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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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26 野戦飛行場

 補給処「蜂の巣箱」北北西方の森の中

 第100装甲大隊分遣隊 シュラーガー少佐


 これまでどおり“タカ”の砲塔後部のハッチに腰掛け、周囲の状況を伺いつつ東に向かって進んでいた。 “タカ”の左斜め後方約100メートルを“カケス”が進んでいた。

 私の後ろにはヘルトマン軍曹がいる。

「少尉に発破を掛けられました。くれぐれもヘマはするな、と」

「そうか」

 お互いに視線は周囲へ巡らしたままだ。

「何か理由があると思うのですが」

「私には心当たりはないな」

 私の返答にヘルトマン軍曹が小さく笑った。

「今までヘマをした覚えもないのですが」

「それならいつもどおりやってくれればいい、期待しているよ」

「了解しました、少佐殿」

 ヘルトマン軍曹の答えに口元が緩む。

 敵の現有兵力が把握できたことは大きな成果だった。危険は去った訳ではないが、差し迫っていないことがはっきりしている。

(積んできた物資は全てこちらが抑えたんだ、補給がなければあの男も野垂れ死にだろう。一緒に行動している部下は気の毒だが、あの南方人のように決断できればよかったのだろうが・・。)

 我々はそれぞれの国家、軍に所属する軍人であり、今は戦争しているのだ。立場や守るべきものもそれぞれある。私には同情以上のことはできなかった。


 それから油断なくゆっくり進んで行くと、前方に樹木の間が明るくなっている場所が見えてきた。樹木が途切れて日光が差し込んでいるのだろう。

 操縦手に停車を命じ“カケス”の方を見ると、同じく停車していた。

 私と同じようにハッチに腰掛けている車長に向かって、おそらく目的地だと思われる場所を指し示すと、顔の横で広げた右手を閉じて拳をつくり了解の手信号を返してきた。

 装甲車が止まったと同時に身構えているヘルトマン軍曹を振り向くと

「軍曹、あれが見えるな」

「はい、少佐殿」

「先行して索敵だ、後ろから支援する」

「了解」

 ヘルトマン軍曹が返事をすると、載っていた降下猟兵達がさっと降車して“タカ”の前へ出て行く。

 私が“カケス”を見ると、ヘルトマン軍曹の動きを見ていたのだろう“カケス”に跨乗していた降下猟兵が降車して同じように前へ移動していた。

 やがて、降下猟兵分隊はヘルトマン軍曹の手信号に従ってそれぞれが間隔を取った横一列の横隊を作ると、静かに前進を始めた。

 私が操縦手に命じてエンジンを絞ったままゆっくりと前進させ、降下猟兵達の後方を追従すると、“カケス”も同じように動き出した。

(よし、いいぞ)

 無線で指示をしなくても同じ動作をする“カケス”を見て私は満足した。

(ケンパー下級軍曹だったな。見込んだとおりだ)

 “カケス”の車長であるケンパー下級軍曹は、第4装甲旅団の偵察中隊に所属していた下士官で、中隊の生き残り24人のうちのひとりだった。

 先程元気よく返事をした“タカ”の操縦手、ギュンター・フィルッツ上等兵もそうだ。

 P型装甲車6台で編成されている偵察小隊は、習熟訓練に時間がかかり編成が完結したのは遅かったが、その生き残り全員が志願したので偵察部隊としての練度は高かった。


 散開して進む降下猟兵の後に続いて進んで行くと、森の中にぽっかりと空き地があることが分かってきた。そしてそのすぐ近くには、何か建物のような物がいくつか並んでいるのが見えた。

 前を進むヘルトマン軍曹が停止合図を出して降下猟兵達が止まると、私達も停車した。ヘルトマン軍曹は振り向いて「その場で待機」の手信号を送ってきたので私が了解して“タカ”のエンジンを切らせると、“カケス”が続いてエンジンを停止した。

 辺りが静寂に包まれるなか、降下猟兵達はヘルトマン軍曹の手信号に従ってゆっくりと前進を開始した。腰を屈めて辺りに視線を走らせながら、少しずつ扇状に広がりながら進んで行く。

 装甲車の砲塔天蓋の上で静かに双眼鏡を構えて様子を覗うと、建物に見えるのは支柱を立てて偽装網を張ったものを格納庫として使っているようで、中に航空機らしきシルエットが確認できた。

(間違いないな。しかし偽装されているとはいえ、あのテッタウ少佐が見落とすとはな・・)

 今いる場所からは、同じような格納庫が他にも確認できた。

(とにかく何が有るのかを確認しないとな)

