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第91歩兵師団司令部、異世界にて指揮を執る。  作者: フニャンスキー


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15/83

15 海軍

補給処「蜂の巣箱」

補給処長 テッタウ少佐


 俺はブリンクマン中佐を見送った後、すぐに明日の出荷分の準備を命じた。あちらは丘の上に野営しているそうなので、貯蔵設備なんて物は無い。だから、しばらくの間は毎日糧食を送り出してやらなくてはならなかった。しかし、保存期限にも限りは有る。倉庫で眠らせたまま腐らせてしまうよりは消費したほうがよっぽどいい。

「ちゃんと日付を確認して発送しろよ。古い物からだぞ。」

フルトナー中尉の後釜に据えた少尉に念押しすると、少尉は不敵な笑みを浮かべて

「了解致しました、少佐殿。」

と返してきた。俺も少尉も本気で言ってるじゃ無い、掛け合いみたいなものだ。

この少尉は、一度動員解除で上級曹長で除隊したが、去年の春に再召集されて少尉に任官した。そして軍団隷下の歩兵師団に配属されてきたのだが、軍団司令部で使える奴を探していた俺が発見して、軍団司令部と師団司令部の人事に掛け合って、俺の下にいた若い将校と交換したのだ。

陸軍総司令部は40半ば過ぎの、補給下士官あがりの少尉に歩兵小隊を指揮させるつもりだったらしいが、本人も歩兵師団も有り難い話じゃ無いのは明らかだったから、俺も含めて三方丸く収まって少尉は歩兵師団から俺の下に転属してきたのだった。そして、俺の見立て通り、少尉は逸材と言って良い仕事ぶりを見せている。あのフルトナーを育てたのも彼だ。戦闘で負傷して左足の膝と引き換えに戦傷章金章を貰った若者を、まともに歩けなくなって絶望していたフルトナーを、使える補給将校に仕立てたのは彼の功績だった。

 軍隊だけでなく、人生についてもよくご存じと言う訳だ。


俺も精一杯の笑顔で答えて自分の机に向き直った。今のところ俺が解決すべき案件は、補給処と将軍の丘を結ぶ連絡道路と野戦電話を開通させることと、補給処の警備体制の確立、それに絡んで作業隊と建設中隊の武装と訓練についてだった。

連絡道路は至極順調、日程こそ当初の予定より若干遅れるが、単線では無く複線道路で開通予定だ。

(なんせ、印を付けて切りますよって教えておくと、木が移動するんだからな。後は均すだけだ。捗ってます、なんてもんじゃない。)

工兵達は最初は気味悪がっていたが、今では木の扱いがすっかり変わったらしい。入営まで樵をしていた兵に倣って、森に敬意を払い、木を生き物のように扱うという “森の掟” を実践しているという。未知なる物への恐れなのか、兵達は至って真面目にやっているらしい。

(遙か昔、とあるところに。なんてお伽話を笑えなくなっちまった。)

だがそのおかげで、道路建設に掛かる兵員は少なくて済み、手が空いた兵を使って作業現場とその周辺に落ちていた骨や鉱石、剣や槍を回収することができた。

(無線で命令されたが、あんな物どうするつもりなんだ?)

命令では、可能な限り鉱石は大きさごとに、骨は丁寧に1体分ごとに、剣や槍は種類ごとに回収して保管せよ、とされていた。

(鉱石と剣と槍は価値がありそうだが、骨なんか拾ってどうするつもりなんだ? ま、やれと言われればやるが・・。それよりも)

一番悩ましいのが、建設中隊と作業隊についてだった。訓練は残置された降下猟兵中隊の第3小隊に任せてあるので問題ない。しかし、武装について問題があった。手っ取り早いのはここに集積されている共和国軍の小銃を持たせることだが、それをやると弾薬の互換性に問題が出るのだ。我が軍の軍用小銃であるGew33と、共和国軍の軍用小銃M30の口径は共に7.7ミリだが、Gew33はM30の弾薬は使えるが、その逆は駄目だった。


