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さよなら人生。  作者: 水乃戸あみ
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エピローグ的なもの2

「亮介」

「ん?」

 ふらふらと。

 ゆらゆらと俺たちは揺れる。

 風に吹かれることもなく。

 もちろん今から富士樹海だなんだのに行くつもりはない。

 旧校舎屋上に行こうと思ったのだ。理由は特にない。

 なんでだろうな? たまに行きたくなるのだ。俺も。登志子も。未だ魂が囚われているのか。それは分からないし知りたいとも思わないけれど。

「ありがとうございます。以前にも言いましたが、亮介があの場にいなくとも、きっとどこかでわたしは死んでたんだと思います」

「……」

「亮介がいて良かったです」

「そうかな」

「ええ」

 先を漂っていた登志子が振り返る。

 ちょうど雲の切れ間から光が差し込んだところだった。

 夕方のオレンジ色の空。

 後光。拡散する暖色の光。

 光線上の柱が地上へ幾つも降り注いでいる。

 確か、エンジェルラダーというんだったか。

 旧約聖書にも載っているという天へと続く光。

「I'm goddess.」

「しつけーな、そのネタ」

「しつけーとな!?」

 縞湖さんがピンと来てなかったからって俺に振られても。

「はあ」

 登志子がため息を吐いた。

「まさか本当にくたばるなんて。何気ない日常から見事な、これぞ伏瀬回収。ま、自分で言って後からとっつけてみて伏瀬回収もないんですけど」

「?」

 ぶつぶつと喋っている。

「聞こえないんだが」

「こっちの話です。……亮介」

「だからなんだ」

 今日の登志子は少しおかしかった。いや、いつもだいたいおかしいというのは置いとくにしても。いつにも増して脈絡がない。

 登志子が指さした。先にあるのはエンジェルラダー。天へと続く光。

「天界編。挑戦しときます?」

「……はあ?」

「いえね? 成層圏じゃないですけど、一回この体でどこまで登れるか挑戦したいとか思ったことないですか? わたし、やりたいんですけど。今」

「昔やったが大して上がれなかったなあ」

 せめて雲までは行きたかったが。登山家の方がまだ登れるだろうってくらいのとこでそっから先は上がれなくなった。透明な壁と云うとチープに聞こえるが、それが目の前で阻んでいる気分。

 これもまた、意識の問題かな。

 成層圏て。

 戻って来れるのか、それ。

「はあ。じゃあわたし一人で行っちゃおうかなあ。死後の世界があったんだから天界も夢じゃないと思うんですよね。上行ったら下も行ってみたいな。マントル。地獄編へのご招待」

 夢みがちな奴だな。そうじゃないと創作なんてしないのかな。

 俺がぼんやりしていると、登志子はしゅた! とこちらに手刀を切っていた。

「んじゃ! 行って参ります!」

「おい!」

 ツッコみも虚しく。

 上っていく。

 上へ上へと。

 ここで行かせちゃいけない。

 何故だかそう思った俺は登志子の手を取っていた。

 登志子がチラと掴まれた手を見る。何事も無かったように上を向いた。勢いは止まってはくれない。

 止めようかどうしようか。行ってもどうせ無駄だと諭そうか。一瞬浮かんだがそのまま行くに任せるにした。

 

 登志子と一緒なら、俺はどこまでもどこまでも上っていける気がしたんだ。




                 了


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