17 反逆罪
第91歩兵師団司令部
師団長 ホーフェンベルグ中将
サレーラ達とエルドマン大尉、フィルカザーム大尉を交えて、資金調達と情報収集の為の行動について話していると、司令部のドアがノックされた。
応答するとギュールス大尉が入ってきて、連絡道路がまもなく丘に到達するという報告と、補給処からの指揮伺いだった。
「指揮伺い?」
ブリンクマン中佐が言うには、捜索は小規模で継続されていてシュラーガー少佐に一任しているという。
渡されたメモを開いて見ると、内容はあまりよろしくないものだった。
「新たに海軍の一部隊を発見したが、その中にいる法務大佐が私に面会を求めているそうだ」
「・・面会ですか」
「おおかた、目の前の現実よりも軍令法規の尊重を求めているんだろう」
私の言葉にブリンクマン中佐は黙ったまま頷き、エルドマン大尉とフィルカザーム大尉はにやりと笑った。
(立場上はっきりと言葉にはできないが、どうにも好きになれん。とは言え会わない訳にもいかないな)
私はしばし考えてから
「ギュールス大尉、法務大佐の他、海軍の指揮官もこちらに来るように伝えてくれ給え。それと補給処の指揮官もだ」
「はっ、閣下」カツン!
ギュールス大尉が退出した後、私はブリンクマン中佐に向き直った。
「いい機会だから顔を合わせておこう。各大隊長を集めてくれ」
「了解致しました、師団長閣下」
それからしばらく経って、集まった大隊長達にサレーラ達を紹介し、軍属として採用したことを知らせた。
皆あっけにとられた顔をしていたが、サレーラ達ダークエルフという種族の存在についてなのか、軍属として採用したことについてなのかは分からなかったが、ブリンクマン中佐からの説明を聞いた後は、彼女達がいることの重要性を理解したらしく、進んでサレーラ達に自己紹介をしながら握手を求めていた。
師団長としては、師団司令部の幕僚たる彼等が将校としてだけでなく、深い受容を備えた優れた人間であることに安堵した。
相互理解が一段落したところで、各大隊長に対して今後を考えて師団司令部を強化する必要がある事を説明し、その第一段階として降下猟兵中隊の第4小隊を解隊し、フィルカザーム少尉を師団司令部第三参謀に任命したことと、今後は現在欠員となっている司令部の人員を、指揮下部隊から抽出して補充強化していくことを伝えた。
「確かに、今後は補給についての考え方を大きく変えねばなりませんな。後方から送られてくる物資を支給するのではなく、根本的に調達しなければなりませんからな」
「そういう事だ、ヴァグナー少佐。君の管理大隊と、ライネッケ少佐の補給大隊、それとテッタウ少佐の補給処主計部の業務を整理して、組織改編を行う必要があるだろう」
「はい。調達、管理、補給・・・。調達には生産も含むことになりそうですな」
「そうだ。生産は現地人を使うことになるだろう、そうなると現地勢力との調整も必要になる。民政か軍政かの線引きも考えないといかん」
「難しい仕事になりそうです。司令部の強化は進めておくべきですな、師団長閣下」
私はヴァグナー少佐を見ながら頷いた。
「現地人の採用はどのようにお考えですか」
ライネッケ少佐が声を落として聞いてきた。
