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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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32/83

32 魔物

 補給処から北方の森 燃料集積場

 補給処長 テッタウ少佐


 俺はブリンクマン中佐の表情から“とても嫌な事が起った”のはなんとなく分かった。

 その表情を見取って中佐が声を落として言った。

「投降と言うよりは逃げ込んできた状態だったそうです。そして皆、化け物に襲われた、と言っているそうです」

「・・まさか、魔物・・?」

「それしかないと思います。反抗せず大人しくしていますが、安全なところに連れて行って欲しいと言っているそうです」

「その話は誰から聞いた話なのです?」

 ブリンクマン中佐は少し離れた所に立っている下士官を見やって

「彼です。エベリング上級曹長!」

 中佐が呼ぶとその下士官は側に来て直立不動を執った。カツン!

「第84軍団司令部補給参謀のテッタウ少佐だ、レジスタンスの捕虜はどこにいる?」

「この列車の後ろの方の貨車に入れてあります、少佐殿」

 曹長は貨物列車を指して答えた。

「何人いる」

「12名おります」

(海軍と併せて60名か・・)

「テッタウ少佐」

 考え込んでいる俺を察してブリンクマン中佐が声を掛けてきた。

「一度戻りましょう、彼等を保護して休養させた方が良いと思います」

「私もそう思いますが、車両が足りません。補給処から呼ぶしかありませんが、護衛をどうしようかと思いまして」

 まだ確定ではないが、魔物を念頭に置いたほうが良さそうだった。

「あの、少佐殿」

 エベリング上級曹長が明らかに興奮を抑制している顔つきで報告してきた。

「この列車の向こう側、森の中に新品のトラックが20台隠してあります」


 話は決まった。

 燃料集積所で行う作業は次の機会に持ち越されることになり、海軍兵と捕虜を補給処へ移動させる事を優先することになった。

 海軍指揮官のベッカー中尉は人事不省の状態であるため、エベリング上級曹長に指揮を代行させることにした。

 手短にこちらの状況を説明し、指揮下に入るとの返答を得ると、直ちにトラックを運転できる兵士を集め、隠してあるトラックを取りに行くことになった。

 俺は護衛のトラック2台に車を運転できる20名の海軍兵を乗せると、主計班も後に続くように指示してエベリング上級曹長に案内させて出発した。

 その間にブリンクマン中佐は補給処のシュラーガー少佐に状況を報告する。

 道すがらエベリング上級曹長から聞いたところによると、鹵獲した機体を本国へ輸送する為にヴァードーの海軍基地を出発したが、サン・ヴィレットが空襲を受けていると基地からの警報を受けたのでここで待機していると、突然轟音とともに空が白く輝き、それが消えた後は周りの景色が変わっていたそうだ。

 それからはヴァードーの海軍基地との無線連絡が途絶し、ヴァードーに向かって線路を辿って進んでみたものの5キロほどで線路が途切れていたそうだ。

 これはただ事ではないと周囲を警戒していたが、糧食の類いを一切持っていなかったので退避線に止まっていた貨物列車を探ってみたところ、後部の貨車に糧食と飲料水が積まれているのを発見したのでそれで食いつないでいたそうだ。

「他にも天幕やベッド、机、無線機と野戦電話もありましたので、ここに仮設の事務所を開こうとしていたのではないかと思います」

 エベリング上級曹長の話を聞いて、

(貨物列車の中身も頂くつもりだが、ベッドと机、野戦電話はありがたい)

 回収する物資の優先順位の上位に入れた。

「こっちの給油缶はみたか?」

 俺が道端に並んでいる固まりを指して言うと

「はい。ざっと見ただけですが、ガソリンとエンジンオイルが大量にありました」

「なに? 全部ガソリンじゃないのか?」

「赤色のペンキが塗られた杭がガソリンで、黄色のペンキが塗られた杭がエンジンオイルで別けてあるようです。所々にエンジンオイルの山がありました」

「そうか」

(エンジンオイルも有り難いが・・。やはり全部見てみないと駄目だな)