共和国軍のM30小銃は、我が帝国が開発したGew26の機関部をほぼコピーして開発したといわれている。帝国は技術権に関して外交抗議したが、共和国は「Gew26とは弾薬の互換性が無い」と主張して取り合わなかった。そこでM30の弾薬が使用できるように機関部を改良して開発されたのがGew33なのだ。機関部の改良は軍機とされて、そのほかの改良点をもってGew26を更新する新型小銃として正式化された。このGew33開発の裏話は、共和国への仕返しとしてはなかなかのもので、開発に当たった陸軍兵器廠と協力した企業に対して、密かに皇帝陛下から恩賜があったそうだ。

(共和国がこの事を知っているかどうか分からんが、帝国としては主力小銃の弾薬を、敵国がせっせと作ってくれてるんだからボロ儲けだ。共和国にしても今更知ったところで、戦争をしながら新型の小銃を開発して、新規の弾薬と共に生産するなんて真似はできないだろうしな。)


そういった訳で、Gew33を装備しているのであれば問題無いが、M30を装備していると弾薬が制限されることになる。作業隊と建設中隊が武装されれば、歩兵戦力の中核となるだけに弾薬の供給は重要だった。

(しかし、ここにあるGew33のストックは150丁ほどだ。120丁ほど足りない。)

反攻作戦に備えて送られてきたのは、各種弾薬と燃料が主で兵器の類いは多くはなかった。

(機関銃を持たせるかどうかもあるが、あっちの補給とか通信大隊のGew33とM30を交換すればいけそうだな。ここはひとつシュラーガー少佐に相談してみるか。)

立ち上がって自席の後ろ、ハンガーポールに引っ掛けてあった軍帽を取ると、少尉に一声掛けて事務所を出た。

事務所前の営庭になっている所で、建設中隊の一部隊が訓練を受けていた。彼等と作業隊の訓練教官を努めているのは降下猟兵中隊第3小隊。彼等は行進や基本動作の訓練は最小限に留めていた。小隊を基本単位とした部隊行動を教え込んでいる。小隊で移動、分隊ごとに散開、集合して移動。進んで行けば実弾訓練も入ってくるだろう。

(あまり多くは使えないが、やらせない訳にはいかんよなぁ。習熟訓練もあるし。やはりGew33を支給してやりたい。)

シュラーガー少佐も同意見だろう。しかし、師団司令部の承認がなくては装備の入れ替えは無理だ。

(連名で上申してみるか。)

そんな事を考えながら第100装甲大隊の本部へと入るべく、ドアノブに手を掛けたその時、ドアが勢いよく開いて俺の右手に激突した。

「痛って!」

思わず大声をあげて手を引っ込めると、扉の向こうから驚いた顔が覗いた。

「し、失礼しました、テッタウ少佐殿!」

まだ若い、大隊本部勤務の上等兵だった。そして彼は振り返ると

「シュラーガー少佐殿、テッタウ少佐殿がお見えです。」

奥で本部員と机を囲んでいる主に報告した。


「ちょうど伝令を出したところだったんだが、もう少し遅い方がよかったな。」

「お気になさらず。」

右手を擦りながら、少し頬が緩んでいるシュラーガー少佐に向かって笑顔で答える。側には先程の上等兵がいるのだ、あまり萎縮させては申し訳ない。

「で、何があったんです?」

「捜索隊「川蝉1」が新たな部隊を発見したそうだ。」

「まだいたんですか。それはよかった。」

「ああ、そうなんだが・・。」

シュラーガー少佐はなぜか浮かない顔をしている。

「何か問題でも?」

「ああ、まず発見したのは海軍の部隊と言うこと。」

「海軍ですか・・・。」

確かに南部のヴァードーには、飛行場を含む大きな海軍基地がある。

発見したのは、そこへ向かう途中だった帰休兵の一団と新型艦艇の実験部隊だと言うことだった。

「海が無いここで海軍とは・・。新型艦艇ってなんです?」

「詳しくは分からんが、報告では魚雷艇のような小型艇で、トレーラーに積載されているそうだ。あとは機密保持の為の憲兵と海軍工廠の技術将校と軍属の技術者が何人か。」

「憲兵と軍属・・。」

どちらも扱いが面倒な連中じゃないか。よりにもよってこんなところで・・・。

「あと、海軍の法務大佐と書記官だそうだ・・・・。」

「・・・・・・・・悪夢だ。」

「ああ。で、その大佐が責任者との面会を要求しているらしい。」

シュラーガー少佐が顔をしかめっ面になって右手を顎に当てていた。

(この顔で黙らせてくれるといいんだが。)

