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水の失われた神々  作者: 主道 学


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遥かなる海3

 一方、ここは天鳥船丸のフロアである。


 さっきから納得していないといった顔の鬼姫とタケルは手合わせをしていた。今まで、やたらとタケルの顔を覗いていた鬼姫であったが、半ば強引に「それならお手合わせを」とタケルの手を掴んでフロアまで来たのだ。

「君は?」

「鬼姫という名です。では、いきますよ」

 冷たい顔の鬼姫は神鉄の刀での手合わせを申し出ていた。刀を鞘から抜き腰を落とすと、周囲の空気がまるで空間ごと恐れおののくかのようにブルブルと震えだし逃げ出したかのような暴風となった。

 同時に刀を振りかぶった。これに対して、タケルは神鉄の刀を抜いて斜めに軽く振った。途端に天鳥船丸の頑丈な壁に大穴が空いた。大穴を空けた剣に宿る気は凄まじい勢いで遥か彼方の海へと迸る。

 これには鬼姫も腰を抜かし、呆然と大穴の空いた壁を覗いていた。

 まるで勝負にならないのだ。

 鬼姫は刀を鞘に納め。タケルに近づくと、すぐさま口づけをしてからフロアからでていった。どうやら、好いた対象に武とタケルが二人入って、鬼姫なりに納得をしたのだろう……。

 

 フロアから通路へと出た鬼姫は、一人ひたすらに船内をドスドスと足音を立てて歩き回っていた。まるで、怒っているかのようだ。途中、タケルのための湯飲みを運んでいた光姫が鬼姫に対してニッコリとなんとも暖かい眼差しで微笑んでいた。

「武様……」

 腰に差した神鉄の刀を時々見つめる鬼姫は、ただ混乱しているのだろう。

 恐らくは武との長い稽古の日々ことを思い出しているのだろうな。そうであろう、鬼姫は存在しないはずの神社から武をことのほか好いていたからだ。

 だが、それは武が世界を救うからでもあるのだが、武がタケルとなることは知らなかったのである。

 けれど、私が見るにはタケルの中には武が今もいるのだ。一つの身体に二つの魂のがあるのである。なので、あまり気にしなくてもよかろう。

 つまり、この先。武が表面にでてこないわけではないのだ。

 恐らくは武は大きな怪我によって、気を失っているのだけなのだろう。

 船内を一回りした鬼姫は頭を冷やしたかのように、いつもの表情で光姫とタケルがいる医務室のドアを開けた。

 薬湯の刺激臭に顔をしかめた鬼姫は、光姫とタケルが話している言葉に静かに聞き耳を立てていた。

「タケル様。現状は四海竜王によって極めて不利だったのですが、四海竜王よりも強い貴方様なら楽に退けられましょう。これからこの船で南極という場所へと行きますので、そこはとてもとても寒い場所なのです。ですので……竜宮城へは……」

 光姫は色々と現状を説明していた。それを聞いているタケルは相槌を打つこともなく。変わらぬ表情で最後にコックリと頷いた。

「鬼姫さん。すみませんが、タケル様にこの天鳥船丸の船内を案内してくださいませんか?」

 聞き耳を立てている鬼姫に気付いていた光姫は、タケルの手を両手で恭しく握り、立ち上がらせた。

 

