24 グライダー
補給処「蜂の巣箱」西側の森林内
第100装甲大隊分遣隊 シュラーガー少佐
“タカ”に乗り込もうとして、ブリンクマン中佐への報告を思い出した。
(いるからには筋は通しておかないとな)
一旦待機を命じて、装甲指揮車に向かいながら考える。
(“カケス”を戻せばここに装甲1個小隊と野戦警察1個小隊、機体の位置に降下猟兵と野戦警察、それに回収班か・・。自衛だけなら問題はないと思うが)
先程フィーラ軍属が話した内容を考えると、念の為に魔物の襲撃も警戒した方が良さそうだ。
(指揮車と医療班が捕虜と一緒に補給処に戻れば兵力を集中できるんだが・・・)
ブリンクマン中佐が何と言うか。中佐は実戦経験が少ないので前線に出たい気持ちは分かる。だからと言って、私が進言すれば我を張ることもせずに補給処に戻ってくれるだろう。
しかし、考えようによっては貴重な実戦経験を積む機会でもある。例え兵力差が圧倒的で、交戦の機会がなくても、だ。
(・・よし)
私は決心すると装甲指揮車のドアをノックした。
車内にはブリンクマン中佐とコールローザー警察大尉がいて、ロートン少尉を尋問中だった。私が顔を出すと、ブリンクマン中佐が頷いて席を立った。
車外で敬礼を交わすと、機体を発見した事を報告した。
「中佐殿、私は降下猟兵分隊と先行します。医療班が収容した2名の捕虜と、残りの3名は野戦警察1個分隊を付けて師団司令部に後送します。それと南西に出した掃討部隊を指揮車を目標に戻しますので、合流したら装甲小隊も合わせて機体の位置まで追従して頂きたいのです」
その後にフィーラ軍属から聞いた森の話をした。
「・・直ちに脅威とはならないようですが、念の為に魔物に対する警戒が必要かと思います。ですので部隊を分散させずにまとめておきたいのです」
ブリンクマン中佐の表情は硬く、気分を悪くさせたかと少し思案したが
「分かりました。捕虜の後送はコールローザー大尉にやって貰います。戻ってきた野戦警察小隊と合流したらそちらに追従します。部隊の指揮はシュラーガー少佐の判断で結構です、状況と情報について報告だけお願いします」
思ったとおりの回答だったが、その後に声を落として
「やはり、あの骨はそういうことだったんですね・・・。大きな力・・、我々がここに来たことと関係がありそうですね」
「ええ、そう考えるのが自然だと思います」
しばしの沈黙の後、私と中佐は敬礼を交わして別れた。
私は“タカ”に戻ると装甲小隊長と“カケス”を呼び出して、予定範囲の掃討が終了したら指揮車の位置まで戻り装甲小隊の指揮下に入ること、合流した後に装甲指揮車を随伴して機体に位置に転進するよう下命した。
次に“オナガ”を呼び出し、掃討を中止して機体の位置へ転進し“キツツキ”と合流するよう下命した。
(これで抜かりはないな)
思わぬ上官の登場で調子が狂ったが、全体の流れはそう悪くない。
私は改めて“タカ”に乗車すると前進を命じた。“タカ”の車体にはヘルトマン軍曹以下の降下猟兵分隊とゼーレン少尉が付けた南方義勇兵が乗っている、というよりしがみついていた。それでも皆慣れた様子で車体のどこかしらを掴んでいて、危なげなく車体の揺れに身を任せていた。
「少佐殿」
いつものとおり砲塔のハッチに腰掛けて、コンパスを片手に北北西へ誘導している私にヘルトマン軍曹が声を掛けてきた。
「なんだ?」
「うちの南方義勇兵が捕虜の南方人と話したそうなんですが」
「なにか聞き出せたか」
前を見たまま尋ね返すと
「あの少尉は、良い人、だそうです」
「だろうな」
「それと、こちらでの南方人の扱いをしきりに聞かれたそうです」
「転向すると思うか」
「はい」
「あとでブリンクマン中佐に報告しておく」
「了解しました」
私の返答を聞いて、ヘルトマン軍曹は身を引いた。
(今回得た南方人捕虜の扱いは、南方義勇兵達に影響するだろう。まぁ、テッタウ少佐なら心配ないだろうが)
そう考えると、またあの笑顔が浮かんできた。
(まったく、物と人の扱いは天才だからな)
補給処に取り残されていた南方義勇兵達を受け入れるにあたって、待遇を考えなくてはならなかった。補給処に派遣されていた建設中隊の東方義勇兵は、帝国軍兵士なので待遇は正規兵と変わらない。だが同じ義勇兵なのに南方人だけ差があったら当然不満に思うだろう。