大隊本部の空気は緊張しており、原因はシュラーガー少佐の機嫌が悪くなることを怖れているようだった。シュラーガー少佐は、自分の気分次第で部下に当たり散らす将校ではない。

(が、まぁこの顔で一言も言わずに居られたら、そりゃあなぁ。)

シュラーガー少佐の欠点らしい欠点は、感情が顔に出る事である。

「とにかく、海軍さんの車輌は燃料切れだそうだ。水もないらしい、給油と給水の手配を頼もうと思って、伝令を出したんだ。」

「なるほど。じゃ、それはすぐに手配しましょう。・・で、その法務大佐殿はどうします?」

「迎えの車を出そうかと思っているんだが。」

「その方が良さそうですね。中型兵員車を出しますよ。」

「分かった。では、私が乗っていこう。」

「よろしいので?」

「すでに向こうで、ああでも無いこうでも無いと騒いでいるらしい。少し冷静になって貰った方がいいだろう。」

シュラーガー少佐が眉間に深い皺を寄せて俺に向かって言った。

(自分の顔が、そういう事に使えるって自覚あるんだな。)

と思いながら、敬礼して大隊本部を出た。師団司令部への報告は海軍さんご一行をここに連れてきてからと言うことになった。

(なるべく早く師団司令部にぶっ込んじまおう、憲兵と軍属と一緒に。)

やることを整理しながら事務所へ戻ると、まず少尉を呼び給油と給水の手配を命じた。

(あの様子だと、海軍さんの上位将校は、直接司令部に行くだろう。それ以外の将校と下士官以下はここで休養を取るだろうから、その手配だな。)

従兵を呼んで、補給班のトーマ准尉にとりあえず50人分の食事を準備しておくよう伝えさせた。正確な人数は把握次第、速報すると付け加えて。

(法務将校の要望にどこまで答えるのか決めるのは師団長だからな。)

とりあえず、今のところの俺の仕事はここまでだった。



補給処「蜂の巣箱」

第100装甲大隊長 シュラーガー少佐


1時間後、準備が出来た給油車と水缶を積んだ小型トラックを引き連れて、私は補給処を出発した。海軍の法務大佐他を乗せることを考えて、中型兵員車には私と運転兵、地図とコンパスを持った軍曹だけ。給油車と小型トラックにも最低限の人員だけにした。

(よりにもよって、法務大佐とはな。)

軍人として自分を厳しく律してきたとの自負がある私でも、法務将校と顔を合わせたいとは思わない。戦場を知らぬ杓子定規の屁理屈屋、と言う思い強い。

(軍規違反を犯した将兵を裁くのは分かる、当然だ。私も告発したことがある。だが、ならば然るべき階級を持ちながら、その責任と義務を果たさない無能な将校が野放しになっているのは何故なのか。)

理想と現実の乖離は分かっている。だが、私には消すことの出来ない記憶が、経験がある。あの日から、私は。


あの日、私はフォントノアにおける戦闘で、悪化し続ける状況をなんとか打開しようと部隊の先頭で指揮を執っていたが負傷し、気絶したところを部下によって助け出され、友軍に収容された。

(第4装甲旅団を壊滅させたあの男も、あの男を旅団長した誰かも処罰されなかった。しかも、あの男は名誉の戦死とされた。名誉? 1個旅団を全滅させた者にどんな名誉が与えられると言うのか? それは絶望的な状況において、なおも果敢に立ち向かった者に与えられるべきものだろう。双方を同列に並べるなどとは、本当の名誉の戦死者に対する最大の侮辱ではないか。)

治療を受けていた野戦病院で、フォントノアの戦闘の事後処理を聞いたとき、ただただ感情を抑えるだけで精一杯だったことを思い出していた。

後々になって聞いた旅団長の最期は、最後まで後退を禁じて踏みとどまり、旅団司令部ごと死んだそうだ。意地なのかけじめなのかは分からないが、司令部を道連れにするとは無能を越えて害悪としか言い様がない。もう、湧き上がる感情をどんな言葉で表現したらいいのか分からなかった。

