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海底での交渉

こんばんは。大学院の課題や作文が忙しくって、ちょっとどころか、小説が書けない苦悩を感じています。


趣味の小説なんて書いている場合じゃないって感じですが、

これ無くすと、

生きる楽しみ半減するんでね。


今年も余暇を盗んで書くのだわ。

応援よろしくお願いします。

       ※


「兄様! 私だってアセスに会いたい!」

 少しだけ、いや結構心をえぐられる言葉を、サナレスはリンフィーナの口から聞くことになった。


「でも兄様ならどうする?」

 それを私に聞くのか?

 サナレスは苦笑する余裕もなく、額に手を置いて脱力した。


 リンフィーナのアセスへの気持ちについて、サナレスはリンフィーナ以上に敏感に感じる部分がある。けれどあえて、サナレスはそれについては静観することを決めていた。彼女のそうした特別に刺々した言葉を、全て受け入れる覚悟をしていてここに居る。


「ーーアセスは、近くまで来ていて、おまえに会いたいと思っているんだから、会えばいいだろ?」


 非常に複雑な三角関係である自覚があった。

 しかしサナレスは伝えなければいけないことを歪めなかった。ひとたび、独占欲という感情ゆえに、口にする言葉を歪めれば地獄を見るだろう。100年と数年生きたサナレスには、そう言った道理に理解がある。


 人生、道を踏み外す輩がいるとしたら、それは感情と理性の間で、違える振る舞いをすることが一つのきっかけになる。どれほど耐えても道理は大事だ。つまり自分勝手な解釈で真実を失ってはいけないと、サナレスはわかっていた。


 人間ってのは、簡単に言えば自分に後ろめたい行動をすれば、それはダイレクトに自らを蝕むんだ。


「おまえさ。アセスに会いたいとか言いながら、行動が全然ともなっていないんだけど。会いたいなら海上にいくだろう。ーーリンフィーナ、お前はいったい何がしたいの?」

 ラン・シールド一族の地下に張り巡らされた拠点にいて、サナレスは酸素が届く場所で、やっとリンフィーナを捕まえることができた。


 ちゃんとした質問だったと思う。

 それなのにリンフィーナは、サナレスを見るなり、目を見開いて飛びついてくる。


「わからない!?」

「ウィンジンに会いにいくのだろう?」

「兄様、それは!」

 リンフィーナはただしがみついて震えている。

 リンフィーナは全てをわかっているようだ。だからこそどうして、サナレスが彼女の行動をわかっていて、その気持ちについてはわかっていないのだろうと不思議に思って、ただしがみついてくるようだ。


「おまえな……」

 勇ましいのか、そうではないのか。彼女の行動はずっと、いつも、あきれるほど大胆なのだ。

「兄様!」

 サナレスがリンフィーナを捕まえるなり、リンフィーナは弱くなっている気がしていた。しがみつく力が強い。


 彼女を落ち着かせるのが一番。

 そこで彼女の頭を撫でながら、サナレスは言った。


 頭を撫でる。

 そういった行為の時間は、とても長い。彼女が幼子の時から、この時間は変わらなかった。

 相変わらず結構絶壁な頭頂部だな、とサナレスは笑えてくる。


「あのなぁーー」

 サナレスはゆっくりと理を解くように話すことを試みた。


「人を弱くするのも強くするのも、経験だという説はある。だから人はさ、無理してはいけない。でも、決して人の気性というか、成し遂げたいことは、環境や状況で左右されてはならない。リンフィーナ、おまえはさ、今どうしたいんだ?」


「兄様がウィンジンとアセスを地上で対話させればいいと言ったのだから、そうするのがいいと思う」


 人任せなの?

 合理主義の権化のようなサナレスは、常日頃、自らが発する言葉を一呼吸おいて飲み込んでいた。それは、リンフィーナを育てる上で培ったスキルだ。ダイレクトに言葉を伝えると泣かれるからだ。伝える内容にワンテンポ間合いをおかなければ、リンフィーナは時折泣くだけではなく癇癪を起こした。子育てで学んだことは多い。