テッタウ少佐は躊躇することなく同じ待遇を約束したそうだ。食事はもちろん給与もだ。彼にそんな権限がないことは当の南方義勇兵も分かっていたが、彼等は金がなければ物資で払う、と言い切ったテッタウ少佐を信じた。
さらにテッタウ少佐は帝国兵に対して差別的な扱いを禁止し、違反者には懲罰を課した。
東方義勇兵たちも彼等の身の上に同情し、何くれとなく声を掛け、差し入れをするなどして率先して受け入れた。テッタウ少佐は両者の動きに心を砕き、彼等が集まっているところへ酒を振る舞うなどすることにより、両者はテッタウ少佐に心を寄せることになる。
テッタウ少佐は頃合いを見て南方義勇兵達を組織化し、仕事を割り振り、訓練を施して武装化を進め、言葉どおり帝国兵と同じ待遇を与えた。
そして、それを見ていた東方義勇兵達が黙っているはずがない。テッタウ少佐は彼等も同じように扱った。
(上層部に知られたらタダでは済まないはずだが、あの決断は真似できん)
当初私はテッタウ少佐の行動には積極的には関わらなかったが、大隊将兵にテッタウ少佐の指示を厳守させることだけはしておいた。
だが、大隊の編成が進むにつれて、より深く関わらざるを得なくなってきたのだ。
テッタウ少佐以下の補給処、特に整備工場の働きなしには編成が進まないのだ。そして整備工場で作業に従事する南方義勇兵達の働きは、確かに賞賛に値した。加えて補給処の警備にも義勇兵達は欠かせなかった。
こうして、テッタウ少佐によって補給処と私の大隊は“最高の状態”となり、それを維持していたのだった。
(彼に兵站を任せれば師団も最高の状態になるだろう。師団長閣下に意見具申しなくておかなくては)
装甲車の進路を誘導しながら、補給処と師団司令部がひとつになった時の事を考えていた。
樹林の中を進んで行くと、歩哨に立っている野戦警察官が見え、その向こうに木々の間に突っ込んで横たわっている機体と覚しきものが見えた。
近付いてみると、胴体はほぼ原型を留めていた。森の上に着陸する格好になり、翼は破損したものの胴体はうまく樹列の間に入り大破を逃れたようだった。
(運が良いのか、パイロットの腕が良いのか)
ただの筒になったグライダーを見ながらそう思った。その後方には主翼を始めとした残骸が散乱していた。
小隊長であろう野戦警察少尉が駆け寄ってきて敬礼した。
「少佐殿、フルンツァー野戦警察少尉であります」カツン!
「ご苦労、少尉。生存者はどうだ?」
「今のところおりません。遺体7体を確認、運び出しております」
ロートン少尉から聞いた人数と一致した。
「そうか。遺体は後で埋葬する、所持品を確認して書類の類いは回収して君が保管しておいてくれ。貨物は散らばっている物も回収してまとめたら歩哨を付けて、後から来る回収班に引き渡すんだ。周辺警戒は降下猟兵に引き継いで、全力で回収作業に当たってもらいたい、いいな」
「はっ、少佐殿!」カツン!
野戦警察少尉は踵を返すと走り去った。
ヘルトマン軍曹を振り返り
「軍曹、野戦警察と周辺警戒を交代だ。それと南方義勇兵は私の側に」
「はっ、少佐殿」
やり取りが終わるやいなや降下猟兵分隊はさっと装甲車から降車し、ヘルトマン軍曹の元に集合すると、指示を受けて散っていった。
私は無線手に現在位置を補給処に連絡させると、乗員には待機と警戒を命じ、フィーラ軍属には降車しても構わないが、装甲車から離れないよう命じて降車すると、残っていた南方義勇兵に共和国語で話しかけた。
『言葉はわかるかね?』
『はい、話せます』
『よろしい、付いてきてくれ』
『はい、少佐殿』
私は南方義勇兵を伴って、回収されて横たわっている遺体の列に向かって歩き始めた。側へ来ると損傷はそれほど酷くなかったが南方義勇兵は沈痛な面持ちになっていた。
『彼等は南方人で間違いないか』
『はい、そうです』
『なにか、君達の信仰で使う、祈りの言葉はあるかね』
『・・はい、少佐殿』
『ここは任せる、祈ってやってくれ』
『ありがとうございます、少佐殿』
南方義勇兵は礼を言うと略帽を取り、両膝を着いて両手を胸の上で重ねて頭を垂れると、小さな声で言葉を発し始めた。
それを見届けると静かにその場を離れ、集められている貨物の所へ向かった。
そこには長方形の木箱や厚手の布で作られた背嚢のようなバッグがあり、どれも暗緑色で塗装されていた。
積み上げられた木箱の側にフルンツァー野戦警察少尉と野戦警察官がいた。
「何か珍しい物はあるかね、少尉」
「は、少佐殿」カツン!
