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水の失われた神々  作者: 主道 学


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30/37

四海竜王戦

 私は急いで天鳥船丸へと向かった。

 武の生命が気になったからだ。 

 私は遥かなる時の中で望郷を持ち続けていたが、恐らく今ではすでに本星を捨てていたのだろう。

 雨風が狂ったように暴れ狂う海上を一目散に進み。何とか武たちのところに辿り着いたが、時すでに遅く。天鳥船丸と無数の虚船丸は開戦をした後だった。暗黒の海は、これ以上ないほど血潮巻き上がる真っ赤な激戦区となっていた。

 荒れるに荒れる大海原で、大きな渦潮から天鳥船丸だけを何かが集中して襲ってきていた。

「そっちにもいるわ!」

 高取である。

「わかったわ!」

 湯築が長槍を振り回した。

 天鳥船丸の端から多くの魚人たちが海上から真っ暗な甲板へと飛び込んでくるのだ。

 皆、甲板で応戦していた。

「ハイッ!」

 甲板では、蓮姫が一際長い槍を横一文字にし、突きを繰り出し、振りかぶった。湯築も長槍を袈裟懸けにし、振り回しては、多くの魚人を幾度もはふっている。それでも、まるで無尽蔵に魚人たちは甲板へと飛び込んできていた。

その時、天をも覆う稲光と共に、轟雷が海上へと降り注いだ。それは一つの渦潮に直撃し、天鳥船丸へと飛び跳ねていた数多の魚人たちと共に渦潮が跡形もなく光の中へと消え去った。雷を降らしたのは他でもない高取である。


 だが、渦潮は一つではない。

 その数はとても多いのだ。


 天鳥船丸へ視線を戻すと、次々とモリを上段に構えながら飛び込んでくる魚人たちを、真っ先に鬼姫や武が斬り捨てている。

「皆さん! この露払いは、後もう少し続きます! 頑張ってください!」

 長刀を振るう光姫も率先して戦況を有利に進めていた。

 戦いの最中。前線に立つ武と鬼姫と湯築は同時に頷いた。

 四海竜王はどうやら、まだ海上の遥か遠い場所にいるのであろう。

 恐らく今は、こちらの体力をできるだけ削ろうとする作戦なのだ。

 様々な思惑と策が交差する戦である。

 はて? 自然と武を守るかのような戦いぶりであった。皆、武の体力を温存しようとする作戦なのだろうか。

 策士策に溺れる……か。北龍の策は、恐らくは北龍も鳳翼学園の麻生と地姫を襲う策を練ったのであろうが。ことごとく裏目にでるのだろう。

 鳳翼学園では麻生と地姫は、身の安全のために自衛隊と共に更に警戒を強めるだろうし、天鳥船丸では武の体力を温存する作戦に皆が自然と活躍していた。北龍はその策によって、後に新たな誤算に気付くはずだ。


 魚人たちは、勇猛果敢に武に襲い掛かるが、ことごとくに左右にいる鬼姫と湯築にもふられていた。

 蓮姫は、高取と光姫の後方支援者の護衛だ。蓮姫は近接も得意とし、また神出鬼没な長槍の技を使うので、うってつけである。

 その時、無数の超巨大な渦潮が天鳥船丸の周囲を囲んだ。

 昇ったのは、見るからに五千歳は超えている硬い鱗の龍である。

 すぐさま鬼姫と武が牽制のため一撃必殺を繰り出した。

 タケルはなんなく居合い抜きで龍を一刀両断にし、鬼姫は普通の居合い抜きだが、素早くツバメ返しをしていた。その方が二度、瞬時に袈裟懸けと逆袈裟に刀を振るうので、剣に宿る気が二つに重なり、龍を斬り裂けるのだ。

 鬼姫の技量にはいつも目を見張るものがある。

 豪雨と雷の舞う海に大量の血が流れ落ち。五千歳の龍は何体も果敢に幾度も昇って来ていた。まるで、一人でもその命を奪えればそれでいいともいわんばかりであった。

 天鳥船丸の後ろを見ると、甲板の遥か後方で蓮姫が苦戦をしている。

 天鳥船丸へと飛び込んで来る無数の魚人にも、私の知っている限り。実は位というものがあるのだ。将の位というものがあり。将の魚人は殊更強いのだ。分かりやすく言えば、リーダーのようなもので、モリも一際重く大きい。魚の鱗も非常に硬く。並大抵の武器では歯が立たぬ。