(ひとりの無能者のおかげで、多くの有能で愛国心と勇気を持った多くの若者が死んだ。その償いを誰もしていないのだ。)

私は、野戦病院のベッドの上で、言いようのない悶々とした時間を過ごしていた。やがて、第7軍司令部から待機命令が届いた。さらに後、軍医が退院を許可する日付が決まったところに、第7軍司令官が自ら私のベッドにやって来て、第100装甲大隊の編成と大隊長就任の打診を受けた。私は旅団の残余兵員で希望する者全員を部下にする条件で引き受けた。そして、退院したその足で訪れた第7軍司令部で、軍司令官が言った「南部戦区における装甲兵力の再建」は、自分の義務と捉え直ちに任務に就いた。

第7軍司令部直轄の装甲大隊として、強力な支援を得て編成を進めていたとき、ひとつの話を耳にした。フォントノアの戦闘から少し経った頃、南部軍集団司令部内であの男を死後一階級特進させる話が持ち上がったが、一部が猛反対して話は立ち消えになったという。反対したのは南部軍集団司令部参謀長のホーフェンベルグ中将。その後、中将は歩兵師団の師団長に転出したそうだ。

(この話を聞いた時、どれほど救われ癒やされたことか・・。軍集団司令部に対する疑念は別だが。)

そして、反攻作戦への準備命令。第7軍司令部の作戦参謀から口頭で伝えられたのは、作戦にあたって大隊は第91歩兵師団に隷属するという。師団長はあのホーフェンベルグ中将。

(あの時の感覚は、久しぶりだったな。闘志が漲る、あの感覚。)

その瞬間から私は充実した時間を過ごすことになった。装備を充実させ、大隊の錬成に時間を費やした。私の意思は大隊将兵にくまなく伝わり、大隊の練度は満足できるレベルまで達していた。

(後は思う存分仕事をするだけ、だったのだが、思っていたのとはかなり違う状況になってしまった・・・。だが、私の意思は変わらない。ホーフェンベルグ中将閣下の下で、最良の結果を出すのみ。)


「少佐殿、見えました。」

助手席で地図とコンパス使って、海軍の位置へ誘導していた軍曹が振り返って報告してきた。

「ああ、ご苦労。」

前方に何かを積載したトレーラーと牽引車、バス、トラックの車列が並んで止まっているのが私にも見えた。トレーラー上にはシートが掛けられた舟が載っている。

(あんな物を引っ張ってきたのか。鉄道を使えば無事に着けただろうに。)

そう思っている間に車は車列に近付いていく。やがて両手を腰に当てて、こちらを睨んでいる将校に気がついた。

(あれか。)

こちらを見ている、その姿勢を見ただけで分かる。

「穏便に話し合わないとな。」

思わず声に出てしまったが、運転兵と軍曹は微動だにせず、一呼吸おいた後、

「はっ、少佐殿。」

と軍曹が答えた。


車列の側には装甲車「川蝉1」が止まっており、その脇には車長の軍曹が直立不動で立っていた。私が車を車列の近くで止めさせると、軍曹が小走りで近付いてきた。

「お待ちしておりました、少佐殿。」

申告する軍曹が情けない顔をしていることに違和感を感じていると、視線を先程視認した将校へ送っている。

(あいつにやられたのか。)

下士官に噛みついたところで、何がどうなる訳でもないのが分からないとは。

「ご苦労だった。」

私は軍曹の肩に手を乗せ、労った。

「後は、私がやる。」

軍曹を装甲車に戻らせると件の将校へと近付いていった。先方は両手を腰に当てている姿勢を崩さずにいる。私は努めて表情を変えないまま、その将校を品定めした。濃紺の海軍制服の肩には大佐の階級章、左胸には後方業務における業績に対して授与される一般戦功章銀章を佩用している。そしてズボンの体側線には白色の二重線。

(・・・海軍省軍事裁判所の判事か・・。)

