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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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21/83

21 捕虜

補給処「蜂の巣箱」西側の森林内

第800特別教導連隊第9中隊第3小隊 ゼーレン少尉


 捕捉した目標の監視を継続したまま、夜が明けた。

 今頃、増援部隊が出発している頃だろう。こちらからも誘導の為に部隊から1人を後方に下げて待機させてある。

 すでに段取りは済ませてあった。

 逃げようとすれば銃を突き付けて降伏を促すし、隠れているのであればそのまま囲んで降伏を促す。

 もし、抵抗するようなら三方から銃撃と手榴弾で始末する。

 増援部隊は、敵の本隊が近くに居た場合の保険だ。

 だが、彼等を迎えに来る者はいなかった。彼等もわざと本隊から離れた位置に逃げたのかも知れない。

(この状況で負傷者を連れて歩くってのが分からん。こんな所に乗り込んで来る連中なら分かってると思うんだが)

 軽傷ならともかく、出血量からすると深手を負っているはずだ。

 特殊作戦に従事する要員としての教育内容は、国を問わずそれほど変わらないはずだと思っている。

 最優先事項は任務遂行、もちろん余力があれば負傷者は回収して連れて帰る。

 今捕捉している連中は余力が無いように思えるのだが、負傷者を連れて行動しているというところが腑に落ちない。

(だから、もしかして余力があるんじゃないかと疑っているんだが)

 その余力とは本隊のことで、迎えに来るのではないかと考えたのだ。

 そうだとしたら、ここで一気に殲滅できる。

 だが、迎えは来なかった。

(もうこうなったら仕方ない。ここにいる連中を片付けるほかない)

 俺が腕時計を見ると、時刻は午前4時36分だった。



補給処「蜂の巣箱」西側の森林内

第100装甲大隊分遣隊 シュラーガー少佐


 森の中を低速で進むP型装甲車の砲塔ハッチに腰掛けて、周囲を確認しながら進んで行く。

 森の地表に多少の凹凸があり、装甲車が揺れるが気になるほどではない。

(こいつは車高から高いから見晴らしはいい。横転に注意といっていたが、心配するほどではないな。地形次第だから下草が濃いと油断はできんが)

 P型装甲車を採用したときの注意点を思い出していた。

 中型兵員車にしようかとも思ったが、敵本隊と接触した場合に単なる輸送車では防御に問題があると考えて装甲車にした。

 落下傘歩兵、我が軍の降下猟兵と同じであると考えれば、携帯している銃は短機関銃や軽機関銃などの自動火器が多く配備されていて高火力である可能性が高い。

 だが、その代わりに対戦車兵器は無いに等しいだろう。

(せいぜい梱包爆薬ぐらいだろう)

 そう考えながら砲塔の天蓋を人差し指でトントンと叩いた。


 この装甲車、共和国パナード社製ASM37装甲偵察車―通称P型装甲車を私は気に入っていた。

 P型装甲車の装甲は、前面なら13ミリ以下の火器には耐久でき、搭載されている25ミリ機関砲は強力で命中精度も良かった。

 強力なエンジンと大きな車輪を備えているため路外走行性能も良好、ただ車高の高さから路外走行時における横転の危険性が指摘されたが、車幅が確保されていることから特に深刻な問題ではないと判断していた。

 他に注意すべき点としては、側面が垂直で面積が広いことから戦闘時に被弾しやすいことぐらいで、総合的な性能は我が軍の同クラスの装甲車よりも優れていると考えていた。

(間違っても公式には帝国軍の装甲車よりも優秀、とはならないがな)

 そこは配慮が必要なのは、無論理解できる。


 なんにせよ今保有している機材の中で、今回のような戦力として弱体な敵に対する掃討戦には最適と言えた。

(歩兵を制圧する機銃が搭載砲の同軸しかないのがいまひとつだが、今回は随伴歩兵の援護もあるし、圧倒的な火力と兵力で威圧して穏便に済ませたいものだ)

 捕虜を取るということは情報源を手に入れるということ、敵の目的、規模、装備を把握分析して、今後も掃討作戦を継続する必要があるのか、放置しても影響がないのかを見極めるということだ。

