーラ軍属の叫び声と共に、本線に沿って展開していた義勇兵達の正面の森からオークが1匹飛び出してきた。

 そいつは持っている剣を振りかざしてちょうど目の前にいた義勇兵に向かって突進してくると、剣を両手で握りしめ義勇兵めがけて振り下ろした。

(やられる・・!)

 その義勇兵は銃撃で倒したオークに気を取られていたので反応が遅れたが、慌てる様子を見せること無くオークに向き直ると、体を右に捌いて剣先を避けながらステップを踏むように一歩下がり、一転して足を踏み出して銃剣刺突のように小銃をオークの胸元めがけて突き出した。

 小銃の銃口がオークの胸にめり込むのと同時に銃声が響き、オークの背中からドス黒い血液と真っ赤な肉片が飛び散った。

 それでもオークは即死せず、辺りに響き渡る咆吼をあげると剣を捨てて義勇兵に掴み掛かろうとした。

 義勇兵は一瞬おいた後、素早く小銃を引き寄せながら下がると、体を右からひねって銃床を繰り出し、オークの左腕ごと頭に一撃を食らわせた。

 ゴキィッ

 骨が砕けるような音がしてオークが右側に倒れ込むと、すかさずその頭に銃床が振り下ろされ、それが二度、三度繰り返されるとオークは動かなくなった。

「まだいるかも知れんぞ、油断するな!」

 俺はそれだけを言うので精一杯だった。

(オークを白兵戦で倒しやがった)

 そう思いながらフィーラ軍属へ目を向けると、今まで見たことが無い強ばった表情で倒れたオークと義勇兵をみていた。

(これも例外か・・)

 そう思いながら

「フィーラ、まだいるか?」

 俺が問いかけると、フィーラ軍属は慌てて視線を森へ向けた。

「2匹います! ですが森の奥へ逃げて行きます!」

「よし、深追いは無用だ、撤収する。警戒しつつ下がれ!」

「少佐殿、ちょっと失礼します」

「お、おい」

 フィーラ軍属はそう言うや小走りで倒れているオークに近づくと、短剣を取り出してオークの胸を切り裂いて手を差し入れた。

 さすがに義勇兵達も驚いていたが、フィーラ軍属は気にする様子も無く4体の遺骸から何かを取り出すと、俺の所に戻ってきた。

「フィーラ軍属なにを」

「これが魔石です」

 フィーラ軍属がそう言って広げた血塗れの手の中には、4つの黄色の鉱石が載っていた。

 あの森の中に骨と共に落ちている鉱石と同じで楕円形だが、森に落ちている鉱石は透明な石の中に白い何かが入っているように見えたが、この鉱石は黄色に染まっていた。

「これは土属性の魔石になります」

「分かった、だがそれは後にしよう。今はここから居なくなるのが先だ」

 俺はフィーラ軍属にそう言うと、第2班をまとめて周囲を警戒しながら待機しているトラックまで下がらせた。

 そこにはトラック2台と護衛第1班、それに“031”が俺達を待っていて、ブリンクマン中佐が指揮するトラックと小型兵員車の車列は、すでに出発していていなかった。

 俺は“031”と“032”にトラックの前後に着くように命じると、護衛隊を乗車させて燃料集積場を後にした。


 トラックの荷台では東方義勇兵達が、一緒に乗り込んだフィーラ軍属に水筒の水を垂らして手を洗わせてやっていた。

「肝っ玉の据わった娘だベ」

「化け物の胸を裂いて手を入れるとはヨ」

「体に黄色の石が入ってるんだナ」

「なんだそれ、卵か? 心臓か?」

 皆でフィーラ軍属を見ながら賑やかに話していた。

「フィーラ軍属」

「はい、少佐殿」

「その魔石を一つ、そいつにくれてやってくれないか」

 俺がオークを倒した義勇兵を顎で指して言うと、フィーラ軍属は頷いて大きめの魔石をひとつ、義勇兵に手渡した。

「勲章の代わりにな」

 俺が笑いながら言うと、その義勇兵は笑顔で答えた。

「ありがとうございますダ、少佐殿」

 すると周りに居た義勇兵達が褒めそやした。

「いやぁ、あの化け物を小銃だけで倒すとはさすがデルトレィだァ、故郷の親父さんも鼻が高けぇベェ」

「ほんと、大したもんだベ」

「次は俺がやってやるダ」

「あれだな、小銃より戦斧か槍の方がよさそうだナ」

「厚みがねぇと折れちまうんじゃねぇか?」

「ああ、俺の小銃はひん曲がっちまったダ」

 そう言ってデルトレィと呼ばれた義勇兵が掲げた小銃は、銃身が若干湾曲していた。

「撃った後も生きてるとは思わなくてヨ、抜くのがちっと遅かったダ」

「あー、それは使えねぇな、少佐殿に怒られるべ」

「勲章も取り消しだナ」

 その一言で荷台は笑い声で満ちた。

 その輪の中に入って一緒に笑っているフィーラ軍属を目配せで呼ぶと、

「オークを1人で倒すっていうのはどうなんだろう、銃は使っているが・・」

 今までの笑顔を打ち消して、首を左右に振りながらフィーラ軍属が答えた。

「嘘か誠か、凄腕の冒険者がひとりで倒したという話を聞いたことがありますが、普通は考えられません。ましてやあの小さい槍で倒すなんて、至難の業のです。この方達は選ばれし戦士の方々なのですか?」

 一層声を落としたフィーラ軍属の質問の答えに困ってしまった。

(銃のことはまだ話してないし使ってもいなかったな・・)

