表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/85

箸を握った

こんばんは。

秋ですネ。


この小説は長編です。

書きたいものを書いています。エンタメ要素とか、数%しか考えていません。すみません。

なんというか、小学生の時から頭の中にあるものを、ただ余暇のまま書いています。


「はい、食べて」

 まずは目の前に食事があった。テーブルに食事を並べられていた。

 リンフィーナはそれを拒絶する。


 要らない。

 喉元までその言葉が出てきそうになった時、ふとかつてリンフィーナの育て役だった双見の片割れ、ラディのことを思い出した。

 浅黒い肌の女剣士だ。


 過去にラーディア一族を追われる形で、彼女と一緒に山越えをしたことがあった。生まれて初めて、死んでしまいたいと思った。その時の感情が記憶と紐づいている。あの時はアセスに別れを告げて、消息不明のサナレスを求めていた。


 死んでしまいたいから、食べ物は要らない。

 そう主張していたのにラディは自分に、無理矢理食べろと言ってきた。

 干した肉は鉄錆の味がしたし、とても硬かった。


 でもラディから、なんとしても生きていなければならない、と言われたのだ。

 生きていれば、大抵のことはなんとかなる。

 そして、自分は今も生きていて、彼女の言うようにサナレスに会えた。アセスの姿も、この目で見ることができたのだ。


 まだチャンスはあるのだろうか?

 そんなことをリンフィーナに教えてくれたラディは、もう生きてはいなかった。

 涙が出てくる。

 止められなかった。


 消化が良いようにと用意されたスープは、時間が経って、もう冷えている。


「食べ物、粗末にするなんてサイテー」

「和木くん、黙って。王女様だから、飢えたことなんてないんだよ。少しづつでいいから」

「そうやって甘やかすから、ろくな大人にならないんだ」

 リトウとヨースケは軽口を叩き合いながらでも、リンフィーナの側を離れなかった。

 

 半人半漁のポセイオンでさえ、魚の尾を人間の足に変化させて、海で獲れたものを差し入れに来てくれていた。


「ごめんーー。足痛いんじゃない?」

 魚の尾を人間の足にする時、ポセイオンは自分の下半身を引き裂かれるような痛みを感じるのだと言っていた。それを思い出して、また泣けてくる。


「少しの時間ならなんてことないから。リンフィーナは何を食べたいの? 何なら食べられる?」

 俯いた自分の顔を、じっと下から眺められた。


「リンフィーナ」

 実験着に着替えたリトウは、ポセイオンが持ってくる魚に、何やら検査をしているようだ。

「汚染されていない。今日の魚も無事に食べられる。それってつまり、サナレスの算段が成功したということだから、彼はきっと無事でいるよ。焼いて食べるかい?」


 目の前にポセイオンが獲ってきた魚がたくさん並べられた。

 当たり前だけれど、魚はすでに死んでいる。


「仲間、なんじゃーー?」

 ラン・シールド一族は魚人化した民だ。魚を採ってくるなんて。

「食べるよ。海にあるもの全てを、僕たちは生命の糧にしてきたんだから、今更リンフィーナは気にしないで」


 ポセイオンがそう言うなり、ヨースケは魚の尾を摘み上げて、調理場のまな板に転がした。


「煮る? 焼く? 蒸す? はい、どうすんの?」

 リンフィーナは眉根を寄せた。


「だって、食べないのが一番悪いだろ? 殺生したあと無駄にする。腐らせる。そんなんが悪いって、寺の坊主の赤いやつが言ってたよな? リトウ。 あんたが食べないなら、俺らで食べるし」

 ヨースケが痺れを切らしたようだった。


「赤いやつって、和木くん、樫木くんの名前忘れたの!?」

「元々、覚えてねー」

「ひどっ」


 リンフィーナはポセイオンの目を見つめながら、不自然に笑おうとした。

「どうしたら、美味しいかな?」

「生」

「じゃあ生で」

 思わずそう伝えていた。


 ヨースケはほくそ笑む。

「刺身ね。じゃあ薄造りに捌くかな」

 なんだか数種類の包丁を取り出して、吟味している。


「ここに薬味なんてあるのかなぁ」

 リトウが心配そうだが、ヨースケは彼が持ち歩いているズタ袋をリトウに向かって放り投げた。


「俺がラーディオヌ一族に住み着いた理由、全部がそこに入っているよ」

「醤油はとうの昔に作っただろ?」

 リトウが苦笑した。


 そうして調理されてきた刺身という食べ物を見た時、リンフィーナは更に泣いてしまった。

 暗がりの国境境の山の中、ドロドロになりながらラディと一緒に夜明けを見たことを思い出した。

『姫様、お願いですから食べてください』

 背後からぎゅっと抱きしめられ、生きることを諦めないでと説得された。王族であり、離宮で育ったリンフィーナは、サナレス以外のスキンシップに慣れていなくて、人の体温の温かさを実感した。


 人は死んだら体温を失って、かたまって、そのかたまった表情は恐ろしく、ーーそのひとが生きていた頃とは別物になる。魂が抜けるというのは、そういうことだ。


「うん。食べるよ」

 リンフィーナは用意された箸を握った。

「一緒に食べない?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