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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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25/84

25 回収作業

 補給処「蜂の巣箱」北西側 グライダー着陸地点

 第100装甲大隊分遣隊 シュラーガー少佐


 “タカ”の側で今後のことに考えを巡らせていると、

「少佐殿、“オナガ”からです。捕虜を捕らえたと言っています」

 車内から無線手が呼びかけてきた。

(あいつを捕まえたのか)

 一瞬心が躍り、笑顔になってしまった。

 その時、少し離れた所に立って木々の梢を見上げていたフィーラ軍属が、こちらを振り向いたところで目が合ってしまった。彼女の顔が若干引きつるのを見て、しまったと思ったがどうしようもない。

(いつものことだ)

 車内の無線手に向き直ると

「共和国人か?」

「南方人だそうです、2名」

「なに?」

 一挙に落胆してしまう。

「1名負傷、むこうから投降してきたそうです」

「こちらに連れてこさせろ」

「了解」

 ひとつ溜息をついて側面ハッチから離れた。

(奴じゃないのか)

 思わず舌打ちをしそうになるが、フィーラ軍属を思い出してなんとか止めた。

「少佐殿、なにかありましたか?」

 フィーラ軍属が恐る恐るといった態で訪ねてきた。

 私は務めて平静を保ち

「新たに捕虜を得たそうだ。1人負傷していると言っている、医療班は引き上げてしまったので、よかったら診てやってくれないか」

「承知いたしました、少佐殿」

 笑顔で応じたフィーラ軍属に対して、口元を緩めて頷いた。

(どうにも正しい対処がわからん。余計な気を遣うし、以後は同行しないようにしよう)

 情けないが私は助成の女性の扱いが苦手なのだった。


 気を取り直して、今後の事に切り替えた。

 機体を含む全ての回収と、もう1機と飛行場の捜索。もう1機が発見されたらそちらの回収もある。

(日没までには終わらないな、その時は一旦引き上げるか・・。回収できなければ警戒班は残さないといかんが)

 その場合、数が少ないとは言え、相手は落下傘歩兵であることを考えると野戦警察では心許ない。

(頼り過ぎて申し訳ないが、やって貰うか。あとで何か特別手当を出そう)

 ゼーレン少尉とヘルトマン軍曹、ほかの降下猟兵第3小隊の面々を思い浮かべた。

 車内から無線手の呼びかけが聞こえた。

「少佐殿、“オナガ”からです。墜落しているグライダーを発見したそうです」

 一瞬、思考が止まったがすぐに再始動して

「よくやった。1個分隊を警戒に残せ。ゼーレン少尉は捕虜と一緒にこちらへ転進するように」

「了解」

(よし、ひとつ解決した。あとは飛行場だけだ。彼等には特別手当を上乗せだな)

 良い仕事には良い報酬。結果にふさわしい称揚はどこでも鉄則なのだ。

 そこへ、車輌のエンジン音が聞こえてきた。音がする方を見ると中型兵員車を先頭にトラックの縦隊がやって来るのが見えた。

(回収班か。ブリンクマン中佐が到着したら今後のことを詰めるとするか)

 私はトラックが連なってやって来るのを見つめながら、ブリンクマン中佐に報告する内容をまとめ始めた。


 やって来たのはラスナー中尉以下の工兵中隊と補給処作業隊の一部だった。トラックの荷台に兵員や各種工具を積んでいるのは当然だが、空のトラックが多かった。

 先頭の中型兵員車からラスナー中尉が降りてきて、敬礼を交わした。

「少佐殿、工兵第6中隊及び作業隊分遣隊、只今到着しました。糧食班と医療班も連れてきております」カツン!

「ご苦労、中尉。待っていたよ。すでに野戦警察が積載物と遺体の運び出しを始めている。段取りはどうなっている?」

 私は答礼した右手を下ろすと、早速作業の打ち合わせに入った。

「はい、少佐殿。先に積み荷を補給処へ搬送します。その間に機体を解体して戻ってきたトラックで補給処へ搬送します」

 そう答えるラスナー中尉の後ろでは、早くもトラックの荷台から工兵と工具が下ろされ、空のトラックが向きを変えて集積された物資の側に車を着けていく。

「先程もう1機を発見した。詳細な場所は報告待ちだ」

「了解しました、少佐殿。テッタウ少佐殿から「ネジ1本残すな」と命令されておりますので、この機体が終わり次第2機目に取りかかります」

「分かった。現在こちらにブリンクマン中佐と掃討に従事している部隊が集結している最中だ。各指揮官が集まったら状況と情報の共有を行う」

「了解しました」

「それと」

 私はラスナー中尉の耳元に顔を寄せて声を落とす。

「敵は共和国軍の特殊部隊で、ほとんどが南方人だ」

 そう言うとラスナー中尉がほんの少し固まった。

「戦死者に対して非礼がないように徹底させてくれ。作業隊だけでなく南方人の捕虜もいるのだ」

「承知しました。周知して徹底させます」

「頼む」

 敬礼を交わすと、ラスナー中尉は小走りで戻っていった。


 それから少しして、“オナガ”とゼーレン少尉たちが合流した。

 “タカ”の近くに止まった“オナガ”から降下猟兵と捕虜になった南方人が降車した。続いて側面ハッチが開き、布で右腕を吊った南方人が降下猟兵に支えられて降りてきた。2人は降下猟兵の下士官に促されて私に正対して整列した。

 その脇に立ったゼーレン少尉と敬礼を交わすと少尉が申告した。

「少佐殿、只今戻りました」カツン!

