魔女が見栄を張る
こんにちは。
毎日のルーティーン。
書くことは楽しいなぁ。
あと1週間で試験だというのに、他に書かないといけない論文が山ほどあるのに。
現在、現実逃避中。
※
ソフィアはリンフィーナの身体に入れ替わっていた。それでもサナレスは庇ってくれた。
それが嬉しかった。
館の使用人に「彼女が望むパスタを用意してくれ」と命じてくれた。
そうしてサナレスは、ソフィアに対して少しだけ目尻を下げ、口角を上げていた。
「ソフィアだよな? リンフィーナは?」
「ごめん、奪った」
「そうかーー」
それだけの会話だった。
だがソフィアは、サナレスの憂いを含んだ視線を感じ取って、自分の中の魂の領域がどんどん小さくなっていくのを感じていた。
ソフィアはリンフィーナに対して嫉妬してしまう。それでも視力を失って、周囲の反応からおそらく大変な状況であるサナレスの望みはなんだろう、と想像することはできた。
彼はリンフィーナと会話したいようだ。
パスタを食べたら引っ込む、なんて言葉を発しようとして、スンデのところでやめにした。こんな時も食欲旺盛な自分を知られることが、なぜかソフィアは恥ずかしく思う。
相手はサナレスで、彼にはそんな自分を散々見せて来たというのに、ソフィアは自分の腹に手をやって、空腹を諌めることにした。
「そうだよね。こいつらが生きて戻れるともわからないなら、ーー妹と会話したらいい」
自分でも馬鹿馬鹿しいくらい殊勝なことを言って、ちじこまった。
嫉妬するリンフィーナに、体の支配権を譲ろうとしていた。
こんなこと、未だかつてなかったことだ。
しかしサナレスは、そうしたソフィアの思いに対して、あろうことか嬉しい一言を付け加えた。
「おまえが注文したんだから、パスタぐらい食べたら?」
どういう意図で、サナレスがそんなことを口にしたのか、ソフィアにはわからない。
それでも涙が出るほど嬉しかった。
「ーー食べていいの?」
「食べたいと言ったのは、おまえの方だろう?」
サナレスは肩に手をおいて、ソフィアを晩餐の席に出席することを認めてくれた。
「さぁ、みんな食事しよう」
凍りつく場の雰囲気を溶かすため、一声かけたのもサナレスである。アセスに至っては、ソフィアの顔を射殺すような冷たい視線で一瞥したのだが、サナレスの提案に従っている。
「夜は長いだろ? おまえたちの意見にはだいたいの想像がついているが、順番に聞かせてもらうよ」
サナレスはカラトリーを手に取り、最初の食事を口に入れて、にっこりと微笑んだ。優雅な仕草で、とても目が見えていないとは思えなかった。
「それで?」
サナレスからの問いかけに、最初に反応したのはリトウだった。
「私達がこちらにくる前に生活した医学であれば、サナレスの目は五分五分で治ります。角膜移植という手術をすれば、治る見込みもあると考えているんです」
「たしかに」
ヨースケは相槌を打つ。
「こちらの世界でも医療技術と機材さえあれば、できないことじゃない」
そういうふうに考えたから、リトウとヨースケは実験室に篭って、何やら相談しているらしかった。
「しかし、確実性は薄いんです」
割って入ったのはアセスだった。
サナレス以外の誰一人、食事を口に運ばない。
ソフィアの目の前にもパスタが運ばれてきた。ソフィアはこんな時にそれに口を付けてい良いものか逡巡しながら、議論の行く末を見守る。平気で食事しているのは、サナレスだけだ。
「角膜を移植するにしても、誰の角膜を移植するのかという問題があるし、医術もこちらの世界では手術する人員が足りないのです。どちらも、異世界から拝借するのがいい。あなたたちが居た世界よりも、私はもっと先の未来の世界に居たことがありますが、そこであれば成功確率はもっと高いのです。そっちに行って、必要な角膜と医療スタッフを揃えて戻ればいいのではないですか?」
「そんなに簡単ではない」
ヨースケは失笑した。
サナレスは当然それを理解しているようで、表情ひとつ変えずに、前菜を平らげ、パスタに手をつけていた。ソフィアが食べていない気配も察知しているらしく、こちらに向かって合図する。
「ソフィア、すまないが早めに食べてくれ。おまえの食事を邪魔する気はないけれど、後でリンフィーナと話したいんだ。配慮してくれ」
サナレスから率直な、なんの遠慮も画策もない意思を伝えられ、ソフィアはうなづく。
「私も異世界転生をしたから、こちらの文明が遅れ、医学の発展の進捗状況が違うことは理解している」