 これは師団の今後に大きな影響を及ぼすことになる。

(相手は精鋭部隊だからな、ゲリラ戦など始められたら時間と兵力と物資、そして血をどれだけ浪費することになるか)

 元の世界において、補給処の周辺は機密保持のため住民は疎開させられていたので、血生臭い治安活動は発生しなかったが、時折ラジオニュースで流れてくる他戦区における“治安部隊のめざましい戦果”には、決して数字では表せない現実が存在していることは、前線である程度の期間を過ごした将兵なら理解していた。

(ただ、ここには味方になり得る住民がいないからそういう事にはならんだろうが、心配の芽は摘み取っておきたい)

 そんな事を考えながら木々の間を縫うように進んで行くと、前方の木の陰から人影が現れ、右手に短機関銃を掲げながら左腕を横にして掌が見えるように上下に振り始めた。

[止まれ]

 私が車内通話用のマイクで命令すると装甲車はゆっくりと止まり、後続の車列も続いて止まった。

「少佐殿、小隊の隊員です」

 後部に跨乗していた降下猟兵の曹長が耳打ちしてきた。

「よし、呼んでくれ」

 私がそう言うと、曹長が何か手信号のような合図を送って人影を呼び寄せた。

「小隊長殿は11時の方向、150メートルの地点で待機しています。敵はそこから20メートルほどの所にいます」

 草を身に纏って偽装した降下猟兵伍長が装甲車上の私と曹長に向かって報告した。

「このまま前進して接敵すればいいのか?」

「はっ、少佐殿。部隊が接近して敵が動いたところをやる、とのことであります」

「了解した。曹長」

「はっ。降車します」

「うむ、車輌は左右へ展開させる。車間距離30メートル」

「了解しました。車輌の間に展開させます」

 曹長が後続の車列に向かって合図を送ると、跨乗していた降下猟兵達が素早く降車して、装甲車の後方に集まる。

 私は近距離用無線機のマイクを入れた。

[“タカ”から各車へ。偶数番号は右へ、奇数番号は左へ、車間距離30メートル。目標は11時の方向、約180メートル。以上]

[“カケス”受信了解]

[“キツツキ”受信了解]

[“オナガ”受信了解]

 全車からの了解返信を受けると、私は最後尾の車輌を呼び出した。

[“タカ”から“オナガ”] 

[“オナガ”受信]

[君はこちらの射線に注意しながら右翼を迂回して目標の西側に出ろ。退路の遮断と西と北への警戒だ]

[“オナガ”了解]

[“タカ”から“カケス”へ、そちらは左翼を進んで西と南を警戒しろ]

[“カケス”受信了解]

 近くに居るかも知れない敵本隊への警戒はおざなりにはできない。

[よろしい、 戦車前へ]

 私が乗車する装甲車がエンジンを吹かして前進を始めると、後続車両が同じく排気煙を上げながら左右に展開していく。

降下猟兵達は4,5人のグループに分かれて車輌の間に移動して展開する。

 私は念の為、砲塔の天蓋に身を伏せて前方を伺っていた。

(さて、どう出るかな)

 舌舐めずりをするような感覚を覚えながら、前方を見据えていた。


 5分後、180メートルほど進んだところで、2名の共和国軍人が両手を頭の後ろで組んで降下猟兵の身体検査を受けている現場に到着した。

(・・・・・・・・・・・何も無し、か)

 望んでいた最良の結果ではあるが、別の展開を求めていたのは否定できない。

[“タカ”から“オナガ”、“カケス”へ、目標は確保された。そのまま警戒せよ]

[“オナガ”受信了解]

[“カケス”受信了解]

(やむを得んな)