「ご苦労だった、少尉。成果もあったようだな」

 答礼して並んでいる2名の捕虜を見やりながら言うと

「はっ少佐殿。こちらに転進中に投降してきました。脱走してきたと言っています」

「ほう、脱走か」

 私が左手で顎を撫でながら2人の南方人に巡らせると、彼等の表情が硬くなり、ゼーレン少尉の口元が少し上がった。

「はい、少佐殿。指揮官の命令に服することが出来ないと言っております」

 ゼーレン少尉が続けて話した。

「なお、我が軍に志願したいとも言っております」

「ほう、志願かね・・」

 私は短く答えた。

『本当に我が軍に志願したいと思っているのかね?』

 私が2人に向かって共和国語で話すと、左側に立っていた南方人が一際背筋を伸ばして答えた。

『はい!仰るとおりであります!』

 すると続けて腕を吊った南方人も倣って背筋を伸ばした。

 私は細めた目を彼等の頭上に向け考える素振りを続けた。

『この後、私の上官が君達を尋問する。その後に処遇を決定する事になるだろう』

 低いトーンのままそう言うと、2人は緊張した面持ちのまま頷いた。

「ゼーレン少尉、負傷者は工兵部隊が連れてきた医療班へ。もう1人は監視を付けて休ませておけ」

「はっ、少佐殿!」

 ゼーレン少尉はきびきびと返事をすると、部下に命じて捕虜達を移動させた。

「少佐殿、やり過ぎでは?」

 後に残ったゼーレン少尉が口元を緩めながら言う。

「そうか? あれぐらいユーモアの範疇だろう?」

 私も同じ顔をして返した後、少尉と顔を合わせ小さく笑った。

 その後、ゼーレン少尉に飛行場のことを話した。

「なるほど、それが脱出方法でしたか、飛行場があったとは」

 ゼーレン少尉は繰り返し頷いて感心しているようだった。

「捕虜からの情報だが信頼できると考えている。それからもう1機に生存者がいるとすれば、他にも活動している部隊がいてもおかしくないと考えているのだが」

 私が憂慮している状況を話すと、ゼーレン少尉は小さく首を振りながら答えた。

「途中で発見した機体は横転して激しく損傷していました。生存が望める状態ではなく、中から脱出した痕跡もありませんでした」

「そうか」

 おそらくその機体にも余計な貨物が積まれていたに違いない。横転しているのであれば中は酷いことになっているだろう。

「そう言えば、散らばっていた残骸に混じってこれが落ちていました」

 そう言うと、ゼーレン少尉は胸ポケットから1枚の折りたたまれた紙を取り出して私に差し出してきた。受け取ってみると、どこかの貴族が作らせた便箋らしく、家紋の透かしがはいったその紙には

   “勇敢なる同胞、愛国の勇士へ

     共和国陸軍少佐 フェルディナン・D・ベドフォール”

と手書きで書かれていた。

 私は逃したことを後悔した男の名を知ったのだった。

 その名前を確実に記憶に刻み込むと、私は便箋を丁寧に折りたたんで自分の胸ポケットにしまった。

 何も言わずに見ていたゼーレン少尉に向き直ると

「ここに全隊が集結したら、飛行場を捜索する。なんとしても飛行機を確保したい、すでにパイロットはいるからな」

 再びゼーレン少尉が頷いた。

「はい、少佐殿」

「師団参謀のブリンクマン中佐が到着したら、状況と情報の共有と飛行場の捜索について打ち合わせる。その時に1個分隊出して貰う」

「了解しました」

「君の小隊に負担をかけて済まないと思っている。この作戦が終わったら特別手当を出すつもりだ」

 ゼーレン少尉が小さく驚いたあと、満面の笑みになった。

「何なりとお申し付けください、少佐殿」

「では、飛行場を探すときにヘルトマン軍曹の分隊を貸してくれ」

「お気に召しましたか」

「それもあるが、彼の分隊はお留守番だったろう。何事も平等でないとな」

 私が微笑みながら言うとゼーレン少尉も同じく笑顔で応じた。

「了解しました。それではお使いください」

「ありがとう。彼は警戒配置に就いている」

「承知しました。交代を出して待機させておきます」

「頼む。集結するまでは交代で休憩を取らせてくれ」

 ゼーレン少尉と敬礼を交わし、少尉は待機している部隊へ戻って行った。


 それから30分ほどして“カケス”と装甲指揮車、装甲小隊、野戦警察小隊がやって来て合流した。

 私は“タカ”の乗員を伝令に出して、各指揮官を装甲指揮車の横に集合するよう命じ、一足先に装甲指揮車へと向かった。

 指揮車に入り、中でブリンクマン中佐と敬礼を交わすと今後の流れについて話した。

「・・従って、再襲撃は不可能と判断して差し支えないと思われます。あとは機体と物資、遺体の回収と、飛行場の捜索に切り替えます」

「分かりました、そのとおり進めてください。飛行場の捜索はどのように?」

「装甲車2輛と降下猟兵1個分隊を使って私が実施します。それほど遠くないと思われますが、万が一の時はここの大型無線機が頼りになるでしょう、開局しておいていただけますか」