サナレスはカラトリーをおいて、ナプキンで口の端を拭いていた。
ソフィアにしてみれば、サナレスは見えていなくとも見えているのと同じ振る舞いができるようなので、少しだけ真剣みが薄れてきていた。
エメラルドグリーンの瞳も相変わらず美しい。違和感があるとすれば、サナレスの視線の焦点が少しだけずれていて、余計にアンニュイな色気をまとっているということだ。
それなのに自分と身体を取り合っているリンフィーナは、ソフィアに対してしつこいぐらい「ダメ」だと叫んでいた。「サナレスの目は、絶対に取り戻す」とうるさい。
「現時点の情報で、異世界は地点を選んで行き来できない。そうだよな、アセス?」
サナレスはここにいる者たちを説得しようとしているようだった。
「それに、ヨースケのように霊体で行き来する簡易な場合もあれば、違う肉体に転生してしまう場合もある。ーー後者の場合、こちらに戻れる可能性なんて、限りなく低いんじゃないか?」
ソフィアはサナレスの意見が至極真っ当だと思っていた。ただ、心の中で、冥府の管理者を巻き込めば、地点を登録して行き来することは可能だと、ソフィアは知っている。それでいて冥府の管理者は恐ろしく、そういった可能性など今のソフィアには口にできなかった。あいつらを刺激したら、一生冥府に閉じ込められると言った恐怖感からのトラウマを、ソフィアは払拭できずにいて、身震いする。
その様子をアセスはチラと見て見逃さない。
「たぶん、できますよ。転生する先の地点登録」
そのように発言した。
「ヨースケは魂だけとはいえ、縁のある場所に飛ぶことができた。そしてあなたも、生まれ変わった先には親友が居たのですよね? 無意識に飛びたい場所を選んだのでは? ーー私は、ちょっと不確定要素だったのかもしれませんが、今なら納得できる理由は見出すことができます。ーーある程度、転生するときに本人の意思の力は作用するようです」
それにーー、と言いおいて、アセスは皮肉げに口の端を上げる。
「そちらの魔女は、やり方を知っているようです」
ソフィアは額からドッと汗が吹き出すのを感じた。
平静を装おうとして、ここでパスタをフォークに巻き付け、思いきり口の中に頬張ってみる。
冥府に戻るのはいやだ。
監視役のリランとその下僕のフィスの顔を思い出すと、腹の底からぐっと吐き気が催してきた。
あいつらは冥府の番人で死神だ。
とてもではないが、二度と会いたくはない存在だった。
1000年間も、冥府に閉じ込められた。
最初の頃はそれは辛かった。
だからいつも隙を見て脱走しようとした。
しかし脱出を試みるたび、魂ごと残存する肉体を、あいつらにミンチにされたのだ。
「ーー冥府なんて、行きたく」
行きたくない、とボソッと感情が口に出そうになるのを止めたのはリンフィーナだった。
『ねぇソフィア。あなたはサナレスの目と自分の恐怖、どっちを優先するの!?』
サナレスは見えていなくとも不自由していない。
『そんなことはどうでもいい。私は自分が何度ミンチになっても、サナレスの目を取り戻したい。ーーあなたは、どうなの?』
腹立たしかった。
偉そうにモノを言われて、ソフィアは押し黙った。
冥府を経験したこともない娘に、何がわかるのかと、罵りたい。
でもソフィアはぐっと我慢した。目を患ってもずっと冷静なサナレスの気配が横にあったことが、ソフィアの荒ぶる感情を抑制していた。
ソフィアは自分でも思っても見なかったことを口にしていた。
「冥府なら私が永く滞在した。地点を選ぶ案内役なら、ーーできると思う」
大見得を切ってしまったときには、すでに時遅しである。
言葉が止まらない。
「この私のバカな分身が行くというのであれば、案内してもいい」
サナレスのために、という言葉を言いそうになって、ソフィアは真っ赤になって口をつぐんだ。1000年も眠っていた。1000年前に火刑に処され、その場所を脱出しようとする度にこの身をミンチにされたという手痛い過去は鮮明に思い出せるというのに、ソフィアの口は饒舌に滑り続けた。
「だからサナレス、おまえは安心して待つがいい」
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
「戻った場所は、異世界か故郷」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