 だが、苦戦を強いられていた蓮姫が、槍の連続した突きで、一度に二人の魚人の腹を貫いている。

 魚の顔が苦痛で歪んだ魚人たちは次々と倒れていった。

「ハイッ!」

 少し呼吸を整え、腹を貫いた槍を引き抜いては、すぐさま後ろの魚人にも振りかぶる。長槍を縦横無尽に振り回しているので、これは有利に戦っているとも思えるが。しかし、蓮姫を囲むかのような魚人の将たちが、背中にほんの少しの隙を見出してしまったようだ。

 魚人の将はやはり強いのだ。

 その隙を狙った将の魚人に瞬く間に二本の矢が貫通していく。蓮姫の危機に光姫が神業のごとく対応したのだ。


 いつの間にか、真っ暗な海の四方には巨大な竜巻が発生していた。光姫である。五千歳の龍をも呑み込んでしまい。竜巻の中でバラバラにしてしまう。それでも、激しい烈風を幾重にも生み続ける。今さらながら光姫の力は計り知れなかった。

「龍は鬼姫さんと私に任せてください! 武さまはできるだけ体力と気を温存してください! 戦いはまだまだ続きます!」

 そう光姫が叫んだ。

 鬼姫がカッと目を見開いて、今まで一度も出したことがない本気をだした。その途端、ドンっという激しい衝撃音と共に、海上の風が一斉に逃げ出し、天鳥船丸の全ての帆がふっ飛んでしまうかのような暴風と熱気が発生した。

 暴風で大船全体が揺れるに揺れ。天鳥船丸がまるで山のような荒波に煽られ、巨大な渦潮に巻き込まれたかのようだった。凄まじいまでの鬼姫の気に、これには皆が皆、床に踏ん張ってただ耐えるしかなかった。そうでもしないと、海に放り込まれてしまうだろう。まるで天変地異である。数多の五千歳の龍が目を見張り、負けじと咆哮を上げた。 

 鬼姫は、居合い腰から静かに抜刀した。

 本気になった鬼姫は、やはり存在しないはずの神社で一番強いのだ。

「いざ!」

「いざ!」

 鬼姫と負けじと力を開放した光姫が同時に気合を入れ、神鉄の刀と長刀を龍に向かって振りかざしていった。

 二人の気だけで、この海域は満たされてしまうかのようである。

 幾度も剣と長刀に宿る気が、数多の龍を両断をしていく。まるで、風船が割れたかのような大量の血飛沫が辺りに舞っていた。


 光姫の発する四方の竜巻は、いつの間にか徐々にその離れた場所から距離を中心へと近づけていく。龍に多大な被害を被らせ、それでも、巨大な龍をも動きを鈍らせる烈風が、ここ天鳥船丸までをも襲っていた。

 全ての龍や魚人も光姫の竜巻の猛威に、劣勢になり動きが鈍りだした。もはや敵陣も、そして、武たちもが決死であったのだ。

 おや、何か忘れているぞ。

 高取は私より早くに何かに気が付いたようだ。

 そうだ。伏兵の魚人たちはまだ天鳥船丸のどこかに潜んでいるはずだ。

「湯築さん! 蓮姫さんの怪我は今はまだ浅い! 早く!」

「すぐに行くわ!」

 すぐさま高取は近くの湯築に加勢を頼んだのだ。実は、まだ蓮姫は長槍で魚人たちのモリを次々と弾いて戦っていたのだが。

 つまりは、予知である。高取は蓮姫が怪我をするのを予め知ったのだ。そして、落雷を蓮姫を囲んだ魚人たちに複数降らした。灰となった魚人の囲みの中から、蓮姫が自力で抜け出そうとした時、湯築が蓮姫の助太刀に走るが……。

