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2-4 被害児童の友人、古豊千泉について

 その後も俺たちは考察をするもこれといったピンとくる結論は出ないままだった。しかしあれやこれやと不毛な推理をしていると、


「ねえ、あたしもそれを見ていいかしら」

「いいですけど」


 と、デネブさんからそんな申し出があったので俺はバインダーを渡す。もう少しじっくり見ていたいけど事件の関係者である彼女がこれを見たら何かしらの新たな発見があるかもしれないし。


「あら、これは!」

「っ!」


 すると早速彼女は一枚の記事に反応する。もしかすると捜査に役立つ情報だろうか。俺はすぐに身を乗り出してそのページを見た。


熟礼うれムチの記事じゃない、懐かしいわねえ~。そういえばこの頃引退したんだっけ」

「はい? 熟礼ムチ実?」


 しかし彼女が気になったのはページの端っこにあった聞いた事もないタレントの引退コンサートに関する記事だった。まったく紛らわしい事しやがって。


 メイン部分ではないため文章は途中で途切れているがそこには大きなコンサート会場の写真と号泣するファンの男性の写真があった。男性のほうは何となくサッカーの試合で後に日本代表になる対戦相手を泣きながら半端ないって賞賛した人が思い起こされるよ。


「あら、ムッチを知らないの? ノー娘のムッチを!」

「っていうかノー娘自体を知りませんが。有名だったんですか?」

「ええ、三十代から四十代の熟女で結成されたアイドルグループよ! 当時は世のおじさまを虜にしたものね!」

「おや懐かしい。最近の若い子は知らないんだね。MIMIガキーン~更年期ver~は当時流行ったよね」

「そうそう、あったわね~!」

「何だよそのわけわからんタイトルの曲は。昔の人の価値観をとやかく言うつもりはないですけどジェネレーションギャップを感じますね」


 また俺よりも年下のはずの真矢もその話題に反応してしまう。つーかお前歳いくつなんだよ。だけど無論これは本筋とは関係ない情報だしスルーしてもいいよな。


「えーと、事件に興味がないなら返してくれます?」

「もう、そこはもうちょっと食いつきなさいよ。これだからB型は」

「血液型診断ってそれ自体もちょっと古いですけど。まあB型ですけど」


 俺が適当にあしらうとデネブさんは今は廃れつつある血液型による分析を持ち出した。ああいうのって何かやたらとB型が嫌われるよなあ。


「基本的にはパーナム効果で説明がつくものばかりだね。科学的な根拠は全くないよ。ちなみに僕はO型だけど敬川君は?」

「私? 私はA型ですね。っていうか何普通に雑談してるんですか、フシャー!」


 なお敬川さんは一瞬仲が悪い事を忘れてしまったけれどすぐに思い出して真矢を威嚇した。どちらも恋愛占いでは好かれがちなマジョリティの様だ。


「これは考えるまでもなく相性は最悪、いやむしろいいのかな。それでデネブさんは?」

「あたしはボンベイ型よ。この場合どうなるのかしら」

「ボンベイ型って……ボンベイ型のオネエさんに俺初めて会いましたよ」


 ちなみにボンベイ型は日本なら三十万人に一人くらいの割合のレアな血液型だ。鳥取の人口は五十万弱なので鳥取には一人か二人しかいない事になる。


「とにかく雑談をしている暇があったら行動したほうがいいだろ。結局あれこれ推理しても判断するための情報が無ければ一生真相にはたどりつけないぞ」

「ふむ、せっかちさんだなあ。ちゃんとこの後の予定は立てているから安心しなよ。二時間後に電車で稲子いなごに行く。そこで事件の関係者に会って話を聞くつもりだ」

「何だ、それならそうと早く言ってくれよ」


 真矢は苦言を呈した俺につまらなさそうにそう答えた。悪徳とはいえ一応は敏腕探偵、ちゃんと先の事も考えている様だ。


「稲子には姉歯美鳥の友人だった古豊千こほうちいずみと、萩野弘を起訴した検察官の今在家いまざいけ一嗣かずしが暮らしている。今在家のほうはどうとでもなるけど問題は古豊千さんなんだよなあ」

「古豊千泉、ってどこかで聞いた事があるな」


 ただ彼女は少し困った表情になってそう呟いた。何やら問題がある様だがどういったものなのだろう。


「古豊千さんは水泳の有名な選手ですよ。もう引退しましたけどオリンピックで金メダルを獲った事もあります」

「ああ、あの人か」


 アスリートの敬川さんは当然彼女の事を知っておりそう解説してくれる。もしかしたら同じ山陰に縁のあるアスリート同士絡みがあるのかもしれないな。


「それで古豊千さんに会う事の何が問題なんだ?」

「君はテレビを見ないのかい? 彼女は引退後ママタレとして成功している売れっ子だ。本業の連盟の仕事もあるし簡単に会うのは難しいだろう」

「ふーむ、そうか」


 あまり意識していないけどそういえば俺は古豊千泉を何度もニュースで見かけた様な気がする。どうしてアスリートってみんなコメンテーターになって当たり障りのない事をべらべら喋りまくるのかねぇ。


「そうだ、敬川君。君が上手い具合にナシをつけてくれないかな? 知り合いなんだろう」

「……確かに知り合いですし連絡先も交換してますけどあなた自分が何したか忘れました? 盗人猛々しいって言葉知ってます? まあアレを返してくれるなら構いませんが」

「それは困るなあ。他の手段を考えるか」


 真矢は知り合いの敬川さんと交渉するけどその好感度の低さ故に彼女に拒絶されてしまう。しかし本当にどういう因縁があるのだろうか? 何となく真矢が何かを奪った事はわかるのだが。

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