少尉は直立不動を取った後、蓋が開いた木箱から見覚えのある銃を取りだした。
「この銃は見たことがありません」
「ああ、ストーテン短機関銃だな」
「ご存じなのですか」
知ったかぶりをするつもりはないが仕方ない、先程仕入れた情報を披露することになった。
「グレーブリン王国製で各国に輸出販売しているそうだ。降下猟兵や特殊任務には重宝する銃だな」
「回収した遺体はそれぞれ武器を携帯しておりました。これは・・」
「ふむ、潜入するついでにレジスタンスへの梃子入れだろう」
「約20名の人員に加えてこれだけの物資を積んでいたとしたら、積載能力を越えていたのでは・・・」
フルンツァー野戦警察少尉が木箱やバッグを見渡しながら、信じられないといった表情で首を振った。
「欲張りが乗っていたんだろう。他には何がある?」
「はい、そのバッグに梱包爆薬が入っていました。爆破機材らしき物が入っている物もあります」
少尉は並べられたバッグを指さした。
「他には手榴弾、小型無線機があります」
「ここには歩哨を立てて、管理は厳重にやってくれ」
「はっ、少佐殿」カツン!
フルンツァー野戦警察少尉に答礼して離れると“タカ”に足を向けた。
(武装した1個小隊が使う量じゃない。あの少佐がやったことだろう)
会ったこともない男の事を考えていた。
(咄嗟に出たが、レジスタンスにいい顔しようとして積み込んだんじゃないか)
なんとなく、そんな考えが浮かぶ。
(ろくでもない事をやるのは、ろくでなしに決まっているからな)
心の中で毒づきながら、逃してしまった事を後悔した。
同時に木箱に詰められたストーテン短機関銃を思い出すと
(あれをこちらで頂くことはできないかな。車載武器にちょうど良いんだが)
帝国軍では戦車や装甲車の乗員である装甲兵には、階級に関係なく護身用に拳銃が支給されている。それに加えて帝国軍の戦車には車載の武装として短機関銃が2丁配分になっているが、共和国軍の戦車にはない。戦車の副武装として備え付けられている機関銃を取り外して使用することもできるが、扱いやすいとは言い難かった。
そもそも拳銃弾を使用する短機関銃が魔物に通用するかどうかは分からないが、どうしてもフィーラ軍属が言っていたこの森のことが気になっていた。
故障に伴う修理や放棄して脱出する時など、車外に出なくてはならない状況の時に、短機関銃が1丁でもあれば装甲兵達の心理的な負担を軽くすることができるだろう。
(だが、数が大隊に配分するには少ないな。やはり降下猟兵に割り当てるのが順当という事になるか)
戦利品という考えから大隊に装備できないかと考えてみたが、どうも上手くいきそうにないので早々に考えを切り替えることにした。
(森のことを報告したうえで、車載の武装についてテッタウ少佐に相談してみるか。彼ならなんとかしてくるだろう)
そう考えて、この件は先送りすることにした。
私が“タカ”に戻ると無線手から、回収班が補給処を出発したという報告と、“カケス”が予定通り合流し、こちらに向かって出発したという報告を受けた。
(回収班が到着すればここの作業は捗るが、もう1機を探さなくてはならん。それと野戦飛行場もだ)
ブリンクマン中佐が言っていた内容だと、この近くに我々が未発見のまま放置されている野戦飛行場があり、そこにある航空機で脱出する計画だったらしい。
(飛べる機体なら、なんとしても確保したい。空からの支援は非常に大きな力になるはずだ)
操縦できるかどうかは分からないが、パイロットはこちらにもいるのだ。
(飛行機はド素人だが、そんなに違いはないだろう。現に我々は戦車を運用しているのだからな)
私はヴィークマン中尉とラープ少尉を思い出しながら完璧な答えを導き出していた。




