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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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16/84

16 法務大佐

 燃料の給油と飲料水の配給を終えて、私が乗る中型兵員車を先頭に車列は動き始めた。車列の殿には「川蝉1」がついた。

 同乗することになった空軍将校の2人は、ヴァードーの海軍基地内にある飛行場に駐留する空軍第7戦闘航空団の戦闘機パイロット、ヴィークマン中尉とラープ少尉と名乗った。ヴィークマン中尉によると、2人は休暇を終えて原隊に復帰する途中だったそうだ。本来ならヴァードーまでは鉄道で行けるのだが、途中にある操車場が共和国軍の爆撃で破壊され、足止めされていたところに、同じく操車場から陸路に切り替えてヴァードーを目指す海軍部隊が居ることを知り、相乗りさせて貰ったのだという。

「あの憲兵少尉、最初は渋ってましたけど、積み荷について他言しないという約束で乗せてくれました。いい男ですよ」

 自分に好意的だった憲兵少尉への援護射撃のつもりなのか、中尉は私に向けて笑顔で話しかけてきたので、私も微笑みをつくって相づちを打った。

「覚えておくよ」

 私の返答を聞いたヴィークマン中尉は、笑みを浮かべながらラープ少尉に向かって肩をすくめ、少尉は肩を揺らして笑いを堪えていた。それを見て、私も自然と笑顔になった。


 話は進んで例の閃光の時の話になった。車列は緊急停車した後に点検したが異常はない、しかし

「道が消えてしまったんです。周囲を探したんですがどこにもない。さて困ったなと、クルーク少佐達が相談しているところにあの大佐が口を挟みまして、そのまま当てっずぽうに進むことになったんです。しかし、進めど進めど森から出られず、お船を乗せたトレーラーが燃料切れになり、あそこで途方に暮れることになったんです」

「大佐殿はなんと?」

「文句を言うだけでしたね。皆呆れて何も言いませんでした」

「そこへ私の部下が来たわけか」

 ヴィークマン中尉は笑いながら答えた。

「ええ、とても気の毒でしたよ。向こうから見つけて助けに来てくれたのに、凄い剣幕であれやこれやと文句と要求、クルーク少佐が間に入ってなんとか収りましたが」

 私は何も言わずに頷きながら、「川蝉1」の軍曹の顔を思い出していた。

「それにしても、来てくれたのがシュラーガー少佐殿で助かりました。クルーク少佐殿みたいな人だったら、きっとまたどこかで途方に暮れることになっていたと思います」

 ヴィークマン中尉がいくぶん真顔になって言った。

「そう思ったから私が来たんだよ」

 私がそう言うと、ラープ少尉が聞いてきた。

「予測できたんですか?」

「まぁ、法務大佐と聞いた時点で察しはつくさ、そしてそのとおりだった。そうだろう?」

 私の答えを聞いた2人は顔を見合わせて頷き合い、ヴィークマン中尉が答えた。

「仰るとおりです、少佐殿」


 車列は3台のトレーラーに気を遣いながら進み、無事に補給処へと入った。補給処が視界に入った時、同乗していた2人が安堵の溜息を漏らしていたが、他の将兵も同じ心持ちだったろう。正面入り口のゲートをくぐり、警備兵に答礼しつつ中へ入ると車を事務所前に着けさせた。車から降りると同時にテッタウ少佐が事務所から出てきた。

「お帰りなさい、少佐。どうでした?」

「思ったとおりだったよ。師団司令部に連絡を取って、お客をお連れすると伝えた方がいいな」

 私がそう言うと、テッタウ少佐は軽く溜息をつき、私に続いて降車したヴィークマン中尉達を見ると

「了解しました。そちらのお二人は?」

「ああ、空軍のヴィークマン中尉とラープ少尉だ。巻き添えを喰っていたんだが、今は師団の指揮下だ」

「そうでしたか、ここの責任者のテッタウ少佐です、お二人ともよろしく」

「こちらこそ、お世話になります少佐殿」カツン!!

