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水の失われた神々  作者: 主道 学


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16/37

暗き海

「ああ、疲れた……まいったなあ……」

 薄暗い場所で武はそう呟いていた。

「毎夜、毎夜……。凄く嬉しいんだけどなー……。これ、どうしようか? ……麻生……」

 へとへとになった武の船室の布団には、毎夜寝続けていたためであろうが。鬼姫の枕が今日は素早く置いてあった。正に地姫の言う通りであった。




 一方、ここは鳳翼学園。


 恐らく、竜宮城の正確な位置を知っているのは宮本博士たちであろう。

 私には機械というものはよくわからないのだ。

 どうにも昔にはなかったものなので、致し方ない。


 2年D組の機械音と明滅を繰り返す機材に囲まれた一室に、宮本博士と一人の謎の巫女が話していた。

 その巫女は高取の母方の従姉妹だと言っている。

 武たちが無事なのを知らせ。

 麻生を大切にせよとも言い。

 幾つか話すと。

 踵を返し、帰って行った。


 世にも美しい巫女だった。

 なぜか私でも巫女の後を追えず。不思議と見ることもできない。

 誰なのだろう?


 研究員たちが皆呆けている。

 無理もない。

「竜宮城の位置!」

 宮本博士の一喝で、我に返った一人の研究員がディスプレイを見て言い放った。

「今は沖縄です!」

 宮本博士は、そのかなり細い研究員にもう一度言う。

「正確には?」

 かなり細い研究員は再びディスプレイに目を戻し、頭を回転させた。

「南緯66度33分へ向かうかと」

「南極点……南極か……」

 宮本博士は一人ごち、そのまま廊下へと歩いて行った。

 今は、満月が照っていた。

 人々が寝静まっていた夜だった。

 



 ここは食堂。

 朝の7時を回った頃である。

「1000歳の龍が近づいています!」

 一人の巫女が食堂への扉を勢いよく開け放った。

 皆、食事中だというのにすぐさま立ち上がった。

「数は!?」

 蓮姫が声を張り上げた。

「かなりの数です!」

 巫女が蓮姫に切迫した言葉で状況を詳しく説明していると、武は極度に緊張をしていた。

「……何としても生きて帰ってこないとな……」

 武はそう呟くと、鬼姫の顔を見た。

 さっきまで武と寝ていた鬼姫は顔色一つ変えずに、夕餉をちょいちょいつまんでいる。

 武はホッとした。席を立って船室に置いてある神鉄の刀を一人取りに行った。


 神鉄の刀を持って、甲板へと駆け付けた武の目の前には、もうすでに、鬼姫が数多の龍の前で仁王立ちしている。鬼姫は神鉄の刀身を居合い抜きし、逆袈裟斬りで海ごと真っ二つにした。

 海が二つに割れた。

 轟々と音のする二つに分かれた海の底では、怒り狂った龍がまるで蛇のように、すぐさまとぐろを巻き始めていた。

 牙を剥き。咆哮を発する龍にとっては、決して凄まじい牽制だけではなかったのだろう。一体の龍がいつの間にか真っ二つに裂けていたのだ。

 二つに割れた海で、蓮姫は海の傾斜を走り回り、水のなくなった大地で、とぐろを巻き損ねた無防備な龍の心臓を狙い。一際長い槍で一体また一体と貫いていた。

 武は、瞬く間に一つとなった海の上に着地した。

 もうすでに、武と高取は海上を歩けるようだ。

 今では海上を泳ぎはじめた巨大な龍が暴れ回っている。

 やはり、1000歳の龍は決して時を得ただけではないと、その威圧感だけで武は直ちにわかったのであろう。

 荒波の海の上で武は龍の隙を見出そうとしていた。

 隣から突然、湯築が駆けだし大きく飛翔した。そのまま飛び掛かり、龍の心臓を槍で抉った。龍の数はまだ81体もある。

 だが、その一体の龍の胸に槍が貫通することなく途中で止まってしまったのだ。

 力不足であったか。あるいは飛翔からでは力が半減するのだろうか。

 槍を必死に抜こうとしていた湯築に、もう一体の龍の大口が迫っていた。


 武は一旦。海面下へ頭から潜り、海中で一回転をすると、そのまま海面上へ浮上すると同時に、空を舞った。湯築に迫る龍に神鉄の刀を振るった。

 だが、本来。龍の鱗をも斬り裂くことのできる神鉄も、この時は切り込みが浅かったようだ。

 恐らくは信じられないほど硬いのだろう。

「駄目だわ!」

 たまらず、湯築は槍を捨て、遥か下の海面へと落ちていった。

 武はその時、神鉄の刀で龍の胸の部分を刀の切っ先を真横にして全体重を乗せて貫き、そのまま力任せに横一文字に斬った。

 その方が龍の鱗や肉の抵抗を受けなくて済むようだ。

 1000歳の龍にはまったく歯が立たないかのようだったが。

 なんと、巨大な龍が息の根を止めていた。

 武は有効な戦法を探し当てたようだ。


 湯築が天鳥船丸に泳ぎ着くまでに、高取の落雷が幾度も援護をしていた。二体の龍が湯築のすぐ後ろに迫っていたのだ。

 龍の頭上に数本も落雷は直撃していたが、まったく二体の龍は動じなかった。

「さがって!」

 見かねた地姫が、天鳥船丸の甲板から、轟雷を落とした。

 二体の龍が瞬時に灰塵と化す。

 船へと上る梯子を登っていた湯築は、後ろを振り向いた。

 なんと、武が果敢に一人で戦っている……。

 見事な戦い方を披露していた。

 神鉄の刀で、一体また一体と隙を見出しては、喉元に斬り込み。時には心臓を貫き、確実な殺傷をしている。

 