 鬼姫がコックリと頷いて、タケルの手を引いて医務室のドアを開けると、通路には蓮姫と湯築と高取、そして三人組がひと固まりになってドア越しに聞き耳を立てていた。

 鬼姫がドアを開けたその拍子に、ドアに顔をぶつけた湯築は、タケルの方を真剣に見つめていた。やはり、今でも武自体を好いているのだろう。違和感を感じているのだろう。

 壁に掛けられた数多の提灯しかない仄かな明かりが照らす通路である。殺風景であるが、度々巫女が行き来していた。

「タケル様……これからの稽古はどうしますか?」

 一本道の通路を歩く鬼姫の控えめな声音にタケルは急に頭を掻きだした。

「鬼姫さん。いつも通りで……いいですよ」

 タケルではなく武である。

 武は頭を掻いていた。

「武様?!」

 その途端、鬼姫は武に抱き着いていた。感極まって涙も流している。

「良かった……」

 鬼姫の顔を間近で覗いた武は、ホッと胸をなで下ろしていた。きっと、自分が死んではいないことに安堵をしたのだろう。

 しかし、その次の瞬間に武の顔が強張った。

 武は叫んでいた。

「鬼姫さん! 四海竜王が近づいている! けど!」

 鬼姫はそれを聞いて神鉄の刀を抜いて甲板へと一目散に走りだした。

「武様はまだ傷が完治していません! 私がでます!」

 鬼姫の悲痛な叫び声が通路から伝わった。

それは叫び声だけではないようにも思えた。 

甲板へとでた鬼姫に瞬間的に追いついた武は首を振った。

「大丈夫。四海竜王は俺に任せて」

 タケルである。


 天鳥船丸と数多の虚船丸の前方60キロ地点に、巨大な渦潮が中央に発生し、それを合図のように星の数の渦潮がその周辺に発生した。

 四海竜王の一人。西龍である。

 渦潮から昇った西龍は、まるでヤマタノオロチのような首が八つもある巨大な龍である。周辺の渦潮から昇る龍は、どうみても軽く2000歳は超えていた。

 雷鳴の稲光で、西龍のそれぞれの首がわかる。その顔は目が三つで異様に口が細長い。蛇のような不気味な姿だが、元は美形な男子であるのだ。

 天鳥船丸の甲板へとでた光姫と高取は、猛烈な速さで迫りくる龍の群れに落雷と雹を降らした。

 光姫は雹を降らすと同時に、海域の周囲に竜巻を呼んだ。極寒の吹雪が数多の龍を襲う。

 高取の落雷は正確に2000歳の龍の頭上に幾つも見事直撃していた。

「さあ、湯築! 私たちも行くわよ!」

 湯築と蓮姫も甲板から龍に向かって飛翔した。

 鬼姫は西龍目掛けて居合い抜きをしようとしたが、タケルによって押し止められた。

「鬼姫。少し下がって」

 タケルの身体の周囲には、目に見えるほどの優しい気が充満していた。

 それによって、なんともすがすがしい風が辺り一面を通り抜ける。

まるで、生まれたばかりの風が健やかに吹いているかのようだ。

 それを見て西龍は一瞬ひるんだ。

 だが、神鉄の刀を抜いて海面を走りだすタケルの速さは常軌を逸していた。

 おおよそ20キロの距離を、わずか六秒で走り抜けたのだ。

 すぐさま西龍の八つの首がタケルを襲う。

 なんなくタケルは、西龍の首をうまく躱しながら一本また一本とはふっていた。 

「凄い!」

 鬼姫は2000歳の無数の龍と苦戦を強いられながら、遥か遠くのタケルの姿に向かって、目を見開いた。

 蓮姫や高取、湯築。虚船丸の武士に巫女も目を見開いた。

 多くの2000歳の龍もそれぞれタケルの方を見た。

 いつの間にか、西龍は一本の首を残すだけとなっていた。

 西龍はすぐさま後ろを向き怒りを募らせる表情のまま逃げ出していった。

 タケルの強さの前では、四海竜王の西龍も手も足もでないのだろう。

 けれども、タケルの力はまだ未知数だが、西龍は四海竜王の中では一番低い力の龍である。

 一番強きは北龍なのだ。


「二重人格? とは、なんですか?」

 鬼姫は首を傾げた。

 武が寝ている医務室での光姫と鬼姫たちの会話である。皆、せせこましい医務室で丸椅子に座っていた。

 三人組は皆、難しい顔をして口々に言った。

「今まで気が付かなかったとは……」

「不覚です」

「不覚でッスね……」

 武の怪我はみるみるうちに回復しているようだが、やはりダメージは大きかったのだろう。片腕には未だ血が滲んだ包帯が巻いてあった。


 今も光姫の強い勧めで簡易ベッドで寝かされていた。

「一つの身体に二つの魂があることをいうの」

 高取である。

「さすがに私もわからない。いや、わからなかった」

 高取は立ち上がり光姫となにやら話し出した。

 薬湯を小瓶に注いでいる光姫は、その薬湯の刺激臭に顔をしかめている高取にしっかりと頷いた。

 光姫に高取は何を話したかと言うと、ここからでは聞き取りにくかったが、「このまま武の中にタケルがいるのは、ずっとなの? 武は二重人格のまま?」である。高取は確かにそう言っていたのだ。そう、武の第二の人格が芽生えたのだろう。

 これから、麻生と武の間にタケルがいる。

 不思議なことだが、そうなったのだ。

 麻生はどうだろうか? タケルも武も受け入れたのだろうか?


 だが、私は様子見のために竜宮城へ行かなければならない。四海竜王で残るは最強の北龍のみであるが、気になるところがあるのだ。


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