「で、歓迎委員会の方はどうだ?」

「できていますが、思っていたより人数が多いですね、何人いるんです?」

「158名、と言っていたが正確ではないらしい。なにせ、小型戦闘艇の部隊の他に同じ基地の違う所属の帰休兵が乗り合いで移動していたからな」

 私がそう言うと、テッタウ少佐は小さいうなり声を漏らし

「わかりました、追加を指示してきます。それと師団司令部に連絡も」

「頼む。法務大佐殿は指揮官との面会を求めているので、そこの確認もだ。私は将校を集めておく」

「了解」

 テッタウ少佐は事務所に戻っていった。

「君達は空軍の高射砲大隊がいるから、そちらで世話になるといい」

 私がヴィークマン中尉に言うと、

「少佐殿はどちらへ?」

 私が右手の親指で、事務所から少し離れた場所に警備兵の誘導を受けて整列して駐車しつつある車列を指すと

「お供します」

 ヴィークマン中尉はそう言って、私に分かるように左腰に吊っている拳銃のホルスターを左手でひと撫でした。私が左の眉毛を上げて見せると

「用心した方がいいかもしれません。あの大佐は、どこか様子がおかしいように思います」

 ヴィークマン中尉がそう言うと、横に居るラープ少尉が浅く頷いて同意した。

「少佐殿はとても嫌われていると思いますので」

 ラープ少尉の一言ににやりとして

「わかった、では好意に甘えさせてもらおう」

 私は2人を後ろに従えて車列に向かって歩き始めた。


 車列に近付くと、クルーク少佐が将校と先任階級の者を集めていて、その中にガーゲルン法務大佐の姿はなかった。彼等以外の下士官兵達は、疲れと張り詰めていた気が一気に緩んだのだろう、運転席や車内でぐったりしていた。

(無理もない。食事と睡眠を取らせないと使い物にならんな)

 そう思いながらクルーク少佐に近付くと、集まっている将校達も表情に疲れが見えていた。

(将校とて人間だからな、だがここが踏ん張りどころだ。兵隊と同じでは給料分の仕事をしているとは言えん)

 私に気がついたクルーク少佐が小さく号令をかけると、全員が直立不動を取り敬礼した。先程と比べて動きにムラが無く、迷いは無くなったようだった。

「楽にしてくれ。今ここの指揮官が食事と寝床を準備している。予想よりも人数が多かったので大急ぎで追加しているところだ」

 私の言葉に安堵の空気が広がった。

「本来なら君達にも休養を取って貰いたいところだが、その前に師団司令部に行かなくてはならないことになりそうだ」

 途端に皆の表情が険しくなった。その理由はだたひとつで、自分達と同じ海軍将校であるのだから何も言えないだろう。大佐と彼等の間には、海軍であるという事以外、共通点は無いように思われた。

「とは言え、全員で行く事はないだろう。クルーク少佐と何人か、各部隊を代表する形になればいいと思うが、どうだね?」

 クルーク少佐に向かって同意を求めると彼は頷いて同意した。

「はい、少佐殿。それでは私と根拠地隊からヘンツェ少尉、航空隊からヴァイスベルク中尉の3名でよろしいでしょうか?」

 名前を呼ばれた将校が直立不動を取る。カツン!!!

「それでいいだろう。いない間は誰が指揮を執る?」

「憲兵隊のリンデン少尉か、掃海隊のヴォルフラム准尉に」

「分かった。リンデン少尉、どうだ?」

 私が若い憲兵少尉、ヴィークマン中尉が言っていた“いい男”に向かって尋ねると

「了解致しました、少佐殿」カツン!

「ヴォルフラム准尉は補佐してやってくれ」

「はっ、少佐殿!」カツン!

