表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の失われた神々  作者: 主道 学


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/37

遥かなる海

 雷鳴轟く大荒れの海の空から黒い豪雨が降りしきる。海上に浮かぶ天鳥船丸も数多の虚船丸も雨に濡れながら大揺れに揺れていた。

 今、武たちは日本海を南極へと向かっている最中だった。

 操舵室で武と鬼姫がなにやら話していた。

 二人とも不穏な光姫の話を聞いた後であるようだ。

 恐らく四海竜王の話であろう。

「すぐに東龍が来るそうです」

 緊張した鬼姫のキッと結ばれた堅い口からやっと出た言葉だった。四海竜王のうちの一人、東龍は四海竜王のなかでも二番目の強き龍である。

「鬼姫さんよりも強いって本当ですか? どんな相手ですか?」

 武は武者震いをし、鬼姫の顔とテーブルの中央のコンパスに視線を送っている。

「齢1万年の巨大な龍だそうです……」

 遥か遥か遠くの南極では、乙姫が待っているのだろう。

「俺にできることは、どれくらいなのだろうか?」

 鬼姫の神妙な顔を見て、武は呟いたが雷鳴によってここからでは聞き取りにくかった。

「俺、勝ちますよ。絶対……」

 外の闇夜のような暗い海には土砂降りが容赦なく降り注いでいた。

 おや? さっきからコンパスがかなり不安定であった。

 激しく回転し、これでは目的地を見出しにくい。

 だが、私が思うに今のところ船の進路は問題ない。

「私は勝ちますよ……武様のために」

 そう鬼姫はふと悲しく言った。


 その日の夜。


 いつも夜中の見張りをしている三人組は、望遠鏡を持ちだし船内をかなり警戒しながら歩いていた。

こんな夜だ。

 それくらいはするのが当たり前であろう。

 もっとも東龍の巨大さでは、警戒してもあまり意味がないのだが……。

「あれ。いいなー」

「いいなー」

「いいでッスねー」

 三人組は口ぐちに言っていた。

 なんのことか?


 雨風によって濡れた大揺れの操舵室前の甲板の端に、一人のずぶ濡れの男が現れた。

 東龍である。

 人間の姿の美しい東龍は、薄暗い船内に入っていった。

 なにやら人の気配を探っているようだ。

 ここから見ているうちに、はて? 武の船室へと来てしまった。

 

 どうやら寝込みを襲おうとしているらしい。

 ここからではどうしようもないが……。

 武の船室へと入ると、かなり大きなベッドで寝ている武に向かって、東龍は腰に携えた刀を音もなく抜いた。

 けれども、その瞬間に東龍の首筋に抜きがけの一撃が向かった。

武の危機に刀を抜いたのは隣に寝ていた鬼姫である。

 東龍はすぐさま後方へ飛び逃げようとした。だが、東龍の動きが止まった。同じく武のベッドで寝ていた。蓮姫と湯築が瞬間的に扉越しまで跳躍し、槍を構えていたのだ。

「失敗か……」

 東龍は半ば呆れて刀を床に投げ捨てた。

 ここはモテ男の武の勝利であろう。

 武のベッドには、光姫も高取も寝ていた。

 いや、皆武の狭い船室のベッドで寝ていたのだ。

「本当。武の船室で良かったわね」

「ええ、巨大な龍の気で東龍の気配がわかりずらかったのですが、助かりましたね」

蓮姫の言葉に光姫が相槌をうちながら、起き出して周囲を睨んでいる高取に微笑んだ。

「みんなと寝るなんて……」

高取にとっては、女全員が憎たらしいのであろうが、湯築も蓮姫も光姫までもまったく気にしていないようだ。

そんな皆に、東龍は好戦的に微笑んでいた。

「フフッ。やっとお目覚めかい。モテ男さん」

 東龍の好戦的な笑みは今では、ベッドで目覚めた武に向けている。

「卑怯だぞ。寝ている時を狙うなんて、てっ、なんでみんな俺の船室にいるんだ?!」

 武は顔を真っ赤にしながら、目をこすり枕元の神鉄の刀を取りベッドから降りた。


 鬼姫はとうに狭い船室の中央で、抜いた刀を構え呼吸を整えながら、東龍に向かって恐ろしいまでの殺気を向けている。

だが、東龍は至って平然として微笑みを崩さない。

「なあ、なら今度は俺と正々堂々と戦わないか? モテ男さん?」

「?」

 武は首を傾げるが、神鉄の刀を抜き臨戦態勢である。

「武、その東龍って人! 人間の姿だと弱いわ! 倒すなら今よ!」

高取が周囲を睨むのを止め言い放った。

「そうね。隙だらけだし、やっかいだから、今のうちに殺そう」

 蓮姫も同意し、すぐさま東龍に槍の穂先を向け振りかぶった。

 だが、鬼姫が東龍の胸に向かって、目にも止まらぬ速さで一閃をしていた。が、東龍の体には傷一つつかなかったようだ。

 武の船室には、かなり大きなベッド。木製の机。小さ目な本棚がある。おおよそ八畳間くらいであろう。

 他の寝床の船室もそうであるが、武の船室のベッドだけはかなり大きい作りであった。そこで皆と密集して寝ていたのであるが。

 その時、ミシリ、と船室の床が軋んだ。

「ふふっ、お前たち何か勘違いしていないかい? 俺はただ遊んでるんだけなんだよ……。遊びで本気を出すわけないだろ。武っていうんだな、あんた。気に入ったよ。どうしても勝負したくなくったよ。どっちがモテ男かを。しばらく俺の遊びに付き合ってくれよ」