「ーーリンフィーナ。私が言ったからなのか? それ以前におまえ、自分で考えてラン・シールド一族の総帥であるウィンジンに会いに来たのだろ?」

 サナレスはリンフィーナを落ち着かせ、心拍数を安定させる。


「ウィンジンには私もおまえも面識があるよな? それでおまえは彼に会って、何をしたいと考えた?」

 リンフィーナは頭を振った。

「わからないーー!」

 この状況、お手上げだ。

 そう言われてしまうと、サナレスとしても対処しようがない。


「でも兄様、世界は滅びかけたじゃない。千年前、過去にも滅びかけた理由、それが魔女ソフィアのせいだったなら、千年後のいま、私がその理由を作っているんじゃないかって思って、それで」

 リンフィーナの言葉を聞いて、サナレスは表情を失った。


「それで?」

 先を促す言葉にも、抑揚が篭らなかった。


 それで彼女は、リンフィーナが魔女ソフィアを覚醒させ、そのことが原因で世界が滅びかけているなんて、思っているのだろうか。そうウィンジンが主張してきたら、おとなしく殺されるのだろうか。


 馬鹿馬鹿しい。


 サナレスの冷えた気持ちに、リンフィーナはブンブンと首を振った。

「違うの。ソフィアのせいではないってこと、ウィンジンに説明しに来た。ソフィアは多分被害者だと思う。今だってソフィアは兄様の殺気に怯えてるしーー。少なくとも彼女は、この世界に仇なしたいなんて思っていないの」


 サナレスは必死で訴えているリンフィーナの言葉を聞いて、自分自身を冷静にする。

 一息ついてリンフィーナに答えた。

「そうか」

 最初はそれを言うだけで手一杯なほど、心配する気持ちがぐちゃぐちゃになって先行していた。

 一息置いて気持ちを立て直す。


「それは、お前一人の説明で成し遂げるより、私やアセスが共にいて、ウィンジンを説得した方が上手くいくとは思わなかったのか?」

「違うよ! 兄様が一緒の方が上手くいくと思うけど、でもーー迷惑をかけたくなくて」

 また。それかーー、とサナレスは思った。


「ーー兄様がここまで来てくれて、結局余計に迷惑をかけてるってのはわかってるけど、でも私ーー!」

 もう何も聞かなくても理解できて、サナレスはリンフィーナの頭を自分の肩に抱き寄せた。

「まぁ、無事でよかった」

 心底出た言葉は、吐息でしかない。


 リンフィーナは驚いていたが、サナレスがリンフィーナを隠すように引き寄せた理由は、もう一つあった。


 お出ましだ。


 左右を取り囲む水で出来たかべが、ざわざわと騒いでいた。

 海底にあるもの全てが緊張のために凍りつく気配を感じて、それがウィンジンの存在だと気がついた。


「これはこれは、ご兄妹ご一緒に、私に謝罪されに来ましたか?」

 最初にウィンジンが発してきた言葉から、剣呑だった。


「ーー謝る? いったい何を?」

 はぁ?、とサナレスはわざとらしく顎をあげて首を傾げた。

 サナレスはリンフィーナを背後に隠しながら。ウィンジンと対峙する格好になる。


 ウィンジンは表情すら変えずに、じっとこちらを睨め付けていた。

「あなたは、私に約束しましたよね?」

「約束を忘れるほど、こっちはまだ若いんで、ボケてはおりませんよ」

「ーーそれで、あなたは約束通り魔女ソフィアを掌握できているんでしょうか?」

「出来ていなかったら、私はここに居ないと思うんですが」

 ウィンジンとサナレスの間で行き交う言葉は、全て繰り出す刃物のように尖っていた。


 リンフィーナもサナレスの背後で何か言いたそうだったが、千年も生きたジウス級の化け物の迫力に、ぐっと息を呑んでいる。


 サナレスも怯まなかったわけではないが、父であるジウスに反発してきた経験が、こんなところで役に立つとは思わなかった。どんな歴史を背負った生命体でも、人である限りは自分と同じ人であるはずだと、サナレスは顔を上げる。


「現に、私はソフィアを掌握し、ーー今ここに、リンフィーナのそばにいるでしょう?」

 目の前の怪物が暴れれば、呪術などとは無縁にあったサナレスは、一瞬で消されるだろう。けれど、ここは引き下がれない。


「アルス大陸の重氏族が、顔を揃える機会になる。ラン・シールド一族総帥の貴方、ラーディオヌ一族の総帥アセス・アルス・ラーディオヌ、そしてラーディア一族の私がいる。アルス大陸の危機について話し合うには、十分な面子では?」

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

「戻った場所は、異世界か故郷」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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