「え!」

「……!」

 湯築と蓮姫が驚いて呆けた。

 いつの間にか、蓮姫を囲んでいた全ての魚人たちの首があらぬ方向にずり落ちていたのだ。


 タケルである。


 タケルは居合い抜きで、いつの間にか蓮姫を中心に弧を描いたのだ。

 剣に宿る気が、忠実に魚人の首だけを斬り飛ばしていたのだ。

 その後、魚人たちは音もなく皆崩れ落ちた。

「武! まだよ! 向こうから来るわ!」

 高取は天鳥船丸の両端で、龍に弓を射っている巫女たちの方を指さした。

 伏兵の魚人たちは、居場所を暴かれ驚いて武に捨て身の突進をしてきた。

「任せて!」

 タケルは構えるが、湯築がなんなく長槍を振り回し魚人たちの中心へと踊り込んだ。ものの数秒後には、立っている魚人は血潮を巻き上げ皆、倒れていた。

「湯築。君は強いな。ありがとう」

 タケルが湯築に礼を言うが、湯築は武が好きだったのだろう。

「安心していいわ。私があなたを絶対に守るから……」 

 湯築はこんな戦地でも微笑んでいた。

「もうそろそろです! 見えてきました! 四海竜王です!」

 甲板の先頭に立つ光姫が皆に声を張り上げた。

 暗雲が綺麗に消え去り、天鳥船丸の進路が晴れ渡った。


 変わりに身の毛のよだつ咆哮がこだまする大海原に、四海竜王のそれぞれの巨体が見えてくる。

 東西南北と四海竜王がそれぞれ陣取り。優に五千歳を超えた龍が居並んでいた。魚人たちの一万の大軍も海上にモリを構え陣形を敷いていた。

 タケルが甲板の先頭の光姫に聞いた。

「こちらの戦力は?」

「巫女と武士が約千人。それと私たちです」

「それならば、こちらの勝ちだ。俺一人で十分だ」

 光姫の言葉に、タケルはしっかりと頷いた。

 タケルはまず龍の気を開放した。

 優しい風が大海原全てを包みこむかのようだった。荒波が静まり返った。白き雲が途端に散り散りとなった。数多の龍や魚人まで、そして四海竜王も途端に一時だけ静かになった。

 この海の上で、四海竜王の東龍は更に面白がったようである。犬のように尾を海中で大きく左右に振り、嬉々とした咆哮を上げた。

 天鳥船丸の甲板の中央には、虚船丸の代表の巫女と武士が十人と来ていた。鬼姫と蓮姫、湯築に、タケルが集まった。

 光姫と高取で、皆に作戦を伝えた。


「虚船丸の方々は主に魚人との戦いに徹してください。龍は、蓮姫さんと鬼姫さん。高取さん。湯築さん。四海竜王はタケル様です。ですが、皆々様の命が一番大事です。それぞれ加勢に加勢。援護に援護を重ねて下さい。お願い申し上げます」


 光姫は頭を皆に深々と下げた。

 高取は、タロットカードを地面に広げていた。

 一枚取り出すと、それは塔のカードだった。

 続いて、もう一枚引いた。

 高取はそのカードをじっと見つめてから、こう言った。

「武。これから、あなたはこれ以上ない危機に瀕するの。でも、意外なところから物凄い助けがくるわ。でも、その助けは戦況を変える程の強力な何かなの。絶対、細かいことにも注意していてね。それに、その助けが受けられないと、この戦い私たちの負けよ」

「わかった」

 タケルは、高取の手を掴んだ。

 優しい気が高取の体内を充満した。

「ありがと。私、あなたが好きよ。きっと、いつまでも。迷惑かも知れないけど、こんな女がいてくれるんだな。って、いつか必ず思えるはずよ。私の想いをいつまでも大切に覚えていてね」


 やはり高取も武を好いていたのだろう。

 高取の最後に引いたカードは後々、話そう。

 これが、正真正銘の最後の戦である。

 だが、よほどのことがない限り勝ち戦であろう。

 轟々とこの海域を巨大な気が充満した。

 皆の気である。

「さあ、行って」

「武。頑張ってね。この戦が終わったら麻生さんのところへみんなで戻りましょう」

 高取と湯築がタケルに新しい二本の神鉄の刀を渡した。万が一の刀が折れたためである。そのため、タケルは刀を二本腰に差した。

 タケルはコックリと頷くと、四海竜王のところまで、走った。

 タケルはすぐさま敵陣のど真ん中に辿り着き刀を構えた。

 全ての魚人がタケルの足の速さに仰天し、震え上がった。怯んでいる隙を見逃さず虚船丸から鬨の声が上がり、千の武士が怒涛のごとく魚人の大軍へと雪崩れ込んだ。


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