表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の失われた神々  作者: 主道 学


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/37

孤島の戦い2

 薄暗いレストランの片隅で、武と光姫だけでなにやら話していた。

外は大荒れの雨風が吹き乱れ。龍の咆哮がそれぞれ徐々に近づいているかのようだった。いつの間にか、風に乗って不穏な空気がこのビルに集まっていた。

「その節は従姉妹の里奈が大変お世話になりました。これから一緒に旅に出ることを光栄に思うと同時に感謝しております」

 武はいつもの穏やかだが少し抜けている表情ではなく。ピンッと姿勢を正して、誰でも気圧されるほどの真剣な顔をしていた。だが、さすがに見惚れているかのような赤味が顔にでている。本当に真面目な男である。

 武は頭を深く下げたが、ここからよく見ると、武はなにやら光姫に対して静かに身体を震わせているようだ。思えば鬼姫との最初の手合わせをした時にもそうであった。

単に武者震いなのか? あるいは、未知に対する想像力からくる恐怖か? 

 

 どちらにしろ、武道の達人の武には相手の強さがはっきりわかるのだろう。

「はい! いつでも、いつまでも、共に戦いましょう。命を賭けても!」

 武は幾分震える声で言うとまた深々と頭を下げた。

 武にとっては光栄なのだ。恐怖のようなもの以外に身が震える程に……これからの戦いに光姫が参加してくれてとても嬉しく思っているのだろう。

 だが、恐らく光姫も内心同じく思っているはずである。

 その証拠に光姫は微笑みを絶やしていないが、僅かに手や指が震えている。

 

 二人とも同じなのだ。

 そして、一緒に旅に行けることが光栄なのだ。

「あ、ええと。光姫さん? あの、早速で悪いんですが……。後で……お、おれとお手合わせをしてください。お互い実力をすぐに知りたいはずですし。このビルの外へ出たら、どこか広い場所を探すのもいいですね。それか、おれたちは船で旅をしていまして。その船の中でも……」

「それには及びません。もうすぐわかりますから」

 光姫は笑顔であっさりとそう言い残してウィンクをし、高取に会いに行った。

 きっと、武は光姫にどうしようもない恐れを抱いていたのだろう。

 その気持ちは私にもよくよくわかるのだ。

 武だけではないと思うが、光姫に恐怖するのは、その特異な能力に由来するのであろう。

 これは目が離せないのではないだろうか。

 はて? 背後から切迫した空気を感じて周囲を見てみると、高取、湯築と鬼姫や蓮姫までもが武と同じ気持ちであったようだ。


 この美しくも恐ろしい化生に皆、ざわめいていた。


 光姫に対して震える肩を摩っていた高取は、キッと口を結んで得体の知らない恐怖に耐えていた。

開口一番。

「お姉さん? で、いいのかな? これから私の稽古役をしてほしい。あまり会ったことがないけど、話はよく聞いているから」

 光姫はニッコリ笑っている。

「はい。里奈には教えていいわね。私の力は……森羅万象を……」

 その時、ドシンと建物が強く揺れた。まるで、ビル全体が歩いたかのようである。

 誰よりも早く危険を察知した蓮姫が窓際に向かうと同時に、天井から粉雪のように埃が舞って来た。

 

 地面は強く揺れ、同時に数多の龍の咆哮がビルの周囲にこだまする。

「揺れたましたー!」

「揺れましたね!」

「あ! 武様! 窓の外に龍がいます!」

 窓を指す三人組の美鈴が言う通りに、一体の龍が高層ビルの窓をゆっくりと通り過ぎて行った。

「ここにいるのはマズイ! みんな外へ出よう!」

 武がそう叫んだ。

 しかし、エレベーターはこの衝撃で、恐らくは止まっているのだろう。

 もはやこれまで……か。

 それと、致し方ないが。高取は海南首相と光姫に会うことだけを占っていたのだろう。当然、その後のことは占っていなかったのだ。

 私も知らなんだ。

 光姫と首相はそれほど大きな存在だったのだ。


 私は武から一旦離れて、このビルの周囲を見た。

周囲には優に1000は超える龍が集っていた。

「これくらい平気です!」

 不敵な表情の光姫は感づいていたのだろう。

 こうなることを……。

 なんとかこの状況を打破できるのだろうか?