「まぁ志願兵ではあるが・・、戦士か、そういう言い方もできるなぁ・・・」

「そうでしたか。あの身のこなしと落ち着き払った態度、こうして笑いながらお話している余裕、ただの兵士とは思えませんでした。異世界の戦士はとてもお強いのですね」

 フィーラ軍属はただただ感心していた。

 東方義勇兵は民族的な特徴として体が大きい。少なくても建設中隊にいる者は身長が180センチを超える者ばかりで筋力もあり、力仕事の類いは楽々とこなしていた。

 寒さが厳しい過酷な環境で狩猟民族として代々暮らしてきた彼等の戦闘力は、我々のような生粋の帝国人と比べて遙かに高いのは知られている。

(それを目の前で見せつけられても、信じられないぐらいだがな。ただ、俺が悩んでいる義勇兵の武装、今まで考えていたものとは違う武装を考えてみるのもアリだな)

 朗らかな笑顔で仲間と話しているデルトレィと言う若い義勇兵を見ながら、先程の白兵戦を思い出して思考を巡らせてみた。

(銃床に鉄板を張って強化するとか、短くても爪を付けるとか・・。あ、そうだ。あいつに白兵戦闘章を推薦してもいいかもしれんな。ブリンクマン中佐に相談してみるか)

 車列は走り続け、無事に補給処に帰還した。



「と言う事は、“力”の範囲は半径15キロメートルとみてよさそうだと言うことだな」

「ええ、それでいいと思います」

 補給処の事務所で俺とブリンクマン中佐、シュラーガー少佐、フィーラ軍属の4人は俺の机を中心に、目の前にコーヒーカップを置いて話し合っていた。

「部隊を繰り出して残らず回収したいが、迂闊に発砲できないのは困るな」

「ええ、付近一帯を安全圏にしないと無理ですね」

 俺は両手で持ったコーヒーカップを胸元において香りを味わっていた。

「それと、できれば列車そのものと線路も回収したいですし」

「それもかね」

「おそらくこの世界であそこにしかありませんよ」

「うむ、それはそうだな」

 俺とシュラーガー少佐がやり取りしている間、ブリンクマン中佐はコーヒーカップを持ったまま考え込んでいた。

 俺は横目で見つつシュラーガー少佐を見ると、気が付いた少佐が小さく頷いた。次にフィーラ軍属に視線を移すと、すでに察していて黙って頷いた。

 しばらくの間3人で沈黙を守っていると、ブリンクマン中佐が我に返った。

「どうかしましたか?」

 独りになっていたことに気が付いて動揺しながら、それを隠そうとしておろおろしている中佐を見て、フィーラ軍属がクスクス笑っていた。

「いえ、何かお考え中のようでしたので」

 俺がそう言うとブリンクマン中佐は照れ笑いを浮かべて答えた。

「ちょっと考えすぎてしまいました」

「何か気になることでもおありですか?」

 シュラーガー少佐が尋ねると

「ええ、以前からフィーラ軍属がこの森は魔物が跳梁する危険な森だと言っていましたよね、しかしこの補給処の周辺には魔物は全くいませんが、骨と鉱石が大量にあります。そして今回、魔物が現れた燃料集積場には骨と白い鉱石はありませんでした、ということは魔物を死滅させた“力”と魔物がいない事は関係が無く、魔物がいない理由は骨と白い鉱石のどちらかではないかと、思いまして」

 自信なさげに中佐が言った言葉を頭の中で反芻してみる。

(・・・なるほど、骨か白い鉱石が魔物除けになってるんじゃないかってことか。どちらかといえば鉱石なんじゃないかと思うが)

「あの、ブリンクマン中佐殿」

 フィーラ軍属が反応した。

「なにか、ご存じの事がありますか?」

「それが、聞きかじり程度なのですが・・」

 フィーラ軍属曰く、この世界の神が起こす“悪しきを滅ぼす力”という伝説があり“聖なる光”などと言い伝えられているそうだ。

 ただそれは古文書に書かれているだけであり、実際に見た者はいないし、痕跡もないのでどのような力なのかは全く分からないという。

「魔物は体内に必ず魔石があります。この魔石と同じように色が付いているはずなのですが、森に落ちている鉱石は白色です。白は神聖を表す色ですので、白い魔石が聖なる光による浄化によって出来た物ではないか、と考えています」

 フィーラ軍属はオークの体内から取り出した黄色の魔石を手に取りながら説明した。

「あの時の閃光も白かったですなぁ」

 俺がそう言うと、フィーラ軍属が続けた。

「その閃光が聖なる光で魔物が浄化されたのなら、それによって出来た魔石に魔物を寄せ付けない効力があっても不思議ではありません」

「では、白い鉱石を集めて燃料集積場の周囲に撒いておけば、安全が確保できると言うことかね」

 シュラーガー少佐がフィーラ軍属を見ながら言うと、フィーラ軍属は緊張した面持ちで答えた。

「はい、少佐殿。断言はできませんが、私はそのように考えています」

 シュラーガー少佐は頷くと、ブリンクマン中佐に視線を移した。

「やってみる価値はありそうですな」

「そうですね、師団司令部に報告して伺いを、いや一度戻った方がいいかもしれません」

「そうですな、留守はお任せください」

「え?」

 俺がシュラーガー少佐の一言に反応すると

「君が直接、師団長閣下にお会いして燃料集積場の現状と回収方法を説明した方が手っ取り早いと思うがね。ついでに東方義勇兵への叙勲を上申するのもいいんじゃないか」

「それはブリンクマン中佐殿にお任せすると言うことに・・」

「いつまでも会わずにいられる訳がないだろう」

 少佐のあきれたような一言に返す言葉はなかった。


このところ筆運びが良い調子です。

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