 あきらめて装甲車から降りると、降下猟兵少尉が近づいてきて敬礼した。

「降下猟兵第3小隊、ゼーレン少尉であります」

「シュラーガー少佐だ。大人しく降伏したのか」

 答礼しながら2名の共和国軍人を見てみると、1名は純粋な共和国人で、もう1名は南方人だった。

「はい、意外でした。共和国軍の落下傘歩兵です」

ゼーレン少尉はそう言いながら持っていた短機関銃を見せてきた。

 それは初めて見る銃で、鉄パイプを繋ぎ合わせたような簡易的な作りの短機関銃だった。

「それは?」

「ストーテンMkⅡ、グレーブリン王国のストーテン社が製造販売している短機関銃です。」

「軽そうだが、使えるのか?」

「はい。弾倉が横付けなので装弾不良が起きやすいですが、そこを改良した物を我が軍でも極一部で使用しています」

 ゼーレン少尉がニヤリとしながら答え、私も含み笑いでそれに答えた。

「扱いに慣れているなら君が使い給え。負傷者はいるのか?」

「はい、1人います。肩を負傷していて、いま衛生兵が手当をしていますが、かなり出血しています」

「安全が確保できれば救急車を呼ぼう。掃討作戦は継続する」

「はっ、ここから追跡を継続します」

「装甲車は?」

「待機していただければ。必要があれば呼びます」

「分かった、全部連れて行くか?」

「衛生兵と1個分隊、あと義勇兵を1人残します」

「そうしてくれ。ここで君の支援と捕虜の後送を手配する。それと無線の調整だな、私が乗ってきた装甲車が指揮所になる無線手と段取りを組んでくれ」

「了解」

 ゼーレン少尉は敬礼して離れると、下士官と無線手を呼んで何事か話すと部下達を集合させ始めた。

 私は降下猟兵が監視している共和国軍の精鋭、落下傘歩兵たちに視線を移した。

薄茶色を基本に濃茶と薄緑色の迷彩柄が施されたジャケットを着て、黒革の編上靴を履いている。降下猟兵の足下には腰回りの装備を付けたベルトと偽装網を付けたヘルメットが転がっていた。

 衛生兵の手当を受けているのはあどけなさが残る若い南方人で、苦しげな表情の中から怯えるような瞳で私を見上げていた。

 残りの2人も私に視線を向けていたが、その顔つきは汚れてはいるものの敗残兵のそれではなかった。

 怒りでも失望でもない、やるべきことをやった、そんな心情が見て取れた。

(やはりただの兵隊ではないな)

 そう思いながら、共和国人に向かって話しかけた。

「帝国陸軍バルトレン・シュラーガー少佐だ」

すると、彼はさっと姿勢を正すと敬礼をして帝国語で答えた。

「共和国陸軍アンドレ・ロートン少尉であります」

 申告する少尉の隣で南方人の兵士も姿勢を正し私に注目したので、私はロートン少尉に対して答礼するとそのまま彼に視線を合わせ、そこで右手を下ろした。

「帝国語が話せるのは助かるな。楽にしてくれ」

 私がそう言うと少尉も右手を下ろし、隣の兵士に向かって南方語で何かを伝えたが彼は姿勢を崩さなかった。

「さて、ロートン少尉。私の質問に答えて頂きたいのだが、どうかな?」

「自分は、大陸陸戦協定の遵守を求めるものであります」

 ロートン少尉は私の目を見てはっきりと言った。

 大陸に存在する国家間で協議によって定められた大陸陸戦協定では、捕虜は氏名と階級、認識番号を答える義務を定めているが、所属部隊など軍事情報を答える義務はない。

「だろうな。・・君は貴族かね? それも軍事機密かな?」

「は、男爵家の三男です」

「なるほど。この2名は南方人だが君の部下なのか?」

「はい、少佐殿」

「共和国軍の落下傘歩兵に南方人がいるとは初耳だったよ」

「・・・・・・・」

 ロートン少尉が俯いた。

「少尉、装備を見れば言われなくてもそれぐらいは分かる。しかし、なぜ負傷者を見捨てなかったのか、それが分からない。 置いていけば逃げ切れたんじゃないか?」

「自分の部下ですので、できませんでした」

「ほう、君のような共和国貴族もいる、ということか」

「・・・自分は南大陸で働いておりましたので」

「うむ・・」

 南大陸に領地を持つ貴族ということだろうか、ロートン少尉が答えを濁しているのは分かった。

(やはり補給処に連行して尋問しないと駄目だな。こちらの南方人には南方義勇兵を当ててやれば喋るかもしれん)

