4-13 ドン・キホーテ事件の真相
ドン・キホーテを止めるために穂久佐地区のアストラルパークに向かった俺だったが、現場に付近に到着して驚愕してしまった。
「ん? あれま、なんだいや! 火事かね!?」
「あれは!?」
タクシーの運転手も流石にそれに気付いて狼狽える。火の手が上がっている場所はアストラルパークのあるあたりだ。まさかドン・キホーテはもう行動を起こしたというのか!
「運転手さん! 急いでください!」
「え、ええ? 本気だが? よし来た、ちょいと無茶するだぁよ!」
ただならぬ状況に運転手さんは本気を出して交通法規を無視してアクセル全開でアストラルパークに向かってくれた。だけど皆は交通ルールをきちんと守ろうな!
ようやくアストラルパークに到着した頃にはさらに延焼していた。だがこれくらいならまだ突入出来なくはないだろう。
俺は入口のドアを開き急いで内部に侵入する。けれど俺を真っ先に出迎えてくれたのは一人の男の死体だった。
「烏丸!?」
その男は烏丸だった。烏丸は仰向けに倒れて胸を撃ち抜かれておりその表情は安らかで眠っている様だった。
「クソッ!」
俺が来る前に彼とドン・キホーテとの間にどのようなやり取りがあったのかはわからないが間に合わなかったか……俺は悔しさのあまり床を殴りつけてしまった。
だがせめてドン・キホーテとだけは話をしないと。俺は彼女が待っているであろうプラネタリウムのドームへと急行した。
もう手遅れだとしても俺は彼女と話さなければならない。このしょうもない真実を伝えなければならないのだ!
ドームに突入した俺は投影機の傍で何もない天井を眺める少女をすぐに発見した。やはり彼女はここにいた様だ。
「まったく、探したぞ」
俺は彼女に語り掛けるも返事をする事はなかった。彼女はただぼんやりとそこに立ち尽くしていたのだ。
「俺結構頑張ったんだぜ。お前の無実を証明するために……ミステリーじゃ犯人だって怪しい奴は大体犯人じゃないだろ?」
「最近はそうでもないよ? 犯人と思われた奴が実はやっぱり犯人だってパターンも珍しくないさ」
彼女はいつもの様にミステリーのあるあるネタを言って場を和ませる。けれど今回ばかりはこの冗談はちっとも笑えなかった。
「なあ、何でこんな事したんだよ……真矢!」
そして俺は頼れる相棒の名を力の限り叫んだ。だが彼女は寂しそうに笑うだけでそれに答えてくれる事はなかった。
「光を失った偽りの空はもう輝く事はない。真実を知ってももう時が戻る事はないよ」
「それでもだ。教えてくれよ、真矢!」
「うーん、教えてもいいけど、どうしよっかなー」
真矢はこんな状況でも相変わらずいつも通りにおどけていた。俺はこんなにも胸が張り裂けそうで仕方がないというのに。
「じゃあ答え合わせをしよう。君が僕のトリックを解く事が出来たら教えてあげるよ」
「……ああ、それがお前の望みなら付き合ってやる」
正直真矢の言う様にもうこれに意味はない。犯人が真矢であることは疑いようのない事実だし元の関係に戻る事もないだろう。だけど俺はどうにかして人の気も知らないで好き勝手した彼女に一泡吹かせてやりたかったんだ。
「だがこれはトリックという程トリックじゃない。全ての生中継の動画は作られたもので投稿もプログラムによるものだ。すごかったよ、スーパーエロゲメーカーで作られたエロゲの画面を見たけど本物と見分けがつかなかったよ」
「ありゃ、不潔ぅ。君もやっぱり男の子なんだね」
「茶化すな。コメントも同じ様にプログラムか協力者を使えばどうとでもなる。だがあんなものを作れる希典さんって何者なんだ?」
「僕もよくわからないけど荒木の一族は科学の力で世界を支配してきたらしいよ。世界中の色んな研究機関に関係者がいるんだって」
「……まああの人に関してはひとまず置いておこう、知る必要もなさそうだし。水族館の後に警察に捕まったがその時の匿名の通報もお前の仕業なんだな?」
「そうだね。警察にアリバイを作ってもらうためにわざと捕まったんだ。ちなみにあの時見つかった遺体はこのために用意しておいた大覚寺明美の遺体の一部だったりするよ。他に伏線回収はあるかい?」
俺たちは普段そうしてきたように推理合戦をした。だがそれはあまりにも虚しく悲しすぎる戦いだった。