「分かりました」


 装甲指揮車の横に立つブリンクマン中佐の前に集合したのは私、工兵中隊長ラスナー中尉、降下猟兵小隊長ゼーレン少尉、野戦警察小隊長フルンツァー野戦警察少尉とルッペルト野戦警察少尉、装甲小隊長クライス少尉の6名だった。

 私がブリンクマン中佐に視線を送ると、中佐が頷いて了解したので口を開いた。

「諸君、補給処を襲撃した敵については、捕虜の情報から共和国軍のグライダー歩兵1個小隊、35名であることが判明している。これが2機のグライダーで侵入した訳だが、うち1機は見てのとおりでパイロット2名を含む19名のうち、12名が脱出したが現在まで8名が捕虜となり、中隊長の少佐を含む4名が依然所在不明となっている。もう1機は先程発見されたが、機体の状態から乗員は全員死亡していると思われる。以上の状況から今後、再度襲撃がある可能性は極めて低いと判断した。よって以後は警戒しつつ、敵が遺棄した物資と戦死者の遺体回収を行うこととする・・」

 私がラスナー中尉に作業の所要時間を確認すると、2機全部を回収するには明日の午後までかかるとの回答だった。

 そこで指揮下の部隊をラスナー中尉以下の回収部隊、クライス少尉以下装甲小隊と野戦警察の護衛部隊、私以下装甲車4輛とゼーレン少尉の降下猟兵小隊の警戒部隊に分け、護衛部隊は作業にあたる回収部隊の直近に配置し、その外周に警戒部隊を配置することにした。

「・・なお、現在地点を“アント”と呼称し、もう1機の現場を“ベルツ”と呼称する。クライス少尉」

「はっ」カツン!

 私が装甲小隊長を呼ぶと、黒色の装甲兵用野戦服を着用した将校が応えた。

「護衛部隊の配置については、ラスナー中尉と調整して行うように。必要があれば野戦警察から作業の補充要員を差し出すことも可とする」

「はっ、少佐殿!」カツン!!!

 クライス少尉の返答と同時にフルンツァー野戦警察少尉とルッペルト野戦警察少尉も応えた。

「ゼーレン少尉、君が指揮する2個分隊で地点“ベルツ”の警戒配置だ」

「はっ!」カツン!

「そして捕虜から得た情報によると、補給処の北方に我々が把握していない野戦飛行場が存在しているらしい。私は装甲車2輛と降下猟兵1個分隊で、この飛行場を捜索する。以上だ、質問は?」

 誰も答えない。

「よろしい、解散」

 私の合図で皆が戻っていくのを見送ると、ブリンクマン中佐に向き直った。

「中佐殿、部隊の補給についてテッタウ少佐と連絡を取りたいのですが」

「それは私がやっておきましょう。少佐は捜索を開始してください」

 私はブリンクマン中佐の申し出を受けることにした。

「了解しました、ではお願いします」

 そう言って敬礼を交わすと、装甲指揮車から離れて“タカ”へ向かった。

 “タカ”に着くと“カケス”の車長を呼び出し、この後捜索に出るので帯同するよう下命した。

 やがてヘルトマン軍曹の分隊がやって来た。

「少佐殿、ご命令により参りました」

「うむ、もう一度付き合ってもらう」

「はい、喜んでお供します少佐殿」

 笑顔で敬礼を送ってくるヘルトマン軍曹に私も笑顔で答礼を返す。

 そして野戦飛行場のことを説明した。

「おそらく偽装されているだろう。何か気がついたら直ぐに報告してくれ」

「了解しました。まずは滑走路ですね、開けている場所があればその周囲をよく見てみましょう」

「そうだな。今回は2台で出る、分隊を別けてくれ。すぐ出られるか?」

「はい、問題ありません」

「よし、もう1台が来たら出発する」

「はっ」

 ヘルトマン軍曹は短く答えると分隊へと戻った。

 そして、フィーラ軍属を含む乗員が乗車して待っていると、“カケス”がやって来て停車した。そこへ2個班に別れた分隊が跨乗し準備が整った。

 私はそれを確認すると垂直に伸ばした腕を上下に3回動かし、車内通話用のマイクを入れた。

[戦車、前へ]

 P型装甲車“タカ”のエンジンが始動してゆっくり動き出すと、同じく“カケス”が後に続いて動き出した。


某少佐「ずっと私のターン!」


某中将「・・・・・・」

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