 私はヘルトマン軍曹達の行動を見守った。


 20分ほどしてヘルトマン軍曹が、こちらに向かって大きく右手を振って合図してきたのを確認すると、私は“タカ”を前進させて降下猟兵と合流した。

 “カケス”は位置を変えずに後続すると、北側を警戒する位置で停車した。

 その動きに満足しつつ“タカ”から降車すると、ヘルトマン軍曹と接触して報告を受けた。

「少佐殿、航空機は全部で7機ありました」

 ヘルトマン軍曹の報告を聞きながら周囲を見渡すと、偽装網を張って作った格納庫は全部で4棟あり、中にはやや古い印象の短発復座の航空機が1機ずつ駐機されていた。

 他に滑走路と思われる細長い空き地の横に、露天で偽装網を掛けられただけの小型機が3機駐機されていて、森の中には天幕が張られているのが見えた。

「そうか、あの天幕は指揮所か整備場か?」

「それが、空であります」

「空?」

「はい。もしかするとその為の天幕かもしれませんが、中には椅子一つありません。それから最近ではありませんが、何者かがここに出入りした跡がありました」

「何だと?」

「おそらくトラックで燃料などを運び出したようですが、はっきりとは分かりません」

「トラック?」

「はい、ダブルタイヤの跡でした。他にも微かですがガソリンの臭いと、ドラム缶が並べてあったと思われる跡も残っていますので、燃料が集積されていたと思われます」

「ふむ、トラックを使っているならレジスタンスではないな」

 報告を聞いて考え込んでしまう。

(レジスタンスがトラックを乗り付けて運び出すことはないだろう。急造とはいえ機能はそろっていたようだが、今この状態で飛ばすことができるのか? レジスタンスが使用可能と報告したから彼等の作戦は決行されたそうだが・・。それに航空機を残して他の物だけ根こそぎ持ち去るなんて、1人しか思い浮かばないが・・)

「報告して補給処に確認を取る。どう考えても友軍が持ち去ったとしか思えん。しばらく警戒と待機だ」

「はっ、少佐殿」

「忘れているのかな」

 私がそう言うとヘルトマン軍曹は笑いながら答えた。

「そうかもしれません、ここ最近色々ありましたので」

「ふ、そう言えばそうだな。私は一旦戻る、すまんが残ってくれ」

 私が幾分申し訳なさそうに言うと、

「はい、お任せください。これが貴重な戦力になるのは承知しています」

「うむ。早急に移動させる算段をつける。補給についても手配する」

「承知しました、少佐殿。特別手当の方をお願い致します」

「分かった、期待していてくれ。“カケス”を残す」

 私は笑いながらヘルトマン軍曹と敬礼を交わして別れると“タカ”に戻り、“カケス”に対して降下猟兵の支援として残るよう無線で命じると、元来た道を辿ってブリンクマン中佐の元へ急いだ。


 地点アントに着くと、直ちに装甲指揮車へ向かってブリンクマン中佐に報告した。

「なるほど、今までテッタウ少佐は何も言っていませんでしたし、私が野戦飛行場について報告したときも特に反応はありませんでした」

「はい、しかしテッタウ少佐が見落とすとは考えられません」

「そうなると、忘れている可能性が高いですね」

「ええ。考えてみると、飛行機を移動させる手段がありませんでしたな」

「パイロットもいなかったでしょうから、持てる物だけ持ち帰ったのでしょう」

 ブリンクマン中佐が小さく笑いながら言うと、私もつられてしまった。

「ここの作業は15時までには終了するとの事でしたので、終了したら地点ベルツへ移動します。補給の手配は済んでいて、回収部隊に帯同して来た糧食班が対応するそうです。現在、部隊は昼食を摂らせていますので、野戦飛行場の位置を教えていただければ配食する事になっています」

 ブリンクマン中佐は淀みなく作業と補給の予定について説明した。

「シュラーガー少佐、ここには充分な護衛がいますので特に不安はありません。回収作業の指揮は私が執りますので、航空機の回収をお願いしたいのです」

「承知しました、中佐殿。それでは補給処に戻って段取りを組みます」

「それでは、そのとおりに」

 私はブリンクマン中佐と野戦飛行場の位置と、回収作業が終了するまでの大まかな流れを話合った。

 手落ちがないか点検し合った後、敬礼を交わして指揮車を降りるとすぐに“タカ”に乗車して、補給を目指して出発した。


「おかえりなさい、シュラーガー少佐」

 補給処の事務所に入るとテッタウ少佐が出迎えた。

「テッタウ少佐、ひとつ確認したいことがあるんだが」

「ええ、ブリンクマン中佐から聞いて分かってますよ。共和国軍が残していった野戦飛行場のことですね。大丈夫ですよ、ちゃんと覚えていましたから」

 テッタウ少佐は明らかに無理矢理な明るさで答えてきた。

「・・・本当かね?」

「ええ、・・ゼップ少尉が覚えています」

 私が声のトーンを少し落として確認すると、明るさは一瞬で消えた。

 テッタウ少佐がすぐ側の事務机に向かっている少尉に視線を移した。

「あの飛行場は半年ほど前に発見しました。飛行機を移動させる手段がありませんでしたので、そのままにして置いたのですが、空軍高射砲大隊が来ることになったので、状況の混乱を避けるために引き上げられる物だけ引き上げたのです。念の為、機体に入っていた燃料も抜いたので、あそこにある機体はどれも飛べません」