「まず民政に関する部分で必要になると思っている。こちらの慣習やしきたりを考慮しないと混乱を招く。軍務に有効な能力を持つ者は積極的に軍属として採用するつもりだ。あとは、この世界の武器は剣と槍と弓だ、我々には馴染まないから現地人による部隊編成も考えた方が良いと思っている。特に治安維持には必ず必要なるだろう」
私の返答に大隊長達は頷いた。
「そうなると、給与の支払いも必要になりますね」
私の答えにライネッケ少佐が同意しつつ、新たな手間を思いつく。
「ああ。師団の将兵にもな。休養を取るにはここの通貨が必要になるだろう」
「いや、これは大変な作業になりますなぁ」
ヴァグナー少佐が薄くなった頭部を撫でながら呟いた。
「閣下、司令部を強化すると言うより、新たな組織を立ち上げるつもりの方が良さそうですな」
私とヴァグナー少佐とライネッケ少佐は溜息をついてしまった。
(現地の通貨を確保して、物価に即した給与設定と支給・・・。読み書きと計算ができる現地人をまとめて確保しないといかん)
私は途方も無い仕事を抱えていることを強く認識せざるを得なかった。
(一日も早く部隊を一カ所にまとめて、中隊長以上に現状と方針を共有して、部隊の末端まで周知を徹底させたい。このまま現地人と接触を深めては何が起こるか分からん、危険過ぎる。今現在の状態をいつまで維持できるかも分からんのだ、急がなくては・・)
私が考え込んでいるとドアがノックされ、ブリンクマン中佐が対応する。
「師団長閣下、海軍の指揮官とシュラーガー少佐が到着したそうです。私が出迎えます」
私が了承するとブリンクマン中佐は部屋から出て行った。
(やるべき仕事が山積みだと言うのに、法律屋と面会とは・・)
私の心には、潜在的な邪魔者に対する不満が蓄積されつつあった。
少ししてドアがノックされ、私が応答すると海軍大佐を先頭に海軍将校が4人、空軍将校が2人、そしてブリンクマン中佐と陸軍少佐が入ってきた。
「私は海軍省軍事裁判所のガーゲルン法務大佐です。さっそくですが・・」
8人が並んだところで、海軍大佐が喋り始めた。
「自分の自己紹介だけで自分の用件を話すつもりかね、ガーゲルン法務大佐?」
私がそれを遮って言うと、大佐は沈黙した後に小声で謝罪して黙った。
ドアに近い所に居るブリンクマン中佐が私に視線を送ってきた後、大佐を注視しているのが分かった。隣にいる陸軍少佐と2人の空軍将校も大佐に注意を払っているようだ。
(気をつけろ、ということか)
それを承知した合図として浅く顎を上下に振ってから、私は大佐の隣にいる海軍少佐に声を掛けた。
「君はクルーク少将のご子息、ギュンター君だったか。しばらくぶりだね、父上はお元気かね」
「はっ! ホーフェンベルグ伯爵、いえ、中将閣下!」カツンッ!
クルーク少佐が弾かれたように直立不動を取った。
「こんなところで君と会うとはな。状況は複雑だが、私の指揮下に入ってくれて嬉しく思う、よろしく頼むよ」
「はっ! 閣下!」カツンッ!
私とクルーク少佐のやり取りに驚いた様子のガーゲルン大佐を放置して、残った海軍将校と空軍将校の挨拶を受けた後、最後の陸軍少佐と向き合った。
「ホーフェンベルグ中将閣下、お初にお目にかかります。第7軍司令部直轄第100装甲大隊長、バルトレン・シュラーガー少佐であります」カツン!