 ド―ン。

 ド―ン。

 

 ドドン。

 

 と、凄まじい破裂音のする。まるで昼のように明るい海上には、地姫の轟雷が降り注ぎ、何体もの龍を灰塵にしていた。

 幾つもの虚船丸からの火矢が龍の鱗で弾かれている。

 武は神鉄の刀で龍をただ稽古通りに斬るのではなく。この時、実戦を有効に戦うことができるようになったようだ。


 荒れ狂う龍に、荒れ狂う海とには、二人の巫女も血潮をまき散らし美しく舞っていた。




「武。これから、私たちはどうなるの? 私たちは今まで必死にやって来たというのに……龍が強すぎるんだわ……。蓮姫さんたちは、私たちにこれ以上もっと強くなれというのかしら? ……多分そうよね。でも、私、これから先。怖くて仕方がないのよ。いつか本当に……」    

 再び暗雲に覆われてしまった海である。

 湯築は天鳥船丸の甲板で、刀の血振りをした武に、鬼姫たちが船室へ戻ると同時に、死の恐れを含んだ弱音を零していた。

 湯築が持っていた神鉄の槍は、すぐに大人の男たちが網で引き上げたようだ。  

 それにしても鬼姫たちの実力は並大抵ではなく。想像を遥かに上回っていたのであるが。恐らく、私の見立てでは、湯築と高取はまだ修行次第では、更に強くなれるはずだ。

「そうだわ。必死にやってきた。これ以上って、ないわ。無茶よ」

 高取は俯いて悔しそうに歯を食いしばっていた。その目には悔し涙のようなものがあった。

 だが、武はそんな二人を応援してくれていた。

「いや……。せっかくここまできたんだし……。きっと……生きて帰れるさ」


 武は生きて帰れる方法を模索した。


「今は世界中で安全なところなんてないだし。この先修練はまだまだあるんだ。鬼姫さんの奥義や蓮姫さんの神出鬼没さも。地姫さんの不思議な凄さも。まだまだ奥が深いんだと思う。例えば学校の微積分と同じさ。微積分がない時代の人たちが一生かかって解いた問題でも。今の時代はあっという間に解けるんだし、大丈夫だと思うよ。学校のように考え方や勉強の仕方を使えば生き残る方法は幾らでも探せるはずさ……。そうだ。一度、基本に戻ってみよう。やっぱり基礎が一番大切だと思うんだ。それに、まだ、鬼姫さんたちから戦い方を全て教えてもらったわけじゃないんだしさ。きっと大丈夫」

 武は精悍な顔で、学校の時のいつのも調子になって二人を励ましていた。湯築と高取はそんな武を見て唖然としていた。


 やはり、武の言う通りなんにでも基礎というのは大切であろう。  

 地姫がへとへとに疲れたので、大雨が激しく降り注ぐ天鳥船丸の甲板から、何かが吹っ切れた湯築と 高取は、一目散にこれからまた基本的な稽古をしてくれと蓮姫と地姫に強く言い渡したのである。  

 二人とも武の志や考え方のように、上を見。上を目指していくのだろう。


 数刻後。

 ここはフロアである。 殺風景な空間だが、気温も船内とまったく同じで、修練の間とはかなり違うようだ。

 ところで、武たちはこの天鳥船丸のフロアでも、存在しないはずの神社の修練の間と同じ時間割を持ち出していた。

 武は稽古をするため。鬼姫にさっき使った技を教えてほしいと申し出ていた。フロアでたった今、龍と戦った神鉄の刀を腰に差した武はしっかりとした顔をしている。

 鬼姫は武の眼差しを受けて、顔を赤くしてこっくりと頷いた。

「武様はさすがですね。(また夜這いをしますから……)私の動きをしっかりと見ていてくださいね」

 鬼姫は小声で何か良からぬことを呟き。真剣を一振りし、鞘へ納めた。

 どうやら居合い術の型の初歩を伝授するようである。

 鬼姫は初発刀からの一連の刀捌きを披露した。

 まるで、神楽を舞うようである。

 その美しさに見惚れながら、武は必死に真似をした。

 真剣を振り続ける武は、まるで体中の汗を全て絞り出すかのような無駄のない体捌きであった。  

 見事なものである。

 恐らく、武という男は上が現れると、更に上が見えるのだろう。

 私にとっては頼もしい限りである。


 早く……。

 早く……。

 私のところへ……。


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