 エベリング上級曹長の案内で、道路をサン・ヴィレット方面に2キロほど走っていくと、左側の森が切り開かれて車両置き場になっていた。

 中には共和国のボアルー社製の3トン積み四輪駆動トラックが20台並んでいた。

(こいつはエンジンも足回りも頑丈だから重宝するぞ、ありがたく頂いていこう)

 俺は口の両端が上がるのを抑えきれなかった。

 一応、辺りの様子を窺ってみたが特におかしな気配は無かったので、俺はエベリング上級曹長にトラックを調べさせ、異常が無ければ列車の位置まで移動するよう下命した。

「それから、エンジンオイルを少し持っていきたい」

「は、少佐殿」

「2台に積めるだけ積んでいく。うちの主計員に手伝わせる」

「了解しました、最後尾の2台に話しておきます」カツン!

 エベリング上級曹長が敬礼して離れていくと、俺は主計班に近付いた。

「とりあえず、エンジンオイルを少し頂いていく。積み込みを手伝ってくれ」

 俺がそう言うと皆頷いたが、1台を任せている兵長が右人差し指をあげた。

「なんだ、ケルナー兵長」

「とりあえず、この道路がどこまで続いているのか確認しなくてもよろしいので?」

 悪戯小僧のような笑みを浮かべるこの兵長が、余計なことをしようとするのはいつもの事だった。

「お家に帰れるといいがな」

「見てみないことには」

「よしケルナー、行ってこい。俺達は先に戻っているからな」

「はっ、少佐殿!」

「ただし、未知の脅威が近くにいる可能性がある。いいか、遭遇したら全力で退避しろ。射撃は自衛のために最低限度許可する、撃つ方向に充分注意しろよ」

「承知しました!」

 ケルナー兵長が運転兵に合図すると、運転兵は気が乗らないと言いたげな顔をしながら車を発進させた。

 後ろでは止まっていたトラックがエンジンを始動させ、手前から1台ずつ発進し始めていた。


 先頭のトラックにエベリング上級曹長が乗り、トラックの車列は車両置き場から出発した。

 俺は最後尾から2台目のトラックに合図して助手席に乗り込み、その後ろにはトラックと小型兵員車が3台続いて来た。

 少し進むと道路の右側に黄色のペンキが塗られた杭が打ってある給油缶の固まりが見えた。

「あれだ、寄せてくれ」

 俺が言うと運転兵はトラックを右側に寄せて止めた。その後ろにもう1台のトラックと小型兵員車3台が続いてとまった。

 俺が給油缶の固まりに掛けてある防水シートを剥がして積まれている給油缶の表記を確認すると、確かにエンジンオイルだった。

「よし、積んでくれ」

 俺の合図で14名の兵が次々と給油缶を固まりから取り出して、トラックの荷台に積み込み始めた。

 その間、俺は短機関銃を首から提げて周囲を見渡していた。

 ガコン、ガコン。

 給油缶がトラックの荷台に載せられ、荷台の奥へ並べられていく。兵達は黙々と給油缶を載せていた。

 10分ほど過ぎて、トラックの荷台がそろそろ埋まってきたところで、車両のエンジン音が後ろから聞こえてきた。

 ケルナー兵長が戻ってきたのかと、俺も含めてその場にいた全員がそちらを見ると、ケルナー兵長の班が乗った小型兵員車が凄いスピードで走ってくるのが見えた。

 俺は猛烈に嫌な予感を覚えながら小型兵員車の動きを目で追っていると、みるみる近付いてきて俺の横で急停車した。

 前席と後席の間にある銃架に据え付けた機関銃には射手が張り付き、後方に銃口を向けている。

「少佐殿!」

 助手席からケルナー兵長が怒鳴ってきた。

「すぐに逃げてください! 化け物です、化け物がいました。あいつ追いかけてきやがったんです!」

「落ち着けケルナー! どんなやつだ? お前を追いかけてきたのか?」

「うなり声を上げて線路の向こうから走ってきました! 身体がでかくて、猪みたいな顔して、毛むくじゃらで、二本足で歩いて、布きれみたいな服を着て、なんかでかい棒を持って、あいつ猪のくせに二本足で歩いていやがった!」

