笑顔が消えた日曜日2
一方。
麻生と河田は卓登と美鈴と合流して、まだ人がいないかと学園内をくまなく探していた。
もうすぐ救援物資や自衛隊がくるのだが、念のためである。
麻生は何気なく。薄暗い廊下から窓の外を見た。
水かさがみるみるうちに膨れ上がっていた。
ここは高い丘の上にあるが、もうすでにグラウンドまでが沈みだしていたのだ。
体育館では、武と湯築が皆を学園の屋上へと誘導しようとしていた。
「走れない人は、奥に待機! すぐにおれが連れて行くから!」
武は体育館の入り口付近で、人々を避難しながら素早く人数を数えていた。
「慌てないで! 学園の屋上からならヘリコプターの離着陸ができるわ!」
湯築は負けじと率先して誘導していた。
救援物資が着くころには、体育館も水没してしまうくらいの水かさが膨れ上がっていた。
四方から渦潮が、ここ鳳翼学園目掛けて近づいてきた。
まるで、意志があるかのように……。
ところで、この学園には生徒会長の吹雪 勇がいるのだが、すでに一人だけで屋上に向かって走っていた。
薄情のように思えるだろうが、本当は……やはり薄情なのである。
吹雪は屋上に辿り着いた。
応援のヘリなど自衛隊たちが何か巨大なものと戦っているのを目の当たりにして、震え上がった。
龍である。
旧校舎の捜索も終え、高取は麻生たちと屋上へと廊下を走りながら、今は屋上は危険だと警告をしていた。
高取は二番目に走っている卓登に近づいた。
「屋上には、今はあまり近づかない方がいい!」
「なんで?!」
「いいから! 立ち止まって、落ち着いて!」
卓登は真っ青な顔で屋上を目指しながら叫んでいた。
「落ち着けるわけないよ! もうすぐ水没するんだぞ!」
「世界中がね! 今はまだ行かない方がいい!」
高取は走りながら今度は卓登の後ろの美鈴に言った。
「もう始まっているの!」
「何が?!」
一番目を走る麻生は卓登よりも足が速い。武がいると思われる屋上の元へと一目散であった。
全員は、高取の助言を無視して屋上に辿り着いてしまった。
ボロボロとなった屋上のアスファルトの床には、元はヘリコプターであったであろう残骸が幾つも散らばっていた。
何匹もの龍がこちらを見た。