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美味しいわよ

こんばんは。

本日もスキあらば更新しております。


死ぬまでには終わらせるという意気込みのものと、趣味で書いている長編です。

お付き合い、反応は励みになりますので、よろしくお願いします。

今回の話は異世界転生シリーズと関連するキャラクターが出てきます。

        ※


「材料がないときには、カレーかこれだって、僕は思っているんですよ」

 ずっと、とリトウがつけ加えた言葉の重さは、ソフィアにはわからなかった。

 でもワギとの関係性につながっていそうで、あえて聞くこともできない。


「カレーが一般的だってのは、あの時代で食卓に並ぶ代表的な食事だったってだけだろう? 俺にとってはビーフストロガノフが一般的だったんだよ」

「いいんじゃないですか。麻薬になるようなスパイスを使うカレーより、僕だって今なら、マイルドなビーフストロガノフを一押ししますから」

「ーー嫌味なやつだ」


 ソフィアは食堂に移動した。

 酒なのか薬なのか、よくわからないが、宿屋のフロント兼食事場の雰囲気は、取り立てて変化していないようだった。

 ただ調理場に、上背のあるワギとリトウが並んで立っていて、ソフィアは本当にこの2人で今晩の夕食が用意できるのかとばかり気になっている。


ビーフは肉だってわかる。

だがストロガノフってなんだ!?

食べれるのだろうか。


 ソフィアがきくと、2人ともが言葉をそろえて、わからなくてもいいんですよと言ってくる。タチが悪いなと思ってしまった。サナレスであれば、きっと彼らの思考回路にも想像がつくだろう。だがソフィアには皆目わからず「ふうん、そんなものか」と折り合いをつけていた。


「美味しければそれでいいから」

 飢えるのが回避できること、それがソフィアの最優先事項だったので、毒入りではない、そして腹を壊さない食事が振舞われることで満足だった。


「でも一つだけ聞きたい。麻薬ってなに?」

 麻薬の言葉の定義を知りたくて、ソフィアはワギに質問していた。


 リトウとヨースケが顔を見合わした。

「体に害があるのに夢中になってしまい、依存性のあるもの、とお答えすればいいのでしょうか?」

 迷いながら答えをくれるリトウの言葉を奪って、ワギが言った。

「この食事には入れてねーよ」


 ソフィアは困っていた。

 今から自分が食べる食事に。麻薬とやらが入っていなければ、特段どうだっていいというのが本心だった。

 それなのにリトウとヨースケは旧友のようだが、ピリピリと反駁しあっている。


「ソフィアさん、安心して食べて」

 リトウができた食事を配膳してくれて、ソフィアは生唾を飲んだ。スプーンというものを握るのは苦手だったが、作法についてはサナレスから教わっていた。

「僕は、こいつと話があります」

 厳しい口調のリトウの感情に揺られた声より、ソフィアは目の前のいい匂いがするシチューに目がいっていた。


「ーーお前が俺に、こいつなんて言う? 怒ってる?」

「そうですね。この世界にきて100年以上過ごしましたが、僕は、君の生き方に賛同できない!」


 賛同していない?

 美味い!

「お前たちの料理、悪くないのに?」


 今にもつかみ合いになりそうな男達2人に、ソフィアは歓喜の感想を述べる。


「僕は最初から、この世界を退廃的にするものを商売にするのは反対だ」

「おまえ、カップラーメン(乾麺)を出しておいて、よく言うな」

「はぁ? 拳銃とか麻薬とか、そんなのをカップ麺と一緒にするなよ」

「同じだろ? 中毒性は十分にあるし、体にもよくない」


「一緒にしないでくれ」

 懇願するように震えて訴えるリトウの感情がソフィアに刺さってきて、ソフィアはおかわりを要求しようとするタイミングを逸した。


「依存性の基準なんて前の世界が勝手に決めた法律だろ? 現に酒を取り締まる国、容認する国に分かれていたし、ドラックだって規制の強さは国によってそれぞれだったはずだ」

「ーーだからって、そういったことを商いにするためにラーディオヌ一族に拠点を置いた君のこと、僕はまだ許せていない!」

 リトウという男は利発で温厚な性格だった。彼にここまで言わせるとは、よほどこじれているな、とソフィアは吐息をついた。


「薬など、世の中にあるものは全て利用でき、効用があることが世のコトワリなのだ。毒には気をつけた方がいいな」

 そう言いながら空になった器を、ソフィアはリトウに差し出した。


「中毒性があっても!?」

 リトウは簡単には空になった器にビーフストロガノフなるものを注いでくれず、腰を屈めて顔を近づけて確認する。


「上手いものはだいたい中毒性がある。だからいいじゃないか」

 おかわりの二杯目や三杯目を要求しても、誰を責められるものではない。パスタに初めて出会った時も、ソフィアはパスタばかり食べたいと願ってしまった。


「体に害があっても!?」

「スグ死んだり、腹を壊したら毒だろう? それ以外は毒じゃない」

「いずれ健康を害することになっても? 徐々に体内が蝕まれても!?」

 リトウの詰問がどんどん、鼻息荒くなっていく。


「んーー。わかんない」

「わからないなら、少し黙っていてもらえません?」

 リトウはソフィアにビーフストロガノフをよそってくれて、ふたたびワギ・ヨースケに向かい合う覚悟をしているようだ。リトウにも譲れないものがあるらしい。


「わからないんだけど。人間っていつか死ぬだろ? 口にしたものの何が悪いなんて、特定できない。長年接種種続けて死んだとしても、それが好きなら、私は本望だと思うのだ」


 ソフィアが言って、リトウが黙った。

「真理だな」

 ワギ・ヨースケがそう言った。


「前にいた世の中は、法という規制が厳し過ぎた。特に日本はな。ーーだがかつて政権のために酒を広めた皇帝は死罪にはなっていない。依存性で言えば、酒はかなり依存性があるけれど、お咎めなしだ」

「でも僕は! 麻薬を売買するのは反対だって」

「おまえが中毒性のあるカップ麺を売ってもな」

「だからーー!」


 ソフィアは二杯カラになった皿をリトウの前に突き出した。

 面倒だと思ったのだ。見解が違う相手同士で意見のすり合わせをしたところで、根本は変わることなんてないのだから。


「そんなに嫌いな相手同士、敵ってことでしょう? どうして今一緒に料理なんて作ってるの? わけがわからない。美味しいわよ」


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「異世界で勝ち組になる取説」

「戻った場所は、異世界か故郷」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


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