「分かったよ、落ち着け! 全員乗車、ずらかるぞ! ケルナー兵長、殿だ!」

「分かりました!急いでください! あいつ追いかけてきやがった、俺達を喰う気なんだ、 くそ、喰われてたまるか。殺してやる、殺してやるぞ」

 ケルナー兵長は驚きと興奮でいきり立っていた。

 隣の運転兵はハンドルを握ったまま俯いていたが、怒鳴り散らすケルナー兵長を見上げてうんざりした顔を小さく左右に振っていた。

 俺はそれをみて思わず笑ってしまった。

「落ち着けよケルナー、下手に撃ったら俺達も炭になっちまうんだぞ」

「了解してます少佐殿! 急いでください!」

「1台先頭につけ、周囲を警戒、トラックを守れ。出発!」

 俺は小型兵員車の1台に先導を命じると、最後尾のトラックの荷台に乗って全員が乗車したのを確認すると車列を出発させた。

 エンジンオイルを積んだトラックがエンジンを唸らせて走り出すと、ほっとしたのは間違いないが、殿を努めるケルナー兵長の班はやきもきしたことだろう。

(でかい身体に猪の頭、オークだろうなぁ・・)

 昔読んだ空想の物語の挿絵を思い出していた。

(これが今現在の俺の現実なのか・・。エラいことになったもんだ)


 車列はすぐに貨物列車の場所に到着した。

 エベリング上級曹長が率いたトラックが一列になって道路の右側に停車していて、海軍兵達が荷台に乗り込んでいるところだった。

 海軍兵達は危ういところを救われて安心しきっているのだろう、誰もが疲れきっていたが、表情は明るくのんびりと動いていた。

 先頭の小型兵員車がトラックの最後尾の後ろに駐まると、車列もそれに続いて停車した。

 俺は急いで荷台から降りると、ブリンクマン中佐が居るはずの装甲指揮車へ向かって走り出した。

 途中“031”の横を通るときに、車長に向かって正面への警戒を強化するように命令した。

「デカい奴が来たら注意しろ」

 車長はなんのことか分からず戸惑っていたが、俺は構わず離れて装甲指揮車の傍にフィーラ軍属と並んで立っていたブリンクマン中佐に合流した。

「テッタウ少佐、そんなに急いでどう・・」

「中佐殿、魔物が出ました」

 言葉を遮られて驚いた顔が一瞬で変わった。

「! どこですか?」

「この先4キロぐらい、部下を偵察に出したら目撃したそうです。追いかけてきたと言っていました」

 俺の話を聞いてフィーラ軍属が近寄ってきた。

「でかい身体に猪の頭、オークじゃないかと思います」

 フィーラ軍属を見ながら説明すると

「はい、それでしたらオークに間違いありません。オークは攻撃性が高い魔物です、周りに気をつけておいたほうがいいかと思います」

 フィーラ軍属が答えた。

「中佐殿、すぐに撤収しましょう。海軍兵と捕虜の移送をお願いします、準備が出来次第出発してください、殿は装甲車と護衛隊で俺が引き受けます。線路の向こう側を見てきます」

「わ、分かりました、物資はどうしますか?」

「少し頂いてきましたが、後はまたの機会にしましょう」

 一方的に敬礼して指揮車から離れると、俺は道路の真ん中に立った。

「部隊、傾注!」

 俺が大声で叫ぶと、全員が動きを止めた。

「直近で脅威が見つかった! 攻撃を受ける可能性があるため直ちに撤収する! エベリング上級曹長!」

「はっ! 少佐殿!」カツン!

「部隊の人員を点呼して乗車させろ、捕虜には監視を付けて1台にまとめて乗せるんだ、誰1人残すな、分かったか?」

「承知致しました少佐殿!」カツン!