私はシュラーガー少佐に歩み寄ると、右手を差し出した。
「シュラーガー少佐、君に会えて嬉しいよ。フォントノアではご苦労だった」
シュラーガー少佐と固い握手を交わしながらそう言うと
「はっ、閣下。ありがとうございます」
一礼した少佐の顔を見ると、目が潤んでいるように見えた。
私が南部軍集団司令部で参謀長を務めていた時、フォントノアで起こった戦闘の経過と結果に関する全ての報告書に目を通したが、そこには義務、勇気、才能、そして愛国心、尊ぶべき全てのものが無能によって磨り潰された経過の中で、戦場に残された将兵を救わんと奮戦したひとりの装甲兵少佐。
恥辱にまみれた戦場から帰ってきた彼とその部下達の為に、私はできる全てのことをやった。
まずは生き残った将兵を軍集団司令部の予備部隊としてまとめて休養と治療に専念させ、その間に軍集団隷下にあった第7軍司令官ドルマン中将に働きかけて、南部戦線における装甲兵力の回復を表看板に、軍司令部直轄の装甲大隊を編成させて彼等が再び装甲兵として雪辱を果たす下地を準備した。
後は戦死した旅団長の死後特進の話を潰し、代わりに生き残った将兵への叙勲を具申した。
その結果、軍集団司令部を追い出されて第91歩兵師団長に転任した訳だが、結果は上々だった。
主に人格の問題で師団幕僚との関係が拗れていた師団長の後釜だったが、ブリンクマン中佐を筆頭に連隊長大隊長の各級指揮官は優れた将校達であり、誰もが私の着任を喜び、何もかも滞りなく進行して、師団は短期間で元の戦闘力を回復した。
私は師団をさらに最良の状態へ押し上げるべく、師団の錬成を重ねてきた。
(第7軍司令官ドルマン中将は士官学校同期で、第84軍団司令官のマルクス中将は士官学校の先輩だから、この件で世話になった分を一働きして返そうと思っていたのだが、果たせそうにないのは残念だ)
「落ち着いたら、ゆっくり話そう」
私がそう言ってシュラーガー少佐から離れると、ガーゲルン法務大佐が咳払いをして
「閣下、私は直ちに海軍省と連絡を取りたいのです。通信機器の使用許可をいただきたいのですが」
「大佐、我々がこの状況に陥って依頼、通信は途絶したままだ。どことも繋がらんよ」
「そんなはずはありません」
芝居がかった表情でガーゲルン大佐が言う。
「現実はそうなのだよ、大佐。リュック少佐、何処かと通信が回復したかね?」
「いえ、現在の状況になって 日目ですが、何処にも繋がっておりません、師団長閣下」
リュック少佐の返答を聞いて、“聞こえたかい?”と問いかけるようにガーゲルン法務大佐に向かって首をかしげてみせた。
「閣下、からかってもらっては困ります」
ガーゲルン法務大佐は薄笑いを浮かべていた。
「君はここに来るまでの間、何を見ていたんだね大佐?」
私は幾分口調を改めて問いかけた。するとガーゲルン法務大佐は勝ち誇ったように
「私が見たのは、武装している共和国人ですよ、閣下」
「共和国人?」
私が聞き返しながらブリンクマン中佐を見ると、強ばった表情で
「大佐殿、義勇兵であります。共和国人ではありません、南方人です」
「中佐、そんな詭弁が通用するとでも思うのかね?」
ガーゲルン法務大佐はなおも余裕を見せていた。
「大佐、彼は師団司令部の主席参謀だ。私が権限を委任して補給処に派遣したんだ、彼が許可したのであればそれは私の許可と言うことだ」
「では閣下、ご自分の越権行為を認めるということですか?」
この男は私に取って代わるつもりらしい。
「どう言う意味だね、ガーゲルン法務大佐?」
「茶番はこれまでです。おい、この男を逮捕しろ、容疑は反逆的な越権行為だ」
ガーゲルン法務大佐が海軍将校達に向かって命令するが誰も動かず、ただ大佐を見ていた。
「おい少佐、聞こえただろう、命令だ今すぐ逮捕しろ」
「ガーゲルン法務大佐」
私が静かに呼びかけた。
「いつから法務将校は、戦闘状態にある部隊に対して命令できるようになったのかね?」
私の言葉にガーゲルン法務大佐の動きが止まった。
「師団は陣地を構築し、戦闘配置に就いている。ここは戦闘区域であり我々は戦闘状態を維持しているんだ。その部隊に対して君は命令を下した、これは越権行為にはならんのかね?」
「私は海軍将校に対してだけ・・」
「彼等はすでに師団の指揮下にあります」
ガーゲルン法務大佐の絞り出すような反論にシュラーガー少佐が答えた。
「そういう事だ、大佐。これ以上君と話すことは無い。念の為、武装解除と行動を制限する。君の行為は軍務の妨げになる」
私がそう言うと
「おのれっ」
大佐は声をあげると、左腰に下げている拳銃のホルスターに手を伸ばした。
シュラーガー少佐と2人の空軍将校、ヴィークマン中尉とラープ少尉が素早く反応して、同じくホルスターに手を伸ばしたが、それよりも早く私の後ろに居たフィルカザーム大尉が飛び出して、大佐の右腕を掴んでひねり上げると床に組み伏せてしまった。
「憲兵!」
それを見てシュラーガー少佐達は驚いて動きを止めたが、ブリンクマン中佐はドアを開け憲兵を呼んだ。
間髪入れず入ってきた憲兵に向かって組み伏せられた大佐を指して
「この男を逮捕しろ。越権行為と反逆罪だ」
「はっ、師団長閣下!」カツン!!
