表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよなら人生。  作者: 水乃戸あみ
17/25

回想

「誰かいる」


 俺が飛び降りた屋上から地面まで。そこまでは以前も移動できた。ならばその間にある教室なんかは浮いて外から様子を伺うことくらいは可能だった。

 登志子は三年一組でいつも食べていた。

 元、というべきか。

 最後に俺が在籍したクラス。

 窓一枚隔てた向こう側で弁当を食べている女の子。それが登志子だった。

 窓の外を眺め。俺を見て。

 最も、彼女に俺は見えていないだろう。見ているのは窓の外の空だ。

 口を開く。

 独り言だろうと思った。

「おち○ちんびろーん」

「………………は?」

 自分の胸に手をやりながら。ぐいっと寄せ。

「ぺったんぺったん。ってほどでもないぞ。えふかっぷー。うふふ。嘘嘘。B。びびびびー。ちょうどよきよきびびビー」

「……」

「ぷっくぷぷぅ」

「…………」

「はあ。こんなこと話せる友達欲しいな~」

 そんなこと話せる友達はいない。いてたまるか。

 いるよなあ。誰もいないと分かると妙な独り言、控えめに言って頭のおかしい発言したくなっちゃう奴。

「変な奴」

「そうです。わたしが変なお嬢さんです」

「……」

「教室戻るのだるーい、にゃん」

 にゃんにゃん歌いながら教室を出て行った。


「お弁当にレタスきらーい。しなびてて。キャベツ寄越せや母」

「作ってる人にそんなこと言っちゃ失礼だよ」

「可愛い顔してると思うんだけどなあ。わたし」

「その鬱陶しい前髪切ったら少しは人気出るんじゃないかな。後、猫背」

「おち○ちんびろーん」

「おち○ちんびろーん」

「び。び、びっがぢゅうっ!」

「似てねえ」

「にゅわんちゅうっ!」

「もっと似てねえ」

 いつの間にか彼女と話すのが楽しみになっていた。

 話せてないけれど。


「……」

 夏休み明けて暫くのこと。

 ここ最近、彼女の口数は少なくなった。

 生前。長期休み開けでストレスを抱える人は多くいた。それに耐えきれない人たちも。社会人に学生。いつの時代もそれは変わらない。

 見たところリボンの色的に一年。

 新しい学び舎。新生活。実生活。抱いていた理想と現実の乖離。

 そんなところだろうか。

 不意に。彼女は言った。

「鬱だ死のう」

 と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