 東龍は武を見据えた。

 けれども、今度は東龍の姿形が少しだけ大きくなると、同時に凄まじいまでの胸を圧迫するような気迫が周囲を包み込みだした。

 船室の床がミシリミシリと軋みだしている。

「武様。このままでは危険です!」

「それよりみんな外へ出ようぜ。ここより遥かに楽しいことができるんだぜ」

 鬼姫の叫びと同時に武は額からは冷汗が伝うが、武も素直に頷いていた。


 武たちと東龍は荒れ狂う雨風の甲板へと歩いて行った。

 船外を見ると、武が先に拳を握りなおして甲板の中央を指差していた。すぐさま東龍と武は甲板の中央まで走り出した。

 武にとっては、戦う以外にはないと思ったのだろう。

 武は決して、好戦的な性格ではないがいざとなれば辺り構わずに打ち倒していく。そんな激しい一面もあるのだ。

 武と東龍の戦いは目が離せなかった。

 武の素早い正拳を東龍は寸でのところでかわし、それと同時に飛び蹴りを放ち、今度は身を低くした武は横蹴りを繰り出した。それを横飛びでかわした東龍は膝蹴りと、格闘技で決着を付けようとしていた。

 お互い拳や蹴りがかすりもしないのだが、ここから見ても格闘技でも東龍の方が一枚上手のように思えた。東龍の重すぎる拳の方が当たると致命傷のように思えたからだ。

「武様! 隙を見せてはいけません!」

 鬼姫が叫んだ。

 だが、鬼姫たちが船外で大雨の中。それぞれ心配して見守る中。グキッという音が辺りに響き渡った。

 東龍の肘打ちをかわした武は一回転をしそのまま放った回し蹴りが東龍の脇腹を抉っていたのだ。

 これには、さすがに東龍も顔をしかめたようだ。

「フフ、面白かったぜ! 武よ! だが、まだまだ俺の遊びは終わってないぜ! これからが本番だ!」

 東龍は脇腹を摩ってすぐに笑顔になり片手の親指を立て、身を翻し海へと飛び込んだ。それにしてもなんという素直な笑顔であろうか。

 今度は、海から凄まじいまでの振動が天鳥船丸を襲った。

 まるで天変地異のようだ。異変の中、危機に対して天鳥船丸と多くの虚船丸がすぐにひとりでに宙に浮きだした。

 武はというと大揺れに揺れる床板を、なんなく走って来た湯築が甲板の床に押し倒していた。

 遥か上空へと浮いた天鳥船丸と多くの虚船丸の前には、海上から昇った東龍の真の姿である巨大な銀色の龍の顔があった。

 武は未だ湯築と一緒に伏せていた。

 鬼姫たちはやっとのことで天鳥船丸の床板でバランスを取っていたが皆、武器を構える。

 天鳥船丸と数多の虚船丸がすぐさま舵を取ったが、時すでに遅く。何隻かの虚船丸が東龍の鎌首の横薙ぎによって空中でバラバラに粉砕された。

 高取の落雷が東龍の頭上に直撃し、それとともに東龍の姿が一際、大きく銀色に輝いて見えた。


「いけない!」

 光姫が弓矢を構え、東龍の面前で矢を放った。

 その矢は東龍の額を穿ち、おおよそ1000歳の龍ならば貫通することができるであろうが、東龍にとっては大きな蜂が刺した程度であろう。

 即座に鬼姫が居合い抜きをした。

 剣に宿った気が東龍に向かって、迸るが。東龍は無傷だった。

「でやっ!」

 次に武が横一文字に神鉄の刀を居合い抜きし、剣に宿る気を放った。今度は東龍はそれを後退して躱した。

 

 東龍にとっては、素直な遊び心があるのだろう。

 ここから見ても、その龍は笑っているようにも思えた。

 武は二の太刀、三の太刀と刀を振るう。

 鬼姫も神鉄の刀からの剣に宿る気を幾度も放つが、いずれも東龍は素早く躱していた。

 間違いなく。剣から生ずる気では東龍の鱗には、傷一つつけられないのであろうが。

 やはり、東龍は遊んでいるのだ。

 本気になれば、大船全てが破壊されるであろう。

「本気になった東龍にはかなわないわ! みんな天鳥船丸へ避難して! ここは逃げるのよ!」

 高取である。

 湯築がそれを聞いて、船内へと走り出し、皆、天鳥船丸へと非難した。

 だが、武だけは東龍の面前に対峙していた。

 東龍は嬉々として咆哮を上げた。

豪雨と落雷の中、濡れた神鉄の刀を構えた武は次に東龍の心の臓へと飛翔し突きをした。巨大な敵に対して、武は雄々しく応戦したかったのだろう。

 

 しばらくの間。

 刀からの火花と牙からの火花が暗き海に散っていたが。

 鬼姫たちは呆然とした。

 武は暗き海へと落ちそのまま濁流へと呑み込まれていったからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