1-8 真矢への疑念
カタリを見逃した後、俺は真矢の金で市内のビジネスホテルに泊まった。
「むふーん、なんて文明的なのかしらん」
俺は安物のベッドの上でゴロンゴロンと転がってこの世の春を謳歌する。ここ最近はネカフェやハンバーガーチェーン店が寝床だったからなあ。
まずはメシを食って、シャワーを浴びてサッパリとして、むふふふ! ああ、文明社会って素晴らしい!
「けどどうすっかな」
俺はこれからの事を考える。一流の大学を出た大の大人が子供に養われているというのは世間体とプライド的によろしくはないが真矢の助手になった事でしばらくは食いっぱぐれないだろう。
探偵の手伝いもしばらくは手探りになるだろう。ただある程度は警察時代に学んだ経験も生かせるはずだし全く畑違いではないはずだ。
「……………」
そう、それに関してはそこまで問題はない。問題は真矢が信頼のおける人物かどうかだ。
シャワーを浴びて余計なものを洗い落とした俺は思考がクリアになりようやくその事に思い至る。俺はやはりカタリを見逃した時に見せたあの不敵な笑みが今になって無性に気になってしまったのだ。
そもそも探偵とはグレーな事も平気で行なう職業だし俺もそんな職業の手伝いをする以上はある程度は受け入れなければならない。せめて一線を越える様な事がなければいいのだが……。
あれから真矢からは何も連絡は来ていない。しばらく過ごせる程度の金は渡されたし数日間は問題ないはずだ。
つまり今はする事がない。折角だから連続幼女殺人事件についての調べ物でもしておくか。
ただ大体の新聞や週刊誌の記事はもう既に調べたので俺は最近の楊彩文について調べる事にした。調べたところであの事件に結び付く様な情報は手に入らないだろうが他にする事もないからな。
あいつの事を調べていた真矢に聞けばもっとちゃんとした事がわかるかもしれないが、俺はまずSNSで楊彩文に関する情報を閲覧した。
彼女はいわゆるキラキラ女子と呼ばれる人種でありSNSにはホストクラブで豪遊している姿やブランド物を自慢する写真が挙げられていた。
だが称賛の声と同じくらい批判の声も挙げられている。彼女は詐欺師まがいの方法で付き合った男から金を巻き上げており、軽く調べただけでそこかしこに怒りの声が転がっていたのだ。
「……………」
そしてその中にはやはりというか穂久佐村連続幼女殺人事件に関連する内容もあった。なんてったって彼女は元々容疑者候補の一人だったからな。
もちろん結婚詐欺はあくまでもネットの情報なので鵜呑みには出来ない。しかし現に今日カタリの口から遂行されなかったとはいえ殺害依頼をしたのは確認出来たのでそれくらいの事をしている可能性は十分にあるだろう。
結局真矢はどう解決するのだろうか。法で裁けないこの罪を。
「ねむ……」
まあいいや、今日はもうゆっくり眠ろう。他にも適当に調べてからスマホを充電したら眠って……。
俺はうつらうつらとしながらスマホをいじる。もっと他に情報はないかな。俺は信憑性がイマイチなので普段は見る事がない掲示板にも目を通す事にした。
「……………?」
その時ふと俺の目に入ったのは『グロ注意:ガチの殺人映像』という過激な文言だった。その下には『穂久佐村連続幼女殺人事件』という単語の他にこの様なものが見受けられた。
『復讐者、その名はドン・キホーテ! 二人目の被害者現る!』
という全くもって意味不明なものが。これは一体どういうスレッドなのだろう?
しかし俺はそれについてそれ以上思考する事が出来なかった。何故ならあまりにも心地良すぎて睡魔が限界に来ていたからだ。
まあいいや、明日の事は明日考えればいいさ。
そして疲れが限界に来ていた俺は硬いベッドの上で瞳を閉じて泥の様に眠った。今はただゆっくり休みたかったから。