上陸するには
こんばんは。
気ままに書いている小説です。
論文は結論から書け。本日言われた言葉ですが、小説は、キャラクターの思うがまま
それが良いのかどうか。
小説書いている方にお伺いしたいな、と本日思いました。
※
とても、待てそうにない。
その感情は腹の底から、ふつふつと湧き上がる。
魔女ソフィアとリンフィーナの意思が疎通することなんて、ごく稀なことだったが、サナレスを思う時だけは合致していた。
「今回予想した津波は大陸全土に広がらなかったようです」
リトウが拡声器を使って、戸惑うアルス大陸の民に説明している。それを取り上げたヨースケが、大きなため息をついていた。
「天災はないってこと! 津波とか、言葉の意味がわかんねーよ」
「え? じゃぁ」
「神の怒りには触れていない。これ以上の災害は起こらない!」
リトウとヨースケが二人で拡声器を取り合いながら、アルス大陸の漁港で騒いでいる。
二人の通常のじゃれ合いから、リンフィーナはひとまずこれ以上の災厄は降りかからないものだと認識したが、その場所にサナレスとアセスの姿がなかった。
「ねぇ」
海の方を見つめたまま、リンフィーナは海岸の堤防に座っていた。
凍りつくような惨事があったあの時間から、おそらく半日は経過した。
ウィンジンに手を引かれながら、海上に届けられたリンフィーナは、港町で呆然と座っているだけだった。
その場を動くことなんでできないので、頭から毛布をかけられ、じっと海の様子を見守るだけだ。
「リンフィーナ、人間の宿をとってもらったから、そこで寝たらいい」
ウィンジンは海中に潜ったり、人間の足を錬成させたりしながら、リンフィーナに話しかけてくる。
気遣って貰えばもらうほど、リンフィーナは自分の身体がボロボロであることを客観視した。ここにサナレスが居たら、王族の血筋を引く皇女として恥ずかしい姿だと怒られる。海から上がったもつぼれた髪には艶がなく、衣服ですらところどころ破れており、傷ついた素肌は陽の光に顕になっている。
海岸沿いにある、そこらへんに打ちひしがれた小石と同じような有様だ。
ひたすらここで待っていてもいいわけがない。
戻りたい。
時間を戻せるのであれば、全てを終わらそうとするあの時の船上に、戻りたい。
そうすれば恐れず、確実にサナレスを追尾した。
「せめて、あの場所に戻りたいの」
呟いた言葉に反応してくれたのは、ポセイオンだった。
「サナレス殿下とアセス総帥を、海の中で僕はちゃんと捜させているんだ。でも二人は、あの日以来消息が不明だから、リンフィーナ、あの場所に戻っても無駄なんだよ」
自分に対しての説得は残酷だった。
「その報告は信じられない。二人は生きているから」
リンフィーナは感情を無くした目で足元の海を眺めながら、機械的に反論していた。
いっときは自分の中で騒がしかった魔女ソフィアですら、静かである。こんな時こそ、サナレス兄様を求めて、騒がしければいいというのに、彼女の意識すら掴めない。
「やっぱりせめて、あの場所に戻らないとーー」
どうなったのか何もわからないというのが、リンフィーナの正直な気持ちだった。
ふと、ぽんと肩に手を置かれた。
「そう思うならリンフィーナ。一回陸に上がって、作戦を練りませんか?」
干からびそうになる身体に小蝿が止まっても微動だにしないリンフィーナに対して、声をかけたのはリトウ・モリだった。
「あなたは衣食住を舐めすぎです。このままここに止まったら、あなた、その辺で干からびている海藻と同じようになってしまうんです。生命ってそんなもんです。一回ちゃんとして、あなたの大切な人の行方について、話しませんか?」
左肩に少しだけ添えられたリトウの掌の暖かさに、リンフィーナは硬直した。
知らないうちに、ポタポタと膝の上に涙が流れた。
ボロボロに傷つき、肉の削げた四肢に絡みついた衣装は乾燥していたが、涙だけが染み込んでいった。
こういうの、石化が溶けるって感じ。
リンフィーナは、リトウが触る体温を感じて、知らず涙を流していた。
「サナレスとアセスが無事なのであればーー」
いくらでも作戦を練るし、植物になってしまったのではないかと思うほどの重い腰を上げることができる。
「あのねリンフィーナ様、私はアセス殿のことはあまり存じ上げないのですが、あなたの兄であるサナレス様は昔から本当にもう計算高くて、ーー今回のことも全く、勝算がないことをしない方だと私は思っているのです」
「ほう、それはこっちのラーディオヌ一族の総帥アセスにおいても同様で、簡単にくたばらないと思う」
「ちょっとーー恐ろしいものを等価交換に使った点については僕は容認できないけれど」
「いや、アセスが入れ知恵をしていたのであれば、容認できる」
「できない」
「できる」
リトウとヨースケは言い争っていたけれど、リンフィーナに手を伸ばす。
優しい言葉ではなかった。
「そういうわけで、あの人らって、殺しても死なないだろ?」
「ーーそうですよね、僕もそれぐらいで死ぬとは思えないんで」
二人はただリンフィーナに対して気遣ってくれた。
「とりあえず中に入って考えましょう」
「お前、魔女の器だけどみすぼらしいな」
嬉しいのか嬉しくないのか、単なる疲れなのかどうかわからないいまま、リンフィーナは二人から両脇を抱えられて陸に上がった。