この大佐は海軍大臣の直属の部下と言う訳だ。こんなのが物わかりがいいはずは無い。私が向かい合って立ち、敬礼しようとすると

「私は海軍のガーゲルン大佐だ、君の官職氏名を名乗り給え。」

下位の者が先に敬礼して、官職氏名を申告するのは当然だが、それをさせないのは上位階級にある者として無礼な振る舞いと言っていい。

「シュラーガー陸軍少佐であります。」カツン。

私は半分だけ名乗ることでこの大佐への返礼とした。私の後ろでは硬直した運転兵と軍曹が、大佐の後ろでは30人ほどの海軍将兵がやり取りを見守っていた。

「所属部隊はどこだ? 指揮官は?」

私が伝えんとしたところは伝わったらしく、鼻で笑うような仕草ととともに質問してきた。

「陸軍第7軍司令部直轄、第100装甲大隊であります。現在は陸軍第91歩兵師団隷下にあります。」

私はこの大佐にも分かるように答えてやった。

(この戦場知らずの案山子野郎が。この俺が銀貨1枚ぶら下げただけの大佐ごときに臆するかどうか、教えてやる・・。)

礼儀知らずに使う礼儀など持ち合わせはないのだ。

「ほう、陸軍部隊がいるのか、すぐに案内しろ。燃料は持ってきたんだろうな。」

「はい、大佐殿。陸軍の燃料を持ってきました。」

「・・・。」

「私は師団司令部から、この地区おいて現在地を見失った部隊の捜索と誘導を一任されております。まずはこの近くにある拠点に移動していただきます。」

「私は指揮官と面会したいのだ、少佐。直ちに、だ。」

「まずは、ここにいる全部隊が拠点に移動した後、師団司令部に報告、指示を仰いでからになります、大佐殿。」

「君は私に命令するつもりかね、シュラーガー陸軍少佐?」

苛立つ雰囲気を前面に表して、海軍大佐が言い寄ってくる。

「私は自分に与えられた任務について説明しているだけです、ガーゲルン海軍大佐殿。」

私が表情を変えずにそう言うと、大佐は我慢も限界だぞ、とでも言いたげな顔で何か言おうとしたが、遠慮するつもりは毛頭無い。

「私が持参した陸軍の燃料と飲料水は、私の任務を遂行するために持参したものです。燃料は私の誘導に従う車輌に補給しますし、飲料水は同行する将兵に対してのみ配給します。」

(陸軍と海軍、少佐と大佐だと言うなら、全部ご自分でどうぞ。あんたが言うとおり、俺は陸軍であんたは海軍なんだからな。)

もはや対決姿勢を隠そうともしない私の様子に、大佐の後ろで見守っていた海軍の将兵達は驚きを隠さなかった。大佐が顔を真っ赤にして黙り込むと

「この縦隊の指揮官は誰だ!」

大佐の横を素通りして、後ろで停車しているトレーラーの車列を指さしながら集団に向かって尋ねると、1人の若い将校が返事をした。

「自分です、少佐殿。」

そう言いながら、前に進み出ると私の前で直立不動を取り、敬礼した。

「海軍第63海上機動戦隊、クルーク少佐です。」カツン!

「陸軍第100装甲大隊、シュラーガー少佐だ。君の部隊と他にもいるそうだが、所属はどうなっているんだ?」

答礼しながら、クルーク少佐を見定める。若く賢そうな様子だが、実戦経験はあまり無さそうだ。

「私の隊は新型の機動艇が3隻と乗組員、それに海軍工廠の技術将校と造船会社の技師、機密保持の為の海軍憲兵です。あとはヴァードーにある海軍基地に所属する艦艇や根拠地隊の帰休兵です。哨戒艦や掃海艇の乗組員や通信、経理、整備の下士官兵。それと海軍航空隊と空軍の操縦士もいます。」

色彩豊かな陣容に呆れつつ、

「全部で何名いるんだ?」

「155、いや158名・・です。」

(車列の人員を正確に把握していないのか・・。)

と思ったが、彼は自分の戦隊のみに責任を負うのであって、たまたこの集団の中で最上位の野戦将校というだけなので、まぁ仕方ない。

「分かった。各部隊、所属の指揮官か先任階級の者を集めてくれないか、確認しておきたい事がある。それが終わったら、各車両に燃料を割り当てる。ここから5キロほどのところに拠点があるから、そこまで移動する。」

「了解しました。」カツン!

