一万キロの恋と五百年の恋3
それらを同時に数十の渦潮に降らせた。
爆裂と熱風が海上に吹き荒れるが。
しかし、幾つも幾つもと渦潮が新たに発生しだした。
どうやら北龍はここまで読んでいたのだろう。
口惜しいが、こうなっては私にはどうしようもない。
その時、学園の二階の窓ガラスが割れる音と、麻生の悲鳴が私の耳をつんざいた。私はすぐさま戻ると、ベランダに続く窓ガラスが割れた2年D組には、外から数多の魚人たちが溢れだすかのように教室内へと侵入してきていた。
教室内の設備なども破壊していく魚人たちの数と勢いに。
もはやこれまで……と、思った矢先。
皆騒然とした。
地姫と麻生が魚人たちによる危機的状況の中。なんと今までじっとしていた卓登が戦いだしたのだ。
はて、そういえば卓登は武と互角の合気道の達人であったような。
卓登はその呼吸力で、魚人たちのモリを返していく。元々、合気道は対多人数用の武術のようである。
麻生に向けられた数人のモリを転換をし、体制を整えようとした地姫に向かったモリを入り身で対処した。
踏み込みの音は教室内に鳴り響くかのようだ。魚人が幾人も打ち倒されていく。
これには、魚人も唖然とした。当然、北龍も後で大きな誤算に頭を抱えるであろう。
地姫が体制を整えた。
瞬時に幾つもの落雷がベランダの空から斜めに降り注いだ。
傷を負い。灰となったものが。多く現れた数多の魚人たちも、その勢いが劣勢になってきていた。
私は鳳翼学園の外に行くと、遠い空から自衛隊の無数のヘリコプターが応援に駆け付けていた。
応援の自衛隊たちが来るのも時間の問題だった。
麻生の友は皆、強き良き友ばかりだ。
もう鳳翼学園は無事であろう。
一方、ここは南極である。
私は広大な南極大陸の中央を目指した。数多の龍によって掘削された氷山が漂う海の底に、巨大な竜宮城は静かに佇んでいた。
何やら訳も分からぬ汗が出るほどの不穏な空気を私は感じていた。
私は乙姫から北龍に、麻生と地姫をこれ以上襲わせないようにと頼むことにしたのだ。武たちが安心して旅を続けられるようにするためである。
恐らく、北龍は戦を有効に進めることしか考えていないのであろうが、やはりここは説得をするしかないのではなかろうか。
私は影武者である乙姫が来るのを自室で待っていた。
うら若き少年たちは、せっせと部屋の掃除に励んでいた。
ほどなくして、影武者が現れた。
重要な会議に会議と疲れ顔をしているが。
影武者の深い憂いを含んだ瞳を私は見逃さなかった。
私は薄々感づいてしまった。
影武者も私の考えを汲んでいるようだ。
「姫様。申し訳ございませんが、麻生と地姫という女子学生と巫女を襲うよう命じたのは、他でもない私なのです」
「なんと……」
「もう、こちらもなりふり構ってはいられないのです。本星の水が……全てなくなりました……」
きっぱりと言う影武者の言葉に私は絶句した。
周囲のうら若い少年たちも私の姿と存在自体も知らないが、宙を見つめて話す影武者の言葉に、驚きのあまり腰を抜かしてぶるぶると震えだした。
もはや本星では生きとし生けるものは、皆間違いなく死ぬであろう。
「もはやこちらは失うものは何もありません。武たちを退けるためならなんでも致しましょう。四海竜王はもう出払っています。地球の全ての陸は溶けた南極の氷塊によって水に満たされるでしょう。……乙姫様……もうこうなっては、とても申し訳なく思いますが、これでこの星は死に絶えます。けれども、変わりに本星が生きるのです。どうかよしなに……」
「……」
だが、私には浦島太郎の顔もよぎった。
「まだだ……」
「?」
憂いの色濃く現れていた影武者は首をかしげた。
「地球にはタケルがいる……」