「お前はあらかじめ処刑動画を作っておいてそれから殺したんだろう? 標的を殺した後は見つからない場所に隠せばいい。三人目の乙亥正は情報を与えるとか言って人の来ない場所におびき寄せて殺しそれから動画を投稿した。その気になれば五分で事足りるだろう。四人目の死体の左門悟は首がノコギリの様なもので切られていて映像の死に方と矛盾していたが……これはその時点で既にスーパーエロゲメーカーを敬川さんに返してしまったから動画を作り直す事が出来なかったからだ。きっと本来は見つからない場所で殺すか隠すかするつもりだったんだろう。しかし何らかの理由で失敗しやむなく矛盾があるまま投稿せざるをえなかったんだ」
「おお、その通りだ。流石は僕の助手君だね!」
「人生でこれほどまでに褒められて嬉しくなかった事はないよ」
俺の推理は全て的中していたので真矢はぱちぱちと拍手をしたが俺は何一つ面白くもなんともなかった。だってこれは真矢が犯人だと俺自らの手で証明したって事だからな……。
「四人目の左門の死体の矛盾は映像が作り物であるという決定的な証拠だ。そして専門家も本物だと思ってしまう現代の技術では作れない映像を作れる装置を持っていて動機もあるお前が真っ先に容疑者候補に挙がる。死体もいくつかは見つかっているし証拠が出るのも時間の問題だろう。これで満足か」
「うん、上出来上出来。別に時間さえ稼げれば見つかってもよかったから割と隠すのは適当にやったけどね。更家はいざという時にスケープゴートにするつもりだったから絶対に見つからない場所に隠したけど。多分そろそろ乙亥正も見つかるんじゃないかな? まああれは一時的に死体を隠して君と別行動をした時に戻ってバラバラにしてそう簡単に見つからない場所に捨てに行ったんだけどね」
「あの時か……」
「殺し方をセンセーショナルにしたのは撹乱の意味もあるけど恐怖を与える意味もあったんだ。実際そのおかげで穂久佐村連続幼女殺人事件の捜査や報道に携わった関係者はなんとか助かろうと次々と当時に行なった不正を暴露している。作戦は大成功したね。おめでとう、サンチョ君! 君の推理は大正解だよ!」
最後に真矢の口から細かい事を教えてもらい推理は一通り終了する。こうして今までで一番楽しくない推理合戦はようやく終了したんだ。
「だけど俺は一番知らなければいけない事をまだ知っていない。それはお前の動機だよ」
「そうだねー。約束だからね」
俺は虚しくて仕方がなかったが全ての真実を知るために真矢に問いただした。そして彼女は最初の約束を守り全ての真実を教えてくれたんだ。
「最初の標的にしたのは更家だった。実のところ殺すつもりはなかったんだけどね……でもちょっとやり過ぎちゃってうっかり殺しちゃったんだ。だけどその時とてつもない恐怖と同時にすんごいカタルシスを感じてね。偶然とはいえ一度人を殺しちゃった以上もう僕は後に引く事が出来なかったんだ」
穂久佐村連続幼女殺人事件において一番の悪人は誰かとなると悪人が多すぎて何とも言えないが、自白を強要し率先して冤罪を生みだした更家警視はかなり重い咎を追うべきだろう。自分の保身のためにあの事件を調べていた俺をハメてクビにしたし。
「僕は更家から全ての捏造は烏丸の指示によるものだと教えてもらった。君も知っていると思うけどあいつらは政治家の親族を護るために全く無関係な萩野弘を生贄にしたんだ。僕は復讐を望んだ。だけど敵はあまりにも強大で手段を選ぶ事は出来なかった」
「烏丸の指示……?」
だけど俺はその部分が気になった。烏丸は俺を尋問した時にそんな事は言っていなかった気もするが……いや、きっとそれは彼女の中では真実なのだろう。
「ついでに左門を殺しちゃった理由も教えようか? 君の言う通り僕はあいつを見つからない様に殺すつもりだった。だけど尋問した時に捏造した理由を聞いてあいつはこう答えたんだ。『行きつけの風俗のクーポンの有効期限がもうすぐだから早く帰りたかった』ってね……」
「っ」
「まあそりゃ予定を無視してその場で殺したくなるよね。いやあ、あれは人生で一番ブチ切れた瞬間だったよ。そんな理由で僕の人生は、父さんは、母さんの人生は狂わされたんだからねッ!」
俺はそのあまりにも身勝手な理由に言葉を失った。そんな理由で、そんなあまりにもくだらない理由で荻野弘は罪を被せられたというのか!
「これが僕の語れるすべての真実だ。これで満足かい、サンチョ君?」
全てを話し終えた真矢はどこまでも悲しそうで晴れやかな笑顔をしていた。
プラネタリウムのドームにはどこまでも虚しい暗闇の夜空が広がり、炎はパチパチと火の粉を飛ばして焼き尽くそうと迫っている。
このままここにいれば炎に巻かれて死んでしまうだろう。
けれど俺はその悲しすぎる笑顔のせいで何も言えなかったんだ。




