表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の失われた神々  作者: 主道 学


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/37

暗き海2

 一方。


 ここは鳳翼学園。

 武たちだけを見過ぎていたようだ。

「あの巫女の言った通りだな」

 謎の巫女が去ってから幾日か経った2時頃である。

研究施設と変わりなくなった2年D組にいる宮本博士は日本酒の入ったコップ酒片手にディスプレイの前で一人ごちていた。

 

 人々が寝静まり、雨の降らなくなった鳳翼学園は海に囲まれていた。

窓からは潮の匂いが立ちこめ。空には満月が何やら憂いの顔をしていた。割れた窓ガラスからは蒸し暑い風が吹き漏れている。

「宮本博士。これから我々はどうなるのでしょう?」

 小太りの研究員が宮本博士の傍らにいた。

 皆、日本酒の入ったコップ酒を飲んでいた。

「さあな。ともかく自衛隊だけが頼りだ。竜宮城は私らがいるから、ここ鳳翼学園を集中的に狙っているのだろうな。だから、しつこく人払いをしているのだ。いいかい? 地球は今のところまだ七対三で海の方が非常に大きい。だが、竜宮城は陸を完全に水没させて地球外生命体の龍が住める星にしようとしているのだ。なので、ここ鳳翼学園では人払いが激しくなるだろうな。あるいは世界には幾つか人払いが激しいところがあるのだろうな」

 小太りの研究員が、同じディスプレイを覗いていた。

 そこには、水没した沖縄の様子が見える。

「ひどいですね。陸を無くして人払い。そして、自分たちが住めるようにする」

「彼らも必死なのさ」

「あ、でも。何かの優しさみたいなものもありますね」

 別のかなり細いといえる研究員も同じディスプレイを覗いていた。

 ディスプレイには、高層ビルや山などは無傷で、人々がそれぞれ避難できるようだ。恐らく全ての国も同じなのだろうが、ライフラインは皆無であろう。

「このぶんだと、エベレスト山には避難民がかなり集まっていますね」

 小太りの研究員がジョークのつもりか、はたまた本気か、どちらとも捉えられることをいった。

「だが、ここではそうはいかないだろうな。鳳翼学園では人払いが激しくなるだろうな。なんせ、私たちを追い出すために龍がしつこいくらいに襲ってくるのだから。あの嬢ちゃんみたいのが、何人もいれば何とかなるのだろうが」

 宮本博士はそう呟き。月夜に酒を傾けた。

廊下では麻生が静かに聞き耳を立てていた。恐らくは、麻生はこうやって何度も宮本博士たちから正確な情報を得ていたのだろう。おお、そうか麻生が龍と雨の関係を知ったのも立ち聞きでだったのだろう。門前の小僧習わぬ経を読むである。

 


 あれから存在しないはずの神社から南西へ約600キロの地点に武たちはいるようだ。

「存在しないはずの神社から東京までの距離は約1000キロもあったのね」

 高取である。

「おれたちは北海道付近にいたんだな」

 ここは広い天鳥船丸の操舵室である。

 武たちがいる広い操舵室には、コンパスがテーブルの中央にあった。ここも殺風景で、丸い窓以外、木製の壁や床しかないのでは、と思えてしまうほどだった。

「これから東京へ行くのかしら?」

 湯築がテーブルの南西を指している黒い点のあるコンパスを見ながら素朴な疑問をていした。

 今では東北の地の遥か上空にいた。

 巫女たちが望遠鏡で四方を確認しているようだ。

今のところ龍の脅威はない。

「ええ、そのことなんだけど。これから私の母方の従姉妹に会うようよ。とても不思議な人だった。あまり話したことはないけど、なんでも政府とも関係していて、日本の将来の吉凶を占う一族の人って、母さんから聞いた時があるの」

 どうやら、高取は知っていて、私は知らなかったようだ。

「今は政府のどこかの機関へ一人海の上を歩いているって、地姫さんが言っていたわ。政府の機関とお偉いさんたちがいっぱい集まっているようね。それに私たちも加わるみたい」

