表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/85

選択肢

こんばんは。


本日続けてUPしています。

読んでいただける順番は後書きに記します。

ですが、途中読み、部分読みでも感謝申し上げます。


        ※


 リトウが発した第一声は「うわぁっ!!」である。

 驚いている。そりゃ驚くだろう。


 それなのになぜか声が弾んており、メガネの向こうのリトウの瞳がキラキラと輝いている。

 どういう反応?

 救いを求めるようにリンフィーナが彼が親しくしているワギを見ると、彼は「こうなるのは目に見えていた」とリトウのはしゃぎ方を認めてきた。


「これが今日の宿泊先だそうだ」

「まじ? カプセルホテルならぬ、マトリックスのベットじゃないかぁぁ!」

 リトウはなぜか感動している。

 リンフィーナにはとても理解できなかった。


『お好きな夢が見られます。それから栄養は身体にもっともいい状態で供給されますけれど、夢の中ではお好きな食事を召し上がっていただけます。どのようなジャンクフードでも栄養は完璧、お望みの通り召し上がれます』


「すごいっ!!」

 いや、普通拒絶反応を起こすだろう。そう思うのだが、リトウの反応はリンフィーナの想像と真逆だった。リンフィーナがヨースケに同意を求めたけれど、なぜかヨースケも拒絶反応についてはゼロである。


「人体に出る影響は?」

 ヨースケはわりと冷静に気持ち悪いベットの寝心地を確認している。


『ございません。永久に寝ていただいても結構なくらいです。かつて人生の8割をこちらで過ごされても、何ら問題はございませんでした。逆にストレスレベルが減少し、長生きしたくらいの代物でございます』


「あなた人類がこの奇妙なベットの中で、人生の8割も過ごしたっていうの!?」

『そうでございます。それほどご満足いただける代物です』

 リンフィーナが非難めいて問いかけても、落札者は自信満々に答えてきた。


『人間関係によるストレスフル、睡眠不足、食料不足、栄養過多、人口比による食料供給など、こちらのノアは様々な問題を解決してきた方舟ハコブネです』

「ノア? 方舟って!?」

 リンフィーナにはわからない言葉だった。


「ノアの方舟ってね。旧約聖書の『創世記』に出てきていて、大洪水にまつわる、ノアって国のものがたりがある。物語中の主人公がノアという名で、その家族、多種の動物を乗せた方舟自体を指す。滅亡しそうな場面から逃げ出す手段って言ったら、わかりやすいかもね」

 リトウが教えてくれたことは、リンフィーナの心を少し痛めた。


「これが出来たってことは、これがなければいけなかったということ?」

「そうですね」

 ラン・シールド一族は1000年前に滅びかけた。そうして生まれた文化だというのだろうか。


 リンフィーナの気持ちを読んだかのように、リトウは微笑みをこちらに向ける。

「いえ。この世界だけの文明とは、私は考えておりません」

「それって、いったいどういうことなのですか?」

「もちろん、こちらにはこちらの文明が発展する速度があります。けれど、ラン・シールド一族は異世界の文明である一線を超え、存続することが出来た一族だという仮説を立てることができるのです」


 リトウの言葉に、ヨースケが同意した。

「確かに。海底深く、酸素を供給できること自体が摩訶不思議で、俺たちが今目の前にしていることは、俺たちが前に存在した異世界においても、SFなんだよ」

 言葉が足りない。

 リンフィーナは全身全霊で二人の伝えてくることを理解しようとしたが難しかった。


「SFって何ですか?」

 リトウが答えてくれた。


「科学に限定されないSFってサイエス・フィクションなんだ。フィクションは、そうだな、あくまで空想上の産物だってこと」

 そういった彼は更に言葉に力を入れた。

「だから、こんな状況に出くわすことが出来るってのは、希望なんだよ」

「希望?」

「これまで生きてきた科学者が、理解し得えず、閉じていた扉が開こうって歴史的瞬間だってことなんだ。だからーー、僕は是非ともこのマトリックスを試す」


 マトリックスの意味が不明だったけれど、リトウが透明なまゆの気持ち悪い管だらけのベットに寝ようとする意気込みは伝わってきた。


「ヨースケ・ワギも?」

「いや。もしこの装備で寝なかったとして、この部屋の酸素供給状態も聞いておかないとな」

 ヨースケ・ワギが慎重で良かった。

 リンフィーナは胸を撫で下ろした。


『酸素状態は問題ございません。また、お食事でしたら多少の固形物の準備もございますが、それでは満足いくもてなしはできません』

「他に問題は?」

『気温です。海底はかなり冷え込みますので、こちらの装具を使っていただけない場合、私どもとしては、お客様を満足させる術がございません』


 ホログラムとかいう透き通った落札者は、残念そうに伝えてきた。


「死ぬわけじゃないから、選択権はこっちにあるってよ」

 ヨースケ・ワギは整理した情報を伝えてくれる。


「僕は絶対に、未知の体験をするよ」

 そう言い終えるか否かの間に、リトウ・モリは割った卵の中身が、気色悪い透明のイソギンチャクの中に吸い込まれていった。


「で、お姫さんはどうするんだ?」

「断固として、あれに入るのはいやです」

「じゃあ、俺も」


 無理しなくてもいいのに。

 リンフィーナは怪訝な顔をしていた。

「えっと。兄様とかアセス様とかと何か公約があるのですか!?」

「ないわ。そんなん」

 ヨースケから、即座に否定された。彼の国の言葉の訛りが思わず出てしまっているくらい、自然な回答だ。


「俺らってさ、かなり不可思議なことに翻弄された人生なわけ。これ以上、生命のことわりを超えたもんに、俺は個人的に興味がない。辟易している!」

 その心底にある気持ちはリンフィーナには深く伝わった。リンフィーナもまた、数奇な運命に翻弄されてきたからだ。


 リンフィーナはヨースケに向かって、こくんとうなづいた。


「俺たちは、ここで休む。だから粗末でもいい、食事を用意してくれ」

 卵の中に収まってしまって、幸せそうなリトウ・モリの寝顔に異変がないかどうかを警戒しながら、ヨースケとリンフィーナは小さな部屋に腰を下ろした。


 自然の恵は地上に出ている、月明かりだけだ。

 気温も下がってきており、不安はつのる。けれどリンフィーナは毅然と対応するヨースケが一緒にいて頼もしく思った。


『ーー承知いたしました。固形物の食事を用意いたします』

 落札者の声がにわかに無機質な機会音になった気がして、リンフィーナはゾッとして身構えた。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

「戻った場所は、異世界か故郷」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