 少尉が私とテッタウ少佐を交互に見ながら答えた。

「空軍との取引に使えるかと思っていたのですが、近くに駐屯している航空部隊はいないし空軍に伝手がなくて。で、そのままになってしまったと言う訳です」

 テッタウ少佐の締めを聞いて吹き出しそうになってしまう。

(ただじゃ起き上がらないとは彼の事だな。そうだ・・)

「引き上げたのはいつだ?」

「高射砲大隊が来た後ですから、3週間ほど前です」

 少尉の答えを聞いて疑問がひとつ解決した。

(共和国軍の下命を受けたレジスタンスが、飛行場と航空機を確認した後に引き上げたということか。彼等は運がなかったとしか言えないな)

 捕虜になった8名と戦死者達に若干の同情を覚えた。

「テッタウ少佐、まだあのままにしておくのかね?」

「本意ではありませんが、移動手段がないと・・」

「弾薬輸送車か何かで牽引できるんじゃないのか?」

「それはそうですが木を切って進路を啓開しませんと」

「連絡道路を敷設した時の、ラスナー中尉の報告が本当なら問題ないんじゃないか」

「あ・・・そうでした。いやでも」

「マールマン中尉に確認してみてはどうだ?」

「分かりました。もし可能なら中尉の部隊を飛行場へ派遣します」

「了解した。では、私は戻る」

 脱いで持っていた略帽を被って事務所から出て行こうとすると、テッタウ少佐が引き留めた。

「少佐、昼食を済ませてからにしてください。すぐに準備させますから」

「いや、飛行場にいる部下達がまだ済ませていないんだ」

「あちらはすでに手配済みです、今頃は配食も終わっていますよ。済んでいないのは少佐と装甲車の乗員だけなんじゃありませんか?」

 言われてみればそうかもしれない。

 どうしても納得できるところまで見届けないと気が済まないのだ。そのせいで部下を振り回しているのは私の悪い癖だった。

「そうだな、休憩を取ることにしよう。乗員とフィーラ軍属にも食事を頼む」

「食堂に行けばすぐに出てきますから、案内しておきます。少佐はどうしますか、ここでやりますか? それとも食堂で?」

 テッタウ少佐が会議用に並べられた長机を示しながら訪ねてきた。

「ここなら上質のコーヒーが付きますが」

「では、ここで貰おう」

 私はテッタウ少佐のサービスに感謝しつつ、長机の端に拠点を定めた。


 昼食を済ませた後、コーヒーと共にマールマン中尉がやって来た。

 対面の椅子に腰掛けた中尉に連絡道路敷設時の状況を聞くと、やはり変わりは無かった。

「木に印を付けておくと、翌日には移動している、か」

「はい、少佐殿。ラスナー中尉と話して深く考えないことにしました」

「正論ですな。考えたところで分かるはずがない」

 一緒に聞いていたテッタウ少佐がマールマン中尉の答えを肯定した。それに対して私も頷くほかない。

 私はマールマン中尉に野戦飛行場とそこにある航空機について説明し、ここまで移動させるための移動路の啓開を下命した。

「承知しました少佐殿。野戦飛行場の位置さえ分かれば、一晩で終わります」

 マールマン中尉は簡単に、抑揚無く答えた。

(誰かにやって貰うだけ、だからな)

 当然の反応かと思っていると、テッタウ少佐が話しかけてきた。

「シュラーガー少佐、この件は私がやっておきますよ」

 一瞬戸惑ったが、元々テッタウ少佐が手を付けている事でもあるし、周辺に注意するべき脅威もない。なによりこういう事は彼の方が一日の長がある。

「そうだな、テッタウ少佐にやって貰うことにしよう」

 私がそう言うと、少佐はにこりと笑って頷いた。

「では、私は回収部隊の地点に戻って作業の終了まで留まる」

「了解しました。それではブリンクマン中佐に戻っていただきたいのですが」

「そうだな、伝えておくよ。それから、フィーラ軍属は残って貰うのでよろしく頼む」

「分かりました、お預かりします」

 私はカップに残ったコーヒーを流し込むと席を立った。

「では、また」

 そう言って立ち上がると、同じく起立したテッタウ少佐とマールマン中尉と敬礼を交わして事務所を出た。

25話でPVが4000を越えました。

ありがとうございます。

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