増える愛
こんばんは。
少し間が空きましたか。
さて、今日まだ生きています。
長編ですがお付き合いいただいている方に感謝申し上げます。
急に冬がやってきて、色々な感染症にかからないように懸命な毎日です。
(だいたい年末年始に気力が尽きて、寝込むのだな。今年は平和な年末年始が良い)
※
「リンフィーナ」
ジウスの口からやっと彼女の名前が紡がれた。
「あの赤子は単にソフィアの分身ではなかったのだろうか? だからおまえが興味を持ったのではなかったか?」
「違います! 彼女は単に、ソフィアの分身という生命体ではありません」
サナレスは大神ジウスを真っ向から正していた。
サナレスがジウスを見限るぎりぎりのところで、ジウスはリンフィーナの名前を口にした。
「そうです、あなたが私に妹として育てるようにと神託を下した娘は、リンフィーナです。あなたは、あなたと第三皇妃セドリーズ様の、皇女として王族に迎え入れました。よもや、お忘れではないですよね?」
忘れているぐらいなら、この場でジウスの息の根を止めてもいい。それくらいサナレスは腹が立っていた。
過去にジウスはサナレスに命じた。
小さな命であるリンフィーナを守り育ててほしいと言ったのは、他ならぬジウスだったのだった。サナレスは今こうしてもう一度ジウスの前にいて、その約束を確かめている。
そもそも母セドリーズは、過去それ以上にわけがわからない事情を飲み込み、複雑な現状を受け入れたのだ。
命じたそれをジウスが忘れるなど、あってはならない。
「あなたが、私と母にした約束について、私は確かめに来たんですよ。あなたは勝手に行方をくらまし、ここ冥府に籠城しているんで、仕方がないので私は冥府に立ち寄っているんですけど。正直、かなり無駄な時間です。私は冥府に用はないんです」
言葉は刃になる。
サナレスは辛辣だった。
ジウスに対して、縁を切るかどうかの瀬戸際だったので、歯に絹着せないでいる。
「あなたが冥府の統治者、兄のヨアズ様のためにこちらにいらっしゃることは理解しました」
次に問いたいことには、少しの勇気がいる。だからサナレスは呼吸を整えた。
「でもヨアズ様とジウス、あなた方は双子ですよね? あなたがこちらの冥府で兄の代理を務めたとして、それはどれくらいの、時間を稼げるのですか?」
それは、次の生贄を必要とする時間だ。
自分になるかもしれない。
しかしそれは最善ではなかった。
サナレスは魔力量が少ない、というか金髪であるのでそもそも魔力量がないサナレスであれば、ヨアズやジウスの代わりができないのかもしれない。
だったら、ソフィアなのか。
まさかアセスなのか。
その場合、必然的にリンフィーナは冥府に巻き込まれてしまう。
「ジウスだけで、冥府をどこまで維持できます? 維持できないあなたを、私に代わればどれだけ持ち堪えることができそうなんです?」
率直に聞いてみた。
するとジウスは意外そうに目を見開く。
「おまえから、助け舟が提案されるなんて、な」
サナレスは舌打ちした。若い時は、自分の人生を諦められなかった。自分がどのように生きたいかばかりが先立って、欲望のままに生きていた。
しかし100年と少し生きて、サナレスの考え方は変わっていた。案外、大切なものというのは身近にあるのだ。
「だがサナレス、残念だ。おまえの献身的な行動では、冥府は持たない。冥府は呪力が全てだ。もう一度魔女ソフィアを冥府に眠らせても、おそらく呪力が足りない」
絶望的な言葉だった。
「だから冥府はソフィアの分身を作ってきた。リンフィーナは、そういった意味で希少だし、ラーディオヌ一族も呪力量の血を分けた一族として、供物になる」
ジウスの言葉には容赦がなかった。
「だがーー。私はサナレスに、何をも望まない」
「はぁ?」
耳を疑った。
「そうしなければ、冥府の役目が果たせないと言ったよな?」
ジウスは首肯した。
「ええ。でも秩序というのは徐々に乱れるんです。ーー異世界転生者が増えているので、すでに乱れてきている。世界中で命を脅かす天災も増えました。ーーだからそんなにーー」
「おい!」
聞き捨てならずサナレスはジウスに聞く。
「それってかなりの人の命が天災によって失われても、みたいな話じゃないんですか!?」
「そうなるね」
サナレスは頭を抱えた。
「おまえは気にしなくてもいい」
「ここにきて、父親面しないでくれ」
サナレスはラーディア一族として次代を考える思考回路を、いつの間にか持っていた。それ以上に、統括的に物事を考えるようになってしまっている。
「多くの死人を出すなんてーー」
「そんなこと、おまえにとってはどうでも良いだろう?」
改めてジウスに問われた。
確かに、かつての自分はそうだった。
フェリシア家のムーブルージェがサナレスが生きている柱だった。幼馴染のルカやムーブルージェ、彼らが全てだった。
「でも今は、リンフィーナと彼女のーー。いや私の友人であるアセス、それから私の師匠がいる。世界が滅んだら、困るんだ」
ジウスはすっと目を細めて、サナレスを見た。
「ほう」
サナレスが苛立っているのに、ジウスの表情は慈悲に満ちていた。
「おまえは、いつの間にか、愛情の対象が増えることに気づいたのだな」
ジウスはくくっと笑う。
「あれだけ潔癖だったおまえが」
サナレスは具の根も出ずに、ジウスが言おうとしていることを察する。
「ーーですが私は、愛する女人は一人です」
「ソフィアだと言ったか? ではムームルージェは?」
サナレスはむすっと斜め横を向いた。
「愛情が増えた。その考え方が、世界を救いたいという気持ちになったわけなのだね」
ジウスはそうして、柔らかく微笑んだ。
「では我が息子サナレス、冥府の統治者を探してきておくれ。彼らは異世界にとんでも、魂は不滅なんだ。冥府の管理人だからね」
サナレスはボソッと「承知した」とジウスに答えた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
「戻った場所は、異世界か故郷」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