「お偉いさんたちとか……なんだか緊張して疲れるな。けど、もっとシャンとしないとなあ」

「仕方ないのよね。地姫さんたちだけってわけにもいかないのかしら?」


 暗雲がすぐ手を伸ばすところにあった。

この天鳥船丸は東京へと真っ直ぐに向かっているようだ。

 下の海上は今のところ穏やかで、龍の襲撃もない。

 太陽がない海である。

 鳥も空を飛ばず。飛び魚も姿がない。荒れ狂う海には、まるで海面に穴を穿つかのような落雷が激しく降り注いでいた。


 真っ暗な天鳥船丸の甲板に、高取が一人佇んでいた。

 操舵室から一人。トボトボと歩いてきたのだ。

 その俯き加減の横顔は、きっと、これから出会う。従姉妹のことを考えているのだろう。

 

 途中から湯築と武も来た。

「高取さんの従姉妹の方は何か特殊な能力があるのよね。地姫さんより凄いのかしら?

 あるいは同じ?」

 湯築が実力はあるのかと聞きたがっている。

「あまり、その人とは会ってないの。顔も覚えていない」

「よく知らないのはわかったよ」

 武は高取を気遣ったが、同時に高取の不思議な力に納得したようだ。

「そっか。どんな人かもわからない……。実力も……わからない。多分、思うんだけどその人の実力は相当なものだったりするわよね」

 湯築の懸念はあながち間違いではなさそうだ。

 何せ私でもまったく見えないのだ。

 私もあまり知らないのだが、高取家を少々調べてみなければ……。

 まあ、後にすぐにわかるであろうが。

「家では、父と母にもあまり会って話した時がないの」

 高取がぼそりと呟いた。


 ここはフロアである。

 高取はいつもみんながフロアの修練を終えると、モップで丁寧に掃除をするフローリングに座っていた。

 目の前に正座している地姫の目を見つめ、脳内イメージを広げていた。

 恐らく、落雷の初歩であろう。

 つまりは、射程距離である。

 落雷の落ちるイメージを鍛えているのだ。

 額に汗が滲みだした高取の周囲の空気が何やらブルブルと震えだしたようだ。

 瞬間、高取はキュッと目を閉じて、息を吐いた。

 それを見つめ地姫がこくりと頷いた。

「1キロに達しましたね。お見事です」

 地姫は高取に向かって初めて微笑んだ。

 ちなみに、地姫の轟雷の射程距離は100キロである。

 山をも通り越す脳内イメージは、尋常ではない。


 それから夕餉の時間であった。

 あの三人組が、台所に乱入し様々な食材でカレーライスを武たちのために作ってくれていた。

「これはなんという料理ですか?」

 鬼姫が珍しい食べ物を見るかのように隣の河田に尋ねた。

 地姫と蓮姫と他の巫女たちも珍しそうにカレーライスを見つめている。

「カレーライスといいまッス。とにかく食べてみて下さいな」

 片岡が木を削って作った即席のスプーンを人数分用意し皆に配った。

 鬼姫たちはスプーンにも珍しげな目を向けている。

 早速、食べると、

「美味しい!」

「美味!」

「これは美味しいですわね!」

 カレーライスには鬼姫と蓮姫と地姫も満足していた。

 他の巫女も喜んでいる。


 武たちも久しぶりの洋食に嬉しがっていた。

「これから、和食だけじゃなく。色んな食べ物を用意しますね。たまには私たちの庶民的な料理もいいかなと思ったんですよ」

 美鈴がそう言ったが、彼女たちの心配りは見ていて心温まるものだった。

「明日はどんな料理がでてくるのかしら?」

 湯築の期待のこもった言葉に、片岡がニッコリ微笑んで、

「みんな食べたいと思うので、難しいですけどお寿司に挑戦しますね」

 それを聞いて、武たちは大喜びだったが。

 鬼姫たちは首をかしげた。

 食堂も賑やかになり、そして、温かい。武たちの旅は今のところ順調だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