2人の憲兵が大佐の両腕を押え、フィルカザーム大尉から引き受けるかたちで拘束して立ち上がらせた。
「ガーゲルン法務大佐、後ほど君を軍法会議にかける。言うまでも無く戦闘区域における即決裁判だ」
私が憲兵に挟まれた大佐に言い渡すと、こちらを見て驚いたように目を見開いた。
「これは・・・」
何事かと視線を横に振ると、右にサレーラ、左にサリエが鋭い目つきで身構えていて、私の盾となるべく前に出ようとしていた。
「彼女達はダークエルフと言う種族で、この世界の住人だよ。先程私の判断で軍属として採用した」
私がサレーラ達のことを伝えたが、大佐の視線は私の後ろの方に釘付けになっており、ふと気がつくと私とサレーラ、サリエ以外の全員が私の後ろを注視していたので振り返って見ると、恐ろしげな目をしたフィーラが何事か小声で呟いており、彼女の小さい身体から青白い光が炎のように揺らめいていた。
「諸君、大丈夫だ、落ち着き給え」
咄嗟に私が言うと、フィーラは呟きを止め青白い光は小さくなった。
「憲兵、連行しろ」
ブリンクマン中佐がそう言うと、我に返った憲兵が驚いた表情のままのガーゲルン法務大佐を引き立てて行き、フィルカザーム大尉がガーゲルン法務大佐の拳銃とベルトをもう1人の憲兵に渡した。
「フィーラ、こんな所で魔法を発現させてどうするの!」
「あいつを氷漬けにしてやろうとしただけよ、お姉様」
サレーラがフィーラを叱っているが、フィーラにはさほど効いていない。
「近すぎるでしょう、伯爵閣下になにかあったらどうするの!?」
「あいつ1人ぐらいなら大丈夫よ、お姉様。伯爵様に触れる前に氷壁も作れたし、なんなら氷槍で下から串刺しにしようかと思っていたの。でも、それだとお部屋が汚れてしまうから止めたのよ」
「確かにフィーラならできたでしょう」
「サ リ エ ?」
「いえ、なんでもありませんお姉様」
3人のやり取りを聞いていると、どうやら私を守ろうとしてくれていたらしいが、その可愛らしい容姿からは想像も付かない方法を実行しようとしていたらしい。
「師団長閣下、まだ大佐の運転兵が残っています」
シュラーガー少佐が最後の詰めを具申してきた。
「武装解除して身柄を拘束して憲兵に引き渡せ、抵抗したら射殺してかまわん」
「はっ!」カツン!