ロートン少尉の隣に立つ南方人は離れて立っている南方義勇兵が気になっているようだった。

「少尉、ひとつだけ答えて貰いたい、ここの周囲に君達以外の共和国軍がいるのかどうかだ。・・いないのであれば、この負傷者を収容するために医療班と救急車を呼ぶ。いるのであれば戦車部隊を呼ぶ、どうだ?」

 私が声を落としてゆっくり話すと、ロートン少尉は若干緊張の度合いを増した様子で答えた。

「この近くにはおりません。おそらく西に移動していると思います」

「そうか、やはり本隊がいるのだな」

「・・・・・・」

「わかった、それならば救急車を呼ぶ。君達にも移動して貰うことになる、それまで待っていてくれ」

「は、少佐殿」

 ロートン少尉が静かに答えた。

 私は側で待機していた降下猟兵の軍曹に捕虜の監視と周囲の警戒を指示しすると、その場を離れて装甲車“タカ”に戻った。 

 “タカ”の側面ハッチを開けてこちらの様子を見ていた無線手に、補給処を呼び出すように命じた。

「“蜂の巣箱”が出ました」

 そう言いながら無線手が渡してきた通話マイクを受け取ると、これまでの経過と作戦の進捗状況、そして捕虜の移送に関する手配を依頼した。

[了解した。増援の必要はいかが?]

[歩兵1個小隊を乞う]

[了解。1個小隊送る]

[以上]

 通話を終えてマイクを無線手に戻し、捕虜の場所へ戻ろうとした時、無線から声が流れてきた。

[“トカゲ”から“タカ”]

「少佐殿、追跡班からです」

 無線手が離れようとした私を呼び止めた。

 私がすぐに戻ると

[新たな捕虜を3人確保した。2人はパイロットらしい、いずれも負傷している、1人は歩行不能。もう1人は歩兵で重傷だ。指示を乞う]

「捕虜?」

 思わず声に出てしまった。

(見捨てずに連れて歩く奴がいるかと思えば、見捨てる奴もいるのか。しかもパイロットだと?)

 私は一瞬考えを巡らすと、通話マイクを受け取り命令を下した。

[“タカ”から“トカゲ”、迎えを寄越してくれ、応援を向ける。合流したら追跡を継続せよ]

[了解、以上]

 通話が終わると無線手に、“オナガ”を追跡班の応援に向かわせること、補給処に増援部隊に1個小隊追加を要請するよう指示すると、装甲車を離れロートン少尉の元へ向かった。

「ロートン少尉」

 座り込んでいたロートン少尉が近づいてきた私を見て立ち上がった。

「追跡隊が新たな捕虜を3名得たそうだ。1名は歩行不能でもう1名は重傷だそうだが、君の部隊は友軍の扱いにかなり温度差があるようだな」

 少尉は唇を強く結んだまま黙っていた。

「どうなんだ、他にも置き去りにされている共和国軍人がいるのか?」

 私は少尉に詰め寄った。

「わかっていると思うが、ここは我々が居た世界とは違うぞ。ここは共和国東部の森の中じゃない、正体不明の生き物が跳梁している異世界の森なんだ、戦えない者が放置されたら、本当に食われるかもしれんぞ」

 多少の誇張を混ぜて少尉を揺さぶってみると、効き目はあったらしく少尉が上げた顔にはハッとした表情が現れていた。

「どう考えても君の部隊は作戦に失敗した、勿論それは君の責任ではない。そして本隊は負傷者を見捨てて逃走している。であれば残された君は見捨てられた部下を救うべきではないのかね」

 私は声を和らげて続ける。

「ここにはリュティヒス帝国もヴェスタール共和国もないんだ、君は部下以外の何に対して義務を果たすというのかね」

 ロートン少尉の表情は苦悶に満ちていた。

(いきなりこんな事を言われても混乱するだけだろう・・、そこが狙い目だ)

 私も冷酷と温情が入り交じったような表情で少尉に畳み掛ける。

「この状況を鑑みるなら、残りの共和国軍は脅威になり得ないと判断して、追跡を打ち切るのが妥当だと私は考えている。燃料の補給が途絶えているので無駄遣いはできないのだ。継続するかどうかは君次第だ、少尉」

 私がそう言うと、ロートン少尉が口を開いた。


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