宿泊先
こんばんは
一日一章とはいきませんが、週一ペースで投稿しているオリジナル小説です。
お付き合いいただき感謝申し上げます。
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「何なんでしょうねぇ。アンデルセンの海底のイメージを完全にくつがえされる」
ヨースケがくっと皮肉げに笑った。彼の視線の向こうの景色に、リンフィーナは絶句していた。
今は昼なのか夜なのか、海底に入ってからすでに時間の感覚がなくなっていた。
上を見上げる。感覚で時刻を口にするなら、朝焼けの景色だった。
だが日の光は、かなり高いところにある。
首が痛くなるほど、高い。
それに比べて、なんて奥行きがない。
天高い空には朝日が登っていたけれど、三人が立っている、誘われた場所は海底深く暗い。
凸凹が印象的な建屋らしきものが三角に積み上がり。ずらっと並んでいる。
これって宿屋なんだろうか。
おそらくは珊瑚礁で形成したのだろう。
だが想像以上に大きく、縦の全長はラーディア神殿の比ではない。横幅はほとんどないので、針のように縦に尖った要塞である。
どれだけ落ちたのかと眩暈を覚えた。
館だと言われた建屋を下から見上げた時、すでに首の角度は可動域に無理が出ている。
「まるで海中に建てた高層ビルだな」
ヨースケが口にする高層ビルという言葉の意味もわからず、リンフィーナは口を開けて建物を見上げていた。よく見ると珊瑚礁で形成されている凸凹のそれは、螺旋状に上空に伸びていた。絡まるように海水が渦巻いていた。すぐ近くの壁面に海底が迫っている。魚人化した民が海中とこの巨大な建屋を行き来しているようで、彼らの足跡に泡が沸いている。
「これだけ海底深くに来たら、普通は気圧さで森のようにぶっ倒れるはずだが、あんたは時丈夫だな」
丈夫じゃないって。やばい、と思って鼻拭った手に血がついている。這いつくばっているときに鼻血が出ていたようだ。
「丈夫なのは、ヨースケでしょう?」
じとっと睨むと、ヨースケは笑った。
「高低差には慣れている。おっと俺たちを落札したやつに手招きされている」
最下層まで降りてきたことには気がついていて、巻貝のように積み重なっている珊瑚でできた館の深部、言い換えれば根っこのようなところで、チカッチカッっと光っている。
「今が朝なら、宿とかいらんけどな」
日差しの差し込み方で早朝を想起している感覚がヨースケと一緒だと思う。リンフィーナは二、三歩前を歩いているヨースケを不本意ながら追いかけた。こんなワケのわからない世界で、なんの迷いも見せずに二、三歩でも前を歩いてくれるヨースケの背中は大きく見えた。
これまでかなり胡散臭く考えていたんだけど。
気絶したリトウのことも、しっかりと肩の上に乗せて運んでいる。少しだけ彼は悪い人ではないのかもしれない。リンフィーナはそんな気持ちになった。
中に入ると、さらに驚く。
「ようこそ、いらっしゃいました」
招かれた光の先、入り口に入ると、そこは玄関口というよりも洞窟のようだった。ラーディオヌ一族の貴族の別荘地も洞窟内にあるという知識があったので、それには何とか納得したリンフィーナだが、その先で口を開いた声の主の姿に驚いて硬直した。
声の主がやっと姿を見せてくれたのだが、リンフィーナはラーディア一族の皇女として発すべき言葉を完全に失念してしまった。
「精霊!??」
「ホログラムか?」
ヨースケと自分の言葉に、交わりがあったのか、なかったのか。
「ホログラムって何?」
「やっぱりあんたも精霊とかで片付けるのな」
「いるし」
「実現可能だしな」
価値観ゆえの言葉は平行線だった。
睨み合うリンフィーナとヨースケに、声の主は苦笑していた。
「私は本日、あなた方を落札し、こちらに宿泊させる役目があるのです。私をどのように認識されても結構です。不足がないようにおもてなしいたしますので、案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
ヨースケとリンフィーナは顔を見合わせてうなづいた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「異世界で勝ち組になる取説」
「戻った場所は、異世界か故郷」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