「以後はブリンクマン中佐殿の指揮で動け! 護衛第2班は集合しろ!」

 俺が言葉を切ると、それまでとは打って変わって部隊は一斉に動き出した。

 俺は“032”に向かうと本線の向こう側を警戒できる位置まで移動するように命じた。

 そこへ車列の後方で“032”と共に警戒していた護衛第2班、東方義勇兵達が集まってきた。

「少佐殿」カツン!

 代表らしい1人が直立不動を執った。

「いいか、脅威ってのはここの世界に住んでいる魔物、猛獣みたいなヤツのことだ、二本足で歩いて道具も使う獣だぞ、油断するなよ」

 俺よりも背が高く筋骨たくましい義勇兵達が厳しい顔つきで聞き入っているが、誰ひとりとして微動だにしなかった。

「了解しましたダ、少佐殿」カツン!

 きつい東方訛りで代表の兵士だけが低い声で答えた。

「続け」

 俺の短い号令の後に10名の東方義勇兵達が続いて歩き始めた。

 その後ろでは“032”がエンジンを吹かして動き始め、ゆっくりと退避線を乗り越えて本線上へと移動して行く。

 本線に出ると、反対側に踏みとどまっていた曹長以下5名を下がらせた。

「曹長、向こう側で第1班をまとめて031を中心に警戒に当たれ」

 戻ってきた曹長に一言命じると、第2班を本線上に横一列に散開させた。

「森だ、森に注意しろ」

 それだけで義勇兵達は3メートル程の間隔を開けて、森に相対するように配置に就いていく。

 後ろからはブリンクマン中佐の声が聞こえてきた。

「先頭に小型兵員車3台、その後ろにトラック縦列、その後ろに指揮車と小型兵員車の順で行く、前へでろ。曹長・・」

 トラックがエンジンを吹かし始めたせいでそれからは聞こえなくなった。

 ふと、後ろで敷石を踏みしめる音がしたので振り向くと、フィーラ軍属が立っていた。

「なぜ、来たんです? 中佐と一緒に退避してください、危険です」

 驚く俺の顔を見てどこか嬉しそうにフィーラ軍属が答えた。

「ブリンクマン中佐殿にお許しを頂きました。お役に立つことがあると思いますのでお供致します、テッタウ少佐殿」

「いや、しかし」

「私はここの住人なのです、お忘れですか?」

 首をかしげて可愛く言っているが、自信たっぷりと言った様子だった。

「分かりました、ですが俺より前には出ないでくださいよ。もし出てきたら銃を使いますので」

「分かりました、少佐殿」

 フィーラ軍属はにこりと笑い、そのやり取りを見ていた東方義勇兵達も薄笑いを浮かべていた。

 その時、微かな地響きを感じた。

 地面が揺れると言うほどではないが、象か何か大きな生き物が歩いている、そんな感じで足元の地面が揺れている。

「やはり来ましたわ。2匹・・・いえ3匹いますわ。オークは単独では行動しないのです、少佐殿」

 フィーラ軍属が突然話し始めた。

「え?」

「まもなく見えます、ほらあそこに」

 フィーラ軍属が指し示したのは、輸送列車と俺達がいる場所の中間ぐらいにある森の切れ目だった。

 そこの木々の間に茂る藪から姿を現したのは、3つの大きな人影、ではなくまごう事なきオークだった。

(あれがオークかぁ、やっぱりデカいなぁ)

 俺は恐怖を感じながら少し感動していた。

(あの物語と同じ世界にいるんだなぁ)

 オーク達は鋭い眼差しでこちらを見つけると、殺気を漲らせながら歩き始めた。


ユニークが2000件を超えました! ありがとうございます!

PVも5000を超えそうな感じです。

マイペースを守って楽しく書いていきたいと思います。

暇つぶしになるようでしたら、お付き合いください。


文中で「直立不動を取る」と表記していましたが、これを「直立不動を執る」に変更します。

今までどうにも違和感を感じながらスルーしていたのですが、こちらの方がしっくりくるので変更することにしました、気が付いた所から書き換えます。


後は「給油缶」か「燃料缶」かで迷いましたが、「給油缶」で通そうかと思います。

「ジェリカン」が使えないというか、使いたくないというか・・。

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