 

 だが、これから光姫が数多の龍が徘徊する海を、遥々北海道から歩いて来たことが、嫌でもわかるであろう。

「この乗り物は動きません!」

「この高さじゃ、飛び降りるのも無理ね!」

 鬼姫と蓮姫はエレベーターへと向かったが、ボタンを押してもやはりエレベーターは動かなかった。更にドシンという大きな衝撃音と殊更強い振動が皆を襲った。かなりの強い衝撃でエレベーターは完全に動かなかくなってしまったはずだ。

 鬼姫と蓮姫は都会どころかエレベーターにすら疎いのだ。いや、知らないのだ。致し方ないのだが。

 武と湯築と高取は切迫して、エレベーターを再度動かそうと考えているのだろうが。

 三人組はいつも通り落ち着いていた。

 私はまた武たちから離れ、このビルの外を見てみると、数体の龍がビルに何度も体当たりをしていた。

「鬼姫さん、蓮姫さん、光姫さん……仕方ないから階段だ! 湯築と高取は三人組と、ここで待っててくれ! すぐにおれがエレベーターを動かしてみせる!」

 武は鬼姫の手を取って、蓮姫と光姫を促し廊下を慌てて駆けだした。

「この階段で降りましょう! さあ、早く! 私がしんがりをします」

 どうやら光姫はエレベーターが苦手のようだ。

 

 私が武たちが高速エレベーターを使っていた時。中を見れなかった私は、ポセイドンまで光姫が階段を使っているのを見ていたのだ。

 それにしても凄い健脚である。

そして、都会慣れもしている光姫だった。

一番目は蓮姫。二番目は武と鬼姫、最後には光姫が広い廊下から東階段を飛ぶように駆けだした。

「いざ!」

 光姫が目を瞑って階段を飛翔するかのように降り始めると同時に、暗黒のビルの外が急に仄かに明るくなりだした。

 ビルの外を見てみると、今は夏だというのに極寒の地の吹雪が吹き乱れはじめた。

 そして、数刻後には大きな雹が豪雨のようにここ新宿区へと降り注いだ。

 このビルの周囲には、もはや龍が近づけないのではないだろうか? 武から離れてビルの辺りを見回してみると、突然に発生した巨大な竜巻が四方を囲んでいた。

 龍が凍る。

 大雨のように降り続ける鋭利な雹と死の極低温である。

東階段は幅が広い。

 蓮姫が先頭に数十段の階段を、素早く六段飛びをしていた。踊り場で反転し身を翻して、また階段を飛び降りる。

 これなら、ここ120階からエレベーターを動かす動力室までは、少しの時間で辿り着けるであろう。

 

 けれども、もうすぐこのビルは倒壊するであろうが。

 武たちがそれぞれの武器を置いていたエントランスに着く頃には、この建物の周囲は雪が降り積もり。なんと、氷山が囲んでいた。

「鬼姫さん。さあ、地下へ! 一緒に来てください! 蓮姫さんと光姫さんはここで龍を警戒して待っていてください!」

 静まり返ったエントランスは、幾つかあるテーブルの上の花瓶が倒れているだけで、なんら異常はない。

 武と鬼姫は真っ暗な階段を地階へと降りていると、通路の端に立ち入り禁止と書かれたプレートのあるエレベーターの動力室を見つけた。

 武装した鬼姫は動力室の中で、心なしか緊張したり興味深く辺りを見回したりしている。動力室はせせこましく。ここからでも、私にはオイルの臭いが強すぎのようだ。

 大人五人も入ると、すぐに身動きができなくなる場所であった。

 機械というものはよく知らないが、所々からの明かりが明滅している。

 

 恐らく、無事にここでエレベーターが動かせるのだろう。

 武は古ぼけたスチール製のディスクでパソコンとやらをいじりだした。

しばらくして、正面の壁面にある緑色のランプが幾つも点灯すると武は立ち上がり、疲れ顔からの汗をぬぐった。

「これで大丈夫です。後は、湯築たちが気付いてくれれば」

「本当にあの乗り物が動くのですか?」

「ああ。大丈夫です。親父と何度かこういう場所に入った時がありますから。後はこのビルから急いで天鳥船丸までいかないと」

 武と鬼姫は顔を見合わせて、しっかりと頷いた。

 私の知っている限り。

 武の父は機械の保守点検というものをしていたような。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