 ヘンツェ少尉の隣に立っていた、いかつい容姿の准尉が鋭く答えた。

(まったく、准尉という生き物は何処へ行っても同じなんだな)

 そう思いながらヴォルフラム准尉の見ると、力強い眼でまっすぐ私を見ながら微かに頷いたので、私も同様に応えた。頼りになりそうだ。

「よろしい。今、師団司令部に連絡しているのでそれまで事務所で待機しよう。濃いコーヒーでよければ配給できる」

 私がそう言うと全員笑顔で了解し、私に続いて歩き始めた。

 事務所に入ると、テッタウ少佐が主計班を相手に忙しなくやり取りを交わしていた。

「配食の手が足りない? 建設中隊から補充しろ!」

「海軍のトレーラーはどうしますか?」

「機密らしいから倉庫に入れたい。入りそうな倉庫あるか?」

「17番に入ってる野砲や迫撃砲を整理すれば入りそうです」

「軍曹、作業隊を連れて見てこい。入りそうなら入れろ」

「了解」

 あれこれと指示を飛ばしながらテッタウ少佐が捌いていく。しばらく様子を覗っていると、テッタウ少佐が我々に気がついて、仕事用の机から寛ぐ用の机に戻ってきた。

「すみません、お待たせして。」

 いつもどおりの明るい口調で私を含めた海軍将校達に挨拶しながら、戸棚を開けてコーヒーカップを取出し始めた。

「仕事が増えて嬉しそうに見えるがね」

私が言うと

「気のせいですよ」

 テッタウ少佐がにやりとして返してきた。

「お手間をかけて申し訳ありません、少佐殿」

 クルーク少佐が申し訳なさそうな顔でそう言うとテッタウ少佐は笑いながら返してきた。

「いやいや、これが私達の仕事ですから、お気になさらず。ええと・・・」

「海軍第63海上機動戦隊のクルーク少佐であります」カツン!

 クルーク少佐に続いて、他の4人も自己紹介した。

 海軍憲兵隊司令部、第63分遣隊のリンデン少尉。

 ヴァードー海軍基地司令部、補給部のヘンツェ少尉。

 ヴァードー海軍基地根拠地隊、海上防護隊、哨戒艦第39号掌帆長のヴォルフラム准尉。

 海軍航空隊、第611海上哨戒航空戦隊のヴァイスベルク中尉。

「私はここの責任者をやっています、テッタウ少佐です。どうぞよろしく」

 そう言いながら、テッタウ少佐はコーヒーを淹れる準備を止めなかった。

「少佐殿、よろしければ自分が」

 困惑した様子でヴォルフラム准尉が名乗りをあげたが

「いやいや、これは私の大事な仕事なのでね。他の誰かにやらせる訳にはいかないんだ」

 テッタウ少佐は笑いながらヴォルフラム准尉を退け、手際よく作業を進めていき、少ししてそれぞれにコーヒーが配られた。皆、一口飲んだ後に、静かに息を漏らしていた。ヴォルフラム准尉でさえそうだった。

(彼が淹れるコーヒーは美味い)

 コーヒーカップを手にしたままテッタウ少佐を見ると、皆の反応を見て満足しているようだった。

「師団司令部からの返事は?」

 クルーク少佐達へのサービスが終わったところで、本題に戻ることにした。

「待ちです。なにやら取り込み中らしいです」

「取り込み中? なにかあったのか」

「こちらでも色々ありますから、あちらでもあるんじゃないですか」

「待たせると面倒な事になりそうなんだが」

 そこへ残留を命じられていた「猪2」の通信兵がやって来た。カツン!

「少佐殿、司令部から回答がありました。お越し願いたい、とのことです」

「わかった、ありがとう」

「それとテッタウ少佐殿も同道せよとのことです」

「俺も?」

 テッタウ少佐があからさまにしかめっ面をした。

「司令部は何か始めようとしているのかもしれんな」

 私がそう言うと、テッタウ少佐は考え込む素振りを見せた。

「とにかく命令だ、車を用意して出発しよう。海軍の法務大佐殿には私から伝えておく」

「そうですな、お願いします。車の用意が出来るまで暫時お待ちください」

 テッタウ少佐が4人に言って、主計班へ向かって席を離れたので、私もコーヒーカップを机の上に置いて事務所を出ると、すぐにヴィークマン中尉とラープ少尉が続いてきた。


 駐車している車列に近付いていくと、ガーゲルン大佐が乗っていた乗用車が軍の公用車ではないことに気がついた。車体の塗装が海軍の統一色である紺色ではなく黒色で、ナンバープレートは帝国国営鉄道の公用車を表す番号だった。そしてその隣には同じく帝国国営鉄道のナンバープレートを付けた民間仕様のトラックが駐まっていた。乗用車に大佐の姿は無く、トラックには国営鉄道の制服を着た中年の男が2人、疲れ果てて居眠りしていた。

