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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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20/83

20 出動

 20


 補給処「蜂の巣箱」西側の森林内

 第800特別教導連隊第9中隊第3小隊 ゼーレン少尉


 俺と小隊の第1分隊の8人と、負傷した同胞の仇を取りたいと追跡を志願してきた3人の南方義勇兵を加えた11人の追跡班は、補給処の西側へ移動して襲撃を受けた場所から敵の発砲地点を特定すると、そこから足跡を追って森の中を西へと進んだ。


 腰を落とし、片膝をついたまま待機している俺の前方で、3人の南方義勇兵たちがなにやら小声で相談している。俺の後ろには7人の部下達が前後左右を警戒しながら無言で待機していた。

 夜間の戦闘行動は、二ヶ月前にフリーデンタール演習場で行った訓練以来だった。

 森の植生はかなり違っているが、部下達は訓練通り落ち着いて行動している。

 濃い枝葉のせいで月明かりは殆ど入ってこないが、それでも森の中は漆黒の闇というほどではなく、眼が慣れてくれば仄暗い視界の中に動く物ぐらいは識別できる。

 南方義勇兵のうち1人が腰をかがめた低い姿勢のまま素早く俺の所に戻ってきた。

 足音は殆ど聞こえない。

 俺も含めて小隊、いや中隊の中で彼と同じように森林の中を移動できる奴はおそらくいないだろう。

 警備隊に所属し、臨時に伍長に任じられているその義勇兵は、俺の目の前に来ると膝をつき顔を寄せてきた。

『しょういドノ。あしあとハ、みっつ。たくさん、つかれるマス。ちモたくさん、あるマス。ここデやすむ、ふたりハひとり、たすける、にしニにげマス』

 たどたどしい共和国語で静かに報告する義勇兵の瞳がギラギラと光っているように見えた。

(獲物を追う狩人の眼だな)

 そう思いながら俺は静かに頷いた。

『追いかける、できる』

『ハイ。ひとりハあしあと、おいかける、ひとりハみぎ、ひとりハひだり、みはる』

『わかった。5メートル、後ろ、行く』

 俺が分かりやすいようにぶつ切りにした共和国語で答えると

『ハイ』

 義勇兵伍長は頷くと、来たときと同じように仲間のところに戻っていった。

 やがて、三つの影が静かに動き出すと、俺は後ろに向かって前進の合図を送り、義勇兵達に続いて前進を開始した。


 それから200メートルほど進んだだろうか、影が動きを止めたので俺も停止合図を出した。

 影の動きを注視していると、ゆっくりと姿勢が低くなってそのまま下草に溶け込んでしまった。

(なにか見つけたか)

 その意味を悟ると、すぐ後ろにいたツェンダー軍曹を舌打ちの合図で呼び寄せ

「なにか見つけたようだ。即応体制のまま周辺警戒」

 ツェンダー軍曹は黙ったまま頷くと、俺の命令を後ろへと伝えていく。すると隊列から1人ずつ左右へ移動して側方警戒へ就く。

(よし、いつもどおりだな)

 俺は部下の動きに満足すると、意識を前方に戻した。

 3人の義勇兵達は全く動かず、その影も気配も分からなかった。

(3人のうち1人が重傷らしいから休んでいるのを見つけたか。気配を伺っているようだが)

 そのまま様子を覗っていると、伍長が静かに近付いてきた。

『こえハ、きこえマス。たぶん、やすんでいる、マス』

『場所は分かるか?』

『このさき、20めーとる、たぶん』

『わかった、見張る、ずっと。動く、俺に教える』

『ハイ、しょういドノ』

 伍長は戻っていった。

(とは言え、夜明けまでまだかなり時間があるな。負傷者を抱えているうちは動きが鈍いだろうが、死んだら移動が早くなる。俺たちは風下だし、今のうちに囲むか)

 俺はそう考えながらツェンダー軍曹を呼んだ。

「目標はこの先で休憩しているらしい。位置を確認して、左右へ2人ずつ出せ。目標の風上に出ないように注意しろ」

 ツェンダー軍曹は無言で頷くと後ろへ下がり、俺の命令を下達するために部下達を集め始めた。その間に俺は無線手を呼んで、補給処に状況と位置を報告させることにした。



 補給処「蜂の巣箱」

 第91歩兵師団司令部主任参謀 ブリンクマン中佐


「ブリンクマン中佐殿、追跡班から報告です。捕捉に成功したそうで、現在は動向を監視中。人数は変わらず3人と思われる、うち1人は負傷、かなり出血しているようです。日の出に合わせて増援部隊の派遣を求めるそうです、合図を寄越すと言っています」