退出するシュラーガー少佐を目で追いながら、傍らにいたヴィークマン中尉とラープ少尉に向かって頷くと、2人は直立不動を取ってシュラーガー少佐に続いて出て行った。
「師団長閣下、申し訳ありません」
ブリンクマン中佐が絞り出すように謝罪してきた。
「誰にもミスはある。それに言ったとおり君には権限を委任したのだし、君だけで無くシュラーガー少佐とテッタウ少佐も交えて決定したのだろう?」
「はい、閣下」
「ならば問題ない。このところ色々なことが起こり過ぎているからな、ただ今後は気をつけてくれ給え」
「はっ」
ブリンクマン中佐は唇を強く結んでいるが、確かに報告を忘れるのは彼らしくないミスではある。
全くもって色々な事が起こりすぎている。
(予め“異世界における対処要領”でもあれば別だがな。それにしても動き出す決心をしたのに邪魔ばかり入りおる)
そう思いながら、サレーラ達を見渡して
「お見苦しいところをお見せして申し訳ない。また君達の心遣いに感謝する」
「伯爵閣下、お気になさらず」
とりあえずフィーラから反省と取れる言を引き出したサレーラがそう言うと、3人は右手を胸に当てて浅く一礼した。
(まぁ、慌てずにひとつひとつ片づけて、着実に進めていくしかない。冷静に、ここは戦場なのだ)
その時、ドアが勢いよく開かれてギュールス大尉が入ってきた。
「師団長閣下、補給処「蜂の巣箱」から緊急連絡です、攻撃を受けているとのことです!」
「なんだと! 規模は?」
(おのれ、なぜこうなるんだ)
「はっ、詳細は不明なるも敵兵力は少数と認められる、駐留部隊で応戦中、短時間で排除の見通し、以上であります」
「よろしい、続報があれば逐次知らせてくれ。すぐに私も司令部に行く」
私はまず各大隊長達に向き直った。
「直ちに部隊に戻り、警戒態勢だ」
「はっ、師団長閣下!」
彼等は素早く反応すると直ちに部屋から出て行った。
次にハイン大尉。
「ハイン大尉、君はフィルカザーム大尉とエルドマン大尉、サレーラ君、サリエ君の4人と別室に移り、行動計画の策定を進めてくれ」
「はっ、閣下」カツン!
次はクルーク少佐。
「クルーク少佐、君達は別命あるまでここで待機だ。食事を用意させる、いつでも動けるように万全の体制を整え給え。ギュールス大尉、手配を頼む」
「ありがとうございます、師団長閣下!」カツン!
「はっ、閣下」カツン!
最後はブリンクマン中佐。
「ブリンクマン、全隊に警戒態勢を発令しろ。シュラーガー少佐を呼び戻せ、司令部で待っている」
「はっ、師団長閣下!」カツン!
「よろしい、始め給え」
私の号令で各人が動き出した。
クルーク少佐達がギュールス大尉の元に集まった。
ハイン大尉はフィルカザーム大尉達と移動を開始した。
ブリンクマン中佐は部屋から出て、憲兵を呼んでいる。
さて、私は司令部にと歩み出そうとした時
「伯爵様、私は何をすればよろしいでしょうか?」
可愛らしい声に振り返ると、青白い光を纏ったフィーラが冷たい笑顔で立っていた。
「・・・ああ、すまない、君はサレーラ君達と・・」
と言いかけたが、彼女達はすでに部屋から出て行った後だった。
「君は待機・・・・いや、一緒に来てくれ給え」
「はい、伯爵様。よろこんで」
私の言葉にとても悲しそうな顔になると同時に青白い光が強くなったのを確認したので言い直すと、楽しそうな声で答えるフィーラを連れて部屋を出て、司令部へと足を向けた。
(お客のままの方がよかったかもしれんな)
「私、きっとお役に立てると思っておりますわ、伯爵様」
後ろからフィーラが声を掛けてきた。
立ち止まって振り返るとフィーラが微笑んでいる。
「フィーラ君、私の心を読むというような魔法はあるのかね?」
「読むと言うほどではありませんが、色で分かります。いま伯爵様の色が一瞬変わりましたので」
「その魔法はいつも使っているのかね」
「いえ、必要な時だけですわ。無礼者が来ると伺ったので備えていたのです」
「なるほど、敵対しているかどうか分かるわけか」
「はい、先程の方は伯爵様に対して怒っていましたが、邪悪な感情ではありませんでした。その代わりに悲しみが混じっていたのです」
「悲しみ?」
「はい。ですから私はあの方が殺されないように、凍らせようとしたのです」
「・・・分かった、ありがとう。では、その魔法は閉じてくれ給え」
「承知致しました、伯爵様」
青白い光が消えたフィーラと目が合うと、
「伯爵様、あの方のお話を聞いて差し上げてくださいませ」
私を見上げて懇願するように言ってきた。
「分かっている。落ち着いたら時間を設けよう」
「ありがとうございます、伯爵様」
私の答えを聞いたフィーラが、右手を胸に当てて浅く一礼した。