「国営鉄道の車ですね。気がつきませんでした」

 ヴィークマン中尉がナンバープレートを読んで言った。

(どういうことだこれは)

 トラックの側まで行ったが、男達はぐっすりと寝込んでいる。起こそうかと思ったその時、さきほど敬礼を交わした憲兵が小走りで近寄ってきた。

「少佐殿」カツン!

 憲兵伍長は規定通りの敬礼を送ってきた。

「ご苦労。伍長、この車とこの2人はどういうことか説明できるかね?」

「はっ。部隊が操車場で陸送移動に切り替えたときに、ガーゲルン法務大佐殿が同行を望まれたのですが、自分用の車輌を要求されたのであります。しかし部隊には車輌がありませんでしたので、大佐殿が操車場を管理する国営鉄道の事務所から車輌を借り受けたのであります。この2人は車列が目的地に着いた後、大佐殿が使用した車輌を持ち帰るために車列の後方を着いて来ていた操車場の鉄道職員であります」

 憲兵伍長は辺りをはばかるように、低い声で説明した。

「借りた、のではなく強要した、が正解なんだろうな」

 私が伍長に合わせて低い声で説明を補足したが、伍長は沈黙したままだった。

「わかった。では、この2人も食事と休養を受けられるように取り計らってくれ。シュラーガー少佐の許可を得ている、そう言えば良い。それから、大佐殿が車に戻ったら師団司令部に移動するので、事務所前まで車でくるように運転兵に伝えてくれ」

「はっ。了解致しました、少佐殿」カツン!

 憲兵伍長に答礼を返すと、私達は事務所に引き返した。

(やはり、奴を野放しにしては駄目だ。テッタウ少佐の代わりに俺が司令部に行くとしよう)

 私はテッタウ少佐と交代する理由を考え始めた。


 事務所に戻り、テッタウ少佐が師団司令部に行く役割を交代する話をすると、テッタウ少佐は海軍部隊の休養に関する業務で離れられない事が判明したので、私が代わりに師団司令部へ行くことになり、ヴィークマン中尉とラープ少尉にも同行することになった。そして、手配した中型兵員車が事務所の前に着いた時、事務所から外を見ると、ガーゲルン大佐が車輌に戻っていく姿が見えた。

「帰ってきたぞ。我々も行こう」

 クルーク少佐達5人に声を掛けて事務所を出ると、待っていた中型兵員車に乗り込んだ。ほどなくしてガーゲルン大佐が乗る乗用車もやって来たので、乗用車に向かって後に続くよう合図を出し、中型兵員車を発進させた。

 我々はテッタウ少佐とリンデン少尉、ヴォルフラム准尉に見送られて補給処を出ると、連絡道路の作業現場へ向かった。工兵の誘導に従って、整地作業が終了した連絡道路を進んで行く。すでに一車線は開通しているようで、工兵隊はもう一車線の整地作業を行っていた。その横を通過してさらに進むと、樹林が途切れ明るい空が見えてきた。そしてその下に、中腹に共和国風の民家が立ち並ぶ集落を抱えた丘が見えてきた。丘の裾野には障害物が置かれ、陣地が構築されている。

「あれが将軍の丘か」

 私が言うまでもなく、乗っていた6人が同じく奇妙な丘に注目していた。

 丘の手前で工兵が停止合図を出していた。運転兵が車を止めると、ラスナー中尉が駆け寄ってきた。

「少佐殿」

「中尉、開通おめでとう」

「はい、ありがとうございます。先程開通しまして、いまは師団司令部の通信参謀を待っているところです」

「そうか、これで重要な案件が片付くな」

「はい。野戦電話の件が終わりましたら、もう1本の作業を急がせます」

「頼んだぞ」

「はっ」カツン!