クルーク少佐に答礼すると、車列に目を向けた。全長30メートルはありそうなボートを乗せたトレーラーと牽引車、バス、トラック、小型兵員車。

(新型の機動艇と言っていたな。補給処の開いている倉庫に入れられればいいが。)

憲兵がトレーラーの側に立っているが、どことなく不安げな顔をしている。大丈夫だ、と伝わるように微笑んで頷いてみせると、ぎこちない笑顔とともに敬礼を送ってきたので小さく答礼を返してやった。

(燃料が切れるまで、道なき道を進むとは。戦場どころか森の歩き方を知らんとはな。)

振り返って、しかめっ面のまま立っているガーゲルンを睨み付けてやると、目を逸らして顔を背けて1台だけある一般用の乗用車の後部に乗り込んでしまった。

車の脇には同年代ぐらいの軍曹が立っていて、そっと直立不動を取って敬礼を送ってきた。

(あれが書記か、苦労していそうだな。)

そう思いながら答礼を返すと、集合した将校と下士官達に向き直った。


「手短に説明する。私は陸軍第7軍司令部直轄第100装甲大隊長、シュラーガー少佐だ。現在、大隊は第91歩兵師団隷下にあり、師団長ホーフェンベルグ中将の指揮下にある。情勢は極めて複雑であり、なおかつ軍司令部を始めとした上層部との連絡は途絶しているため、ホーフェンベルグ中将が付近の部隊を把握、臨時に指揮下に入れている。すでに複数の空軍部隊と野戦警察が指揮下に入り、拠点防衛の任務に就いている。現在まで・・・」

集まった将校下士官達に現在までの状況をかいつまんで説明した。皆、諦めと不信が入り交じった表情で黙って聞いている。

(あの時からずっと森の中を彷徨っていたんだ、状況は嫌でも分かるだろう。だがそれでも信じられない、信じたくない。そんな気持ちになるのは無理もない。)

彼等の表情を見ながら、私の今までを振り返っていた。

「・・無論、指揮下に入るかどうかは各指揮官の判断だ。しかし、指揮下にない部隊に対して我々は一切関知しない、と師団長閣下は明言しているので参考にして貰いたい。」

海軍の指揮権に干渉されたくないなら一切干渉しないから、自分の面倒は自分でみろよ。至極当然の話だが、理解出来なさそうな奴の為に一応して話しておいた。

「少佐殿。」

2人いる空軍将校、中尉と少尉の中尉が手を上げた。

「すでに空軍部隊が指揮下に入っているとのこと。我々も指揮下に入ります。何か出来ることがありましたら、どうぞ。」

中尉はにやにやしながら直立不動を取った。

「分かった。君と少尉は俺が乗ってきた車に乗ってくれ。」

「はっ、少佐殿。」

2人はきびきびと行動し、バスから私物の入った鞄を降ろすと、海軍の将兵に笑顔を振りまきながら中型兵員車へと立ち去った。

海軍の将校達は顔を見合わせるばかりだった。ひそひそと話しているが、誰も決断できないようだった。

「どうする、クルーク少佐。答えはひとつだと思うが?」

「はい・・。しかし・・。」

若くして少佐になるぐらいだから優秀なのだろうが、上位階級者の意に反するには抵抗があるようだ。

「君の立ち位置は分かるが、戦隊長としての責任はどうするんだ。新型の機材と部下、それに技術者もいるんだろう。機材の保全と人員の安全について責任があるんじゃないのか?」

私がそう言うと、クルーク少佐はなおも考え込んでいたが、

「分かりました。私の責任においてホーフェンベルグ中将の指揮下に入ります。」

「了解した、クルーク少佐。それでは燃料を配分する、部下を集めてくれ。」

その後、全ての海軍将兵が指揮下に入り、燃料と飲料水の配給も滞りなく終わった。最後に乗用車が1台残ったが、なんとも困った顔の軍曹に免じて燃料缶と水筒を渡してやった。

(あいつを師団司令部に連れて行く時は、一緒に行った方がよさそうだな。)

軍曹が給油している乗用車を見ながら、そう考えた。

面倒な事を起こした時の対処法も。


投稿が開いてしまいました。保存していたデータが壊れてしまい、復旧していたのと、思いのほか書くのに手間取ってしまいました。なんか始めた時よりも気軽に書けなくなっている感じです。努めて気負わず続けていきますので、暇潰しにどうぞ。

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