 テッタウ少佐がキャンドルランプの明かりで照らしたメモを見ながら報告してきた。

「この暗闇の中で発見するとは凄い」

 私は改めて彼等の能力の高さに感心した。

「位置は?」

 装甲大隊本部からやって来たクレーライン中尉と話していたシュラーガー少佐が静かに尋ねた。

「ここの西方、約500メートルの地点だそうです。負傷者を抱えているせいで動けないのでしょうな」

「発見されたのであれば任務は失敗、離脱を優先するべきだが、負傷者を見捨てない理由はなんだ?」

 シュラーガー少佐が誰にともなく疑問を口にした。

「・・・戦友だから・・?」

「それで部隊が捕捉されて全滅しても?」

 テッタウ少佐の答えにシュラーガー少佐の返しが追い打つ。

「確かに・・」

 私もテッタウ少佐も返す言葉がない、現に捕捉されているのだ。

「部隊の位置には戻らないかもしれませんな」

 シュラーガー少佐が続けた。

 その言葉を聞いて考え込んでしまった。

(今後を考えると、ここで殲滅しておきたいのだが) 

 シュラーガー少佐も眉間に皺を寄せて考え込んでいた。

「その覚悟があるのに、なぜ負傷者を見捨てないのか。連れて帰っても衛生兵の応急処置が関の山だろう・・・」

 しばし沈黙した後

「中佐殿、負傷者は指揮官、高級将校かもしれませんな」

 シュラーガー少佐の言葉に私とテッタウ少佐が顔を見合わせた。

「なるほど、その可能性は充分あり得ますね」

 テッタウ少佐もうんうんと頷いている。

「明るくなり次第、装甲車4台に降下猟兵小隊の残りを跨乗させて出発します」

「分かりました。捕虜の件については先程のとおり、責任は私が取ります」

「承知しました」

 答えるシュラーガー少佐の双眼は爛々と輝いていて、闘志が漲っているのがよく分かる。

 相手を共和国軍の精鋭部隊と予想しているからだろう。

 隣に立っているクレーライン中尉もなかなかの面構えで、将校としてはシュラーガー少佐と同じタイプらしい。

 シュラーガー少佐は自分がいない間の大隊長代理に、第1中隊長のバルクマン大尉ではなくクレーライン中尉を指名しているそうだ。

(バルクマン大尉はじめ、皆が納得しているということなんだろう)

 そう思いながらクレーライン中尉を見た。

 歳はシュラーガー少佐よりは若いがその目つきは鋭く、一級、二級黒十字章、装甲兵突撃章銅章、戦傷章を佩用していた。

(彼も歴戦の装甲兵か。臨時に編成された部隊にしては経験豊富な将兵が多いんじゃないか)


 およそ、壊滅した部隊の残余と鹵獲兵器をもって臨時に編成された部隊と聞けば、戦線後方の警備か治安維持が主たる任務の二級戦部隊だと誰もが思うだろう。

 しかし、第100装甲大隊が使用している共和国軍の装備、例えばS型、H型戦車は帝国軍の戦車と比べて、速度を犠牲にして装甲を厚くしているのが特徴であり、搭載砲の威力でやや劣る他は帝国軍の新型戦車Ⅳ型と比較しても性能に遜色はなく、数で言えば共和国軍の主力戦車である。

 その他の装備も帝国軍とほぼ同じレベルにあり、機械化と充足率では帝国軍でもまずお目にかかれない非常に贅沢な編成になっていた。

 装備が整っているのであれば、部隊としての戦力を決定する要素はそれら兵器を操る兵士の経験値なのだが、大隊は第4装甲旅団の残余兵員を中心に既存の装甲部隊から引き抜いた兵員と補充兵で編成されており、戦闘経験がない新兵の割合はかなり低かった。

 大隊という部隊規模に対して編成の基幹兵力がまとまっていたことと、ホーフェンベルグ中将と第7軍司令部の後押しのおかげで、第100装甲大隊は編成が完結した時点で充分な戦力を備えており、完結した後はシュラーガー少佐の不断の努力の甲斐あって、大隊は精鋭と呼ぶにふさわしい陣容となっていた。

 そもそもの第4装甲旅団にしても開戦の1年前に新規に編成された部隊だったが、編成にあたっては既存の装甲部隊から中隊、小隊単位で抽出した部隊に若干の補充兵を加えて編成されたため、旅団として実戦に参加していないものの実戦経験がある兵員が多く、陸軍司令部でも高い戦闘能力を有する部隊として評価されていた。

 このことが、実戦経験がない旅団長の部隊への過信となり、フォントノアに繋がっていったのである。


 シュラーガー少佐とクレーライン中尉は小声でなにやら話していた。

 第100装甲大隊が編成されたいきさつは詳しくは知らないが、いずれにせよ大隊が師団の戦力として最も強力であり、頼もしいことには変わりはない。

(教育補充部隊だったら警戒任務がせいぜい、というところだな)