 ラスナー中尉に答礼を返すと、警備に当たっている下士官に師団司令部への順路を尋ね、車輌を中腹の集落へと進ませた。集落の手前で車輌を止めると、将校がひとりやってきた。

「失礼ですが、テッタウ少佐殿でいらっしゃいますか?」カツン!

「すまない、テッタウ少佐は外せない任務があって来られなかった。私は代理のシュラーガー少佐だ」

答礼を返しながら、将校の質問に答えた。

「承知しました、自分は師団司令部通信参謀のギュールス大尉であります。司令部にご案内致しますので、こちらにどうぞ」

「ありがとう。あと、後ろの車にもう1人、ガーゲルン法務大佐が乗っているんだ、司令部の建物を教えて貰えれば私達は自分で行くから、あちらの案内を頼みたい」

「承知しました、少佐殿。司令部はあの民家に入っています」

 ほんの一瞬沈黙があったが、ギュールス大尉は顔色ひとつ変えずに了解し、少し離れて建つ民家を指し示すと、後ろに止まっている乗用車へ向かっていった。

(まずは、ブリンクマン中佐に会わなければ)

 私は6人の将校と共に、ギュールス大尉が示した民家へ向かった。

 中へ入ると、ブリンクマン中佐が待っていた。

「中佐殿」カツン!

「シュラーガー少佐、ようこそ」カツン!

 ブリンクマン中佐が笑いながら答礼してきた。そして右手を差し出してきた

「シュラーガー少佐の読みどおりでしたね。捜索を継続してよかった」

「偶然です」

 ブリンクマン中佐の人柄だろう、素直に褒められる心地よさを久しぶりに感じて、柄にも無く照れてしまった。

「ブリンクマン中佐殿、こちらが新たに指揮下に入った海軍及び空軍の指揮官達です」

 私はそう言って、クルーク少佐を筆頭に将校達を紹介していった。

「後ひとり居りますが、指揮下には入っておりません」

「ガーゲルン法務大佐殿ですか」

 ブリンクマン中佐が若干、顔をしかめて言った。

「はい」

「師団長閣下には伝えてあります。面会の件も」

「はい。ブリンクマン中佐殿、ガーゲルン大佐殿の言動は注意すべき点があります。万が一の場合、私とこちらのヴィークマン中尉とラープ少尉が対応します」

 ブリンクマン中佐は一瞬驚いた表情をみせたが、私達の様子を覗うと

「・・・わかりました、憲兵を待機させます」

 私は静かに頷いた。ブリンクマン中佐との話は終わり、私達はガーゲルン大佐がやって来るのを待った。

(ここまで静かにしているが、少しは効いているのかな)

 海軍の車列が出発して補給処に入り、ここに来るまで何も言ってこないことに対して少し違和感を感じていた。

(なにか言ってくると思っていたが)

 その時ドアが開いて、先程の大尉に案内されて入ってきたガーゲルン大佐は、どこか勝ち誇ったような、口元に笑みを浮かべていた。

(ふん、何かいいことがあったようだな。)

 そう思いながらヴィークマン中尉とラープ少尉に視線を送ると、彼らも同意見であるようだった。他の海軍将校達も気がついていた。ガーゲルン大佐は何も言わず我々の前を通り過ぎ、一室のドアの前に立つブリンクマン中佐の前で立ち止まった。

「海軍省軍事裁判所のガーゲルン法務大佐だ、指揮官にお会いしたい」

 ゆっくりと話す大佐の態度は、私の神経を逆撫でするには充分だった。

(こいつ、何か企んでいるな)

 ブリンクマン中佐に促されて、開かれたドアの中へ入っていく大佐に続き、クルーク少佐達も入っていく。その後ろに並んだヴィークマン中尉とラープ少尉に目配せをしながら、最後尾に付いた。

(可能な限り殺す、か)

 私は不測の事態における処理について、選択肢を定めた。


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