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二人の魂

こんばんは。

最近ゆっくりペースになりましたが、書きます。


すでにちょっと生き甲斐レベルですので、まったりと付き合ってくださる方、反応をお願いします。



        ※

「まっず! くっさ!! くそまず!」

「ーーこれは、薬味がなければ食べられないですね」

 ヨースケが文句を言って、リトウは鳶魚がちにナプキンで口を覆っていた。

 ポセイオンはちょっと怒っている。

 でもリンフィーナの方を見る視線は、心配そうにうつろっている。


「うん。美味しいよ」

 リンフィーナは3切れほど刺身を口に運んで、ポセイオンの頭を撫でた。


 ちょっと笑える。

 あれだけ食事については食べるべきだと主張してきた和木ヨースケと森リトウは早々に舌打ちをして、不味いから食事をしないと言っている。


「二人はずいぶん贅沢だ」

 リンフィーナは栄養となる命の糧を食べることにした。

「二人は良い反面教師だね」


 サナレスは魚が嫌い。その理由は、骨を避けて身にする面倒臭さの割に、旨味が少ないという理由だった。

 最もリンフィーナに食の好き嫌いをさせないために、リンフィーナの前では平気な振りをしていたけれど、親鳥のように慕ってきたサナレスが、魚を食べる機会を極力減らしてきたことを、リンフィーナは知っていた。


「これなら、骨を取る手間もないし。焼いた時に焦げた皮を取る手間もないし、蒸した時に出た汁をどうすればいいのかって手間もないでしょ? 生なら美味しい」

 多分、サナレスならそう言うと思う。

 だから。

「美味しいよ」

 と答えていた。


「でもパンにもパスタにも合わないね」

 正直に伝えると、リトウもヨースケもここぞとばかりに首肯した。


「これに合うのは、コメだから」

 そう言って、白い粒々の、湯気がたった集合体を更にのせて差し出してきた。

「米って、アルス大陸じゃ一般的じゃないよね?」

 聞かれたので、リンフィーナは縦に首を振った。


 王族の生活をする上では、米は見かけない食べ物ではない。ただアルス大陸内でも一部の土地でしか収穫できない高級品だったため、食べたことは数度しかない。

 高級なのに、どうしてと思うほどの味である。そんなに美味しかった印象はない。


「新鮮さは悪くないんだから、コメと薬味で一緒に食べれば、いけると思います。味噌汁もリンフィーナさんにはいいかもしれませんね」

 不味いといった和木ヨースケは眉間に皺をよせて調理場に立って、その横にはすっかりリトウが立っている。


「ダメならお茶漬けに」

 訳のわからない調理名を呟いている。


 リトウとヨースケの努力の結果なのか、リンフィーナが椅子に座っている部屋中が、良い匂いで満ち足りていた。


 一口、一口、彼らが用意してくれる食事を咀嚼するたび、自分はまだ生きている、死んでいないという実感が増す。


 それを一口づつ摘んでいると、リンフィーナの中に別人格が現れる。


『うまいな、これ』

 長らく自分の中に滞在した、魔女ソフィアだった。


 どこにいたの!?

『いや、こっちもうまい』

 桁違いの食欲を持つ魔女が、覚醒してくる。

 以前はそれが不安だった。自分の身体を乗っ取られる時間が長くなることが、とんでもなく不安だったと言うのに、彼女が戻ってきたことを歓迎している自分がいる。


 ねぇソフィア。サナレス兄様は!?

 彼女の人間離れした能力に縋ってでも、サナレスのことを聞きたかったのだ。

 あんた、サナレス兄様が好きなんでしょ!? 

 兄様はどこにいるの!!??


 食欲旺盛な彼女は、もぐもぐと自分の口に大量の食べ物を頬張りながら、リンフィーナからの問いかけに答えることがめんどくさそうだ。


『サナレスは、死なない』

 それ。証拠は?

 どうやって信じればいいの!?

 アセスは?


『死んでない』

 それ以外の答えを返すのを無精しているソフィアは、ガツガツと並べられた食べ物を平らげていく。


「うーーん。やっぱりご馳走で釣れるのって、ソフィアさんですね」

 リトウが自分とソフィアが表面上入れ替わったことを認識していて、リンフィーナは嘆息した。また、ソフィアと入れ替わって、したいことが出来ない。


 サナレスに会いたい。会って、慕って、抱きつきたい。

 アセスに会いたい。巻き込んだことをまず誤って、許されなくとも、まず本音で話したい。リンフィーナはそれだけを思っていた。


 それなのに、別の角度から提案された。

『もう少し、私と話したくはないか?』

 全然、ーー微塵も会話したいとは思っていなかった魔女ソフィアが、話しかけてきた。


 魔女ソフィアにとって、所詮リンフィーナの身体は傀儡だと思っているはずだ。自分から訴えたとしても、ソフィアから声を掛けられるとは思っていなかった。


『サナレスの妹、リンフィーナとか。ーー其方は私と話したくはないか?』

 んーー。


 リンフィーナは少しでも前に進めるのであれば、何でもしなければと思っていた。

 食事しなければならないのと同じだろう。


 話す!

 話したい!!

 ちゃんと自分の気持ちを露わにした。


 ソフィアが先に確信をつく。

『サナレスについて』

 サナレス兄様について。


「生きている、のよね?」

『私が死んでいたら、おまえも死んでいる。ラバースの分際で何を今更?』


「私じゃない! サナレス兄様は!?」

 どこかで魔女ソフィアの力を信じていたリンフィーナは、確認したいことに全集中して声を振り絞った。サナレスが生きているのかどうか、それを知りたい。


 冥府という未確認物体が迫ってきた中で、サナレスはこちらの世界でも化学兵器という未確認物体を用いたようだ。そんな状態で、彼が無事でいるのか。

 心配から、ずっとリンフィーナの頭の中を逡巡している。近くにいたアセス、彼の消息も不明のままだ。


『だから、生きている』

「無傷なの!?」

『そうだな、致命傷ではない。あいつは一度冥府に迷い込んだ。いや、二度三度、冥府を行き来しているから、そっちで察したこともあると思う。死んでいない。アセスという男も同様だ』

「じゃあどこにいるの? 核爆弾とか言う爆発するものは、どうなったの!?」

『それは、こっちに影響がないように処理した。それはリトウがわかっているんだろ?』


 魔女ソフィアは心のキビについて鈍感だった。

 生きていることは伝えてくれたけれど、今どれだけリンフィーナが彼らに会いたいかということについて無頓着なのだ。


「生きているのは嬉しいけどーー」

 人間離れしている魔女ソフィアが語る致命傷ではないという発言には、心臓が鷲掴みにされそうになる。


「会いたい!」

『私もそう思う』

「だったら会いに行こう!!」

 リンフィーナは今、自分の中に異形の魔女であるソフィアが居てくれる感覚を、初めて頼もしく、嬉しく思った。


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