 軍司令部直轄部隊といえば精鋭か特殊な装備や技術を持つ部隊が多いが、そうではない部隊が置かれていることはあった。

 師団にシュラーガー少佐と第100装甲大隊が与えられたことに感謝していると、ふと椅子にちょこんと座っているフィーラに視線がいった。

 その事に気がついたシュラーガー少佐も思い出したようにフィーラを見ると声を掛けた。

「フィーラ軍属、一緒に来るかね?」

「はい、私はその為に参りました」

シュラーガー少佐が無言で許可を求めてきたので、頷いて承知した。

「よろしい、私と同じ車輌に乗り給え」

「承知いたしました、シュラーガー少佐殿」

 フィーラは座ったまましっかりとシュラーガー少佐を見上げて答えた。

 キャンドルランプの灯りに照らされたシュラーガー少佐の相貌は、かなりの迫力を備えているのに大したものだと感心してしまう。

 それに加えてクレーライン中尉も立ったまま見下ろしていたが、この2人がいる部隊に付いて行こうと言うのだから、フィーラの勇気は賞賛されるべきだろう。もしかしたらダークエルフとは戦闘的で誇り高い種族なのかも知れない。

 私が感銘を覚えつつ改めてフィーラに視線を送ると、・・・両膝が小さく震えていた。

 この事に誰か気がついているのかと確認の為に視線を巡らしてみた。

 シュラーガー少佐とクレーライン中尉は一度視線を合わせると、何事もなかったかのように小声での会話を再開し、テッタウ少佐は机の上にあった書類を手に取り眺めていた。

 ここは気がつかない方が宜しいと判断した私は、テッタウ少佐が眺めている書類に興味がある態を装い、フィーラから視線を外した。

(いや、むしろその反応が普通なんだ。それでも君は立派だぞ、フィーラ軍属)

 私は心の中でフィーラへの援護射撃を惜しまなかった。

 笑うに笑えぬしばしの時間をやり過ごした後、配食された軽い食事とコーヒーを済ませてからは、黙ったまま夜明けを待った。


 そして、

「そろそろ明るくなってきました」

 クレーライン中尉が事務所の窓を覆っていた遮光カーテンを捲って告げた。

 私が腕時計を確認すると、時刻は午前4時ちょうどだった。

「時間の流れは同じですね」

「混乱が少なくてなによりです」

 私がそう言うと、シュラーガー少佐が同意した。


 この世界に来てから時刻について確認を実施してきたが、日の出から日の入りと次の日の出まで、つまり1日の時間は元の世界とほぼ同じであった。

 まだ5日間しか過ごしていないので、まだなんとも、というところであるが、今のところは暦を気にしている暇はない。

 我々は未だに自分達が置かれた状況、この世界を把握できていないのだ。

 今まで得てきた経験や知識が通用するのかどうかが分からない以上、常に不安がつきまとい、その状態で差し迫った事態を処理していくしかない。

(まずはこの敵を排除して、それからだ)

 あれこれと思い浮かんでくる事柄をどこかへ押しやると、背もたれに背中を預けた。

(早く落ち着いて、休みが欲しい。・・兵達も同じだろうな、休養について師団長閣下に具申しよう。補給関係が滞らないように調整しないと・・)

 結局考え事を始めてしまったその時

「中佐殿、きました。追跡隊から合図です」

 無線機に付きっきりになっていたテッタウ少佐が足早にやってきた。

 私が椅子から立ち上がるのより早く、シュラーガー少佐とクレーライン中尉が立ち上がった。

「中佐殿、出ます!」カツン!

 直立不動を取ったシュラーガー少佐に答礼を返しながら

「願います。お気を付けて」

「ありがとうございます。フィーラ軍属、いいか?」

「はい、少佐殿」

 引き締まった表情で答えたフィーラを見たシュラーガー少佐は満足そうに微笑むと事務所のドアを開けた。

「さあ、仕事の時間だ。給料分の仕事をしようじゃないか、今日は天気も良さそうだし、最高の気分だ」

 シュラーガー少佐の声は、未だかつて聞いたことがないほど自信と喜びに満ちあふれていた。


 ついに20話になりました。読んでくださっている皆様にお礼を申し上げます。

書き始めたときは、20話までにPVってのが1000超えるかなぁなんて思っていたのですが、すでに3000超えてて驚いています。

 自分で読み返しても、なんか荒い文章だなぁと思うほどなので読みづらいかと思いますが、よろしければ暇つぶしにどうぞ。


 ここで設定について少し。年代は1940年前後、帝国はドイツ、共和国はフランスをイメージしています。その辺が好きなミリオタですので、嗜好を全開にして書いています。三号戦車を出せなくしてしまったのは痛恨事でした。

 兵站について一応考えていますが、素人なのでおかしいところがあると思いますがスルーしてください。気にし始めると書けなくなってしまうので、あえて浅く調べて「このくらいでいいかぁ」というところで書いています。

 書きながら色々と決めているので投稿が遅れがちですが、自分が楽しめることを優先して書くことにしていますので、ご理解いただければと思います。

それでは、これで失礼します。


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